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【特別編】0円になったWindowsで何が変わるのか

 米・サンフランシスコで開催された開発者向けカンファレンス Build 2014において、Microsoftは特定の端末でWindowsの価格を0円とする施策を発表した。それによって、Windowsのビジネスモデルは、どう変わっていくのか。その将来を考えてみよう。

30ドルが0になる

 今回の0円施策は、IoT用のWindowsと9型未満のスクリーンを持つデバイスが対象だ。また、Windowsが0円になるとともに、購読型でOfficeアプリが使えるOffice 365サービスが1年間無料で提供されるという太っ腹にも感じられる施策だ。

 ただし、この施策はOEM各社に提供されるものであって、一般のユーザーが、MicrosoftのサイトからWindowsをダウンロードしてきて自由に自分の環境にインストールできるといったものではない。あくまでも、OEMが市場に投入する際の製品価格に含まれていたWindows OSのための費用と、Officeプリインストールのための費用が結果的に省かれるということにすぎない。

 同様に、各企業がボリュームライセンスで入手するWindowsについても、これまでと変わらない。あくまでも、“プリインストール”のWindowsが無料になるというのが重要なポイントだ。

 ただ、これまでも、MicrosoftはSmall Screenプログラムとして、WindowsとOfficeを低価格でOEMにライセンスする施策を提供してきた。2013年のCOMPUTEX TAIPEIでの発表で明らかになった施策だが、業界筋によればその施策によってOEMがMicrosoftに対して支払う金額は30ドル程度と言われてきた。それが無料になることで、9型未満のスクリーンを持つタブレットの製品価格に与えるインパクトは決して小さくはないだろう。原価が30ドル下がれば、それがエンドユーザーに渡るときには、製品価格の下げ幅はもっと大きなものになるはずだ。

 Small Screenプログラムは、10型超スクリーンを持つデバイスにも適用されていたと聞くが、今回は、9型未満のスクリーンと限定されている。つまり、Micrsoftの製品なら「Surface Pro 2」は10.6型スクリーンを持つが、今回の無料化には無縁ということになる。

 その一方で、PC Watchのまとめた8型Windowsタブレットの特集を参照すると、最安値としては4万円を切る製品が見つかる。MicrosoftはWindows 8.1 updateにおいて、システム要件を1GBメモリ、16GBストレージに緩和したため、スペックを落とした製品は3万円を切るようなものが登場する可能性も出てきたわけだ。

 3万円を切るWindowsタブレットということになれば、例えばAndroid搭載のタブレットと比べても十分な競争力を持つ価格になるはずだ。もちろん、iPad miniとの比較では、かなり魅力ある価格として迎えられるにちがいない。

Windowsの未来を握るタブレット市場

 こうしてMicrosoftは、OEMが少しでも安く製品を提供できるようにしたいと考えて、Windowsのライセンス価格を0円にする施策に打って出た。現時点では、そこでビジネスをすることよりも、プラットフォームとしてのWindowsタブレットのバリエーションを増やしやすいように誘導した方が得策であるという判断をした結果なのだろう。Microsoftはデバイス&サービスカンパニーであって、OSカンパニーではないということを主張したいのかもしれない。

 ライセンスの価格が0円になったところで、OEMは、サポート費用など、さまざまな名目でMicrosoftにカネを支払わなければならない。それは従来通りだと言える。その料金は製品価格にこれまで同様含まれることになるはずだ。だから、ライセンス価格が0円になったとしても、Microsoftに入る金額が0円になってしまうというわけでもなさそうだ。ちょうど、キャリアショップでスマホを0円で手に入れたとしても、縛り期間中はずっと料金を支払い続けなければならないというビジネスモデルに似ていると言えるかもしれない。これまでよりさらなる値下げを中途半端にするよりも、いっそのこと0円だといってしまった方がインパクトがあるからだ。

 一方、Officeについては、特に日本の市場においては状況が一変するかもしれない。というのも、日本の市場はプリインストール率が高いという点で世界の中でも特異なリージョンとなっている。これを諸外国におけるOffice 365のようなサブスクリプションモデルに移行させようという動きがあるようだ。Microsoft関係者筋によれば、すでにOEM担当の営業部隊は、その方向を目指して動き始めているという。

 Windows+Officeというプラットフォームは、業界のエコシステムの中で、誰がどうあがいても崩すことはできない牙城だった。だが、そこにiOSやAndroidが迫る。iPadに独走を許してきたAndroidもタブレット市場で次第にシェアを高めつつあり、ついには、iPadを追い抜いた(Gartnerの調査)。出遅れたといってもいいMicrosoftは、なんとかして、この市場でのシェアを獲得しなければ、Windowsの未来はないということになるわけで、Microsoftがなんとしてでもここを取りに来るのはビジネスとして当たり前だ。

 OEMが低価格の製品を作りやすくすること。そして、同程度のハードウェアであっても、Androidを載せるのとWindowsを載せるのとで同等、あるいはさらに魅力的な状況を作り出すことが急務なのだ。そして、プラットフォームのシェアが伸びれば、そこでビジネスを成立させるソフトウェアベンダーにとってもビジネスチャンスが増えることになり、Windowsのエコシステムが活性化される。パートナーあってのMicrosoftといってもよく、多彩なハードウェアと、そこで動く魅力的なソフトウェアや周辺ハードウェアは、Microsoftには欠かせないものだということを再確認したかたちだ。

パートナーあってのMicrosoft

 さらにIoT用のWindowsも0円でOEM各社に提供されることになった。IoTはまだ市場が成熟しているとは言えないが、重要なプラットフォームであることには違いはない。タブレットのように出遅れてしまっては目も当てられない。だからこそ先手を打ったということだ。もっとも、M2Mや組み込み用途のWindowsはIoT用とは区別され、無料にはならないという話も聞こえてくる。自動販売機やサイネージでWindowsが使われても、それは有料ライセンスになる可能性が高い。そのあたりの詳細が明らかになるには、まだ少し時間がかかるだろう。

 Build 2014では、IntelのGalileoを使ったデモが披露されたが、これがARMではなく、IAとWindowsという組み合わせであった点に注目しておかなければならないだろう。OEMとサードパーティのビジネス支援に本気で取り組むMicrosoftが、Wintelによる共闘体制をも、さらに強固なものとして再燃焼させようという意気込みが感じられる。

 とは言うものの、やはりBuild 2014で発表されたWindows Phone 8.1では、拡大したOEMの存在が誇示されていたが、それは、このOSがQualcommのリファレンスデザインをサポートしたことによるものだ。ここでも、OEMが取り組みやすい環境を提供しているという点ではWindowsの0円施策と共通する意図は感じられるが、Intelとしては歯がゆい思いをしているのではないだろうか。しかも、0円施策はWindows Phoneについても適用されるのだ。

 Microsoftは、電話、タブレット、PCというプラットフォームで、同じバイナリのソフトウェアが稼働するUniversal Windows appsの普及をもくろんでいる。コードの8〜9割を共有することができるというもので、ソフトウェア開発者のビジネスチャンスは大きく拡がるはずだ。だが、そのためにも、プラットフォームとしてのWindowsが各デバイスカテゴリで強固な位置にいなければ絵に描いた餅だ。

 ある意味で、今回の0円施策は、初心に立ち戻り、Windowsを取り巻くエコシステムを再活性化させるための最終兵器とも言えるものだ。パートナーが潤わなければMicrosoftも潤わないのだということを再確認した結果でもある。

 MicrosoftがSurfaceを世に出したとき、OEM各社からはとてもあんな価格で同等の製品を出すことはできないと業界が大騒ぎになったことは記憶に新しい。ただ、今回の0円施策は9型未満のスクリーンが対象という点で、Surfaceのようなデバイスは含まれないことが気になる。今、Microsoftの戦略は、あらゆる面でモバイルファーストとなっているが、10型超のスクリーンを持つデバイスは、Microsoftがモバイル領域ではないと見ている可能性もあるからだ。それとも、そこには、Surfaceを本気で儲かるビジネスにするために、OEMのことまでは考えられないというデバイスカンパニーとしてのMicrosoftの思惑があるのだろうか。

(山田 祥平)