先週ニューヨークで行なわれたAMDのアナリストミーティングでは、同社が大量出荷を延期したクアッドコアCPU(Barcelona)に関する厳しい質問が同社の幹部に浴びせられたが、今度はIntelが45nmプロセスルールの普及版クアッドコア(Yorkfiled)の出荷を1~2カ月延期するというニュースが飛び込んできた。 OEMメーカー筋の情報などによれば、12月の中旬にIntelはOEMメーカーに対し、2008年1月中旬に発表を予定していたCore 2 Quadの出荷延期を伝えてきたという。この決定は普及版クアッドコアだけに適用され、同じ45nmでもデュアルコアのCore 2 Duo(Wolfdale)には影響しない。 ●もともと1月中旬に設定されていた45nmプロセスルール版Core 2 Quad OEMメーカー筋の情報によれば、これまでIntelがOEMメーカーなどに通知していたデスクトップ製品のスケジュールは次のような形になっていたという。 (1)2008年1月20日(現地時間)に45nm版Core 2 QuadとCore 2 Duo、Celeron Dual-Coreを発表、出荷開始 45nmプロセスルールのCore 2 QuadとCore 2 Duoに関しては以前も触れたがもう一度整理すると、以下のような製品ラインナップが予定されていた。
【表1】Intelが2008年第1四半期に発表を予定しているCore 2 Quad/Duo
Core 2 Quad/Duo、Celeron Dual-Coreに関しては、2008年1月7日に米国のラスベガスで開催されるInternational CESにあわせて発表され、製品の出荷開始が1月20日(米国時間)という予定になっていた。ちょうど、1月7日にCESにおいてIntelのCEO、ポール・オッテリーニ社長による基調講演が行なわれるので、それにあわせてこれらの製品も発表されることになっていた。 しかし、その予定は大きく変更され、Core 2 Quadの3製品(Q9550、Q9450、Q9300)に関しては少なくとも1月20日という製品出荷の予定は無くなり、それが第1四半期の後半あたりにリスケジュールされたのだという。現時点では、1月7日に予定されている製品の発表がどうなるかは未定で、発表が取りやめになり改めて第1四半期の後半に発表される案と、製品出荷は先だがとりあえず発表だけされるという2つの案があるという。 ●FSB周りに問題が見つかった45nm版クアッドコア、マザーボードによっては正常動作せず OEMメーカー筋の情報によれば、45nmプロセスルールのCore 2 Quadの出荷が延期された最大の理由は、FSB周りに問題が発見されたからだという。 ある台湾のマザーボードベンダーの関係者は「FSBに発生しているノイズの関係で、特定のマザーボードで正しく動作しない可能性がある。具体的にはFSB周りの設計にマージンがとってあるX38のような6層基板で作られたものに関しては問題ないが、P35のように4層基板で作られたものに関しては問題が発生する可能性がある」と説明する。 その関係者からは、その問題が具体的に何であるかの説明はもらえなかったが、Intelのデザインガイド通りに作った4層基板のLGA775マザーボードに45nmプロセスルールのCore 2 Quadを組み合わせた場合、FSB周りで問題が発生し、正しく動作しない場合があるという。 これに対して、X38のようなハイエンドマザーボードの場合、基板自体も6層基板になっており、設計にマージン(余裕)を持つように作られているので、問題が発生しないのだという。同じYorkfiledコアであるCore 2 Extreme QX9650が問題なく出荷されているのは、動作保証される組み合わせがX38などの6層基板のハイエンドマザーボードになるので問題が発生しないからだ。Yorkfiledコアとほぼ同じHerpertownコアの45nmクアッドコアXeonでも問題が発生しないのは、やはりXeon用マザーボードが6層基板で作られているためだろう。 なお、この問題はクアッドコアだけで発生しており、デュアルコア版のWolfdaleでは問題は発生しないという。このため、出荷延期の対象は4層基板のマザーボードでも動作可能な45nm版Core 2 Quadで、45nm版Core 2 Duoに関しては予定通り1月20日(米国時間)に出荷開始される予定だ。 ●マザーボード側での対応は難しいので、マスクチェンジにより対応 今回の問題の原因はFSBの信号周りであるため、対処法は2つ考えられる。1つは、4層基板マザーボードの設計を見直し、マージンを取り直すなどして問題に対処する方法で、もう1つはCPUのダイそのものを見直し、改良したデザインを施したマスクを利用して製造し直すやり方だ(一般的にマスクチェンジと呼ばれる)。CPUのダイが、基本設計は変わらないものの、微妙にステッピングが上がっている時などは、このマスクチェンジが行なわれたことを意味している。ちなみに、本記事とは関係ないが、まさに今、AMDがクアッドコアのPhenomやOpteronでやっているのはこのマスクチェンジだ。 マザーボードベンダーの関係者は「すでにP35のマザーボードは多数出荷している。今さらマザーボード側でデザインを変更するのは不可能だ」と述べる。確かにすでに市場には多数のマザーボードがあふれている。確かにそれらに関してもともと45nmプロセスルールの動作保証をしているわけではなかったのだが、それらに関しては45nmクアッドコアには対応できないとするのも1つの方法だろう。仮にこれからマザーボードメーカーがデザインを見直すとしても、設計して動作検証もやり直すとなるとやはり1~2カ月はかかってしまう。 こうしたこともあり、Intelはマスクチェンジを行なう方が合理的であると判断し、45nm版Core 2 Quadの出荷をマスクチェンジの終わる1~2カ月後に延期し、第1四半期の後半という予定に再設定したのだ。 ●AMDのクアッドコアも厳しい立ち上げのため、大勢にには影響せずと判断 Intelがマスクチェンジをして出荷を遅らせても問題ないと判断した背景には、いうまでもなくライバルAMDのクアッドコア製品が足踏みをしている状況がある。 現在、AMDのPhenomはB2ステッピングの製品を9600(2.3GHz)、9500(2.2GHz)として出荷しているが、TLB周りにエラッタが発見されたり、本当ならば年内に追加されるはずだった9900(2.6GHz)、9700(2.4GHz)という上位SKUが、マスクチェンジされたB3ステッピングが登場する2008年の第1四半期に延期されるなど、立ち上げに課題を抱える状況となっている。 この状況であれば、現行の65nmプロセスルールのCore 2 Quadで十分対抗できるから、じっくりマスクチェンジしてしっかりとした製品を出した方が得策だ、そうIntelが考えたとしても何の不思議もない。実際、日本の自作PC市場などで端的だが、GステップのCore 2 Quad Q6600はいまだ売れ続けており、45nm版Core 2 Quadが今から1四半期(3カ月)程度先というスケジュールになったことで、Core 2 Quad Q6600は今後も売れ筋となっていくことになるのではないだろうか。 こうして見ていくと、AMDが足踏みしていることが、どれだけIntelに余裕を与えてしまっているかが、よくわかる。仮にAMDのPhenomが快調で現実的な脅威となっていれば、Intelだって悠長にマスクチェンジを待って出荷などというわけにはいかなかったのではないだろうか(過去にはもっと力業でなんとかしてしまった例はいくらでもあるが)。 やはりこの業界、成長のエンジンは“競争”だ。エンドユーザーとしてはAMDがB3ステップを確実に、かつできるだけ早く出荷できるようになることに期待したいところだ。
□関連記事 (2007年12月21日) [Reported by 笠原一輝]
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