笠原一輝のユビキタス情報局

VIA、新設計アーキテクチャCPU「Isaiah」を2008年前半に製品投入




 VIA Technologiesは24日、子会社のCentaur Technology(センターテクノロジー)が開発した新マイクロアーキテクチャ採用プロセッサ「Isaiah」(イザヤ、開発コードネーム)を、2008年前半に製品投入することを明らかにした。

 Centaur側の開発コードネーム「CN」で知られてきたこの製品は、IntelのCoreマイクロアーキテクチャや、AMDのK8などと同じようにOut-Of-Order型のスーパースケーラを採用するなど完全に新しいマイクロアーキテクチャになり、新たにx64互換の64bitアーキテクチャ、SSE3の追加命令セット、Intel VT互換の仮想化技術に対応するなど、前世代となるC7に比べて大きく機能が拡張されている。

●VIA/Centaurのプロセッサとして初めてOut-Of-Orderを採用

Centaur Technology 社長のグレン・ヘンリー氏

 このIsaiah/CNのマイクロアーキテクチャ(CPUのハードウェアのデザインのこと)について、Centaru Technologyの社長であるグレン・ヘンリー氏は「マイクロアーキテクチャがOut-Of-Order型のスーパースケーラである以上、全体的な方向性はIntelのCoreマイクロアーキテクチャやAMDのK8などとは大きく変わっていない。しかし、CNはそうした他社のマイクロアーキテクチャと詳細部分で大きく異なっている。特に、CNは電力効率にとことんこだわっており、マイクロアーキテクチャのチューニングの主眼はそこにおいている」と概要を説明する。

 つまり、その特徴を一言で説明すると、マイクロアーキテクチャの実装でCore MA/K8クラスだが、さらに電力あたりの性能にこだわったものになっている、ということになる。

 Out-Of-Orderとは、CPUの内部でx86命令から内部命令(Micro-Ops)へと解読された命令を、それぞれの依存性などを考慮し、実行する際に順序を入れ替えて命令の実行効率を上げる仕組みのことで、現代のx86プロセッサはほとんどOut-Of-Order型のマイクロアーキテクチャを採用している。

 ヘンリー氏によれば、「CNでは1クロックで3つのx86命令をMicro-Opsへとデコードし、1クロックで3つのMicro-Opsの発行/完了が可能になっている。さらに7つの実行ポートに対して、Out-Of-Orderで7つの実行可能なMicro-Opsを発行することが可能になっている」といい、Isaiah/CNが現代の他のx86マイクロプロセッサと遜色ないデコーダ、命令実行ユニットなどを備えていることがわかる。

 また、デコードされた特定のx86命令は2つを1つのMicro-Opsに融合(つまりIntel用語でいうところのMacro-Ops Fusion)させて実行させることが出来るほか、異なる実行ポートに割り当てられるMicro-Opsをまとめて1つのMicro-Opsに融合させる(同じくIntel用語でいうところのMicro-Ops Fusion)ことも可能になっている。

CNのダイレイアウト(出典:VIA Technologies)
CNのフロアプラン。(出典:VIA Technologies)

●Out-Of-Orderを採用しても現行製品と同じ消費電力を実現できるIsaiah/CN

 現行世代となるC7は、IntelでいえばP5世代と同じようなIn-Order型(命令の実行はソフトウェアの指示通りに順々に行っていく方式)のスーパースケーラを採用していた。In-Orderの仕組みを採用していたのは、マイクロアーキテクチャを複雑にすることを避けるためで、ロジック(演算器などの部分)を単純にできるため、トランジスタ数を抑えることができ、結果的にダイサイズも小さく抑えることができるからだ。これにより90nmプロセスルールのC7は、ダイサイズをx86プロセッサとしては最小レベルと言える32平方mmにまで小さくすることができた。

 これに対して、Isaiah/CNでは、Out-Of-Orderの仕組みを採用しているため、分岐予測などの機能を充実させ、それらに多数のトランジスタを割り当てる必要があり、どうしてもマイクロアーキテクチャは複雑になってしまう。実際、Isaiah/CNは65nmプロセスルールに微細化されているにもかかわらずダイサイズは63平方mmとほぼ倍になっている。トランジスタ数では、90nmのC7が2,600万であったのに対して、Isaiah/CNでは9,500万と4倍近くになっている。

 これについて、ヘンリー氏は「トレードオフだ」と説明する。「性能を上げるには、いくつかのやり方がある。確かに消費電力の観点からはOut-Of-Orderはよくないアイデアだ。しかし、65nmプロセスルールを利用して削減できる分などを勘案した結果、このアーキテクチャで現行製品と同じレベルの消費電力が実現できると判断した」(ヘンリー氏)。つまり、性能向上と消費電力を秤にかけた結果、Out-Of-Orderを採用しても現行製品と同じレベルの消費電力を実現できるというメドが立ったため採用したのだ。

左側は90nmのC7のウェハでダイサイズは32平方mm、右側はCNのウェハでダイサイズは63平方mm 現行のC7と同じ小型パッケージに搭載されたIsaiah/CN

●大幅に強化されたFPUの性能、128bit精度の浮動小数点演算も可能に

 Isaiah/CNのもう1つの大きな特徴は浮動小数点演算性能が大幅に向上していることだ。ヘンリー氏は「C7では浮動小数点演算性能がやや弱いという弱点を抱えていた。しかし、CNではその弱点は解消されている。CNは前世代に比べて浮動小数点演算の性能が4倍になる」と述べ、Isaiah/CNで浮動小数点演算の性能が大幅に向上しているとアピールした。

 Isaiah/CNでは7つの演算器が用意されるが、そのうち2つはMedia1、Media2と呼ばれる浮動小数点/SIMD型の演算器となっている。Media1では128bit幅で浮動小数点加算/SIMD型整数演算/除算などが可能で、単精度(32bit)の浮動小数点の加算/乗算は1クロックで4つの演算が可能になっている。Media2では1クロックあたり4つの単精度、あるいは2つの倍精度のSSEを利用した整数/浮動小数点の演算、1つのx87命令の実行が可能になっている。

 ヘンリー氏によれば、Isaiah/CNでは演算にかかるレイテンシ(演算にかかる時間)が大幅に削減されており、それが浮動小数点演算性能が大幅に向上した理由であるという。「CNの新しい浮動小数点演算ユニットでは、新しい演算アルゴリズムを採用することで演算にかかるレイテンシは1クロック分、Intelの最新製品よりも速くなっている。Intelの最新製品が4クロック、我々の過去の製品が6クロックであるので、どれだけ速くなっているか理解していただけるだろう」(ヘンリー氏)とのことで、C7シリーズの弱点だった浮動小数点演算性能を補い、場合によっては競合製品をも上回る仕様になっていることがわかる。

 このほか、Isaiah/CNではキャッシュ周りも大幅に改善している。C7ではそれぞれ容量が128KBのL1キャッシュとL2キャッシュを備えていたが、Isaiah/CNではL1キャッシュこそ同じ128KBながら、L2キャッシュは1MBへと大幅に増やしている。「L1キャッシュは命令、データがそれぞれ64KBで、16ウェイ構成になっている。L2キャッシュは1MBで16ウェイ構成だ。重要なことは競合他社とは異なり、我々のキャッシュは排他制御を行なっていることだ。これにより効率が競合他社よりもよくなり、大容量のL2キャッシュを備えずとも性能向上させることができる」(ヘンリー氏)といい、L2キャッシュを大容量にしたことで、排他制御の効率が向上した。

Isaiah/CNのマイクロアーキテクチャ(出典:VIA Technologies)

●“逆オーバークロック”機能も搭載し、低消費電力を実現

 Isaiah/CNのもう1つの特徴はユニークな省電力機能だ。Isaiah/CNには、VIAがAdaptive PowerSaverという省電力の仕組みが実装されている。これはOSがPステートと呼ばれる動作状態にある時に働く省電力機能のこと。C7-Mから搭載されており、IntelのEnhanced Speed Step Technology(EIST)やAMDのPowerNow!と同様の機能だ。

 こうしたPステートでの省電力技術は、CPUの負荷が高くない時にクロックの倍率と電圧を段階的に下げていき、OSが動作している状態でも消費電力を下げるためのものとなっている。Adaptive PowerSaverが他社の同類の技術と異なるのは、PLLを2つ搭載し、それを切り替えて利用できるようになっている(IntelやAMDは1つだけ)ため、クロック倍率や電圧の変更の間、処理が停止している時間を短くすることができ、性能の低下が少ない。

 また、もう1つの特徴は、プロセッサコアの温度に応じて、動作電圧を自動で調整できるようになっていることだ。「例えば、2GHz/1.1Vで動くコアがあるとして、定格の最大温度よりも20度低く動いていたとする。するとコアに余裕があることを自動で認識し、クロックはそのままに電圧を1Vに落として動作させ、消費電力を下げる。つまりオーバークロックと逆の仕組みだと思っていただければよい」(ヘンリー氏)との通り、オーバークロックの喝入れを逆手にとって、それを省電力の仕組みに利用しているという。

 さらに、Adaptive Thermal Limitと呼ばれる機能では、ユーザーやOEMベンダ側でプロセッサの動作限界温度を設定し、CPUの仕様以下のクロックなどに自動で調整して動作する機能だ。例えば、ファンレスのPCを作りたいから、CPUを規定以下のクロックで動かしたいなどのニーズに応えることができる。このほか、C6ステートにも対応しており、アイドル時にはキャッシュも含めてCPUのほとんどを停止することができるという。

 なお、現時点ではIsaiah/CNの熱設計消費電力や平均消費電力などは明らかになっていないが、ヘンリー氏によれば「現行製品と同じ熱設計電力の枠に収まるように設計している。現在、実際の値などを計測中で、まだ発表できる数字はないが、基本的には現行製品と同じレベルと考えてほしい」とのことだった。

●製造は富士通三重工場の65nmプロセス/200mmウェハを利用

Isaiah/CNの200mmウェハ。製造は富士通の三重工場で行なわれる

 「現在市場にあるほとんどの命令セットを網羅した」との通り、Isaiah/CNにはここ数年登場したほとんどの新しい命令セットが実装されている。x64(AMD64/Intel64)の64bitメモリアドレッシング、SSE3、さらにIntelのVT-x互換(Merom互換)の仮想化命令セットなどだ。SSE3に関してはMNI(Merom New Instruction)で知られるSSSE3(Supplemental SSE3)にも対応しており、65nmプロセスルールのCore 2 Duo(Merom/Conroe)互換の命令セットを備えるといった方がわかりやすいかもしれない。なお、Penrynで追加されたSSE4やVT-xの新命令は、CNの改良版(CNBのコードネームで呼ばれる)で対応させる予定だ。

 CNのシステムバスはC7と互換になる。VIAがV4バスと呼ぶものがそれで、基本的にはIntelのP4バス(現在のCore 2シリーズでも採用されている)に近いバスになっている。FSBは800MHz〜1,333MHzが予定されており、従来のC7とはピン互換になる。このため、既存のC7のOEMなどは、CPUをC7からIsaiah/CNに変更するだけで対応が可能になっており、この点はOEMメーカーにとってのメリットと言える。対応チップセットはすでにC7でも利用されているVX800/700、CN896/700になる予定。

 VIAはファブレスの半導体メーカーであるため、製造はファウンダリ(ウェハ製造サービスを提供する半導体工場)を利用している。Isaiah/CNの65nm版は、富士通の三重工場(三重県桑名市)の65nmプロセスルール/200mmウェハを利用して行なわれる。「Isaiah/CNの製造を委託するにあたり、我々は複数のファブを検討した。性能はもちろんだが、コストパフォーマンスが高いことも重要だ。その結果、我々は65nm世代に関しては富士通がベストだと判断した」(ヘンリー氏)。

 Isaiah/CNではターゲットクロックは2GHzに設定されているが、ボリュームゾーンは1.6〜1.8GHzあたりになりそうだ。

●新ブランドで第2四半期に発表へ

 以上のように、VIA/CentaurのIsaiah/CNは、CoreマイクロアーキテクチャやAMDのK8のようなOut-Of-Orderでスーパースケーラのマイクロアーキテクチャを採用し、かつC7で課題と言われていた浮動小数点演算性能を大幅に改善、SSSE3に対応するなどし、メディア性能が大幅に向上することは間違いないだろう。現時点ではベンチマーク性能は公開されていないし、どんな性能になるかは実際の製品を待つ必要があるが、このアーキテクチャで1.6GHz〜2GHz程度のクロックで動作すれば、C7から大きな性能向上を期待することができるだろう。

 気になるのは、業界全体がマルチスレッドの性能を上げていこうという方向性に向かっていく中で、Isaiah/CNはシングルコアであり続けることだ。これに関してヘンリー氏は「デュアルコア、クアッドコアという方向性は、将来はあり得るだろう。しかし、重要なことはデュアルコアにすることでダイサイズは倍になるが、性能は倍にはならないということだ。我々は効率にこだわっているし、エンドユーザーに対して低価格で低消費電力で、しかもバリューのある製品を届けるというコンセプトにこだわっている。だから、CNはシングルコアとして設計したのだ」と説明している。つまり、同社のこだわりとして、あくまで低価格、低消費電力の市場ではシングルコアで十分だと判断した、そういうことだろう。

 実際、Centaurの親会社であるVIAもそういった戦略でIsaiah/CNを販売していく方針だ。VIA Technologiesのリチャード・ブラウン副社長(コーポレートマーケティング担当)は「Isaiah/CNは弊社が提案している低価格、低消費電力のノートブックやデスクトップPC市場にまず投入する。その後、UMPCやMIDなどの、より低消費電力の市場に広げていきたい」と述べ、Isaiah/CNでは新しいブランド名を持って今年の第2四半期あたりに製品の発表を行ないたいという意向を明らかにした。

 現在市場では再び低価格PCに注目が集まりだしている。ASUSの「Eee PC」はその例の1つだし、米国では199ドルのデスクトップPCなどがヒット商品になりつつあるという。そうした市場であれば、デュアルコアはもちろん必要ないし、何よりも低消費電力で低価格であるIsaiah/CNは歓迎されるだろう。また、すでに発売されているOQOの「Model02」のようなUMPC向けとしても、Isaiah/CNは有望であり、Intelが奇しくも同じく第2四半期に発表する予定のMenlowプラットフォームの競合としても要注目と言えるのではないだろうか。

CNの最初の製品は内部コードネームでCNAと呼ばれる。SSE4に対応したCNBも計画されている。すでにA0シリコンは昨年の9月にできあがり、現在はA1シリコン。現在バリデーションなどの各種テストが行なわれている C7では重たかったCrysisのような3Dゲームもちゃんと動作していた

□VIA Technologiesのホームページ(英文)
http://www.via.com.tw/
□ニュースリリース(英文)
http://www.via.com.tw/en/resources/pressroom/pressrelease.jsp?press_release_no=1827
□関連記事
【1月23日】ASUSTeK、5万円を切る小型モバイル端末「Eee PC」発表会
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0123/asus.htm
【2007年1月9日】OQO、Vistaにも対応したUMPC“model02”を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0109/ces8.htm
【2006年3月9日】【海外】Intelの次世代CPUアーキテクチャ「Core Microarchitecture」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0309/kaigai248.htm
【2005年5月31日】【笠原】“C7”を武器にモバイル/家電市場に一石を投じるVIA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0531/ubiq113.htm

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(2008年1月24日)

[Reported by 笠原一輝]


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