イベントレポート

【Intel基調講演】IoT時代に備えてさまざまな手を打つIntel

~SDカード大のQuark搭載コンピュータ「Edison」を公開

会期:1月7日~10日(現地時間)

会場:Las Vegas Convention and World Trade Center(LVCC)

LVH

The Venetian

 International CESの開催に先立って、2日前になる1月5日から報道関係者向けの記者会見やプレビューなどが行なわれており、本誌でもそのレポートはすでに多数掲載されている。その意味では報道関係者にとってはすでに前々日からイベントが始まっている状態なのだが、一般の来場者にとっての公式スケジュールは、開幕日の前日(1月6日)夕刻に行なわれる開幕記念基調講演がそれに該当する。

 これまで長くこの開幕記念基調講演は、Microsoftのビル・ゲイツ会長(当時はCEO)、ゲイツ氏のCEO退任後はその後任となったスティーブ・バルマー氏の指定席だったのだが、一昨年(2012年)を最後に、MicrosoftはInternational CESへの出展を取りやめたため、昨年(2013年)はQualcomm 会長兼CEOのポール・E・ジェイコブス氏が行ない、同社のSnapdragonシリーズの最新製品を発表する場として活用された(その模様は別記事を参照)。

 今年(2014年)その枠を押さえたのはIntelで、昨年の5月にIntelのCEOに就任したブライアン・クルザニッチ氏が登壇し、Intelのコンシューマ向けの取り組みに関するビジョンなどを説明した。2年前に行なわれた前任者のポール・オッテリーニ氏の講演では、同社のスマートフォン向けプロセッサの説明などに多くの時間が割かれたが、今回の講演では、いわゆるIoT(Internet Of Things)と呼ばれるなんらかのインターネットへの接続機能を持つ組み込み電子機器に多くの時間がさかれ、IntelがIoT市場に積極的にコミットしていくのだという強い意志が示された。

大規模な一般向けの講演ではデビュー戦となるクルザニッチCEO、その出来は?

Intel CEOのブライアン・クルザニッチ氏

 例年のCESの基調講演では、主催者であるCEAのCEOであるゲリー・シャピーロ氏が登壇し、講演者を紹介するというのが“お約束”になっている。今回もその例に漏れなかったわけだが、シャピーロ氏は「彼こそはIntelのCEOに相応しい人材である、ブライアン・ク……クル…」と“相応しい人材”だと褒めているのにクルザニッチ氏の名前を発音できないというちょっとした失態を見せてしまうシーンがあった。

 だが、率直に言ってシャピーロ氏は運が悪かったと言うほかないだろう。というのも、クルザニッチ氏は我々が普段目にするIntelである製品事業部を担当したことは1度もなく、これまで一貫してエンドユーザーなどに触れる機会のない製造部門を担当してきたからだ。クルザニッチ氏の名前をシャピーロ氏がうまく呼べなかったとしても致し方ないだろう。

 クルザニッチ氏にとっては、このCESの基調講演のような大規模な観客を集める講演というのは、2013年の9月にサンフランシスコで行なわれた自社のイベントであるIDFで講演したのに続いて2回目。前回のIDFがほぼ身内といる聴衆を相手にするモノであったのに対して、このCESの講演は現地で聞いている聴衆はもちろんのこと、世界中にWebキャストで配信されており、その意味でも注目度は高いもので、Intelやクルザニッチ氏がどのような戦略を語るのかには大きな注目が集まっていた。

ウェアラブル時代の本格的な到来に対応するSDカード大のコンピュータ「Edison」

 そのクルザニッチ氏はこうした一般聴衆を前にした大規模な講演が初めてとは思えないほど、落ち着いた様子で登壇し、「今夜は新しい時代のコンピューティングについて話をしたい。だが、それは机の上にあったり、ポケットの中に入ったりということでなく、どのような体験を提供するかだ」と述べ、一般消費者に対してIntelがどのような体験を提供することができるのかにフォーカスして話をしていくと話を始めた。「我々が提供できる体験には3つの革命があると考えている。それがLive(生きること)、Work(仕事)、Play(遊び)の3つだ」とし、それぞれの分野について説明していくとした。

 1つ目のLiveについて、「人々の生活をスマートにするには、テクノロジーを利用して何事もシンプルにしていく必要がある」と述べ、より人々の生活を豊かにするために、人々が利用しているデバイスをもっと簡単にして、使い勝手をよくしていく必要があるとした。

 その例として、センサーが入っていて、身に付けるだけで健康状態がチェックされるイヤフォンや、そのイヤフォンが挿入されているオーディオジャックから充電する技術、さらには微細な電力で動作するワイヤレスのイヤフォンを利用することで、常に人間の声をスマートフォンがチェックして、自然音声認識が行なえる様子、子供や介護が必要な高齢者の見守りができるスマートウォッチ、ボールのような充電器に機器を入れるだけで簡単に充電できる技術などを紹介した。

 クルザニッチ氏は「こうした機器の普及にはウェアラブルになる必要がある。そこで、Intelはファッションブランドと提携を結び、協力してこうした機器の普及を目指していく」と述べ、Barneys New York、the Council of Fashion Designers of America、Opening Ceremonyという米国のファッションブランドと共同でウェアラブルデバイスの開発や普及を目指していくと明らかにした。

 そして、そうしたウェアラブルな機器を実現できるプラットフォームとして、開発コードネーム「Edison(エジソン)」と呼ばれる、SDカード大の小型基板を紹介した。Edisonは、2013年9月のIDFでIntelが発表した22nmプロセスルールで製造される超低消費電力SoCとなるQuarkを搭載しており、Bluetooth LE、Wi-Fiの機能が搭載されており、Linux OSなどが動くようになっているという。これを利用することで、OEMメーカーは超小型のIoT機器を製造することが容易になるというメリットがある。クルザニッチ氏はこのEdisonを今年の半ばまでに出荷する予定であることを明らかにした。

 このほか、クルザニッチ氏はこのEdisonを利用したデモとして、赤ちゃんの体温を測る温度計と、電子コーヒーカップが連動して動作する様子などを公開し、「Edisonをベースにすればこれまではできなかったような新しい使い方が可能になる。そこで我々はウェアラブルのコンテスト(Make it Wearable challenge)を開催する予定で、Intelが行なうこうしたコンテスト市場で最高の合計130万ドル(日本円で約1億3千万円)を用意する」と述べた。

 また、IoTに関する話題の最後でクルザニッチ氏は「ウェアラブルが進んでいけば、セキュリティの確保がこれまでより重要になる。Intelはそこを真剣に考えており、全てのモバイルデバイスにMcAfeeのセキュリティソフトウェアを無償で提供する」と、iPhone、iPad、Androidなどのモバイル機器向けMcAfeeセキュリティソフトウェアを今後は無償で提供していくということを明らかにした。なお、Intelの発表によれば、どのような形で提供されるのかは、今後数カ月の間に別途発表されるとのことだ。

クルザニッチ氏の基調講演で紹介されたスマートイヤフォン。つけているだけで健康状態などがチェックできる
スマートヘッドフォンを紹介するクルザニッチ氏。非常に低い電力で動くのでずっとマイクはオンのままで、常にコンピュータがユーザーのしゃべっていることをモニターすることができる
スマートフォンに常に話しかけてどのようにするかを決めるデモ。シャイな日本人としては人前でやるのは大分決心が必要になりそうだ……
スマート充電ボウルでは、入れておくだけで機器が充電される
スマートウォッチを紹介するクルザニッチ氏
子供や介護が必要な高齢者などの現在地などを常にチェックできる
ウェアラブルコンピューティングの普及にはファッション業界との協力が欠かせない、Intelがファッション業界とコラボレーション
Edisonを紹介するクルザニッチ氏
EdisonはSDカード大のカードに、Quark、Wi-Fi、Bluetooth LEなどの機能が全て実装されている
体温計とコーヒーカップが通信するというデモ
Make it Wearable challengeには総額で1億3千万円の賞金が用意される
モバイル機器向けのMcAfeeソフトウェアが将来的に無償で提供されるようになる

WindowsとAndroidをスイッチ1つで切り替えられるデュアルOS環境を実現

 Workの分野では、Intelが今年力を入れていくタブレットについての説明に時間が割かれた。2013年の11月に行なわれた証券アナリスト向けの説明会で、Intelは新戦略の1つとして、2014年のIntelプロセッサを搭載したタブレットの出荷量を4倍にするという戦略を打ち出しており、2013年に発表したBay Trail-Tや、その前世代となるClover Trail+やMedfieldなどを搭載した低価格タブレットにより、市場シェアの拡大を目指している。

クルザニッチ氏はそうしたタブレット向けに3つの技術を説明した。1つはIntel Device Protectionと呼ばれるIntelベースのAndroidタブレットにセキュリティ機能を追加するものだ。Intel Device Protectionはホームユーザーも、ビジネスユーザーも利用できる機能になるとクルザニッチ氏は説明した。2つ目は、デュアルOS環境で、Bay Trail-Tを搭載したタブレットにおいてWindowsとAndroidをスイッチ1つで切り替えられる様子を公開した。

 3つ目として同日の記者会見で発表されたIntel RealSenseについても触れ、3Dカメラを利用して物体をキャプチャし、それを3Dプリンタを利用して製造する様子などを公開した。

Windows環境では2-in-1を訴求していく
Androidにはセキュリティを強化する機能を実装していく
スイッチ1つでWindowsとAndroidを切り替える機能を提供していく
Windowsが動作しているPCでスイッチを押すと、Android環境に切り替わった
タブレットの3Dカメラを利用して物体の3Dイメージをキャプチャする
そのデータを利用して3Dプリンタで出力する様子もデモされた

IntelとSteamOSを計画しているValveが提携

 そして最後にPlay(遊び)について触れ、ゲームコンソール、スマートフォン、そしてPCなどを利用して子供達がどのように遊べるかなどを紹介した。その中で、ARの鯨が基調講演の会場と飛び回る様子などを紹介し、そうした技術を発展させていくことで、さまざまな可能性があるとした。

 また、ゲームのネット配信事業「Steam」を展開しているValveのゲイブ・ニューウェル氏が登壇し、今後Valveが展開する予定のLinuxベースPCゲーム配信プラットフォーム「SteamOS」で協力していくことが明らかにされた。

 4世代Coreプロセッサに内蔵されているGPU(Iris Pro)を搭載したGIGABYTE製の小型PCにSteamOSをインストールしたシステムを紹介した。Intelは、同社の内蔵GPUの性能が上がるにつれて、PCゲーミングへの対応を積極的に行なっており、特にIris ProはローエンドのdGPUを凌駕する性能を持っているため、ゲーミングPCで選択するユーザーも増えつつある。今回のValveとの提携は、その戦略の延長線上にある動きだと考えることができるだろう。

 講演の最後に、シリアスな表情になったクルザニッチ氏は「現在もコンゴ共和国では、地域紛争が続いており、多くの人が命を落としている」と述べ、IT業界は、その要因となっている鉱物を使わないで電子機器を作ろうという取り組みを進め、Intelも数年前から開始していると説明した。「我々はそうした紛争の原因になっている鉱物を使わずに半導体を製造できないか取り組んできたが、2014年に製造するマイクロプロセッサからはそうした鉱物を取り除くことができたことを発表したい」と、さまざまな製造段階で紛争鉱物フリーを実現したことを明らかにした。

ARの鯨が基調講演の会場を飛び回る様子
IntelとValveが提携することが発表された
Valveのゲイブ・ニューウェル氏が手に持つのはGIGA-BYTE製のSteam OSクライアント
2014年に出荷する全てのマイクロプロセッサを紛争鉱物フリーにすると発表

(笠原 一輝)