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富士通のWindows XPサポート終了戦略を聞く

~PCの置き換えだけでなく、ワークスタイルの変革や効率化も提案

 2014年4月9日にサポート期限を迎えるWindows XP。サポート期限終了後には、Windows XPに対して、セキュリティ更新プログラムがMicrosoftから提供されなくなることから、脆弱性を突いたコンピュータウイルスへの感染リスクが高まり、データ漏洩などの問題に直面することになる。Windows XPを搭載したPCは、企業で利用されているPCの約4割を占めていると言われ、PC業界においても、告知の徹底やリプレースに向けたプログラムの実施など、対策を図ることが急務となっている。

 こうした中、富士通は、Windows XPからの移行を捉えた施策を相次ぎ打ち出している。富士通の取り組みを追ってみた。

丸子正道マネージャー

 富士通は、企業で利用されている同社ブランドのWindows XP搭載PCが、国内に約270万台あると試算する。「中でも大手および中堅企業が7割を占めると見ていますが、むしろ重要なのは、中小企業およびSOHO。ここに対する告知活動の徹底は急務と言えます」(富士通 ユビキタスビジネス戦略本部プロモーション統括部パーソナルプロモーション部・丸子正道マネージャー)。

 大手企業や中堅企業の場合は、富士通の業種別営業部門からの直接アプローチや、社内に情報システム部門があるため、早い時期から対策が講じられており、移行計画に則ってWindows XP環境からの脱却が進められている。

 だが、中小企業やSOHOに向けては、富士通や販売パートナーから告知活動が行なわれているものの、すべてのユーザーに対してWindows XPのサポート期限終了の告知や、それに伴って発生するリスクへの認知、移行計画の立案の提案などが行なわれているわけではなく、さらに情報システム部門やIT専任者を置かないことから、具体的な移行策についても手つかずという場合が多いようだ。

 「日常の業務を回しながら、PCの環境を移行させるということは、中小企業およびSOHOにとっては、大きな負担となります。移行計画を策定する余裕がないというのが実態でしょう」と、丸子マネージャーは指摘する。

 使用しているアプリケーションが新たなOSでも動作するのかどうかを確認する手段がなかったり、相談する相手がいない、技術に精通している社員がいないというように、移行へのハードルが高い企業が多いのも事実だろう。その点でも中小企業やSOHOが置かれた立場は厳しいと言える。

 こうした背景から同社では、同じ企業向けのWindows XP移行支援策といっても、大手・中堅企業向けと、中小企業およびSOHO向けとで、切り分けて展開している。

大手・中堅企業向けには無償1Dayコンサルを実施

 大手・中堅企業向けに取り組む施策の1つが、研修会などを通じて、富士通の営業部門やパートナーの営業部門などに対し、Windows XPのサポート終了に伴うリスクの説明と、新OSへの移行メリットを訴求する施策である。

 この活動はすでに、2012年4月から実施しており、同社営業部門、パートナー向けに実施した研修会は、2012年度(2012年4月~2013年3月)実績で、全国で約80回に達したという。

 実際、富士通の営業部門では、従来のWindows XPの社内システム環境を移行し、約300台のWindows 8搭載PCを導入。社員自らが使用して感じたメリットを直接ユーザー企業に伝え、新たな利用環境を提案するといった実践活動を行なっている。それに伴い、貸し出し用製品も200台以上の規模で準備。ユーザー企業自身も新環境のメリットを体感できる環境を整えている。

 2つ目は、Windows 8/Windows 7導入支援サービスである。これは、Windows 8やWindows 7へ移行する際に発生する課題の解決などを富士通が支援するもので、企画から設計、構築、導入、展開支援までをトータルでサポートする。同サービスは、Windows XPのサポート期限による移行措置を想定して用意されたものではないが、これまでの実績を見てもやはりWindows XPからの移行が中心となっているのは事実だ。

 同サービスの利用実績は、2011年度で7件、2012年度には15件となるが、同社のフィールドSEがユーザーサポートの一環として移行支援を行なうケースはこの中には含まれていないため、広く捉えた移行支援実績は、これをはるかに上回ることになる。

 また、ユビキタスビジネス戦略本部では、Windows 8/Windows 7導入支援サービスをこれまでにも行なってきたが、これらの実績を元に、「Windows XP移行簡易診断」を、6月中旬にもスタートするという。ここでは、無償1Dayコンサルを展開するのが大きな特徴だ。

 これまでにも同社では、無償1Dayコンサルを実施した経緯があるが、対象を20社限定とするなど試験的な要素が強かった。だが、今回は枠を拡大し、毎月10社程度を対象に、無償でのコンサルを実施する。

 富士通の丸子マネージャーは、「サポート期間の終了まで残された時間が少ないため、無償1Dayコンサルを早く開始したいと考えています。前回の1Dayコンサルに比べて実施規模が拡大するため、体制を整えて、6月中旬にはスタートしたいです」と語る。

 1Dayコンサルは、富士通ソフトウェアテクノロジーズなどの同社グループ会社が直接ユーザー企業にコンタクトを取り、ヒアリングシートを使用して事前に状況を把握。これを元に、Windows XPから、新たなOS環境へ移行する際に、どんなリスクがあるのか、どんな課題が発生するのかといったことを検証。これまでの経験を元にして移行提案を行なうというものだ。

 移行に関して何をすべきかといった道しるべを提案してもらうことができるサービスだと言える。

中小企業およびSOHO向けには、下取りキャンペーンなどを実施

 一方、中小企業およびSOHO向けには、パートナーが主催する展示会において、Windows XPサポート終了に伴うリスクの説明と新OS移行メリットを訴求しつつ、パートナーを対象としたWindows XPリプレースキャンペーンを実施するほか、同社Web直販の「WEB MART」において、Windows XPリプレースキャンペーンを実施。Windows 8乗り換えキャンペーンでは、販売価格から5,000円引きとする特別クーポンを用意し、購入促進につなげる考えだ。

 また、WEB MARTでは、同サイトの法人窓口から、中小企業およびSOHOユーザーの相談や購入支援を行なう予定で、これも情報システム部門やIT専任者を持たない企業にとっては、有効な支援策の1つになろう。

 さらに、量販店などと取引を行なっている富士通パーソナルズ(FJP)や、中堅/中小企業向けビジネスを展開するシステムインテグレータなどと取引を行なっている富士通マーケティング(FJM)を通じたパートナー企業への告知の徹底や、販売施策の提案なども、2012年4月以降、積極化しており、これをベースに、パートナーを通じたユーザー企業への提案活動も加速していくことになるという。

 加えて、6月以降の新たな施策の1つとして、富士通の営業部門およびパートナー向け支援窓口の強化し、これまでのメールによる各種問い合せ対応から、支援窓口専用の外線および内線を設けることで、より迅速な対応と、きめ細かな問い合わせてにも体制できるようにする。「中小企業やSOHOでは、とにかく移行へのハードルを下げることが大切。気軽に相談できる体制を敷き、価格面でも支援をしていく。残された時間が少ないことを告知するとともに、新たなワークスタイルへの移行提案も同時に行なっていきたい」とする。

 すべてのユーザーを対象にした展開としては、同社サイトにおいて、Windows XPから新OSへの移行事例を公開。さらに、Windows XPサポート終了および移行促進ページを開設するほか、PC下取りキャンペーンも実施するという。

 移行事例については、同社サイトの「FM WORLD(法人)」において、2012年度に3社、2013年度に入って2社のケーススタディを紹介し、移行によるリスク回避や、新たな利用環境におけるメリットなどを訴求している。

 また、下取りキャンペーンは、富士通のPCを5台以上注文した顧客を対象に、古いPCを下取りするというもので、2007年10月発表以降のPCを対象に、ノートPCならば1台2,000円、デスクトップPCならば1台1,000円などで下取るというものだ。タブレット端末や2007年10月発表前の製品の下取り価格については個別での回答になるという。

富士通 ユビキタスビジネス戦略本部プロモーション統括部パーソナルプロモーション部・松原京介氏

 「富士通が実施するキャンペーンであることから、古いPCのデータ消去でも安心してもらえると思います。Windows搭載PCであれば、データ消去証明書も発行できます。富士通製以外のPCでも引き取りが可能で、さらにリサイクル料金が不要で、キャンペーン期間中であれば引き取り費用やデータ消去費用などが不要になります」(富士通ユビキタスビジネス戦略本部プロモーション統括部パーソナルプロモーション部・松原京介氏)という。同キャンペーンは、富士通が提携するデジタルリユースが実施することになる。

 さらに、「Windows 7移行ガイド」を通じて、Windows XPから移行する際に富士通が推奨する移行ポイントを提示。移行を検討する上での手順や対策などが分かるようにしている。今後、Windows 8への移行ガイドも用意する考えだ。

 こうした数々の展開の中で同社が最も強く訴求しているのが、単にサポート期限を迎えるから、新たなOSや新たなPCに乗り換えるのではなく、新たな環境に移行することで、ワークスタイルの変革につなげたり、さらなる効率化などにつなげるといった提案だ。

「STYLISTIC Q702/F」

 例えば、FM WORLDで紹介している移行事例においても、サークルKサンクスが、同社のハイブリッドタブレットである「STYLISTIC Q702/F」を採用し、従来のWindows XP環境からWindows 7へと移行。店舗指導を行なうスーパーバイザーの業務革新につながった事例を紹介するといったように、新環境へ移行することによるメリットを強調している。

 新環境へ移行することでの効率化についても訴求する。例えば、デスクトップPCの場合、2008年上期モデルである「FMV-D5260」から、2013年上期モデルの「ESPRIMO D582/G」に移行するだけで、約50%電力節減が可能になり、ノートPCの2008年上期モデルの「FMV-A8260」から、2013年上期モデルの「LIFEBOOK A573/G」に移行すると、約57%の電力節減が可能になるという。新製品では、ピークシフト機能やECO Sleep機能、省電力ユーティリティ機能、電源連動サービスコンセントなどの提供により、さらなる節電も可能となっている。

 また、Windows 8やWindows 7では、Windows XPに比べて、起動時間およびシャットダウン時間の高速化、大容量ファイルのコピー速度の向上、タッチをはじめとする新たなユーザーインターフェイスの採用、UACによるセキュリティ確保、Windows Live IDでログオンできることといった使い勝手の向上のほか、オフィスのPC環境を持ち歩くことができる「Windows To Go」の提供や、自宅から会社システムへの安全なアクセスを可能にする「Direct Access」を提供することによるメリットなども訴求していく考えだ。

Windows XPサポート終了に伴うリプレース促進施策

 だが、丸子マネージャーはこうも語る。「富士通の強みは、単にクライアントPCを新OSを搭載したものに入れ替えるというだけではなく、多くの移行実績を持ったフィールドSEや、窓口による対応ができるという点です。これによって、新たな利用提案、ワークスタイルの変革につなげることができます。また、クライアントPCだけでなく、サーバー、ストレージ、シンクライアント、タブレットといった各種ハードウェアによる統合提案、仮想デスクトップを活用したソリューション提案など、トータル提案ができる企業であることも他社にはないものです」と強調。「新OSへの移行を、コストをかけて入れ替えるというネガティブな観点で捉えるのではなく、新OSに入れ替えることでワークスタイルが改善し、業務効率化や、成長戦略にITを活用することができるといったポジティブな成果につながる提案をしていきたいです」と語る。

 富士通のWindows XPからの移行提案は、新たなOSを戦略的に活用するという観点で、効果を発揮するものであると言えそうだ。

(大河原 克行)