●32nmプロセスのClarkdale/Arrandaleを前倒し IntelのCPUロードマップから、Nehalem(ネハーレン)ファミリの45nmプロセス版デュアルコアCPU「Havendale(ヘイブンデール)」と「Auburndale(オーバーンデール)」が完全に姿を消した。代わって、来年(2010年)の第1四半期に、32nmプロセス版のデュアルコア「Clarkdale(クラークデール)」と「Arrandale(アランデール)」が投入されることになった。Havendale/Auburndaleは、昨年(2008年)から何度か計画が変更がされており、今年(2009年)に入ってからは32nmのClarkdale/Arrandaleと併売するといったプランも出ていたが、最終的にロードマップから消えることになった。 また、上位のパフォーマンスデスクトップCPUでは、32nmで6コアの「Gulftown(ガルフタウン)」が来年第2四半期頃に投入される。Intelにとって来年は、32nmプロセスの年となる。ただし、今年中盤に投入される、メインストリーム向けクアッドコア「Lynnfield(リンフィールド)」とモバイル向けクアッドコア「Clarksfield(クラークスフィールド)」は45nmプロセスのまま継続される。ようやく、来年までのIntelのロードマップの全容が見え始めた。
来年の第1四半期に登場する予定のClarkdale/Arrandaleは、消えたHavendale/Auburndaleとそれほど仕様は違わない。最大の違いは、製造プロセスが現在の45nmではなく、次世代の32nmであること。CPUコアも、45nmのNehalemベースから、32nmのWestmere(ウエストミア)ベースに変わった。 しかし、デュアルコアで、DDR3メモリコントローラとGPUコアとPCI Express x16を内蔵するといった基本仕様は変わっていない。Havendale/Auburndaleは、CPUのダイと、GMCH(Graphics Memory Controller Hub)のダイをパッケージに封止したMCM(Multi-Chip Module)製品だったが、これはClarkdale/Arrandaleも同様だ。サポートするチップセットも、5シリーズ(Ibexpeak)のPCH (Platform Controller Hub)で、これも変わらない。下がHavendale/Auburndaleのシステム構成図だが、Clarkdale/Arrandaleでもほとんど変わらないと推定される。
●時間がかかるNehalemアーキテクチャの浸透 Clarkdale/Arrandaleによって、Nehalemマイクロアーキテクチャは、ようやくメインストリームモバイルと、メインストリームとバリューのデスクトップにもたらされることになる。Merom/Conroe系のCore Microarchitecture(Core MA)が、65nmプロセスで3四半期ほどでバリューPCラインまで浸透したことと比べると、かなりスローペースだ。これが、モバイルとデスクトップに焦点を合わせたCore MAと、ハイエンドデスクトップとサーバーに焦点を合わせたNehalemの差だ。 もっとも、Intel CPUの歴史を振り返ると、これは通常のパターンだったことがわかる。ハイエンド向けに登場したCPUが、プロセスの微細化を経てバリューセグメントまで降りてくる。こうした「ウォーターフォール」パターンが、PC向けCPUの常だった。Core MAが例外的だったと言える。 こうした事情から、メインストリームデスクトップではCore MA系の時代が3年続くことになる。来年頭にClarkdaleが登場した後も、2011年にはCPUアーキテクチャが一新される「Sandy Bridge(サンディブリッジ)」ファミリへの切り替えが始まる。Sandy Bridge系が、メインストリームやモバイル向けの製品を迅速にリリースした場合は、Clarkdaleの寿命は比較的短いものになるだろう。 ●32nmのClarkdaleと45nmのHavendaleを併売する計画 Intelのデスクトップロードマップは、昨年後半からかなり変わった。Intelは昨年11月に、NehalemファミリのパフォーマンスデスクトップPC向けクアッドコアである「Core i7-9xx(Bloomfield:ブルームフィールド)」を発売した。元々の予定では、続けて、今年の中盤に、廉価なクアッドコアLynnfieldとデュアルコアHavendaleを投入することになっていた。しかし、昨年の9月頃にIntelは計画を変更。Lynnfieldは予定通りだが、Havendale/Auburndaleを2四半期ほど遅らせると顧客に通告した。 その後、今年に入ってから、Havendale/AuburndaleをClarkdale/Arrandaleと併売するプランが浮上した。来年の第1四半期に、まず45nmのHavendaleとAuburndaleを市場に出すが、1~3カ月遅れて32nmのClarkdale/Arrandaleも投入する。45nmと32nmの両世代は、同じSKU(Stock Keeping Unit)で、同じ製品名で市場に提供。45nm版と32nm版の比率は、市場のデマンドに応じてIntel内部で調整するという計画だった。だが、最終的にこの計画は立ち消えとなり、32nmのClarkdale/Arrandaleラインに絞ることに決定したと推測される。Intelは、顧客に対して、45nmのHavendale/Auburndaleは製品化しないことを明言しているという。 今年頭のプランでは、まず45nmのHavendale/Auburndaleを、今年第4四半期に製造開始し、来年第1四半期に間に合わせる計画だった。その時点では、32nmのClarkdale/Arrandaleは、やや後ろへずれていた。しかし、現在は、旧来のHavendale/Auburndaleのスケジュール通りに、Clarkdale/Arrandaleをリリースする計画に変わっている。32nmプロセスの製品が前倒しになった。ただし、2年サイクルのプロセス移行のセオリーからすれば、来年の早期に32nmへ移行することは当然となる。 ただし、最初のエンジニアリングサンプル(ES1)については45nmのHavendale/Auburndaleのままで、5月に予定されているES2から32nmのClarkdale/Arrandaleに変わるという。つまり、45nmのHavendale/AuburndaleのES1でプラットフォームの設計を進めてもらい、32nmのClarkdale/ArrandaleのES2でマッチさせるというプランだ。Intelは、45nm版と32nm版は、電源や熱設計といったスペック上でも、相互置き換え可能だとされている。 ●32nmプロセスの開発を完了したIntel 45nmのHavendale/Auburndaleがキャンセルになった背景については、さまざまな情報が飛び交っており、明瞭ではない。元々、Havendale/Auburndaleについては、熱設計を容易にするためのパッケージ内での2個のダイの配置など、さまざまな面で懸案があった。また、当初の予定より2四半期遅れたことで、32nm世代とほとんど時間差がなくなってしまった。複数の理由が考えられるが、確実な情報はない。 しかし、併売プランが32nmのClarkdale/Arrandale一本へと絞られた意味は明瞭だ。それは、Intelが、32nmプロセスの立ち上げ時の製造キャパシティで、充分にClarkdale/Arrandaleを供給できると判断したことだ。32nmのClarkdale/Arrandaleと45nmのHavendale/Auburndaleを併売する計画だった時点では、32nm製品だけでは十分な量を供給できないと見ていたと推測される。しかし、現在のプランでは32nmの供給能力に自信を持っているように見える。 実際、Intelはここに来てIEDM 2008などのカンファレンスで、32nmプロセスの概要を明かしつつある。Intelで初めて液浸ArFリソグラフィを導入したプロセスで、改良を加えた第2世代のHigh-k&メタルゲートを採用していると発表されている。Intelは、32nmプロセスの開発を完了したことで、1年後に量産へ移行させる目処をつけたと推測される。 また、Nehalemファミリは、異なるダイの製品に分断されているため、32nmへの移行は段階的になる。現在のCPUラインナップでは、ハイエンドのBloomfieldは、来年の第2四半期に32nmのGulftownに移行する。しかし、この市場セグメントは出荷量が少ない。メインストリームのクアッドコアLynnfield系は、当面は45nmのままだ。そして、ローエンドは45nmのCore 2系CPU群で占められている。そのため、32nmのClarkdaleの占める割合はそれほど巨大にはならないだろう。 近年の世界的な経済危機も、32nmプロセスへの移行という面では有利に働く。PCの出荷が伸びなければ、Intel CPUの需要も伸びない。低水準のCPU出荷個数の中で、32nmの比率を高めることは、相対的に容易となる。 ちなみに、Clarkdale/ArrandaleではCPUダイは45nmから32nmに変わるが、GMCHダイは45nmのままだ。Havendale/Auburndaleの時からGMCHは45nmだったため、GMCH側のダイはそのままClarkdale/Arrandaleに継承されていると推定される。クアッドコアのNehalem系と異なり、デュアルコアのNehalemはGMCHダイにDRAMコントローラも内蔵されている。上位のGulftownはDDR3-1333サポートが明記されていないが、Clarkdale/ArrandaleはDDR3-1333サポートが明記されている。これは、メインメモリをシェアするグラフィックスコアの性能を引き出すためだと推定される。 ●ヘキサコアのGulftownが来年中盤に登場 Clarkdaleに続いて投入される32nm CPUのGulftownのスペックは、以前、Westmereとして伝えられてたものとほとんど変わらない。WestmereがCPUコアアーキテクチャのコードネームで、GulftownがWestmereベースのデスクトップ製品のコードネームだ。CPUコアは、Bloomfieldの4個から、6個へと増えた「ヘキサコア(Hexa-core)」となる。Hyper-Threadingにより、最大スレッド同時実行数は12スレッドへと増える。明らかにデスクトップよりサーバーの方が利点が大きいCPU仕様だ。
ソケットはBloomfieldと同じLGA1366で、X58(Tylersburg-DT:タイラスバーグ)チップセットのプラットフォームを継承する。共有L3キャッシュも12MBへと1.5倍になるが、L2キャッシュは各コア256KBずつに留まると推定される(L2レイテンシを一定以下に保つため)。 以前の説明では、Westmereでは、Nehalem世代からマイクロアーキテクチャは大きく変更しないとされていた。命令セットの拡張としては、暗号化アクセラレーションを支援する新命令「AES-NI」が加わることが明らかにされている。また、バーチャルマシン切り替えをより高速化する。 TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)は現在のBloomfieldと同じ130W。サンプル開始は今年の第3四半期頃で、生産が始まるのは来年の第2四半期。リリース時期は来年の中盤になると推定される。 ローエンドの「Nettop」セグメントでは、Intelは第2世代のAtom系CPU「Pineview(パインビュー)」が投入される。Pineviewは、現在のAtom(Silverthorne:シルバーソーン)と同じ45nmプロセスだが、構成が異なる。CPUコアとノースブリッジ(MCH)コアおよびGPUコアを統合する「CPGMCH」となる。Clarkdale/Arrandaleとコンセプトは同じだが、MCMではなく、単一ダイのネイティブ統合となっている。つまり、1個のチップのダイに、CPUとGPUコア、ノースブリッジ機能が全て統合されている。統合化によって、CPUとチップセット合わせたトータルのTDPは50%削減されるという。 Pineviewでもデュアルコア版が投入される。デュアルコアのPineview DCは、2個のCPUコアがダイに統合されたネイティブデュアルコアになると言われている。現在の計画では、まずデュアルコアを今年の第4四半期にリリース。続いて来年の第1四半期にシングルコアが投入される予定となっている。Pineviewが対応するチップセットは「Tiger Point(タイガーポイント) PCH (Platform Controller Hub)」となる。プラットフォームは「Pine Trail-D(パイントレイルD)」と名付けられている。
□関連記事 (2009年2月6日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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