今週の半ばから米国のサンフランシスコにおいてIntel Developer Forum(IDF)が開催され、今後のIntelの技術的な方針やマーケティング的な方針などが明らかにされる予定だ。 OEMベンダ筋の情報によれば、それに先立つ先週には、OEMベンダなどに新しいロードマップが公開され、“Duo”、“Quad”などのサブブランド廃止方針の撤回や、45nmプロセスルールで製造される開発コードネーム“Yorkfiled”の前倒し投入などが明らかにされた。 ●“Duo”、“Quad”、“Solo”のサブブランド廃止計画は撤回に Intelは7月の中旬に、来年(2008年)の1月1日以降に適用される予定の新ブランド戦略に関するアップデートを行なった。このブランド戦略に関しては以前の記事で説明した、Core 2 QuadやCore 2 Duoなどのサブブランド部分(QuadやDuo)などを廃止し、“Core 2”というすっきりしたブランド名に統一するというものだった。 このほか、Viiv Processor Technology、vPro Processor TechnologyといったデスクトップPC向けのブランド名はCore 2 with Viiv、Core 2 with vProのようなサブブランドへ格下げされ、ノートPCのブランドネームはCentrino ProがCentrino with vProに変更されるのを除きCentrino Processor Technologyに統一されるという計画であることもお伝えした。 だが、早速この計画には修正が加えられることになった。OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは“Duo”、“Quad”、“Solo”といったCore 2のサブブランドを廃止する計画を撤回し、これらのサブブランドは従来のまま残すことにしたと告げてきたという。Intelがこうした変更をした背景としてOEMベンダの関係者は「Intelの担当者によれば、7月に説明して以降、OEMベンダやチャネル関係者からサブブランドを廃止しないでほしいという声が多数寄せられたとのことだ。このためサブブランドは残ることになったのでは」と説明する。 以前の記事でも説明したように、特にチャネルでは“Core 2 Duo”や“Core 2 Quad”の定着率が高く、廃止するとなると大きな影響があると考えられる。筆者の聞いた範囲ではOEMメーカーの側ではあまり反発する声はなかったのだが(特にViivブランドをサブブランドに格下げする件は歓迎する声が多かった)、Intelには多くの反対という声が寄せられたようだ。 こうした情報をあわせると、来年の1月1日以降のIntel製品のブランドは以下のようになるはずだ。
【表1】2008年1月1日以降のブランド変更(筆者予想) 、赤が今回のアップデート部分
1月1日よりこの新しいブランド戦略が開始されるので、OEMベンダが新しいシールをつけた外装などの準備をする時間は1四半期しかなく、時間的余裕から今後は戦略の変更は難しくなるだろう。したがって、この件はこの内容が最終案となり、今後はOEMベンダやIntel自身の準備に入っていくということになるだろう。 ●45nmプロセスルールで製造されるCore 2 Extreme QX9650を11月に前倒し発表 また、Intelは今年の末までに出荷する予定の45nmプロセスルールで製造させる次世代コア“Penryn”(ペンリン)のマーケティングプランに関しても徐々に明らかにし始めている。IntelはPenrynのデスクトップPC向け製品として、クアッドコアのYorkfiled(ヨークフィールド)、Wolfdale(ウルフデール)の2製品が用意されているが、オリジナルの計画では2008年の第1四半期に発表される計画になっていた。 ところが、IntelはYorkfiledの前倒し投入をOEMベンダに通知してきたという。それによれば、Yorkfiledのうち最上位製品になるCore 2 Extreme QX9650という3GHzのSKUだけを、11月の中旬に投入するというのだ。なお、残りの通常ラインの製品、Core 2 QuadやCore 2 Duoに相当する製品は1月に投入されることになる。 11月に投入されるCore 2 Extreme QX9650、1月に投入されるCore 2 Quad、Core 2 Duoのラインナップを整理すると以下のようになる。
【表2】2007年11月および、2008年1月に投入されるIntelの新製品(筆者予想)
通常製品のラインナップで気になるのは、クアッドコアの最下位製品となるQ9300が、フルキャッシュ版(6MB+6MBで12MB)ではなく、ハーフキャッシュ版(3MB+3MBで6MB)になっていることだ。この製品は、現在のQ6600を置き換える、デュアルコアの最上位製品と同価格帯に設定される“普及版クアッドコア”なのだが、Q6600がFSBが1,066MHzなのを除くとフル機能版であるのに対してやや後退した形になっている。 なお、余談になるが、今月中の投入が予定されていたIntelのハイエンドチップセット“X38”だが、当初は9月24日発表、販売開始が予定されていたが、このスケジュールは若干延期され、新しいスケジュールは10月10日発表、販売開始に変更された。すでに、水面下では製品の獲得競争も始まりかけていた秋葉原の関係者には少々残念なニュースだが、24日に間に合う製品が少ないと言われていただけに、逆に発表日に十分な製品がそろって選択できる状態になるのでユーザーにとってはよいニュースかもしれない。 ●Phenom FXをCore 2 Extreme QX9650で、FASN8をSkulltrailで迎撃 IntelがYorkfiledのスケジュールを若干早めて11月の中旬にも投入する背景には、もちろんライバルAMDの動向を警戒してということがある。 AMDは開発コードネーム“Barcelona”と呼ぶクアッドコアのCPUをOpteronとしてすでに発表しているが、AMDはそのデスクトップPC版として開発コードネームで“Agena”(アジェイナ)と呼ぶ製品を計画している。Agenaは“Phenom”(フェノム)のブランド名で投入される予定で、ハイエンドゲーマー向けのPhenom FX、クアッドコアのPhenom X4、デュアルコアのPhenom X2などのラインナップが用意される予定だ。 COMPUTEX TAIPEIのレポートでもすでにお伝えしたとおり、Phenomに関しては今年の終わりに発表し、大量出荷は2008年に入ってからということをAMDはすでに明らかにしている。OEMメーカー筋の情報によれば、AMDはまずPhenom FXの出荷を優先し、通常版のPhenom X4、Phenom X2の大量出荷を来年にという説明をしているという。Phenomのリリース時期には諸説あるのだが、多くの情報筋は11月と述べており、AMDがその時期にPhenom(おそらくはPhenom FXを先行させる)発表を行なうことはほぼ間違いない情勢だ。
要するにこのYorkfiledの前倒しは、このAMDの動きをにらんでということになるだろう。実際、Intelに近い関係者はそのことを隠そうとしないし、チャネルの関係者もこの製品のことを“Phenom FXキラー”と呼んでいる。
また、AMDは4X4ことQuad FX(2CPUソケットマザーボードでデュアルコアCPUで4コア、PCI Express x16スロットを4本)の後継として、Phenom FXを利用したFASN8(First AMD Silicon Next-gen 8core platform)を計画していることをすでに明らかにしている(別レポート参照)が、IntelはこのFASN8向けにも対抗製品を用意している。それが4月のIntel Developer Forumで明らかにされたSkulltrail(スカルトレイル)だ。 Skulltrailの詳細はあまり明らかになっていないが、Xeon用のチップセットを利用し、デュアルCPUソケットと4つのPCI Express x16スロットを備えるなど、FASN8に対抗する製品になる可能性が高い。FASN8が通常のUnbuffered DIMMを利用できるのに対して、このSkulltrailはFB-DIMMのサポートとなっており、コスト面でのディスアドバンテージを抱えている可能性があるが、これまでのIntelチップセットでは実現されていない機能を実現する可能性が高いことで注目を集め出している。 それはずばりNVIDIAのSLIだ。Intelに近い関係者は「NVIDIAはX38に関してはSLIを認めていないが、SkulltrailではSLIのサポートを認めたと聞いている」と証言しており、SkulltrailではSLIのサポートがされる可能性が高い状況になっている。X38に関して、NVIDIAは対抗製品(nForce 680i、そして今後リリースされる予定のC73)を持っておりSLIのサポートを認めない方向だが、対抗製品がないSkulltrailに関してはSLIを認める方向だというのだ。 Skulltrailにせよ、FASN8にせよ、ハイエンドゲーマー向けの製品となるので、デュアルGPUソリューションで圧倒的なシェアを持つSLIがサポートされるかどうかは非常に重要な要素だけに、このニュースはSkulltrailを待ち望むユーザーにとってよいニュースと言えるのではないだろうか。 ●“45nm”をキーワードに“ネイティブクアッドコア”のAMDと戦うIntel このように、FASN8をSkulltrailで、そしてPhenom FXを45nmプロセスルールで製造されるCore 2 Extreme QX9650を前倒しすることで迎撃するというのが、IntelのAMD対抗策ということになる。AMDが“ネイティブクアッドコア”でくるなら、Intelは45nmプロセスで勝負というわけだ。
こうしたこともあり、最近のIntelのマーケティングトークを見ているとなかなか興味深い。最近、Intelの幹部が事あるごとに語るキーワードがこの“45nm”なのだ。ショーン・マローニ上級副社長のCOMPUTEX TAIPEIでの基調講演、Intel 3シリーズチップセット発表会でのリチャード・マリノウスキー副社長の講演、日本でのクライアントレギュラーアップデート、いずれにおいても“45nm”というキーワードを幹部が連呼するというシーンを筆者は何度か目撃した。これが意味することは、Intelが今年後半のマーケティングの重要なキーワードに“45nm”を選択し、そして発表会などでそれが実行されている、そういうことだろう。 45nmプロセスルールで製造されるCore 2 Extreme QX9650の投入を前倒しするのもそうした一環と考えれば“自然な流れ”と言えるのではないだろうか。そしてそれは、以前の記事でもふれたように、Intelの45nmプロセスルールが非常に順調に立ち上がっているという話の証明でもある。
□関連記事 (2007年9月18日) [Reported by 笠原一輝]
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