AMDの開発コードネーム“RD790”は、現在のAMD690チップセットの後継となる次世代チップセットで、AMDの次世代プラットフォームであるAM2+プラットフォームのキーコンポーネントとなる。初日にプレスカンファレンスで発表されたFASN8(First AMD Silicon Next-gen 8-core platform)の詳細も徐々にではあるがわかってきた。本レポートでは、そうしたAMDのAM2+プラットフォーム関連の話題を取り上げていきたい。 ●大量出荷が2008年になったPhenomプロセッサ、まずはサーバーが優先 まず最初に、Phenomを待ち望んでいるAMDのデスクトップPCユーザーにはあまり嬉しくないニュースから始めないといけない。AMDが今年の後半にリリースを予定しているBarcelona(バルセロナ)/Agena(アジェーナ)という開発コードネームのクアッドコアCPUだが、AMDとしてはまずサーバー向けCPUのOpteronを優先させ、デスクトップ向けのPhenomはその後になるという。 AMD 最高セールス・マーケティング責任者兼上級副社長 アンリ・リチャード氏は「弊社の方針としては、まずサーバー向けのOpteronを優先させる。そして今年の終わりにPhenomを発表し、大量出荷は2008年に入ってからということになるだろう」と説明し、デスクトップPC向けのPhenom(Agenaコア)の大量出荷は2008年に入ってからになるという見通しを明らかにしている。 実際、OEMメーカーサイドからもこれを裏付ける証言が相次いでいる。複数のOEMメーカーの関係者が「AMDの関係者がクアッドコアのリリースは11月になると通知してきた」と述べるなど、当初の予定に比べるとやや後ろにずれ込んでいると証言しており、リチャード氏の発言を肯定している。
●AM2+プラットフォームに対応したRD790に対応したマザーボードは秋頃に登場 HyperTransport 3.0(HT3)に対応したAM2+プラットフォームのクアッドコアCPUのリリースはやや後ろになってしまったものの、AM2+プラットフォームの準備自体は順調に進んでいる。 ちなみに、用語としての“AM2+”というのは、ソケットの名前を示すのではなく、プラットフォーム全体としての名前を示している。ソケットそのものは、Socket AM2でなんの変わりもなく、あくまでHT3とDDR2-1066に対応したSocket AM2を搭載したマザーボードをAM2+と呼んでいる。従ってSocket AM2+というものは存在していないので注意していただきたい。
COMPUTEX TAIPEIでは、各社のブースにAMD790Xこと開発コードネーム“RD790”で知られる次世代チップセットを搭載したマザーボードが展示されていた。RD790のスペックはなかなか強力で、転送速度が倍になったPCI Express Gen2に対応し、PCI Expressの構成はx16×2(x16のスロットが2つで、電気的にも2本ともx16)、またはx8×4(x16のスロットが4つで、電気的には4本ともx8)が可能になっている。なお、サウスブリッジはSB700とSB600が利用可能で、マザーボードベンダにより選択可能になっている。なお、COMPUTEX TAIPEIでは安定性を重視したためか、多くのベンダがSB600を採用していた。 このRD790の最大の特徴は消費電力の低さだ。IntelのPCI Express Gen2をサポートしたチップセットの熱設計消費電力(ピーク時の消費電力、TDP)が38Wにもなると予想されているのに対して、AMDに近い関係者によればRD790のTDPはわずか9Wに過ぎないという。RD790はTSMC 65nmの製造プロセスルールで製造されるとのことで、それも低消費電力に貢献している可能性が高い。 なお、AMDはRD790の低価格版としてRX790、GPU統合版としてRS680も計画している。RS680にはUVD(Universal Video Decoder)付きのDirectX 10世代のGPU(Radeon HD 2000シリーズ)が統合されているほか、オーディオCODECがノースブリッジに統合されているので、HDMIの実装が容易、という特徴がある。 RD790/RX790のリリースは9月頃が予定されており、RS680に関しては来年(2008年)の頭頃が予定されているという。従って、計画通りに進めば、この秋頃にはAM2+プラットフォームに対応したマザーボードを入手することができそうだ。 ●Phenom FX、RD790、CrossFire 2.0で8x4の環境が実現へ
RD790のもう1つの特徴は、DSDC(Dual Socket Direct Connect)に対応していることだ。AMDのDSDCとは複数のソケットがそれぞれHyperTransportで直接接続させている状態のことを指す用語なのだが、要するにRD790は複数のCPUソケットに対応しているということだ(AMD690まではシングルソケットのみに対応)。 火曜日に行なわれたプレスカンファレンスでAMDが発表したFASN8だが、すでにAMDのチップセットもデュアルソケットに対応することが明らかにされており、このRD790がそれに対応するという。さらに、すでに述べたように、RD790のPCI Express構成は、x16×2のみならずx8×4にも対応しているので、4x8の構成にした場合、最高でx16のビデオカードを4枚装着することができるという。 「我々は顧客向けにFASN8をすでにデモしている。4つのCrossFireボードを装着し、うち1つで物理シミュレーションを行ない、残り3つでCrossFireのスケーリングを行なっている。我々はCrossFireの技術をリフレッシュして、この秋にCrossFire 2.0として発表する予定であり、Phenomファミリーの中で最初に発表する予定のPhenom FXと組み合わせて、エンスージアストユーザーに提供していきたい」(リチャード氏)との通り、FASN8ではCrossFire 2.0と呼ばれる次世代のCrossFireもサポートされることになる可能性が高く、現在のデモと同じように4枚のCrossFireボードを利用したものになるなら、8x4(8つのCPUコアと、4つのGPUコア)が実現されることになるだけに、ハイエンドゲーマーには要注目となるだろう。 ●AM2+プラットフォームのリファレンスチップセットはAMD790Xに 会場ではAMD790Xチップセットが華々しくフィーチャーされる一方、これまでAMDのチップセット市場をリードしてきたNVIDIAのAM2+プラットフォーム向けチップセットはどこのブースにも展示されていなかった。 OEMベンダの関係者によれば、AM2+プラットフォームでのリファレンスチップセットはRD790になっているという。AM2プラットフォームの時には、それがNVIDIAのnForceシリーズだったことを考えると、確実に何かが変わってきていることが伺える。 実際、NVIDIAのAM2+プラットフォームに対応したチップセットとしてMCP72を計画していることはすでに明らかになっているが、今回のCOMPUTEX TAIPEIではMCP72を搭載したボードは展示されていなかった。これは“表”と呼ばれる一般の来場者が見られるブースだけでなく、“裏”と呼ばれる流通業者など関係者だけが見ることができるバックヤードにおいても同様で、OEMベンダは未だにMCP72に関する資料すら受け取っていないという。このため、リリース時期に関してはかなり後ろにずれこんでおり、AMD790のリリースよりも後ろということになりそうだと複数の関係者が証言している。 ここからは筆者の推測に過ぎないが、おそらくNVIDIAはすでにチップセット事業のリソースの大部分をIntel向けに振り向けるべく舵を切ったのだと思う。NVIDIAの幹部は「AMDとの関係はこれまで通りで何も変わらない」(NVIDIA MCPビジネス ジェネラルマネージャのドゥルー・ヘンリー氏)と常々述べているが、おそらく表にはでてこないもっと深層部分でIntelプラットフォームへと舵を切っているのだと思う。AMDがATIを買収したときに、今回のようなこと(新しいプラットフォームでAMDのチップセットがリファレンスになり先に登場するような事態)が起こることは、誰でも想像できる事態であり、それをNVIDIAの幹部が予想していないわけがない。 AMD向けとIntel向け、どっちが市場として大きいか、これはシェアから考えれば明らかで、ボリュームはIntel向けの方が圧倒的に大きい。これまでは、AMDのチップセット市場を、言ってみれば独占しているようなものだったので、AMD側にリソースをたくさん割く意味があった。しかし、AMD自身のチップセットが登場してくるのであれば、話が違ってくることは言うまでもない。では、シェア通りに戦略を転換しようと考えるのはむしろ必然といえるのではないだろうか。 “昨日の敵は今日の友”とはよく聞く格言だが、いやはやビジネスの世界というのもなかなか難しいものだと、つくづく考えさせられたCOMPUTEXだった。 □COMPUTEX TAIPEI 2007のホームページ(英文) (2007年6月8日) [Reported by 笠原一輝]
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