山田祥平のRe:config.sys

ウェアラブルに臨むIntelのビジョン

 今、Intelがもっとも注力しようとしている分野の1つがIoTだ。そして、その一環とも言えるのがウェアラブルの分野でもある。台湾/台北で開催されているCOMPUTEXにおいて、Tom Foldesi氏(Business Development Director of New Devices Group, Intel Corporation)に、ウェアラブルについて話を聞くことができた。

ウェアラブルはチョイスの時代から

 計算機としての電卓は「カシオミニ」の発売で価格破壊が起こり爆発的に普及した。1972年のことだが、それでも価格は12,800円。当時の聖徳太子1枚では買えなかった。だが、今や、電卓は100均でも簡単に手に入る。自動販売機で購入するミネラルウォーターのペットボトルの方が高いのだ。つまり、電卓は水より安い。

 個人的には、ウェアラブルの領域は、人が各種のデバイスを意識しなければならないうちはダメだと思う。今、ウェアラブルが語られるとき、多くの場合、それはメガネであったり、腕時計であったり、あるいは、シューズやベルトといったものにデバイスを埋め込む形態がコンテキストとなっている。

 これらのガジェットは、身に着ける身近なものにデバイスを埋め込むという方法で、ウェアラブルを実現しようとしている。しかも高価でもある。だから、人間は、デバイスを身に着けるという明確な意識を持たなければ、その恩恵を受けることができない。

 Foldesi氏が率いるNew Devices Groupは、これから急速に身近なものになるはずの技術としてウェアラブルの領域にフォーカスし、さまざまな角度からこの分野を攻めていくミッションを持って2013年夏に誕生した事業部だ。あらゆる面からウェアラブルの領域に関する戦略を作るために、さまざまな分野のスペシャリストを揃えているという。

 彼らが世に出した最初のデバイスはQuark SoC搭載の開発ボード「Gallileo」で、これはホビーユーザー、大学、教育機関に広く受け入れられた。さらに、彼らはその延長としてSDカードサイズの開発ボード「Edison」を世に出す。

 こうしてIntelのアーキテクチャは、どんどん小さくなっていくことになる。Foldesi氏は、これはコンピューティングのリディフィニション、すなわち再定義だとし、これまでのPCが経験してきたパラダイムとは異なるものだという。

 彼らが事業を展開するためにいろいろと調べた結果、ウェアラブルの領域には2つのファクターがあることが分かってきたという。

 1つは、シングルデバイスの領域で、人それぞれの使い道が異なり、デバイスごとに機能が決まっていて、それを人が選択するというものだ。

 もう1つは、デバイスの世代が進むことで、とにかくあらゆる持ち物にデバイスが装備されるというものだ。

 Intelは、まず、1つ目を攻める。ファッションの領域を含めて1人が1つのデバイスを持つ世界を構築していく。やはり、ウェアラブルとはいえ、コンピュータなのだ。コンピュータにはスマートさを欠かすことができるはずもなく、インテリジェントなデバイスを身に着けてほしいと願うのがIntelのビジョンでもある。彼らが考えるウェアラブルは、やはりどうしようもなく計算機なのだ。

 Foldesi氏は、単なるセンサーなら、あと数年もすれば人々が10個や20個を常に身に着けるようなことが可能なくらいまで低価格化するだろうという。だが、Intelが考えるようなインテリジェントなデバイスが、その状況で使われるようになるには、まだ相当の期間が必要だともする。ちょっと想像できない未来というわけだ。

 でも、まだ始まったばかりだから、とFoldesi氏は言う。いわゆるアーリーステージにあり、直近で人々が身に着けるウェアラブルデバイスは、シングルデバイスであり、そのためにもコンピューターを極限まで小さくしていく必要がある。それがパーソナルスタイルに受け入れられ、今のスマートフォンやPC的な世界に繋がっていくというのが彼らの考えだ。今、多くの人々がスマートフォンを常に携帯しているように、ウェアラブルデバイスを身に着けることがライフスタイルとして市民権を得ることからスタートしたいという。

ウェアラブルの夜明け前

 寝る時も付けたままなんだ、といってFoldesi氏はBasisのスマートウォッチを見せてくれた。そして、スマートフォンの画面を見せて、昨日歩いた距離や睡眠の程度などのデータについて説明してくれた。スマートウォッチにはそれらの情報が蓄積されていくし、そのデータはスマートフォンに転送され、さらにはクラウドへと流れていく。

【お詫びと訂正】初出時、Foldesi氏が着けているスマートウォッチをカシオ製としておりましたが、正しくはBasis製品となります。お詫びして訂正いたします。

 IoTの時代は、スマートフォンのようなデータハブを経由せずに、あらゆるデータがダイレクトにクラウドサービスに流れていくことになる。そのためにもデバイスは単なるセンサーではなく、それなりにインテリジェントなものであるのが望ましいというのがIntelの考えだ。その背景には、100均で買えるような値段にまで落ちてはビジネスにならないという計算もあるのかもしれない。

 ウェアラブルデバイスとクラウドが直接繋がり、必要以上の数のデバイスを人間が身に付けていれば、1つや2つ持ち出し忘れたり、あるいは紛失したところで得られる情報は他のデバイスが補完してくれるだろう。自分自身のことを考えたとき、スマートフォンやメガネを持ち出すのを忘れることはあるし、まして、腕時計は近年になって付けるのをやめてしまった。今さらリストバンドは付ける気になれない。でも、外出時に洋服を着ないことはないし、寝るときにもパジャマは着る。自分の持っている洋服、下着やTシャツを含めてすべての衣類にデバイスが埋め込まれていれば、デバイスを持ち出すことを意識しないでもいいのにとも思う。

 だが、ウェアラブルシーンはまだ始まったばかりというIntelに、そういう世界のビジョンはない。

 さらに、ウェアラブルデバイスが人々の暮らしをどのように変えていくのかという明確なビジョンも語られていない。そこにあるのは、今、やろうと思えばできるけれども、すごく大変なことを、よりシンプルでスマートに実現することだけだ。確かにそれだけでも素晴らしいことなのだが、身に付けているすべてのものがクラウドと通信するようになった世界に何が起こるのか、今まで収拾しようとも思わなかったデータを集めることができるようになることで、人々の暮らしはどのように変化していくのかという未来も提示してほしいところだ。ゴミのように見えるデータでも、蓄積すれば宝の山になるかもしれないのだから。

 ウェアラブルの時代の夜明け。Intelが見ているのはほんの数年先の未来にすぎない。だが、水面下ではもっと先のことを考えていないはずがない。

 着た洋服は脱いで洗濯するし、玄関先でクツも脱ぐ。シャツやパンツを洗濯機に放り込んだら、そのタイミングでデータがクラウドサービスに流れていくくらいのことを考えられなければ、ウェアラブルに未来はないと思う。

(山田 祥平)