山田祥平のRe:config.sys

ドコモが模索する土管の付加価値

 NTTドコモ(以下、ドコモ)が「Mobizen」のベータテストを開始した。スマートフォンとPCを接続し、データのやりとりはもちろん、スマートフォンをリモートから操作できるという環境を提供する。サービス開始の3月27日、さっそくGoogle Playからアプリをダウンロードして試してみた。

リモートスマートフォンを実現するMobizen

 スマートフォンにアプリ「スマートデータリンクMobizen(おためし)」をインストールし、スマートフォンに登録されているGoogleアカウントとパスワードを設定する。スマートフォン側の操作はそれだけだ。これでアプリを終了しても待ち受け状態は維持される。

 一方、PCでは、ブラウザで「https://mobizen.jp/」を開くと、ログイン画面が表示され、あらかじめ設定しておいたGoogleアカウントとパスワードでログインすれば、セッションが確立して待ち受けているスマートフォンにログインすることができる。

 これだけで、PCからスマートフォンに保存されている写真や音楽、ファイルなどを参照でき、また、プラグインをインストールすることで、PCからスマートフォンにコンテンツを転送できる。このあたりの使い勝手は、はっきりいって、「Airdroid」のようなアプリとそう大きな違いがあるわけではい。

 ただ、Airdroidはあくまでもスマートフォンが手元にあることが前提で、手元のスマートフォンでアプリを起動して待ち受け状態にしてからPCのブラウザで接続する必要があったが、Mobizenでは、スマートフォンが位置的にどこにあろうとかまわない。スマートフォンとPCの接続には、同じネットワーク内にいるときのP2P接続、3GやLTEによる接続、USBによる直接接続の3種類があり、任意のものを選択できるほか、自動的に最適なものが選ばれるようになっている。そして、スマートフォンがどこにあろうが手元のPCでリモートコントロールができるのだ。

 つまり、自宅にスマートフォンを忘れて会社に来ても、自宅のスマートフォンの着信を確認したり、LINEメッセージを送受信したりできるのだ。何しろ、ブラウザ上にはスマートフォンのスクリーンがそのまま表示されていて、まるで手元にあるかのように操作ができる。だから、任意のアプリを起動して好きなことができるのだ。

 いわば、Windowsで言うところのリモートデスクトップによく似た、リモートスマートフォン機能なのだが、実は、これらの機能、まだ実際に試せたわけではない。初日のサービス開始時点で、ウリの1つであるリモート操作ができず、サポートされている端末であるにもかかわらず「サポートしていないスマートフォンです」というエラーになってしまう。ブラウザ上の表示を見る限り、キャプチャ、フルスクリーン、ホワイトボード、テキスト入力といった機能があるようだ。ドコモでは、原因を確認中で、修正でき次第、Playストアで改訂版を公開するとしている。

 最初からサービスにケチがついてしまい、本当に公開前にテスト運用をしてあるのかどうかまで気になってしまうが、まだおためし段階ということなので、一刻も早くフルサービスを提供してほしいものだ。

いつでもどこでも自分のスマートフォンが使える

 スマートフォンでしかできないことが増えている。

 例えば、LINEは、iOSやAndroidなどのモバイルOS環境の端末に、1つだけしかアカウントを登録できない。正確には電話番号認証でアカウントさえ取得すれば、それをメールアドレス認証することで、複数のデバイスでアプリを使うことはできるが、1つのアプリにアカウントを関連付けると、他のデバイスのアプリは真っ新な状態になってしまう。

 LINEはアカウントの取得には電話番号を持つ端末が必要だが、一旦アカウントを取得し、それをメールアドレスに関連付ければ、あとは、電話番号が変わろうが、なかろうが、端末が変わろうが、そのアカウントを維持できる一方、最後にインストールしたモバイルOSデバイスそのものにコミュニケーション履歴が紐付けられるという不思議なサービスだ。端末が変われば過去のすべてを忘れるという、まるで、かつてのキャリアメールのようだ。

 LINEはPC用のアプリも用意されていて、メールアドレス認証によってアプリを使うことができる。PC用はモバイルOSとは異なり、何台のデバイスにでもアカウントを関連付けられる。従って、複数のデバイスを往来するのも簡単だ。そして、モバイルOSとWindowsで、2つのログインを維持できるのだが、PC版のアプリではできることが限られている。また、1度にログインできるのは1つのWindows端末だけで、ある端末でログインするとすでにログインしていた端末は強制的にログアウトさせられる。

 ぼくのように、自宅にいるときはスマートフォンは充電器に繋ぎっぱなしで、操作するのはノートPCかタブレット、場合によってはスマートフォンのマナーモードもそのまんまというようなズボラなユーザーは、LINEのトーク着信はもちろん、電話の着信にさえ気がつかないことがしょっちゅうある。

 でも、各種デバイスは家の中のあらゆる場所に放置されている。新着メールが届けば、家の中のすべてのデバイスに、ほぼ同時に着信するので、たまたま手に取ったデバイスでその内容を確認できる。TwitterのDMもFacebookのメッセンジャーも、Skypeも同様だ。そういう意味ではLINEと電話、SMSがもっとも不便な連絡手段だ。

 だが、Mobizenくらいに簡単に、しかも、スマートフォン側で待機の操作がいらないのであればちょっとはマシになるというものだ。これまではクラウドストレージに頼っていた写真の転送なども、直接やろうという気にもなる。スマートフォンで写真を撮ってTwitterやFacebookでシェアするようなときにも、ノートPCでの作業がとても簡単になりそうだ。

 それに加えて、スマートフォンの方が便利だと思っているアプリもたくさんある。GPSが実用になる地図アプリ、SmartNewsなどWindows用アプリやWebアプリが提供されていないものを使いたいとき、TrainTimerや乗換案内的なアプリ、そして、辞書アプリなどは、目の前にPCがあってもスマートフォンアプリを使うことが多い。これらをひっくるめて、PCですませることができるのは大歓迎だ。

 さすがに二重ログインはできず、最後にログインしたセッションが有効になり、ログインしっぱなしだったセッションは切断される。この仕様もこれでいいと思う。

加入契約とは無関係のサービスをキャリアが提供

 キャリアがそのアイデンティティとも言える端末を、他のネットワーク経由で操作ができるようにするサービスをキャリア自身が提供するというのは、ある意味で画期的な試みだ。過去においては常に主役は端末だった。何もかも端末だけでできるようにすることを目指していたのではないか。

 でも、今回はちょっとムードが違う。端末を肌身離さず持ち歩かなければできなかったことを、端末がどこにあってもできるようにするということだからだ。ドコモはキャリアメールをIMAP対応させ、あらゆるデバイスでその読み書きをできるようにしたばかりだが、今回のサービスは、それに匹敵するものだともいえる。

 それに、端末とサービスの紐付けが、docomo IDではなく、Googleアカウントをそのまま使った「Mobizenアカウント」となっている点にも注目しておきたい。そういう意味では、加入契約とは無関係なサービスでもあるわけだ。それをドコモがサービスとして提供するのところに将来的なビジョンが見え隠れしているようにも感じられる。

 ドコモによってYouTube に公開されたコンセプトムービーでは、会社に置き忘れたスマートフォンをリモートから操作し、自分のスマートフォンが手元にない間の着信を知り、会社にスマートフォンを忘れた旨をSMSで返信する様子が紹介されている。離れたところから、自分の電話番号発のSMSが送信できるのだ。これで通話もできれば申し分ないのにと乱暴なことさえ思う。

「スマートデータリンク Mobizen」コンセプトムービー

 リモート操作機能がまだ使えないため、録音やカメラ撮影、留守番電話の再生などについての詳細は不明だ。仕様によっては悪いことにも使えそうだと心配も少しある。それらができないにしても、対応機種なら入れておいてソンのないアプリではないだろうか。ちなみに、電話機能のないAndroidタブレットも含め、非対応機種にもいくつか入れてみたが、それなりに使えるようだ。

(山田 祥平)