.biz 事例/インタビュー
Windows XPリプレースで厳しい局面に立たされる中小企業の現状と、意外な打開策
(2013/7/1 00:00)
「できるのならば、Windows XPをリプレースしたい。しかし、使っているシステムがWindows XPでしか動かないため、簡単にリプレースができない……」。2014年4月9日のWindows XPサポート期限切れを前に、企業ではこんな問題が起こり始めている。
特に情報システム部門の責任者が存在しない中小企業では、問題は深刻である。リプレースの判断すらできず、「サポートが切れた後でも使い続けるしかないのでは」と考えている企業もあるようだ。
今回、まさにそのような状況にあった、とある中小企業が、Windows XPシステムからWindows 7システムへと移行を果たした興味深い事例を取材する機会に恵まれたので、ここに紹介したい。
業務アプリケーションがWindows XPとAccess 2000の組み合わせ以外では動かない
神奈川県横浜市に本社を置くフジテクノス株式会社。本社のほかに栃木県に工場があり、従業員80人体制で、自動車試作部品の機械加工、特装車機能部品製造、鋳造関連設備設計製作などを業務としている。
同社の社内には2種類のWindows XPマシンが残っていた。1つは取引先である大手製造業とのやり取りをするためのシステム。元々「Windows XPを利用すること」という指定が取引先から出ており、Windows XPのサポート切れが大々的にアナウンスされている現在でも特にリプレースの指示は来ていない。だが、このシステムに関しては心配の声はない。「サポート切れまでに取引先からなんらかの連絡があるだろうし、それに従うだけ」と考えているからだ。
問題となっているのは、もう1つのシステムである。このシステムはWindows XPを搭載し、Access 2000で作られた生産管理のためのアプリケーションが動いている。仕入れ、在庫といった情報が動き、財務会計システムとも連動している。
「決算の際にも必要なデータとなるため、容易に他のアプリケーションとリプレースすることはできません。いずれ社内プロジェクトチームを組んで別のシステムにしたいとは思ってはいますが、具体的なことは何も決まっていないというのが実情です」と取締役総務部長の佐々木実氏は話す。
利用しているアプリケーションは、現在は廃業した開発会社が作ったものだ。「このアプリケーションを導入した頃、私は会社にいなかったため、正確な導入経緯は分かりません。この近辺の工場で仕事をしていた人が独立して作った開発会社だと聞いています」(佐々木氏)。
処理工程が定型化している会計業務では、パッケージアプリケーションを導入しやすい。それに対し、生産管理のように業種ごとに工程が異なり、さらに企業独自の商習慣が織り込まれている業務では、パッケージアプリケーションを導入しても、うまくいかないことが多い。そこでフジテクノスのように、Accessなどを利用してオリジナルアプリケーションを作る例は珍しくなかったのである。
「システムができ上がってから数年は、年間40万円のシステム保守料を支払い、全く問題なく動いていました。しかし、5年ほど前、アプリケーションを開発した会社が廃業することになり、バージョンアップ等は行なわれなくなってしまったのです」(佐々木氏)。「現在は、同社の元開発者ができる範囲で相談にのると言ってくれて、帳票のレイアウト変更など、簡単な要望には対応していただいています」と、フジテクノスでPC関係の業務を兼任する営業部副主任の森道子氏は話す。
しかし、「PCを入れ替えたいので、Windows XPとAccess 2000以外の組み合わせでアプリケーションを利用したいのだが、と問い合わせても、この組み合わせ以外では動作保証ができない、と言われていました。ならば、費用がかかってもいいのでWindows 7で動かすように改良してくれないか、と頼んでも、軽微な変更は面倒を見られるが大がかりな変更は片手間では対応できないので勘弁してほしい、という答えが返ってきました」(佐々木氏)という事情で、今もなおWindows XP+Access 2000という組み合わせのシステムを維持し続けなければならなかったのである。
専任担当も頼れる外部パートナーもいない状況
多くの中小企業同様、フジテクノスには「情報システム部門の責任者」は存在しない。新しいPCが導入された際など、担当となることが多いのは森氏だが、本来の仕事は営業事務職。PCの専門知識を学んだわけでも、PCが好きで担当となっているわけでもない。「20年以上、会社に在籍していますから、会社の状況を理解していて、PCに触れることを厭わないため、いつの間にかPCの担当ということになっています」と本人も苦笑する。
ならば、外部の業者にサポートを頼むといったことはないのだろうか? そんな素朴な疑問をぶつけてみた。
聞くと、フジテクノスの場合、メールホスティングシステム、コピー機といったものは事務機器系販売会社のものを利用している。その業者からPCを購入したこともあったが、担当者が頻繁に変わり、PC関係の相談を持ちかけてもフジテクノス側の状況を把握していないことが多く、その都度説明の手間がかかったという。「そういう状況が続いたため、その販売会社経由でPCを購入するのも、PCの相談をすることも消極的になってしまいました。今はネットでメーカーから直接PCを購入しています」と佐々木氏は話す。
そのほか、データを保存するためのNASも導入しており、電話交換機の業者や電話での売り込みなどPCをはじめとした製品の売り込みをしてくる業者は複数存在する。しかし、現在のシステム的な問題点を相談するパートナーを決めかねているということだった。
Windows XPとAccess 2000を使ったシステムも、アプリケーション自体には問題はないが、使い続けたくて使っていたものではない。社内には20台ほどのPCがあり、故障などの理由で何回か買い換えを行なっているが、本来はもう販売されていないWindows XPのPCやAccess 2000を探し出して購入し、再度環境を構築するということは、フジテクノス側にとっても面倒なことだったという。
その一方で、「本音を言えば、データの入れ替え、操作方法を新たに覚える手間を考えると、我々のような中小企業では新しいOSにそれほど大きなメリットがありません。新しいPCに買い替えても同じOSをずっと使い続けることができればとも思います」とも佐々木氏は指摘する。
思い切って試したらWindows 7でも動いた!
フジテクノスのアプリケーションはWindows XP+Access 2000という環境であれば、現在でも問題なく動作する。「バーコード管理を行なっているので、バーコードを発行し続けることができる限り、システムとしては何の問題はないということです」(森氏)。
しかし、Windows XPのサポートが2014年4月9日で切れることが報道されるようになり、前後してフジテクノス社内でも「現在Windows XPで動いている社内システムも問題ではないのか」「PCの動作が重いのでリプレースしてほしい」という声が挙がるようになった。
実はフジテクノスでは、これ以前にもWindows 7で業務アプリケーションが動くかどうか試したことがあるが、その時はAccess 2003だったという。動くことは動いたのだが、「あるマシンでは印刷ができない、別のマシンでは更新作業ができない、といったマシンごとに異なる問題が起こったのです。そうなった理由もよくわかりませんでした。とにかくその時は、Windows 7では業務アプリケーションは使えないという結論になりました」(森氏)。相談にのってもらっている元開発者に問い合わせても、マシンごとに異なるトラブルが起こる原因はつかめない。そういった経緯で、Windows 7の本格導入は見送られていた。
佐々木氏は、「いざとなれば、ネットワークに接続しなければ、サポートが切れた後でもWindows XPベースのシステムを使い続けてもいいのではないか、とも思っていました。6月の決算を考えると、すぐに対応ができない状況でもありました」と話す。
だが、そこに転機が訪れた。ちょうど社内のPCの1台が壊れ、買い換えが必要となっていた折り、近所で同じ業務アプリケーションを利用している会社がWindows 7環境で動かしているらしい、という噂を耳にしたのだ。
「そこで森さんがその会社に話を聞いてみたら、Windows 7にAccess 2010をインストールした環境で問題なく動いている、ということでした。じゃあ当社でも、とりあえず1台試してみようか、ということになったのです」(佐々木氏)。
事前情報の通り、Windows 7とAccess 2010という組み合わせで、あっさり業務アプリケーションが動作し、Access 2003で試したときのような不具合も発生しなかったという。「これでWindows XPをリプレースする目処が立ちました。Windows XPとAccess 2000の環境では何をするにしてもとても遅かったのですが、Windows 7とAccess 2010の環境は、以前よりも遙かに快適に動作しています。6月の決算終了後、順次、マシンを入れ替えていくことになると思います」(佐々木氏)。
まずは移行の相談という「一歩」を踏み出す勇気を
今回の事例を見ると、かつてPCが普及し始めた頃に比べ、中小企業にとっても業務を進める上でPCが欠かせないものとなっていることを改めて実感することができた。
その一方で、システムを運用していく際に起こるさまざまな問題点は、誰も解決する人がいないまま、企業側の努力や我慢によって対応されていることも明らかになった。
特に今回のようなWindowsのサポート切れといった問題が起こった時に、中小企業のIT利用の問題点が明るみに出る。問題を解決するための人材を、中小企業自身が持つことは難しいだろう。フジテクノスの場合は、同じ業務アプリケーションを使っていた別会社の動作検証情報を得られたことによって事なきを得たわけだが、同じようにソフトを最新のものに入れ替えてすんなり動くケースは意外とある。
しかし、こういった動作実績の情報を得られない会社はどうなるだろうか。佐々木氏は「『あなたの会社のWindows XPとAccess 2000で動かすアプリケーションが、Windows 7とAccess 2010で動くのかテストしましょう』という会社があれば、10万円くらいならば有料でもお願いしたと思います。日常の業務を行ないながら、新しい環境で業務アプリケーションが動くのか動かないのかという判断する知識も検証をする余裕もないのです」とも語っていた。情報も相談する先もなく、藁にもすがる思いの会社も決して少なくないだろう。
そういったユーザーは、まず日本マイクロソフトの移行ポータルページを参照してもらいたい。このポータルでは、大企業、公共機関、教育機関はもちろんのこと、中堅中小企業向けにも、移行を支援するための各種情報を掲載している。またフリーダイヤルでの相談窓口も用意されている。
また、移行が可能だとわかった中小企業にとって、移行に関する情報や手法だけでなく、そのコストも頭が痛い問題だろう。そこで日本マイクロソフトや公式パートナーでは、ディスカウントキャンペーンや、特別金利のファイナンシングなども行なっている。
XPサポート終了まで1年を切った今、日本マイクロソフトは360社のパートナーとともに大船団を組み、移行を支援しようとしている。企業によって、XP移行に関する悩みの内容は千差万別だと思われるが、「自社のシステムは特殊だから……」とあきらめずに、こういった情報やサービスを活用し、移行のための一歩を踏み出してもらいたい。