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【IFA 2013特別編】UXのトレンドが正方形に向かう可能性

 ドイツ・ベルリンで開催された見本市IFAでは、Sony Mobileの「Xperia Z1」や、Samsungの「Galaxy Note 3」に、「Galaxy Gear」といった意欲的な新製品が発表され、これらの魅力的な製品群は日本での発売も期待されている。現地では、ソニーモバイルコミュニケーションズの田嶋知一氏(シニアバイスプレジデントUXデザイン・企画部門部門長)とのラウンドテーブルに参加することができ、これからのXperiaについて聞いてみた。

16:9のアスペクト比はこのまま定着するのか

 TVのアスペクト比が16:9になったことから、身の回りのデバイスの多くは16:9のスクリーンを持つことが好まれる傾向にある。それゆえに多くのデバイスが似たり寄ったりの形状を持つことになってしまった。そこで個性を出さなければならないのだから、工業デザイナーも大変だ。

 スマートフォンやタブレットの場合、フルスクリーンでコンテンツを表示するときには16:9のアスペクト比が活かされるが、通常のアプリを動かす場合は、スクリーン上部に通知バー、スクリーン下部にホームや戻る、タスクといったボタンのバーがあるので、16:9がフルにアプリ領域として使えるわけではない。その点、Samsung機は、ハードウェアキーとしてホームボタンを持ち、その両脇にタッチセンサーの戻るやタスクボタンが装備されているので、その分スクリーンを余分に使える点で有利だ。

 Xperia Z1も、最新スマートフォンの例外ではなく、16:9の5型フルHDスクリーンを持つスマートフォンだ。同社から提供を受けてIFA滞在中からIDFのサンフランシスコまで、海外滞在中、ずっと使わせてもらっているが、すこぶる気持ちよく使える端末だと感じている。ただ、結構頻繁に再起動を繰り返すようで、このあたりは、早急にシステム更新を提供してほしいと思う。

 同社では、この製品の前に、6.4型スクリーンの「Xperia Z Ultra」をデビューさせている。これも、しばらくの間使わせてもらい、なんとかパンツのポケットに入らなくもない大画面は、大いに気に入ってはいたのだが、いかんせん、バッテリの保ちがよくなく、交換できないことから入手を諦めた。Z1のバッテリも容量が同じなので、似たようなものかと思っていたのだが、良い意味で期待を裏切り、ぼくの使い方でもなんとか丸1日は大丈夫なようだ。ただ、自分で買って毎日自分で使う端末としては、もう1世代くらいは電池パックを交換できるものを選ぶかもしれない。肌身離さず持ち歩く限り、やっぱり16時間は安心して使えるデバイスであってほしいと思う。

 2.2GHz/4コアのSnapdragon 800搭載ということで、フラッグシップ機の消費電力は上がる一方だ。どのベンダーの製品も、デザイン的には1枚の板に過ぎず、薄く、軽くしようにも、ある程度のバッテリ容量も確保しなければ実用品として失格になってしまう。ただ、Sony Mobileでは、バッテリ駆動時間よりも、かっこよさを優先したデザインを目指しているともいう。そのペナルティは、ソフトウェアによる省電力でカバーするというわけだ。

未来のUXは正方形に注目

 田嶋氏との話の中で出てきた話題で、興味深かったのは、これからは正方形のUX(ユーザー体験)がトレンドになるんじゃないかというものだった。例えば、同社には「SmartWatch」があるし、Samsungも今回、Galaxy Gearを発表している。これらは腕時計型の形状をしているが、今後は、ペンダントやクリップといった形のものが登場する可能性もある。携帯電話が当たり前の世の中になり、腕時計が積極的に使われなくなって10年程度が経過している中で、もういちど腕時計スタイルを復活させるよりも、別のスタイルの提案をしたほうが受け入れられやすいという考え方もあるはずだ。

 いずれにしても、これらのデバイスに共通するのは、スクリーンが正方形に近いアスペクト比を持っているという点だ。こうしたことから、今後もしかすると、スマートフォンでは18:9(2:1)のアスペクト比がトレンドになる可能性もあると田嶋氏はいう。つまり、2つに分割すると正方形が2つ取れるというわけだ。今の16:9でも、正方形とソフトウェアキーボードでうまく表示領域を分割できる。また、今のGoogle Nowがカードという体裁で、ほぼ正方形のUXを提供している点にも注目すべきだ。OSの高機能化とともに、マルチタスクのニーズが高まっていることにも関係している。

 田嶋氏はユニフィケーション、つまり、1つのもので何でも作ることはとても重要なことだという。世の中の多くのデバイスで、UXが正方形に向かうようになれば、きっとWebもそれを踏襲するだろう。また、Windows 8のモダンUIにしても、それがマルチウィンドウで使えるようになり、ライブタイルのインターフェイスにしても、16:9のランドスケープ、ポートレートをフルに使うには間延びしがちで、それならばと、正方形のUIを歓迎するかもしれない。

スマートフォンの日常と非日常

 実は、今回のXperia Z1では、Androidの設定画面などが、これまでの黒バックに白い文字から、白バックに黒い文字に変更されている。なぜ、今まで黒バックだったのか。それは白ベースのUIというのは、液晶表示における消費電力が高かったからなのだという。AV的な要素を持つアプリの中では、黒ベースにコンテンツが浮き上がるのがかっこよしとされてきたが、今、スマートフォンはデイリーツールとして使われることが多くなり、その場面では白ベースにすることで、黒と白の世界のコントラストを創出する。これが、スマートフォンの日常と非日常だ。

 確かに、TwitterやFacebookなど、日常的に使われている人気アプリなど、1日に何度も開かれるアプリは、白ベースに黒い文字で表示されるものが多い。そこから、音楽再生に切り替わると黒バックになって気分も非日常へと遷移するわけだ。ライター仲間のPCを見ていても、原稿書きは黒ベースに白文字で集中するというパターンが少なくない。ぼく自身は白ベースに黒文字なのだが、その気持ちはわからないでもない。

 こうした流れの中で、これまでのソニーは人々の生活の中の24時間中1時間くらいの割合を占める特別な時間をエンタテイメントでサポートしてきたと田嶋氏。だが、ソニーがスマートフォンを作るようになって、生活の24時間すべてをサポートしなければならなくなったという。ソニーによる人々の暮らしのサポートは、これまで50年間の同社のDNAを活かすことで、最大限にハッピーな環境を提供できるが、それでもソニーだけでは不可能だ。だからこそ、プラットフォーマーとしてデベロッパーに手厚くする、どのベンダーよりもオープンなメーカーになることを目指しているという。その中で、エコシステム・オン・エコシステムがはぐくまれ、より豊かな暮らしをサポートできるようになるというわけだ。

 開発競争には拍車がかかる。業界の動きが速くなる中で、同社では、年に一度のフラグシップ更新ではもうたち行けないとする。だからこそ、今年は冬のMWCと夏のIFAでと、新製品の発表を半年サイクルにするスピード感のある開発を実現した。同社によれば、今、まだリーチできていないのはアメリカと中国であり、それは年初のCESできちんとフォローしたいという。つまりは、そこでも魅力的な新製品がお披露目される可能性があるということだ。CESに始まり、MWC、IFAと、この先の話題のイベントと同社の動きに注目しておきたい。

(山田 祥平)