山田祥平のRe:config.sys

メールとカレンダーが握るクラウドの価値

 MicrosoftがiOSとAndroid用に、Outlookアプリの提供を開始した。これまでなかったのが不思議なくらいだが、とりあえず、公式アプリということで期待も高まる。本家Exchangeはもちろん、Gmail、Outlook.com、Yahoo Mail、iCloudといった多彩なメール、カレンダーサービスに接続できるクライアントアプリだ。今回は、その使い勝手について考えてみよう。

ついに出たスマホ、タブレット用純正Outlook

 スケジュール管理アプリとしてのOutlookがなければ、翌朝何時に起きればいいかも分からない。そういう生活を既に20年近く続けている。Microsoftは、かつてWindowsの標準メールアプリにOutlook Expressなどというややこしい名前を付けてしまったものだから、使わず嫌いの方も少なくないと思うが、メールとスケジュール、タスクとメモを統合的に管理できる優れたアプリケーションだ。

 このアプリはスタンドアロンでも使えるが、Microsoftのコミュニケーションサーバー製品であるExchange Serverと組み合わせることで最大の威力を発揮する。Exchangeは、MicrosoftがExchange Onlineとして月額440円から利用できる。ぼく自身も、このサービスのユーザーだ。全てのメール、スケジュールを預かってもらい、PCやスマートフォン、タブレットなど、あらゆるデバイスからそれを参照できるようにしてある。

 Windows用のアプリとしてはOfficeアプリの1つとしてOutlookがある。もちろんこれはMicrosoft純正だ。だが、スマートフォンやタブレット用にはAndroid用にも、iOS用にも公式アプリがなかった。ただ、どちらの環境も標準メールやカレンダーがExchangeへの接続をサポートしていたのでそれを使えばそれでよかった。また、Exchangeをサポートしているサードパーティ製アプリもたくさんある。ぼく自身もAndroid環境においてはTouchDownという有料アプリを使ってきた。今確認したら2,045円もする高価なアプリだが、おそらくこのアプリなしには、スマートフォンを今日まで使い続けることはできなかっただろう。

 Microsoft製としては、OWAと呼ばれるアプリがAndroid用、iOS用に提供されていた。OWAはOutlook Web Accessの頭文字を取ったもので、ブラウザで参照するよりも、ちょっとだけリッチな環境でExchangeに接続することができた。

 今回、リリースされたOutlook(Google PlayApp Store)は、昨年(2014年)、Microsoftが買収したAcompliによるものだ。にわか仕立ての感は否めず、日本語化はされているがローカライズは稚拙で怪しい日本語が散見される。

 また、iOS版が正式版であるのに対してAndroid版は現時点でまだプレビュー版となっていて、左右スワイプの機能割り当てなどがまだ実装不十分だ。

メールと予定の連携が不十分

 使ってみての感想としては、Android環境においては、まだまだTouchDownを捨てられないな思う。

 個人的に致命的とも言えるのは、

・テキスト形式のメールを送信できない。
・スマートフォン版でカレンダーの週ビューがない。
・週の始まりが月曜日という概念がない。
・カレンダーが24時間表記をサポートしていない。

という4点だ。

 そもそも純正アプリだというのに、Windows版のOutlookにあるタスクとメモの機能がサポートされていないのは不思議だ。もっともこの2つの機能については、OWAも、そして、ブラウザで参照するOutlook Web Accessも正式にはサポートしていないのだから仕方がないとも言える。

 それはともかく、Outlookの魅力は、メールと予定を密接に関連付けられることにある。また、OfficeアプリのOneNoteとの連携も重要な機能だ。

 例えばぼくの場合、記者会見や発表会などの案内は、メールで届くことがほとんどなのだが、届いたメールをCtrl+Cでコピーして、予定表に移動し、特定の時間を選択した上でそこにCtrl+Vで貼り付ける。この操作で、件名が同じイベントとして、メール本文を予定表本文として持つ予定ができあがる。たいていの場合は「××発表会のご案内」といった件名なので「のご案内」を削除し、本文から開催場所をコピーして場所に貼り付ければ予定の入力が完了する。

 その予定の当日には、その日の予定表を開き、当該予定を右クリックしてショートカットメニューから「会議のメモ」を実行すると、OneNoteにその予定の本文等が貼り付けられて、会議のメモが入力できる状態になる。

 これと同じようなことを、AndroidやiOS環境のOutlookでやろうとすると大変だ。だから、よほどのことがない限り、予定の入力はWindows上で行ない、スマートフォンやタブレットでは参照するだけになってしまう。それでも、先に挙げたことがないのは困る。ちなみに愛用しているTouchDownは、これらが全部できる。タスクもメモもサポートしている。

 素性が悪いアプリではないのだし、なんといっても純正だ。公式の名に恥じないOutlookを目指して、進化していってほしいと思う。

Outlookがもたらした紙の手帳との訣別

 Outlookを使うようになって、紙の手帳は使わなくなった。紙の手帳でやっていたことは全てOutlookが担うようになり、さらに、Outlookを使うためにPCをほぼ欠かさず持ち歩くようになった。必然的にPCを使うトータル時間は長くなる。PCを手放せない存在にしたのはOutlookとその前身であるSchedule+だったと言ってもいいだろう。

 今、併行して使っているデバイスはPC数台、スマートフォン、タブレットと多岐に渡るが、ストレージ容量に応じてほぼ20年間分のメールと予定が入っている。どのデバイスを手にとっても基本的に同じ情報が得られる便利さは偉大だ。

 Microsoftが、Acompliを買収したのはメールの再活性化を狙ってのことなのだろう。直近ではSunriseを買収したというニュースが入ってきている。こちらはカレンダーアプリの老舗だ。確かに予定表機能はSunriseに一日の長がある。Microsoftの一部になったといってもいいSunriseとAcompliがうまくコラボレーションできれば、秀逸なアプリが完成し、それによってモバイルデバイスの付加価値は飛躍的に高まるだろう。

 Windows 10 Technical Preview用のタッチに最適化されたOfficeもリリースされた。 その中にはOutlook MailとOutlook Calendar(未リリース)も含まれているようだ。こうして、あらゆる環境でOutlookが使えるようになっていく。Windows環境が後手後手に回っているところは気になるものの、とにかく先が楽しみだ。

(山田 祥平)