山田祥平のRe:config.sys

QualcommのSnapdragonとMicrosoftのAlways Connected PCが活性化するIntelの本気

 IntelがAMDに刺激されてロードマップを急遽変更したかと思えば、MicrosoftはAlways Connected PC構想でSnapdragon 835対応WindowsでQualcommとの蜜月をのろける。さて、Intelの次の一手はどうなのか。まるで格闘技のような競争は見ているだけでも興奮する。

PCの復権

 今年(2017年)のCOMPUTEX台北はPC周辺がじつに賑やかだ。ARMやIntelの高性能プロセッサ、Windows、USB Type-C PDなど、話題には事欠かない。IntelのCompute Cardなどの飛び道具もあった。

 なかでもMicrosoftの表明した、Always Connected PC構想については気になって仕方がない。

 普通に話を聞くかぎりは、PCがいつでもWi-Fiやモバイルネットワークでインターネットにつながっていられるようにするという構想なのだ。過去においてはInstant Go(さらに過去にはConnected Standbyと呼ばれていた)対応PCがあったし、それにLTEモデムを内蔵したものはAtom搭載タブレットなどでお馴染みだ。

 でも、今回の構想はそれとは一線を画するもののようだ。というのも、eSIMがキーデバイスとなっていることが要件のようだからだ。

 構想に賛同するパートナーとして、日本のKDDIをはじめとする各国のキャリア、そして、ハードウェアベンダーとしては、Lenovo、HP、Dell、ASUS、Huawei、Xiaomi、そして日本のVAIOが紹介された。そして、それを支えるエンジンに相当するものを担うのがIntelとQualcommだ。

 つまり、Always Connected PCは、IntelまたはQualcommのプロセッサを搭載したWindows 10 PCであり、さらにeSIMを装備していなければならないことになる。この条件を満たしているPCは今のところ市場にはない。

いつでもどこでもつながりっぱなしPC

 一方、Always Connected PCのバリエーションの1つとして、Lenovo、ASUS、Qualcommによるデバイスの存在が表明された。昨年(2016年)末、Microsoftは、中国・シンセンで開催された開発者向けの年次会議WinHECにおいて、ARMアーキテクチャで稼働するWindows 10の実働デモを披露したが、その進捗が紹介され、この秋以降にも登場することが明らかになった。

 Qualcommは、COMPUTEX会場近隣のホテルでWindows 10が実際に稼働するハードウェアのデモを一部のメディアに紹介した。

 まず、一般的なIntel Core搭載のものと比べて半分近い面積のマザーボードにはLTEモデムとSnapdragon 835を1つのSoCにまとめたものが実装されていた。もちろんeSIM実装だ。同社によれば、eSIMは必須だが、オプションとして従来どおりのSIMスロットを実装することもできるという。それはOEM次第らしい。

 環境としてはオンボードメモリが4GBで、ストレージは64GBだった。Qualcommによれば4GB実装のベンダーが多くなりそうだが、その上限をとくに設けているわけではないとしている。現状のノートPCと同じような感覚で使うためには、やはり、8GBのメモリはほしいし、ストレージももう少し欲張りたいところだ。

 コマンドプロンプトを起動して、powercfg /a を実行してみると、スタンバイはS0、そして休止状態と高速スタートアップをサポートしていた。その一方で、S1~S3はサポートされない。つまり、少なくとも今回の実働デモ機はInstant Go対応PCだということがわかる。

 ただ、Intelプロセッサ搭載のAlways Connected PCが、すべてInstant Go対応であるかというと微妙だ。基調講演後の記者会見で聞いてみると、Microsoftとしては、Always ConnectedとInstant Goにはちょっとした違いがあるという。それはスマートセンシングによってWi-Fiとモバイルネットーワークを柔軟に自動切り替えするものなのだそうだ。ただ、これは、スマートフォンでもお馴染みの機能だ。

 Instant Go対応ならスリープからの復帰も速い。世界最初のInstant Go対応機は、2013年の「VAIO Duo 13」、それに続いたのは2014年のパナソニック「レッツノート MX3」だった。

 パナソニックによれば、当時、Instant Go対応を名乗るための要件はスリープからの復帰が0.3秒、16時間でバッテリ消費5%以下だった。また、スリープ中にはいかなるLEDも点灯させてはならない。ただ、こうしたガイドラインさえ守っていれば、Instant Goを名乗れる。極端な話、超大容量のバッテリを搭載すればそれで済む。ロゴ要件はないのだ。だから、対応ロゴつきのステッカーが貼られるようなことがない。

 いろいろと難しい面がたくさんあって、今、Insutant Go対応でWAN通信ができるPCは、NECパーソナルコンピュータのLAVIE ZERO HybridのLTE版くらいのものになっている。同社の開発陣によれば、Surfaceも仕様上はInstant Go対応だが、スリープ時の消費電力はLAVIEとは比べものにならないくらいに多いのだともらしていた。

 Instant Go実装の難しさは、VAIOやパナソニック、NECパーソナルコンピューターの開発陣の話をきくだけでも相当なものだということがわかる。過去のインタビューでいろいろな話を聞いたが、それはもう想像を絶するといってもいい。

 eSIMを内蔵し、Instant Goに対応させた状態のPCが一朝一夕で作れるはずもないわけだが、今回のAlways Connected PCがInstant Goの再来をうながすものなのだとしたら、本当にハードウェアベンダーの力量が問われることになるだろう。

 しかも、LenovoとASUSはQualcomm PCを作る最初のベンダーだが、それ以外のメーカーはIntelプロセッサ搭載PCからのスタートだろう。VAIOがそこに顔を出しているのは偶然ではあるまい。なんといっても世界で最初にInstant Go対応機を作ったメーカーだ。ここは1つパナソニックにも名乗り出てほしいところだ。

競合から協調、そして競争へ

 ずっとスマートフォンとPCの世界は競合していた。スマートフォンがあればPCはいらないといった議論まで出てくる始末だ。これはあまりいいことではない。Microsoftは、その競合の関係を、うまい具合に協調の関係にすり替えた。次のWindowsで強化されるデバイス間連携機能などはその典型だ。両方を使ってさらに暮らしをスマートにすることをめざそうというわけだ。

 そして今回、Microsoftは、その協調を競合ではなく競争の立て付けに落とし込んだ。いわゆる陣営を競争させることで、よりスマートな環境が実現されるとすれば、それは悪い話ではない。Qualcomm、AMD、Intel、Microsoft、Google、Apple。さまざまなベンダーがさまざまな思惑で未来を創る。幸せな時代だ。