山田祥平のRe:config.sys

土管の中にドカンと土管を通す

 楽天モバイルがスタートした。ドコモのMVNOとして楽天グループのフュージョン・コミュニケーションズが携帯電話事業に本格参入するわけだ。

 今回は、その背景を考えてみる。

めざせ1,000万契約

 楽天モバイルはまずは1,000万回線契約を目指すという。最初にこれを聞いたときには、ものすごい数字だと思ったが、冷静に考えてみると決して無理な値ではない。

 先週は、IIJがIIJmioの5回目となるユーザー向けミーティングを開催し、東京会場に集まった多くのユーザーに向けて、さまざまな情報を解説した

 その中で、MVNOの現行市場に対する言及があり、総務省のMVNOサービスの利用動向に関するデータが紹介された。最新データは2013年末時点のもので、その市場規模は1,375万となっていた。全体の移動体通信回線数約1億5,000万の約9%相当だ。

 その中でMNOであるMVNOを除いた独立系のMVNOで契約数が3万以上あるものはさらに全体の4%で570万、そしてその中でSIMカード型でのサービス提供をしているのは全体の1%で138万回線。少なくとも、昨年末時点での市場規模はこの程度だ。それを今、各社が取り合っている。

 もちろん、今年は、MVNOの躍進が著しく、この数字は大きく変わっていくだろうが、昨年末の時点で、一般的に格安SIMなどと呼ばれている身近なMVNOは、138万回線しかなかったことになる。日本の人口は減る一方なので、総回線数1億5,000万というのがどうなるかだが、こちらはIoTの普及などによって、まだ伸びる余地はある。

 また、IIJはMM総研の予測データをひき、NTTコミュニケーションズを筆頭に、同社が2位、それに日本通信、ビッグローブが続くとしている。総務省が調べた契約者の推移と矢野経済研究所の予測値を並べ、MVNOの成長率は2020年には400%という高い成長性を持っていると説明した。ちなみにその時点での総契約数は1億9,600万回線と予想されている。

 これをそのまま数値にすると、5,500万回線が2020年時点でのMVNO市場の規模になる。そのうち楽天モバイルが約2割に相当する1,000万回線を持っていくというのは、決して大げさではなく、もしかしたら遠慮がちの数字ということもできるかもしれない。

通話はできて当たり前

 今回の楽天モバイルのサービスの特筆すべき特徴は、通話込みのプランだけしか用意していない点だ。現行の各MVNOは、その多くがデータ通信に特化したサービスからスタートし、2013年3月の日本通信によるLTEと音声通話を組み合わせた「スマートフォン電話SIMf for LTE」が、LTEデータ通信に通話つきサービスを付加したのが最初だったように記憶している。

 MVNO事業については、もはや周回遅れといってもいい楽天の参入だが、電話サービスなのだから通話ができて当たり前というのは1つの付加価値といってもいいし潔い。電話ができないスマートフォン用SIMはありえないということだ。実際、今回のプランの中で最安の「ベーシック」は、1,250円で200kbps帯域幅のデータ通信と通話をサポートする。個人的にも、電話は通話ができて当然だと思う。ほとんど通話をしないにしても、通話専用の帯域確保が行なわれ安定した通話ができることは重要だ。ドコモの場合は、MVNOに対してVoLTEを開放しているので、端末と相手次第で高音質の通話もかなう。楽天のサービスはドコモのMVNOなので例外ではない。

 楽天はメガキャリアの横並び料金を揶揄する。3社ともに通話定額+2GBデータで合計6,500円という横並びが高額すぎると主張する。ただ、既存MVNOと比べて楽天モバイルのそれが格安SIMかという点では、昨今の値下げトレンドでほぼ横並びになってしまい、通話従量+2GB通信で1,600円という価格にとどまっていて新しみはない。

電気通信事業法30年目の節目に

 今年は、通信の自由化を目論んでで1984年12月に電気通信事業法ができてから30年の節目に当たる。早い話が、来年はその法律を受けて、1985年4月に電電公社がNTTとなって30周年だ。そのせいか、総務省はいろいろなことを急いでいるようにも感じる。来春にはSIMロック解除が義務付けられるといったニュースも流れてきているが、それもその一環に感じられる。

 楽天モバイルの記者会見で、そのことを楽天 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏に質問してみたところ、30年の節目が関係しているかどうかは知る由もないが、総務省にはMVNO事業に対して、極めて真剣に市場の拡大を推進しようとしている意向があり、今回は、それに応える形での事業スタートでもあるというコメントをもらった。同氏はMVNOの勢いが強いフランスのような状況に持っていきたいとも言う。

 この数年のメガキャリアは、以前のように、イケイケドンドンで大量のデータ通信を「ホーダイ」でアピールするのではなく、従量制に近い料金制度を持ち込み、ユーザーに自分の使っているパケット量を把握させようとし、願わくば抑制をうながす気配があった。Wi-Fiへのオフロードなどもその一環だ。ウナギのぼりのデータトラフィックに悲鳴をあげ、逼迫するモバイルネットワークに設備の拡充や電波の確保が間に合わないことが分かっていたからだ。

 これについては、先日のauの発表会でKDDI 代表取締役社長の田中孝司氏に聞いてみた。同氏によれば、LTE網の人口カバー率や接続維持率の向上、キャリアアグリゲーションの導入などによって、以前のような逼迫状態からはようやく抜け出た状況だが、これから増えていくデータトラフィックをきちんと捌くために飽くなき努力を続けたいとした。

 いずれにしても、ぼくらは当面の間、毎日の消費パケットを気にしながら、それを契約パケットパック量内に収めるようにしたり、さらには、帯域制限を受けないように、直近3日間のトラフィックが1GBを超えないように注意し続けなければならない。契約パケットパック量を超えたら制限されるというのは仕方がないし、追加料金で解除できるとしても、3日間の制限は理不尽だ。その点、IIJmioのように、例え2GBのプランでも高速通信をオンにしている限り、3日間あたりの帯域制限がないというのは良心的だ。ちなみに楽天モバイルでは、2.1GBのパックは3日間で360MBを超えると規制対象になる。

土管には土管にしかできないことがある

 電波は有限の資源だ。その電波を少しでも有効に使うために、キャリアはもちろん、機器メーカーなどが努力を続けている。もはや、生活に欠かせないインフラというべき存在になった移動体通信網だが、電気やガス、水道、固定電話などは完全従量制でも、特に破綻することなく長い年月を運用できている。なぜ、移動体通信だけがこんなことになってしまったのだろうか。

 以前、どこかのサイトでパケット料金に2億円近い請求額が記載された請求書の写真を見たことがあるが、その有名無実な「定価」をいつまでも放置していたり、パックを買わないユーザーに、その「定価」を適用することを続けているというのでは、もはやそれが業界の体質と言われても仕方がないだろう。

 まずは、このあたりからきちんと体質を改善すること。とにかくまずはそこからだ。それとも、メガキャリアは、これからユーザーではなくMVNOの土管に徹するというのだろうか。

(山田 祥平)