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クアッドコアに力を入れる2010年までの
IntelモバイルCPUロードマップ




●ようやくNehalemが浸透する2010年のモバイルCPU

 Intelの新しいロードマップでは、モバイルCPUも今年(2009年)中盤から来年(2010年)にかけて、Nehalem(ネハーレン)系マイクロアーキテクチャへ切り替わることが明瞭になった。今年の第3四半期の後半にクアッドコアの「Clarksfield(クラークスフィールド)」を、来年の第1四半期にデュアルコアにGPUを統合した「Arrandale(アランデール)」を投入する。これをもって、パフォーマンスとメインストリームの両ラインは、Nehalemへと切り替わることになる。また、LV(低電圧)版とULV(超低電圧)にも、来年第1四半期にArrandaleを投入する。

 また、それと同時にIntelはクアッドコアノートCPUと、デュアルコアノートCPUへの二極化を進める。クアッドコアをパフォーマンスラインに位置づけ、その一方でデュアルコアをTDPとパフォーマンスのバランスを取ったパワーオプティマイズドラインと位置づける。TDP的にはクアッドコアがCPUとノースブリッジ(MCH)合わせて40W台から50W台のライン、デュアルコアが35W前後から下のラインへと分化すると推測される。Nehalem系のTDPは、ノースブリッジ(MCH/GMCH)部分を含むため、Intelは従来のCPUのTDPに約10W程度をプラスした数値を設定している。また、デュアルコアは、パフォーマンスノートPCだけでなくバリューノートPCにも浸透させる。

 2010年のロードマップが見えてきたことで、IntelのモバイルCPUのマイクロアーキテクチャ移行の全体像も見えてきた。Nehalem系がモバイルに入ることは、モバイルCPUにとって大きな意味を持つ。それは、6年振りにデスクトップ向けとして開発されたCPUアーキテクチャが、モバイルに入ってくることを意味するからだ。

モバイルCPU比較
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モバイルCPUのロードマップ
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●32nmプロセスのArrandaleを前倒しで投入

 IntelのモバイルCPUの戦略は、基本的には昨秋から大きく変わっていない。最大の違いは、2010年頭に投入するNehalemアーキテクチャのメインストリーム向けデュアルコアCPUが、45nmプロセスの「Auburndale(オーバーンデール)」から32nmプロセスの「Arrandale(アランデール)」に変わったことだ。これは、デスクトップでのロードマップ変更と同期している。デスクトップでも、同様にデュアルコアが45nmの「Havendale(ヘイブンデール)」から32nmの「Clarkdale(クラークデール)」に切り替わった。

 Intelは1カ月前の段階では、デュアルコアについては45nm版と32nm版を併売する戦略を考えていた。つまり、AuburndaleとArrandale、HavendaleとClarkdaleを同じブランドで、同一SKU(Stock Keeping Unit=アイテム)として販売することを検討していた。これは、32nmの方が望ましいが、立ち上がったばかりの32nmプロセスでは充分な製造量を確保できないと危惧していたためだと推定される。Intel社内的にも、できればコアは一種類に絞りたいはずで、生産量さえ確保できれば32nmへ移行したかったと思われる。

 逆を言えば、今回のロードマップで、32nmのArrandaleに絞られたことは、32nmプロセスへの移行のメドが立ち始めたことを意味する。現在の製造プロセスは、毎世代毎に大きな技術革新が加わるため、綱渡り的で、立ち上げがうまく行くかどうか読みにくい。例えば、Intelの32nmでは液浸リソグラフィ技術が導入される(AMDは45nmで導入)。Intelは、32nmプロセスの開発が完了したことをアナウンスしている。

 Arrandaleは元々Auburndaleよりやや遅れて提供される予定だったが、現在は前倒しされる計画となっている。これは、Intelの32nmプロセスCPU自体が前倒しになったことを意味する。

●Nehalem世代では2ダイのMCMでGPUコア統合

Lynnfieldのウェハ

 モバイル初のNehalem系であるClarksfieldは、クアッドコアにDDR3コントローラとPCI Express Gen2をネイティブで内蔵する。PCI Expressデバイスを直に接続できる代わりに、上位のNehalem系が備える、高速インターコネクト「QuickPath Interconnect(QPI)」は備えない。チップセットとは、DMIインターフェイスで結ぶ。

 対応チップセットは「PCH(Platform Controller Hub)」である5シリーズ(Ibexpeak)。システム構成は、CPUとPCHの2チップソリューションとなる。こうした特徴は、デスクトップのメインストリーム向けクアッドコア「Lynnfield(リンフィールド)」と同様だ。

 キャンセルになった45nmのAuburndaleは、デスクトップ向けの45nm GPU統合デュアルコア「Havendale(ヘイブンデール)」のモバイル版だった。MCM(Multi-Chip Module)によってCPUのダイ(半導体本体)とGMCH(Graphics Memory Controller Hub)ダイを統合している。こうした特徴は、Arrandaleにも引き継がれている。ArrandaleはAuburndaleを32nmに移行させた製品と言ってよさそうだ。下の図はAuburndaleだが、Arrandaleでも基本は変わらないと見られる。また、ArrandaleのGMCHは45nm品であり、AuburndaleのGMCHと同等だと思われる。

 Intelのロードマップには、現在、Clarksfieldの後継となる32nmのクアッドコア製品が見あたらない。そのため、2010年のノートPCは、プロセス技術的に見ると、クアッドコアが45nm、デュアルコアが32nmという区分けとなる。ダイサイズ(半導体本体の面積)が大きなクアッドコアが、ダイが大きくなる45nmプロセスで、ダイサイズが小さいデュアルコアが、ダイがより小さくなる32nmプロセスという皮肉な構成だ。

Nehalemファミリの内部構成
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HeavendaleとAuburndaleのアーキテクチャ
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●クアッドコアとデュアルコアの区分が明確に

 Intelのモバイルロードマップで、昨秋までとの大きな違いはクアッドコアCPUの位置づけだ。Intelは現在、モバイルのクアッドコアを高パフォーマンスとして、やや特殊な位置づけにしている。そして、パフォーマンスクアッドコアCPU製品とオーバーラップする価格帯で、パフォーマンスデュアルコアCPU製品を販売している。35WまでのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)ならデュアルコアで、45W TDP以上ならクアッドコアという棲み分けだ。

 Intelは昨年の暮れまで、この製品カテゴリ区分を、Nehalem系のClarksfield以降も継続する計画だった。しかし、今年頭に計画を変更、Clarksfieldの導入以降は、パフォーマンスデュアルコアCPUの製品ラインを終息させる方向へ向かうことにした。従来の35W TDPで高パフォーマンスのデュアルコアCPUはなくなる。IntelのCPUには、Processor Numberにパワークラス(電力階層)を表すプリフィックスがついている。「T」のプリフィックスの35W TDPクラスのCore 2 Duo Txxxx系が消えることになる。Arrandaleは、「P」プリフィックスの25W TDPクラスのCore 2 Duo Pxxxx系の後継と位置づけられている。そのため、GMCH分の10Wをプラスして35W TDPラインで提供されると考えられる。先週アップした図は、この部分が間違えていたため、今回のロードマップ図では修正してある。

●CPU設計思想の変化を象徴する製品戦略

 この製品戦略の結果、クアッドコアとデュアルコアの価格上のオーバーラップがほぼなくなり、両タイプのCPUの区分が明確になった。つまり、パフォーマンスが欲しいなら高価格のクアッドコアノートPCを、パフォーマンスと消費電力のバランスが欲しいなら低〜中価格のデュアルコアと、切り分けたことになる。もっと明確に言えば、高級ノートPCを作るならデュアルコアではなくクアッドコアを載せろというIntelのメッセージだ。クアッドコアをパフォーマンスノートPCに本気で普及させるつもりがあることがわかる。

 具体的には、Nehalemアーキテクチャ世代では、モバイルクアッドコアClarksfieldは300ドル台から1,000ドル前後をカバー、TDP的には50W台とおそらく40W台をカバーすると推測される。一方、モバイルデュアルコアArrandaleは300ドル台から下をカバー。TDP的には35W前後のライン(従来のCPUのTDPなら25Wに相当)から下をカバーすると見られる。Intelは、以前はNehalem世代のモバイルデュアルコアCPUで、高TDPかつ高クロックの製品計画を持っていた。現在はそれはなくなっていると考えられる。

 この戦略の変更は、CPU設計市場の上の重要な変化を示唆している。Intelが「高クロックのデュアルコア」より「低クロックのクアッドコア」の方が、ノートPCに適していると判断したことを意味しているからだ。つまり、シングルスレッドのパフォーマンスを追求するより、マルチスレッドパフォーマンスだとシフトしたわけだ。より正確に言えば、Intelはシングルスレッド性能のニーズはモバイルでは飽和したと、判断したと考えられる。

 デスクトップでかつて通った道をモバイルも辿っている。また、パフォーマンスラインのノートPCのユーセージでは、マルチスレッドの負荷の高いアプリケーションが主流になると見ていることになる。このことは、今後のIntelのノートPC向けCPUの方向性を示していると考えられる。2011年の「Sandy Bridge」世代には、マルチコア化がより促進される可能性が高い。

 ただし、Nehalem以降は「Turbo Mode」の強化によって、ビジー状態のコアにスリープ状態に入ったコアのTDP余裕分を振り分けて、高クロック駆動できるようにする。このメカニズムは、CPUコア数が増えれば増えるほど有利となる。将来のIntel CPUは、ターボをもっとさまざまな局面で利用できるようにする。そのため、シングルスレッド性能はターボで稼ぐことを考えているのかもしれない。

●イスラエルと米国の開発チームのIntel内部でのレース

 Nehalem系がノートPC市場に入ることは、Intel社内の政治の面でも象徴的だ。それは、Nehalemが、Digital Enterprise Groupに属する米オレゴン州ヒルズボロ(Hillsboro)の開発センターで開発されたからだ。Nehalemは、パフォーマンスデスクトップとサーバー向けのハイエンドクアッドコア版から投入されたことでもわかる通り、デスクトップ&サーバーフォーカスの色彩が強い。それが、デスクトップから3四半期遅れでノートPCにも入ってくる。

 かつて、IntelのモバイルCPUは、デスクトップCPUの流用だった。デスクトップ&サーバー向けに開発されたCPUが、1〜2世代後にノートPCに転用され、浸透する「ウォータフォール」パターンだった。しかし、Intelは2003年のPentium M(Banias:バニアス)から戦略を転換。モバイルにはモバイル専用のCPUを開発することにした。

 その開発を担当したのは、Mobility Groupに属するイスラエルのハイファ(Haifa)の開発センターだ。同チームはBanias、Yonah(ヨナ)と、モバイル向けマイクロアーキテクチャを開発。ヒルズボロで開発されていたデスクトップCPU群がキャンセルになったことで、Core 2(Merom:メロン)からはモバイルだけでなく、デスクトップ&サーバーにもCPUアーキテクチャを提供することになった。

 こうした経緯から、2003年以降、これまで6年以上の間、ノートPC向けCPUは、ハイファチームの開発したCPUで占められてきた。デスクトップチームが開発した最後のノートPC向けCPUは「Pentium 4-M(Northwood:ノースウッド)」だった。ClarksfieldとArrandaleは、それ以来、久々のオレゴン設計のノートPC向けCPUとなる。今後は、ヒルズボロとハイファが交互に、モバイルからサーバーまでカバーするCPUを開発することになっている。

 しかし、2011年には、ハイファチームが開発したCPUマイクロアーキテクチャ「Sandy Bridge(サンディブリッジ)」が登場する。ハイファが開発するSandy Bridgeファミリは、おそらく、最初からモバイル向けも投入されると見られる。だとすれば、オレゴンヒルズボロのサイクルは比較的短いものになる。

モバイルCPUのアーキテクチャ移行
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 この他、ロードマップでは、IntelはAMDの低消費電力&低価格の「Yukon(ユーコン)」に対抗するため、「Consumer ULV(C-ULV)」を打ち出してきたことも象徴的だ。AMD対抗だけでなく、Atomベースの「ネットブック」と通常のノートPCの間を価格とサイズで埋めることで、ネットブックの浸食に歯止めをかける意図も持っている。

デスクトップCPUの比較
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□関連記事
【2月6日】Havendale/Auburndaleキャンセル後のIntelロードマップ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0206/kaigai488.htm
【2月6日】【笠原】45nmデュアルコアNehalemをキャンセルし、32nmを加速するIntel
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0206/ubiq245.htm
【2008年9月18日】【笠原】Intelが普及版Nehalemの量産を2010年Q1に延期
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0918/ubiq227.htm
【2007年11月28日】【海外】IntelのGPU統合CPU「Havendale/Auburndale」とは何か
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1128/kaigai403.htm

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(2009年2月10日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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