ソニーの「VAIO type T VGN-TZ90S」(以下VGN-TZ90S)は、11.1型ワイド液晶を搭載したモバイルノートPCだ。VGN-TZ90Sは、春に登場したVAIO type T VGN-TX93Sの後継製品となるが、外見も中身も大きく進化している。 今回登場した新type Tは、VAIO 10周年記念モデルとして設計された製品であり、これまでソニーが培ってきた技術を惜しげもなく投入した、意欲的なモデルだ。なお、ここで取り上げたVGN-TZ90Sは、直販サイトなどで販売されるVAIO・OWNER・MADEモデルであり、店頭モデルのVGN-TZ50Bとは、CPUなどの仕様が異なる。また、試用したのは試作機であり、正式出荷品とは細部が異なる可能性もある。 旧type Tも携帯性に優れていたが、新Type Tでは、筐体デザインが一新され、さらに薄く軽いモバイルノートPCへと生まれ変わっている。軽量バッテリパック(S)搭載時は、厚さ22.5mmのフルフラットボディを実現し、重量も約1,025g(最軽量時)まで軽量化された。バッテリをヒンジ部分に装着する構造は、大ヒットした「バイオノート505」を彷彿とさせる。ラッチレスデザインで、見た目もすっきりして美しい。筐体上面や底面に軽くて強度の高いCFRPを採用し、高い堅牢性を実現。店頭モデルの「VGN-TZ50B」のボディカラーは、ブラックだが、VAIO・OWNER・MADEモデルでは、ブラック以外にもプレミアムカーボンやボルドー、シャンパンゴールドを選べる(試用機はプレミアムカーボン)。さらに、色を統一するために、電源やマイクのコネクタに樹脂部分が黒い特注品を採用するなど、デザインには細部までこだわっている。 電源ボタンは、右側のヒンジ部分に配置されている。内部にLEDが設けられており、動作中は緑色に点灯し、スリープ中はオレンジ色に点滅するのも美しい。ただし、外側に露出しているので、移動時などにうっかり触ってしまう可能性もありそうだ。
新type Tは、基本スペックも大きく進化している。試用機ではCPUとして、超低電圧版Core 2 Duo U7600を搭載(BTOでCore 2 Duo U7500/Celeron M 443も選択可能)。旧type TのCPUはシングルコアであったが、デュアルコアのCore 2 Duoを搭載したことで、パフォーマンスが大きく向上している。 メモリは、1GBまたは2GBから選択できるが、オンボードでは一切実装されず、SO-DIMMとして実装されるため、後からメモリを増設しようとすると最初に実装されているSO-DIMMが無駄になってしまう。そのため、予算に余裕があるなら最初から2GBを選択しておきたい。試用機のメモリも2GBであった。 チップセットは、グラフィックス統合型のIntel 945GMS Expressを搭載。最新のIntel GM965 Expressではないが、Vista Aeroにも対応する。 ●2.5インチHDDやフラッシュメモリも搭載可能 新type TのVAIO・OWNER・MADEモデルはBTOメニューが充実しており、ドライブ構成を自由に選べることが魅力だ。店頭モデルは、80GBの1.8インチHDD+DVDスーパーマルチドライブという構成だが、VAIO・OWNER・MADEモデルでは、1.8インチHDDの容量を60GBや100GBに変更できるだけでなく、1.8インチHDDの代わりに32GBフラッシュメモリや160GB 2.5インチHDDを搭載することが可能だ(ただし、2.5インチHDDとDVDスーパーマルチドライブは排他搭載となる)。フラッシュメモリは、ヘッドのシークが不要なので、ランダムアクセスが高速であり、消費電力も小さい。Vistaの起動時間は、1.8インチHDDに比べて2割ほど高速化されるほか、駆動時間も最長約1時間(標準バッテリパック使用時)延長される。 フラッシュメモリの弱点は容量が小さいことだが、新type Tでは、32GBフラッシュメモリ+160GB 2.5インチHDDという組み合わせも可能なので、アプリケーションやデータをHDDに入れるようにすれば、快適な環境を実現できる(試用機の構成も32GBフラッシュメモリ+160GB 2.5インチHDDであった)。なお、2.5インチHDD搭載時は、DVDスーパーマルチドライブが搭載されない代わりに、USB 2.0ポートが右側面に1つ追加される。 液晶ディスプレイも進化しており、NTSC比72%以上という高色純度を実現(従来のtype Tの液晶はNTSC比50%)した「クリアブラック液晶」(ピュアカラー/スリムLED/ARコート)を搭載。液晶テレビに迫る鮮やかな映像を楽しめる。表面にはARコートが施されており、外光の映り込みが抑えられている。解像度は1,366×768ドットで、Windowsサイドバーを表示させても、作業領域を十分にとることが可能だ。液晶上部には、31万画素カメラ「MOTION EYE」が搭載されており、静止画や動画の撮影のほか、Webカメラとして、ビデオチャットなどに利用できる。
新type Tでは、キーボードパネルとキーボード、パームレストを一体化した新開発のキーボードを採用していることも特徴だ。見た目が美しいだけでなく、ぐらつきが抑えられており、快適にタイピングできる。キーボードのキーピッチは約17mm、キーストロークは約1.7mmであり、キー配列も標準的で使いやすい。VAIO・OWNER・MADEモデルでは、日本語キーボードと英字キーボードを選択可能(試用機は英字キーボード)。ポインティングデバイスとして、インテリジェントタッチパッドを採用。指紋センサーの搭載も可能だ。また、本体前面にAVモードボタンやAV操作ボタンが用意されており、AV関連機能の操作が行なえるのも便利だ。
●収納式アンテナによりワンセグの感度も向上 店頭モデルではワンセグチューナが標準搭載されており、VAIO・OWNER・MADEモデルでも、ワンセグチューナの搭載が可能だ。従来のtype Tでは、ヒンジ部分にワンセグ用アンテナが装着されていたが、新type Tでは、液晶右側に収納式アンテナが用意されている。マザーボードからの距離が遠くなったため、CPUなどから発生するノイズの影響を受けにくくなり、受信感度が向上している。ワンセグを視聴しない場合は、本体内にアンテナを完全に収納できるので邪魔にならない。 インターフェースとしては、USB 2.0×3(DVDスーパーマルチドライブ搭載時はUSB 2.0×2)とIEEE 1394(4ピン)、外部ディスプレイ、ヘッドホン出力、マイク入力、LAN、モデム、ドッキングステーションコネクタなどが用意されている。ワイヤレス機能も充実しており、標準でIEEE 802.11a/b/gとBluetooth 2.0+EDRに対応するほか、VAIO・OWNER・MADEモデルでは、最新のIEEE 802.11nドラフト対応無線LAN機能の追加も可能だ。ワイヤレス機能の有効/無効を切り替えるための、ワイヤレススイッチも用意されている カードスロットとしては、ExpressCard/34スロットとメモリスティックスロット、SDメモリカードスロットを搭載。ExpressCard/34スロットのフタは、内部に倒れ込む方式だが、メモリスティックスロットのフタはダミーカード方式になっている(SDメモリカードスロットにはフタはない)。さらに、FeliCaポートを標準搭載しているほか、指紋センサーの追加も可能だ。
●最大約18時間もの長時間駆動を実現 バッテリは、3セルの軽量バッテリパック(S)、6セルの標準バッテリパック(L)、9セルの大容量バッテリパック(LL)の3種類が用意されている。バッテリ駆動時間は、構成によっても異なるが、軽量バッテリで約4~6時間、標準バッテリで約8~12時間、大容量バッテリなら約12~18時間もの長時間駆動が可能だ。試用機には、軽量バッテリパック(S)が装着されていた。標準バッテリや大容量バッテリを装着すると、筐体がフルフラットではなくなるが、大容量バッテリ搭載時の最重量構成でも約1,375gと、気軽に携帯できる重量に収まっている。バッテリの充電を約80%または約50%にとどめることで、バッテリのサイクル寿命を延ばす、「いたわり充電モード」および「超いたわり充電モード」も搭載する。ACアダプタもコンパクトで軽く、携帯性は高い。
●デュアルコアCPUとフラッシュメモリ採用でCPUとHDD周りの性能は高い 参考のために、ベンチマークテストを行なった。利用したソフトは、Futuremarkの「PCMark05(Build 1.2.0)」と「3DMark06(Build 1.1.0)」の2種類だ。また、Windows Vistaに用意されているパフォーマンス評価(Windowsエクスペリエンスインデックス)の結果も加えてある。省電力設定は「高パフォーマンス」モードにして行なった。 結果は表にまとめた通りである。デュアルコアCPUのCore 2 Duo U7600を搭載しているため、シングルコアCPUを搭載したFMV-BIBLO LOOX P70U/Vに比べて、PCMark05のCPU ScoreやWindowsエクスペリエンスインデックスのプロセッサの数値は高い。また、フラッシュメモリを搭載しているため、PCMark05のHDD ScoreやWindowsエクスペリエンスインデックスのプライマリハードディスクのスコアも高くなっている。しかし、3D描画性能は統合チップセットのIntel 945GMSを採用しているため、あまり高くはない。Windowsエクスペリエンスインデックスでも、グラフィックスのスコアが2と一番低くなっている。 フラッシュメモリを起動ディスクとして採用しているため、シャットダウンした状態からVistaを起動するのにかかる時間も短い。試用機で実測した結果は約58秒であった(5回計測した平均)。メモリ2GB+フラッシュメモリの効果か、動作もキビキビしており、快適に利用できた。 VGN-TZ90Sは、性能とデザイン、携帯性を高いレベルで両立させた製品であり、モバイルノートPCとしての完成度は高い。カスタマイズの自由度も高く、用途や予算に応じて最適な仕様を選べることも魅力だ。携帯性重視のモバイルノートPCを探しているのなら、有力な選択肢となるだろう。
【表】ベンチマーク結果
□ソニーのホームページ (2007年6月4日) [Reported by 石井英男]
【PC Watchホームページ】
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