MSIのAtom搭載ミニPC「WIND PC」速報レビュー
発売日:未定 価格:未定 IntelがMID(Mobile Internet Device)向けプロセッサ「Atom」を4月に正式発表し、その約2週間後には、国内でウィルコムが世界初のAtom搭載通信端末「WILLCOM D4」を発表した。 つい先週開催された組込みシステム開発技術展では、その多くは組込み向けだが、多数のメーカーがAtom搭載製品を展示。6月には台湾でCOMPUTEXが開催されるので、そのタイミングでは、おそらく台湾の各ベンダーも搭載機を発表ないし、披露してくるものと思われる。 そんな中、MSIが現在開発中のAtom搭載ミニPC「WIND PC」の試作機を、短期間ながら評価する機会を得た。簡単にではあるが、その性能などについて紹介したい。
一口にAtomといっても、その製品ラインナップには「Silverthorne」と呼ばれる携帯端末機向けのものと、「Diamondville」と呼ばれるミニPC向けの2種類がある。基本的な仕様は共通だが、Diamondvilleでは深いレベルのCステートが省略され、TDPも4Wと、最大2WとされるSilverthorneより高いが、価格は安い。 また、Silverthorneが「システム・コントロール・ハブ」と呼ばれる1チップの専用チップセットを採用するのに対し、Diamondvilleは2チップ構成の「Intel 945G」シリーズを流用しているといった違いがある。 今回評価したWIND PCはDiamondvilleを搭載した製品だ。容積4.7Lという小型の筐体を採用しているが、従来のミニPCと比べ、劇的にサイズが小さいと言うことはない。それは、本製品が一般的なデスクトップ向けの光学ドライブと3.5インチHDDを採用しているからだ。 本機は横に並べるように光学ドライブとHDDを配置しており、側板を外して中を見てみると分かる通り、本体の横幅はほとんど光学ドライブとHDDの幅の合計そのままとなっている。 一方、マザーボードは筐体側板の半分程度の面積しかない。本製品の電源はACアダプタとなっているので、筐体の中はおどろくほどがらんとしている。そのため、薄型の光学ドライブや2.5インチHDDなどを使えば、容易にもっと小型化できるはずだ。 MSIが敢えてそうしなかったのは、汎用的パーツを使うことで価格を下げるためだろう。本製品の価格は未定だが、かなり安価に設定されるのではと思われる。 なお、製品版では面版のデザインは変更されることになっている。また、評価機は光学ドライブ、HDD、メモリ、OS(Linux)が搭載された完成品の形となっていたが、完成品PCとして発売するか、ベアボーンとするかは決まっていない。国内での発売は6月下旬から7月上旬を目処としている。 マザーボードを見ると分かる通り、ファンは一切なく、CPUにもチップセット用とほぼ同じサイズの小さなヒートシンクが載っているだけだ。いかにAtomの発熱量が小さいかが分かる。ケース内には1つ排熱用のファンがある。 メモリスロットはSO-DIMM×1。基板両横に筐体前面と背面のI/O用のUSB、ミニD-Sub15ピン、Ethernet、音声入出力、カードリーダといった端子類が並ぶ。拡張スロットは一切ない。基板上にはCFスロットとMini PCI Expressスロットもあるが、本製品では利用されていない。いずれも筐体の外からはアクセスできないが、これらを利用した機能拡張は不可能ではない。
●ベンチマーク それでは、本製品の性能を見てみるが、今回は諸事情により比較機を用意できていない。過去のレビューで扱った製品の結果を併載しておくが、CPU以外の点でも仕様が大きく異なるので、目安程度の参考値としてとらえて欲しい。また、HDDは編集部で別途用意したものにWindows Vistaをインストールしているほか、評価機のCPUクロックは1.33GHzだが、製品版では1.6GHzとなるので、製品のCPU性能は評価機よりも幾分向上することをご留意いただきたい。評価機の主な仕様はAtom 1.33GHz、DDR2-667 1GB、Intel 945GC Express+ICH7Rチップセット(ビデオ機能内蔵)。 【お詫びと訂正】初出時に、メモリをDDR2-333としておりましたが、DDR2-667の誤りです。お詫びして訂正させていただきます。 チップセットが古いこともあり、Windows Vista(SP1)をインストールすると、NICを除いてボックスドライバで動作する。HDDが付属品ではないため、参考程度だがVistaのインストールは25分程度で終了。CPUがボトルネックになってOSのインストールに時間がかかると言うことは感じられなかった。 CPU-Zで見てみると、L1キャッシュはデータ24KB+命令32KBで、L2キャッシュは512KB、FSBは533MHzとなっている。CPUの型番はAtom Z520と表示される。デバイスマネージャからも分かる通り、HyperThreadingテクノロジーにより、OSからは2つのCPUコアが認識される。
まずはデスクトップCPUとの比較だ。対象には多和田氏のレビューで使用したCore 2 Duo E7200(DDR2-800 2GB/Intel P35 Expressチップセット/GeForce 8800 GTX)を選んだ。実行したベンチマークは、Sandra XII(一部)、PCMark05(CPU Testのみ)、PCMark Vantage。 結果を見ると、Diamondvilleがいかにデスクトップも対象にしているとは言え、クロックもマイクロアーキテクチャも大きく異なるため、大きく水を空けられている。 【Core 2 Duo E7200との比較】
続いて、平澤氏がレビューしたASUSTeKのEee PC、およびVAIO type T VGN-TZ90Sと比較してみた。Eee PCについては次期モデルで、Atom(Silverthorne)を搭載すると噂されており、現行のCeleron Mとの比較が気になるところだ。実行したベンチマークは、PCMark05、HDBENCH(CPUとMEMORYのみ)、Windowsエクスペリエンスインデックス、FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3の4つ。 PCMark05のCPU性能を見ると、Core 2 Duoにはやはり大きく引き離され、Celeron M 353 900MHzにも負ける。ただし、このAtomが1.6GHzであったら、計算上はCeleron M 353 900MHzに肉薄する結果となる。一方、HDBENCHを見ると、整数/浮動小数点とも、演算性能はAtomの方が高い。 FINAL FANTASYの結果は、クロックが上がって、OSがWindows XPなら、Eee PC 900に近いスコアも望めるが、いずれにせよ、ゲームを快適にプレイするレベルからほど遠いので、3Dゲームには向かない。 前述の通り、今回の比較環境はプラットフォームなどが相当に異なっているので、これらの数値がAtom対従来CPUの純粋な比較ではないことを再度断わっておく。 【ノートPCとの比較】
このほか、ベンチマークではないが、いくつか動画の再生を行なってみた。ニコニコ動画のFlashビデオは問題なく再生可能だが、H.264や720pのWMVでは若干ながらコマ落ちが発生した。さすがに1080pのWMVは試聴に耐えないほどコマ落ちしたが、一般的な動画であれば支障なく再生できると考えていい。 フルHDの地上デジタル放送の再生も試したかったが、本製品はディスプレイ出力がD-Sub15ピンのみのため、SD画質でしか再生/録画できないため、今回は見送った。 ワットチェッカーによる消費電力は、WIND PCが低負荷時で30W程度、高負荷時で35W程度、Eee PC 4G-Xが常に15W程度、手持ちのVAIO type SZ VGN-SZ90PS(Core Duo T2400、Intel 945GM Expressチップセット、GeForce Go 7400)が低負荷時で30W程度、高負荷時で60W程度だった。デスクトップPCとしてはかなり低い値で、Silverthorne搭載の携帯端末ならこれよりもさらに低くなる。 ●総評 WIND PCの総合的な性能としては、ドキュメント作成程度のビジネス用途、Webブラウジング、各種ネットサービスの利用といったあたりでは十分な性能を発揮できると思われる。低消費電力や低騒音もウリなので、自宅Webサーバーなどにも好適だろう。検証中は、主に1,920×1,200ドットの環境で操作していたが、通常の操作でストレスを感じることはなかった。 Silverthorneについてはどうか? これは完全な推測になってしまうが、同クロックでの性能はCeleron Mに劣るが、高クロック版であれば、総合的には従来のローコストサブノートと同等以上の性能を期待できるし、バッテリ駆動時間も延びるだろう。 Atomには価格、消費電力、設置面積の小ささといった点で、従来のx86プロセッサにはない魅力がある。今後、各社から多様な種類/用途の製品が出てくることを期待して待ちたい。 □MSIのホームページ(英文) (2008年5月19日) [Reported by wakasugi@impress.co.jp]
【PC Watchホームページ】
|