ASUSTeK Computerのミニノート「Eee PC 4G-X」は、そのコンパクトさと販売価格の安さから、日本でも発売後すぐにコアなモバイラーの注目を集めた。そのEee PCの第2世代モデルとなる「Eee PC 900」が、台湾など一部地域で発売された。今回は、台湾で発売されたEee PC 900(台湾版)を編集部で購入したので、本体の性能や使い勝手などを見ていくことにしたい。 ちなみに、入手したモデルは台湾式キーボードモデルで、OSも中文繁体字版Windows XP Home Editionだったため、今回は手持ちの日本語版Windows XP Professionalをインストールした状態でチェックを行なっている。そのため、将来日本で発売されるであろう日本向けモデルとはさまざまな点で仕様が異なる可能性が非常に高い。あらかじめご了承願いたい。 ●液晶は大型化とともに発色・視認性も向上 Eee PC 900の特徴となるのは、なんといっても液晶パネルの大型化と、SSDの増量だ。そこでまず、液晶パネルからチェックしていこう。 Eee PC 4G-Xの液晶パネルは、800×480ドット(WVGA)表示対応の7型ワイド液晶だったが、Eee PC 900では、1,024×600ドット(WSVGA)表示対応の8.9型ワイド液晶に変更され、大型化と高解像度化が実現されている。 Eee PC 4G-Xでは、液晶から本体側面までの間、いわゆる額縁部分が35mmほどとかなり大きく、液晶部を開けても中央に小さく液晶が置かれているるだけといった感じだった。一方、Eee PC 900は額縁部分が15mmほどしかなく、一般的なノートPCのように本体の端ギリギリまで液晶があるといった感じで、その存在感は圧倒的。ぱっと見では数字以上に大きくなったという印象を受ける。 もちろん、大きさだけでなく解像度もWSVGAに高解像度化されたことで、使い勝手も大幅に向上。Webアクセス時の水平方向のスクロール頻度は大幅に減るし、Eee PC 4G-Xのように起動のたびに表示解像度に関するアラートが表示されることもない。Webアクセス以外の、一般アプリケーション利用時の利便性も、高解像度化によって大幅に向上している。 加えて、液晶の表示品質もかなり良くなったという印象だ。Eee PC 4G-Xの液晶は、上下方向の視野角がかなり狭く、ちょっとした角度の違いで色ムラが発生したり、全体的にややくすんだような表示であった。Eee PC 900の液晶では上下方向の視野角がかなり改善されており、色ムラの発生が抑えられているとともに、発色も鮮やかで、くっきり画像が表示できているという印象だ。写真では分かりづらいものの、横に並べて同じ画像を表示させると、表示品質の違いは一目瞭然である。 液晶の大型化と高解像度化、表示品質の向上によって、Eee PC 4G-Xのように、何をやるにも表示環境を妥協しなければならないという状況は確実に減っている。使い勝手はXGA表示対応液晶搭載のノートPCにかなり肉薄したと言っていいかもしれない。
●SSD容量は12GBに増量 Eee PC 900の2つ目の特徴となるのが、SSDの増量だ。Eee PC 4G-Xでは、SSDは4GBしかなく容量がかなり厳しかったが、Eee PC 900では12GB(Windowsモデル)に増量されたことで、容量面での厳しさはかなり改善されたと考えていいだろう。 ただし、12GBという容量は1ドライブで提供されているわけではない。オンボードで搭載されるSSDはEee PC 4G-Xと同じ4GBで、8GBのSSDが別途搭載されるという形となっている。それぞれは別ドライブでの認識となり、4GBのオンボードSSDがCドライブ、8GBの外付けSSDがDドライブとして割り当てられている。1ドライブの12GB SSDが搭載されていれば、もう少し扱いやすかったように思うが、我慢できる範囲内ではある。 ファーストインプレッションでも紹介しているように、中文Windows XPがインストールされた台湾版Eee PC 900では、それぞれのドライブの空き容量はCドライブが1.52GB、Dドライブが6.40GBとなっている。日本語版でも同様の空き容量が確保されるかどうかはわからないが、少なくとも12GBの半分程度は空き容量として確保されると思われるため、ギリギリのやりくりは、ほぼ必要なくなったと考えていいだろう。 外付けのSSDはカード型で、マザーボードの本体底面側に用意されている拡張コネクタに取り付けられている。この拡張コネクタおよびSSDの形状はMini PCI Express準拠となっている。SSDカード上にはPhison製のCF/IDE-NAND Flashコントローラ「PS3006-L」が搭載されており、接続インターフェイスはIDEである。実際に、このSSDカードはセカンダリIDEのスレーブドライブとして認識されている。ちなみに、利用されているNANDフラッシュメモリは、オンボードSSDがSamsung製の「K9F8G08U0M」というSLC(シングルレベルセル) NANDフラッシュで、外付けSSDはSamsung製のK9LAG08U0Aであった。 オンボードSSDと外付けSSDではアクセス速度に差があるのかを確認するため、ベンチマークテストで検証してみた。利用したベンチマークソフトは「Crystal DiskMark V2.1」だ。また、比較のためにEee PC 4G-Xでもテストを行なった。 結果を見ると分かるように、基本的には書き込み速度はオンボード/外付けともほぼ同等かオンボードの方が若干高速で、読み出し速度はオンボードの方がかなり高速であると考えていいだろう。この差は、双方で利用されているNANDフラッシュメモリの特性の違いと考えていい。SamsungのHPに外付けSSDに搭載されているチップの情報が掲載されていなかったため最終的な判断は控えておくが、外付けSSD搭載のNANDフラッシュメモリは、容量と価格で有利なMLC(マルチレベルセル)チップであると考えるのが妥当で、この仕様差が速度差に表れているのだろう。 とはいえ、実際にデータを書き込んだり読み出したりした場合の体感速度は、ベンチマークの結果ほどの差は感じなかった。アプリケーションの起動速度や保存データの読み出しなど、保存先がオンボードSSD、外付けSSDのどちらであっても十分高速で、使っている上で遅さを感じることは全くと言っていいほどなかった。 これは書き込み速度に関しても同じで、実際にデータを書き込んだ場合の速度の差は、オンボード/外付けSSDの間で特に差は感じなかった。ただし、書き込み速度はHDDに比べてあまりにも遅い。アプリケーションのインストール時にファイルを展開する場合など、ちょっとイライラしてしまうほど待たされるという印象だ。今回は、手持ちのWindows XP Professional SP2をインストールしたが、インストール後に更新ファイルをダウンロードしインストールが完了するまでに1時間以上もかかった。また、USBメモリなどからSSDへのデータコピーなども、かなり時間がかかるという印象を強く受けた。そう考えると、多く書き込みが発生するアプリケーションの利用時には、マシンスペック以上に重く感じるかもしれない。
【表1】CrystalDiskMark 2.1の結果
●タッチパッドの大型化とジェスチャー機能で操作性が向上 液晶パネルの大型化とSSDの増量に比べると地味なアップデートかもしれないが、操作性の向上という意味で見逃せないのが、タッチパッドの大型化と、マルチフィンガー・ジェスチャー機能の搭載だ。 Eee PC 4G-Xのタッチパッドは、サイズが41×30mm(実測値)だったのに対し、Eee PC 900では64×37mm(同)と、かなり大きくなった。筐体の奥行きが少々長くなり、パームレスト部分の幅が広くなったことで、大きなタッチパッドの搭載が可能になったわけだ。この大型化により、操作時に窮屈さを感じることがなくなった。ただし、クリックボタンは左右がつながった状態で、中央部でのクリック操作がほとんど不可能という点は変わっていない。 ところで、Eee PC 900のタッチパッドには、スクロール領域が確保されていない。これは、指2本または3本を利用して画面のスクロールや拡大/縮小/回転などの動作を行なう「マルチフィンガー・ジェスチャー」という機能をサポートしているからだ。MacBook Airに搭載された「マルチタッチテクノロジー」と同じようなものと考えると分かりやすいだろう。 指2本をパッド上に置くと、スクロールや拡大/縮小/回転モードとなる。2本の指を上下に滑らせると画面がスクロールする。また、2本の指を斜め方向に開いたり閉じたりすると、拡大/縮小となる。そして、指2本を開いた状態でパッド上に置いた指を回転させると、画像などの回転となる。もちろんこれら機能は、アプリケーションの対応によって利用できるかどうかが決まるが、IE利用時には、スクロール機能と、拡大/縮小での文字サイズの変更が行なえた。 また、3本指での操作も用意されている。3本指でパッド上をサッと払うような動作でページワイプ動作が行なえ、ブラウザの「戻る」などの操作が可能だ。そして、3本指でパッド上をタップすれば、右クリック動作となる。 ちなみに、パッド上に指が2本または3本当たっている状態では誤動作防止のためマウスカーソルを操作できないようになるため、Webブラウザ利用時など、スクロール操作とマウスカーソル操作を頻繁に使い分けるような時には無意識にパッドに複数の指が当たらないように気を付ける必要がある。それでも、このマルチフィンガー・ジェスチャー機能は、慣れてしまえばかなり快適に利用できるのは間違いなく、個人的には外付けのマウスを用意せずとも問題ないと感じた。
ところで、今回取り上げているEee PC 900は台湾版で、台湾式キーボードが搭載されていたため、キーボードの使い勝手に関しては特に検証を行なわなかった。ただし、キーボード全体のサイズはEee PC 4G-Xと全く同じで、試しにEee PC 4G-Xのキーボードを取り外しEee PC 900に取り付けてみたところ、全く問題なく動作した。日本版Eee PC 900が登場する場合には、Eee PC 4G-Xと同じ日本語キーボードが搭載されるだろう。
●搭載CPUとチップセットは従来機同様だが動作クロックは向上 Eee PC 900に搭載されるCPUおよびチップセットは、既報の通り、Eee PC 4G-X同様に、CPUがCeleron M 353、チップセットがIntel 910GML Expressとなっている。当初、第2世代 Eee PCには、Intelの新モバイルプラットフォームであるAtomが搭載されると言われていたが、実際には搭載が間に合わなかったのだろう。 ただし、FSBの動作クロックが定格の400MHzで動作するようになっており、CPUも定格の900MHz動作に向上。さらに、メインメモリもPC2-3200(DDR2-400) SDRAMとなり、容量も標準で1GBに倍増されている。この変更によって、当然動作の快適さは大きく向上しており、非常にきびきびと動作するようになった。 本体デザインや用意されているインターフェイス類なども、基本的にEee PC 4G-Xをほぼそのまま踏襲している。このあたりもファーストインプレッションで紹介済みなので、ここでは特に詳しく解説はしないが、改めて本体写真は掲載しておくことにする。 ●バッテリは大容量化もバッテリ駆動時間に大きな変化はなし Eee PC 900に付属するバッテリは、容量5,800mAhのリチウムイオンバッテリだ。Eee PC 4G-Xには容量5,200mAhのリチウムイオンバッテリと比較すると600mAhの容量増となっている。また、電圧が7.2Vと、Eee PC 4G-X付属のバッテリの7.4Vよりも0.2Vほど下がっている。ただし、コネクタやバッテリ自体の形状は同じだ。
バッテリ駆動時間はどうだろう。Eee PC 4G-Xでは、公称のバッテリ駆動時間が約3.2時間とされているが、Eee PC 900については、付属のマニュアルやASUSのホームページを見てもバッテリ駆動時間に関する記述がない。そこで、液晶の輝度を最大にし、無線LAN機能も動作させた状態でアプリケーションを動かし、バッテリ駆動時間を計測してみた。 まず、動画ファイル(WMV9/1,156kbps/640×480ドット)をWindows Media Player 11で連続再生させてみた(動画再生中のCPU使用率は、双方とも20~50%ほどの間を推移)。すると、Eee PC 4G-Xは2時間35分ほど、Eee PC 900では2時間42分ほどでスタンバイへと移行した。Eee PC 900の方が若干長かったが、ほぼ誤差の範囲内と言ってもいいほどの違いしかない。 次に、より高負荷状態ではどうなるかをチェックするために、FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3を連続動作(Benchmarkモード/レゾリューション:LOW)させて試してみたところ、約2時間22分でスタンバイに移行した(Eee PC 4G-Xでは外付けディスプレイを接続しなければ正常動作しないため測定せず)。 バッテリ容量が増えたものの、Eee PC 4G-Xとほとんど変わらないバッテリ駆動時間だったのは、CPU動作クロックの向上や外付けSSDの搭載などによって消費電力が増えたことが要因と思われる。Eee PC 4G-Xでは、バッテリ駆動時間の短さが広く指摘されていたが、Eee PC 900でその点がほぼ改善されてなかったのは少々残念だ。 ちなみに、付属のACアダプタはACケーブル接続タイプのもに変更された。サイズは非常にコンパクトで、重量も196.5gと、Eee PC 4G-X付属のACアダプタに比べ携帯性が失われているということはない。
●分解してみました
今回試用したEee PC 900は編集部で購入したものだったので、本体を分解し中を見てみることにした。比較のため、Eee PC 4G-Xも分解した。 分解方法は、Eee PC 900、Eee PC 4G-Xともにほぼ同じ手順だった。まずキーボードを固定しているツメを押してキーボードを外し、キーボード下に見えるネジを全て外す。その後、本体底面のネジを全て外せば本体ケースを開けられる。ただし、キーボード下のネジ穴部分に警告シールが貼られており、このシールをはがすと保証が受けられなくなる点は要注意だ。 マザーボードのキーボード面には、CPUやチップセットが搭載されている。Eee PC 4G-Xのマザーボードとの比較では、一部コイルがなくなっていたり、Eee PC 4G-Xでは使用できないようにされていただけのモデム端子が完全になくなっているなどの違いがあるものの、基本的な構造はほとんど同じであった。 次にマザーボード裏面だが、こちらは外付けSSD搭載用コネクタが用意され、そこにSSDカードが取り付けられているという点が大きな違いとなっている。このコネクタおよびSSDカードは、既に紹介したようにMini PCI Expressをベースとしているが、SSDの接続インターフェイスはIDEとなっている。 それ以外の構造は、表側同様に一部コイルがなくなっているなどの違いはあるが、オンボードSSD用NANDフラッシュメモリの搭載位置、メインメモリ用SO-DOMMスロットの位置、無線LANモジュールなどほとんど同じだった。加えて、Eee PC 4G-XのマザーボードにもSO-DOMMスロット左上にMini PCI Expressコネクタ用のパターンが用意されいることからも、Eee PC 900は、Eee PC 4G-Xをベースに若干の仕様変更を行なっただけだと言っていいだろう。 ●サブマシンとしての魅力はEee PC 4G-Xを大きく凌駕 では、ベンチマークテストの結果を紹介していこう。今回はマシンスペックの関係から、Futuremarkの「PCMark05 (Build 1.2.0)」と、HDBENCH.NETの「HDBENCH Ver3.40beta6」、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」を利用してテストを行なった。比較のためEee PC 4G-Xでも同じテストを行なっている。 ただし、テストを行なうには液晶パネルの解像度が足りないために、PCMark05は外部ディスプレイを接続し、表示解像度を1,024×768ドットに設定して測定。また、FINAL FANTASY XI Official BenchmarkについてはEee PC 4G-Xのみ外部ディスプレイを接続して測定した。 結果を見ると、CPUおよびFSBの動作クロックが向上していることもあって、パフォーマンスは同じCPUおよびチップセットを搭載しているとは思えないほど向上している。実際に利用していても、Eee PC 4G-Xを使っている時と比べ、待たされる感覚はかなり減っており、非常にきびきびと動作していることを実感できる。 ただし、SSDへのアクセス速度については、ベンチマーク結果ほどの差は実感できなかった。読み出し速度については、Eee PC 900、Eee PC 4G-Xともに大きな不満はない。しかし、どちらも書き込み速度の遅さはかなり気になる。高速な書き込みが可能なNANDフラッシュメモリを採用すれば改善可能だとは思うが、そうするとコストが高まってしまう。非常に安価な価格を考えると、しかたがないだろう。 【Eee PC 900のベンチマーク結果】
Eee PC 900は、液晶パネルの大型化と高解像度化、搭載CPUの動作クロックの向上、搭載SSD容量の増量など、さまざまな点でパワーアップされており、従来モデルであるEee PC 4G-Xから大幅に魅力が向上している。特に、液晶パネルとSSDの改善によって、割り切らなければならない点は大幅に減っており、使い勝手は一般的なノートPCに限りなく近付いたと言える。 もちろん、SSDが増量されたとはいえ、12GBという容量ではアプリケーションのインストールやデータの保存もままならず、メインマシンとしての活用は望めない。しかし、UMPCというカテゴリで見ると、現時点で圧倒的な魅力を持つ製品だと筆者は考える。液晶パネルの小ささや解像度の低さ、SSDの容量などでEee PC 4G-Xの購入を躊躇していた人でも、Eee PC 900ならかなり満足できるはずだ。日本語版がいつ、どの程度の価格で登場するのか、現時点では分からないものの、6万円を切る価格で登場してくるとしたら、UMPCだけでなく、モバイルノートにとっても脅威の存在になるだろう。 □ASUSTeKのホームページ(英文) (2008年5月8日) [Reported by 平澤寿康]
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