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ET2008レポート【マイコン編】
「夢のマイコン」FRAMマイコンがようやく登場

ET2008

会期:11月19~21日

会場:パシフィコ横浜

入場料:1,000円(事前登録者は無料)



 組み込み機器の開発技術に関する総合展示会「ET2008(Embedded Technology 2008/組込み総合技術展)」のレポートを引き続きお届けしよう。最終回は、組み込み用マイクロコントローラ(マイコン)を主に取り上げる。

 マイコンで花盛りなのがフラッシュマイコンである。内蔵ROMにフラッシュメモリを採用したマイコンだ。ROM領域の内容を電気的に書き換えられるので、マイコン・プログラムを比較的容易に修正できる。電源を切ってもフラッシュメモリの内容は保存されているので、プログラムを外付けの不揮発性メモリまたは外部記憶モジュールに保存しておく手間が要らない。組み込み機器の多くが現在では、ソフトウエア開発作業はもちろんのこと、実機にもフラッシュマイコンを搭載するようになってきた。

 ただしフラッシュマイコンの内蔵フラッシュメモリは、読み出し動作はDRAMおよびSRAMに近い高速性を有するものの、書き換え動作が遅い。プログラムの修正や更新などの、時間に余裕のある作業では書き換え動作の遅さはそれほど問題にならないものの、組み込み機器でリアルタイム処理をするときのワーク領域には、フラッシュメモリは利用できない。マイコンが内蔵したRAM(SRAM)をワーク領域に使うのが普通である。RAM領域の内容は電源を切ると消えてしまうので、残しておきたいデータを外付けのEEPROMに退避する作業が必要になる。

 これに対してFRAM(Ferroelectric RAM)を内蔵したマイコンが、FRAMマイコンである。FRAMは強誘電体不揮発性メモリとも呼ばれ、強誘電体の分極(電気的な偏り)の向きを論理レベルの高あるいは低に利用する。分極が電源を切っても消えないことと、分極に要する時間がきわめて短いことから、フラッシュメモリよりも高速の不揮発性メモリとして、単体メモリがすでに商品化されている。米Ramtron Internationalや富士通マイクロエレクトロニクスなどが、最大2M/4MbitのFRAMを製品化済みである。

 FRAMの強みは、書き込みに要する時間がフラッシュメモリに比べるとはるかに短いことだ。書き換えサイクル時間は70ns~100nsとフラッシュメモリの数百分~数千分の1しかない。そのFRAMを内蔵したマイコン「FRAMマイコン」を富士通マイクロエレクトロニクスは以前から開発してきた。そしてET2008で、初めての製品版である8bit FRAMマイコン「MB95R203」の量産を2009年第1四半期に始めると表明した。内蔵FRAMの容量は8KB。この8KBは、ROM領域にもRAM領域にも利用できる。すなわち、プログラム領域、データ領域、ワーク領域のどれにでも割り当てられる。動作中に電源を切っても、各領域の記憶内容を退避させる必要がない。非常に便利なマイコンである。

 FRAMマイコン「MB95R203」の電源電圧は3.0~3.6V。動作周波数は最大3.3MHz。10bit A/D変換器やI2Cポート、UART/SIOポート、リアルタイム・クロック、ウオッチドッグ・タイマなどを内蔵する。基本的な仕様はごく普通の8bitマイコンである。

 FRAM部の動作は3クロック・アクセスである。通常のRAMと違うのは、寿命があることだ。保証寿命はCPUクロックが0.5MHzのときに3年となっている(温度25℃、電源電圧3.3V)。これはFRAMが書き込み動作だけでなく、読み出し動作でも繰り返しによって劣化の可能性があることによる。0.5MHzクロックだとその3分の1の頻度でアクセスしたと仮定し、連続してアクセスした場合に3年の寿命とすると、0.5×100万回/3×60(秒)×60(分)×24(時間)×365(日)×3(年)で約1.5×10の13乗回、すなわち約15兆回のアクセス回数になる。

 この寿命の存在をどのように考えるかだが、3年間ずっと連続して絶え間なくFRAMに読み出しアクセスするような使い方は、非常にまれだと想定する。実用的には5年~10年の寿命があると考えて良いだろう。

FRAMマイコンの展示パネル。初めてのFRAMマイコン「MB95R203」は8bitマイコンで、富士通マイクロエレクトロニクスの8bitマイコン「MB95200シリーズ」とピン互換になっている。今後は内蔵FRAMの容量を16KBに増やすとともに、電源電圧を1.6~2.0Vに下げた8bit FRAMマイコンを開発する計画。同社のブースで撮影 FRAMマイコンの動作デモを説明したパネル。左は2007年に開発した評価用FRAMマイコン「MB95RV100」を使ったリバーシゲーム。右は今回開発した「MB95R203」を使ったLED表示カウンタ。富士通マイクロエレクトロニクスのブースで撮影
LED表示カウンタのデモ・ボード(上)と「MB95RV100」の実物サンプル(下)。カウンタに表示した数字が、マイコンの電源を切っても消えないことを示していた。富士通マイクロエレクトロニクスのブースで撮影 リバーシゲームのデモ。ゲームの途中に電源を切っても、コマの配置データが消えずに残る。再び電源を入れると、以前のコマ配置が表示される。富士通マイクロエレクトロニクスのブースで撮影

●ARM Cortex-M3コアの最新版を内蔵した汎用マイコン

 NXPセミコンダクターズジャパンは、ARMコアを内蔵した32bitマイコンをいくつか展示していた。ARM968コアを内蔵した動作周波数128MHzの高速フラッシュマイコン「LPC292x/3x」シリーズ、ARM926EJ-Sコアを内蔵した動作周波数180MHzのROMレスマイコン「LPC313x」シリーズ、Cortex-M3コアを内蔵したフラッシュマイコン「LPC176x/5x」シリーズである。なかでも「LPC176x/5x」シリーズは、バグ取りなどの改良を加えた最新版「Cortex-M3(Revision2)」コアを内蔵していることをアピールしていた。

ARM968コア内蔵のフラッシュマイコン「LPC292x/3x」シリーズの展示パネル。NXPセミコンダクターズジャパンのブースで撮影 「LPC292x」シリーズによるモーター制御のデモ。NXPセミコンダクターズジャパンのブースで撮影
ARM926EJ-Sコア内蔵のROMレスマイコン「LPC313x」シリーズの展示パネル。NXPセミコンダクターズジャパンのブースで撮影 「LPC313x」シリーズで組み込み用Windows OSのWindows Embedded CEを動作させたデモ。NXPセミコンダクターズジャパンのブースで撮影 Cortex-M3コア内蔵フラッシュマイコン「LPC176x/5x」シリーズの展示パネル。NXPセミコンダクターズジャパンのブースで撮影

●組み込みグラフィックスの標準コア「PowerVR」

 前回のET2008レポートでも述べたように、組み込み機器でも最近は、3次元グラフィックス処理機能や動画圧縮伸長機能などが求められるようになっている。このためマイコンやチップセットなどがハードウエアアクセラレータをIPコアとして内蔵することが珍しくなくなってきた。ただし、組み込み用途ではシリコン回路面積と消費電力の制約が非常に厳しく、IPコアの開発は容易ではない。

 そのような状況でシェアを伸ばしてきたのが、英Imagination TechnologiesのグラフィックスIPコア「PowerVR」である。PowerVRにはOpenGL ES 1.1に対応したアクセラレータの「PowerVR MBX」ファミリ、OpenGL ES 2.xに対応した「PowerVR SGX」ファミリ、標準ビデオ(SDビデオ)と高品位ビデオ(HDビデオ)の両方に対応した動画デコードIP「PowerVR VXD」ファミリおよび動画エンコードIP「PowerVR VXE」ファミリがある。

 Imagination Technologiesの日本法人であるイマジネーションテクノロジーズは19日に記者会見を開催し、IPコアの開発状況を説明するとともに、ET2008に出展してIPコアの採用事例を披露した。この4月にImaginationは、Centrino AtomにPowerVR SGXとPowerVR VXDが採用されたと公表済みである。Atomプロセッサのチップセット「SCH US15W」には、「PowerVR SGX535」と「PowerVR VXD370」が採用されている。

イマジネーションテクノロジーズの代表取締役社長を務める松江繁樹氏。記者会見で「PowerVR MBX」は累積出荷実績が1億個を超えたと述べていた PowerVR SGXおよびPowerVR VXDの採用事例。シャープのCentrino Atom搭載MID(Mobile Internet Device)。イマジネーションテクノロジーズのブースで撮影
PowerVR SGXの採用事例。IntelのSoC「CE3100」搭載STBプラットフォーム。イマジネーションテクノロジーズのブースで撮影 PowerVR SGXの説明パネル。イマジネーションテクノロジーズのブースで撮影 PowerVR VXDの説明パネル。イマジネーションテクノロジーズのブースで撮影

●書き換え寿命を伸ばしたSSDなど

 このほかマイコン関連以外に、ET2008で興味を引いた展示物をご紹介しよう。

 日立超LSIシステムズは、書き換え寿命を伸ばしたSSD(Solid State Drive)を出品していた。RAMキャッシュを内蔵しており、フラッシュメモリに書き込む回数を大幅に減らすことで寿命を従来製品の100倍に伸ばしたという。産業用機器での使用を想定しており、電源の遮断を検知してRAMキャッシュのデータをフラッシュメモリに書き込む機能を備える。

 NECは、短距離無線通信規格「ZigBee Pro」に対応した無線モジュールを参考出品した。無線モジュールの電源を入れたり切ったりすることで、ZigBeeネットワークに自動的に加入したり退出したりする様子を披露していた。

 セイコーエプソンは、人間の音声を取り込んで感情を認識する技術をAGIと共同で開発し、来場者の音声を「喜び」、「怒り」、「悲しみ」、「平常」、「興奮」に分類して50段階で表示するシステムを参考出展した。

 オムロンは、人間の顔をカメラで認識して性別と年齢を推定する技術を開発し、鉄道の自動券売機を模したシステムに組み込んで出品した。

RAMキャッシュによって書き換え寿命を伸ばしたSSDの説明展示。ホスト側がSSDに対して735回の書き換えを実施したとき、フラッシュメモリには7回しか書き込まれていない。日立超LSIシステムズのブースで撮影 ZigBee Proに対応した無線モジュール。実際に動作させていた。ノートPCに装着したUSBドングルがZigBeeネットワークのコーディネイタとなり、テーブルに並べた4個の無線モジュールの中で2個がルーター、残り2個がエンドデバイスとして動作する。NECのブースで撮影
人間の音声を取り込んで感情を認識するシステム。発話者の感情を検出し、表示する。記者が試したところ「怒り」ばかりが出てきて少し困った。ブースの担当者によると、展示会場のような雑音の多いところでは、否定的な感情を検出しやすいそうだ。セイコーエプソンのブースで撮影 人間の顔をカメラで認識して性別と年齢を推定するシステム。インテル・ブース内のオムロンのミニブースで撮影 記者が実際に試したところ。顔を認識すると男性は青色、女性は赤色のフレームが顔の周囲に登場し、フレーム内に「30才±5才」と推定年齢を表示する。推定年齢はかなり的中するので、ちょっと驚いた。インテル・ブース内のオムロンのミニブースで撮影

 なおET2008の来場登録者数は26,892名であり、前年(2007年)の26,643名をわずかに上回った。2009年のEmbedded Tecnnology(ET2009)は2009年11月18~20日に開催の予定である。来年はどのような技術や製品が展示するのか。今から楽しみだ。

□ET2008のホームページ
http://www.jasa.or.jp/et/
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0719/nxp.htm
【2006年10月13日】【FMPF2006】OpenGL ES 2.0とともにPowerVR SGX登場
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(2008年11月27日)

[Reported by 福田 昭]

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