山田祥平のRe:config.sys
【特別編】Buildで垣間見た新生Microsoftの大変身
(2014/4/8 11:43)
米・サンフランシスコに於いて4月2日~4日の3日間開催されたMicrosoftの開発者向けカンファレンス「Build 2014」。今、その会期を終えて、新しいMicrosoftが動き始めた実感もある。だが、そこには釈然としない要素もいくつかある。ここでは、参加してみての雑感をお伝えしたい。
新生Microsoftの新たな方法論
Buildは通常登録すれば2,000ドルを超える有料のカンファレンスではあるが、その基調講演はもちろん、各セッションのビデオ、そしてほとんどのセッションはプレゼン資料にいたるまで、自由に入手できるようになっている。もちろん無料だ。
ただ、料金を払って現地に赴いた参加者には特典もある。今年の場合は、「Xbox One」と500ドルの商品券が配布された。締めて1,000ドル相当で、参加費の半額に相当する。
Xbox Oneは米国では2013年11月に発売になった製品で決して新しいものではない。それでも会場近くのショッピングセンターにあるMicrosoftストアには、7kgはあると思われるXbox Oneパッケージの入った手提げ袋を片手に、もう片方の手には500ドルの商品券を握りしめ、対応ゲームや周辺機器を求める参加者が列を作った。その一方で、Microsoftは、499ドルのこの製品を受け取らない代わりに、500ドルの商品券と交換するという代替手段も用意した。
多くの参加者は、お土産的なアイテムとして、8.1対応のWindows Phoneデバイス、Windows 8.1 Updateがインストールされた新デバイスとしてのSurface Proや、噂が流れていたSurface miniといったデバイスが入手できるのではないかと期待していたと思う。でも、それは叶わなかった。
今回のBuildのキーワードは、「Windows Phone 8.1」、「Windows 8.1 Update」、「Windows for IoT」、「VisualStudio」、「Azure」といったものが挙げられる。もちろん、Xbox OneやKinectも、Azureとの連携や、Universal Windows Appsといった関連性を考えれば、妥当な配布物だとは思うが、ちょっと拍子抜けという感は否めない。何よりも、この500ドルの商品券というのが想像の域を超えていた。この点だけを取っても、今回のBuildカンファレンスはちょっと異色だったと言える。
しかも、会期の1週間前の3月27日には同じサンフランシスコでプレスイベントを開催し、iPad用のOfficeアプリを発表、新CEOのサティア・ナデラ氏が、プレスに対して初めてスピーチを披露するなど、段取り的にもギクシャクしたムードがある。でも、それこそが、新しいMicrosoftの方法論のようなのだ。
電話、タブレット、ゲーム機を横断、ついでにPCも
初日基調講演は、Windows Phone 8.1がクローズアップされ、最初の話題として取り上げられた上に、その解説に対して多くの時間が割かれた。これは、買収完了まで間もないNokiaとMicrosoftの関係を示すため、そして、Microsoftが本気でスマートフォンの市場を取りに行こうとしている意気込みを見せるために、どうしても必要だったことだとは思うが、これまでのMicrosoftであれば、きっと先にWindows 8.1 Updateについて説明したに違いない。
Microsoftには、勝つまで負けを続けられるという強みもあるが、スマートデバイスの市場での出遅れを、なんとか奪回しようという焦りのようなものも見える。今回の初日基調講演は、そのあたりの内情が透けて見えたような気もするのだが、どうもそうでもないらしい。
この基調講演では、クロスプラットフォームをアピールすることがMicrosoftの目論みだった。スマートフォン、タブレット、PC、ゲーム機の全てでWindowsが動き、そこで共通のバイナリが実行できるUniversal Windows Appsの鮮烈なデビューを印象付けなければならない。詰まるところは、モダンUIのアプリを1つ作れば、あらゆるMicrosoftプラットフォームでマネタイズができる可能性が生まれることを開発者に伝えなければならなかったのだ。
そのための開発環境も整えられる。Windows環境はもちろん、iOSやAndoroid環境のサポートも含めて、とにかくクロスプラットフォーム対応がアピールされた。乱暴な言い方かもしれないが、PCは「ついで」というムードも感じられたくらいだ。
とはいえ、Windows 8.1 が、これからどんどん変わることも宣言された。その例として、復活するスタートメニューや、ストアアプリのデスクトップにおけるウィンドウ表示などが参考出品的に紹介されている。
これらの機能追加は、次の大規模なWindowsバージョンアップを待たず、今回のWindows 8.1 Updateのように、さりげなくアップデートが行なわれることになりそうだともいう。
このことは、もはや、MicrosoftがWindowsのメジャーアップデートを数年の1度のお祭り騒ぎとして捉えるつもりがないかのような印象を与える。もちろん、噂のWindows 9も、近い将来には必ず登場するのだろうが、ずいぶん前から言われているように、もうOSをコンシューマが単体で購入してアップデートするといったことはないのだと言わんばかりだ。そして、それはMicrosoftにとって、ある種の覚悟でもある。
コンシューマを徹底して狙う
話題にあがったデバイスが9型未満のものばかりという点でも象徴的だ。この画面サイズ未満のWindowsを0円にするという施策が発表されたせいもあるが、あからさまなコンシューマ狙いだ。BYODのトレンドを睨んでいるのかもしれない。だから、10型超の画面サイズが求められる市場、要するに企業向けの市場について、今回のMicrosoftは多くを語らなかった。Azureのデモンストレーションでさえ、主役はゲームだったのだ。
今回発表された施策ではノートPCや企業向けタブレットなど、10型超の画面を持つデバイスや企業向けのWindowsが0円になるわけでもない。取れるところからはしっかり取るという戦略なのだろうか。Microsoftはエンタープライズ部門を分離するといった戦略を打ち出されても、やっぱりそうですかと平気でいられそうなくらいだ。
買収完了直前のNokiaについても触れておかねばならない。Nokiaはデバイス&サービス部門をMicrosoftに対して売却する手続きを進めているところで、もうすぐそれが完了する。現在、Microsoftの従業員数は10万人程度。そのMicrosoftにNokiaからは約35,000人程度が移籍してくることになるという。これは半端な人数ではない。
基調講演にはNokiaの前CEOであるスティーブン・イーロップ氏が登壇し、Windows Phone 8.1を搭載するLumiaの新製品を紹介したが、イーロップ氏は買収完了後には、Microsoftのデバイス部門担当VPに就任することになっている。
新CEOのナデラ氏は、「Mobile First, Cloud First」をスローガンとして掲げているが、それを実現するために選ばれたキーパーソン3名のうちの1人でもある。MicrosoftとNokiaは、はっきり言って文化そのものが異なると思われるが、そこをどう融合させていくのかはナデラ氏の腕の見せ所といえるだろう。
残りの2人はクラウド担当のスコット・ガスリー氏とXbox担当のフィル・スペンサー氏だ。こうした人事を見ていれば、参加者にXbox Oneを配布したことにも、悶々とした印象を持ちながらも納得できるというものだ。
今、ナデラ氏が敏腕を振るうことで、Microsoftが自らの組織を新しい時代に向けて変革しようとしている中で、XboxとWindows Phoneデバイス、そしてクラウドサービスがいかに重要かを示すものだ。OSは限りなく無料に近く、デバイスとサービスでビジネスを成立させること。それがデバイス&サービスカンパニーとしてのMicrosoftの成功を導く。
今回のBuildは、その過渡期を象徴するカンファレンスだったと思う。願わくば、今年の後半に、生まれ変わったMicrosoftをアピールするイベントとして、さらに具体的な成果を見せる2回目のBuildを開催してほしいものだ。
その時のために、商品券は使わずに取っておこうと思った参加者も少なくなかったと思う。