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欧州で登場した“低コスト版”PS3の正体




●低コスト版PS3ではGSハードウェアのみを搭載

GDCでのSCEのキーノートスピーチ

 PLAYSTATION 3(PS3)のハードウェアは、早くも次のリビジョンに移ろうとしている。SCEは、ヨーロッパ版PS3から、新設計の“低コスト版”ハードウェアへと切り替える。今後、他の地域でも、PS3ハードは暫時、新設計のPS3ハードへと置き換わって行くと見られている。しかし、先週開催されたGDC(Game Developers Conference)では、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、低コスト版PS3については一切触れなかった。

 現在のPS3は、PS2の心臓部であるCPU「EE(Emotion Engine)」とGPU「GS(Graphics Synthesizer)」を統合した「EE+GS」チップとPS2のメインメモリ128Mbit RDRAM 2個を、PS2タイトルとの後方互換のために搭載している。しかし、新バージョンのPS3では、EE+GSチップと2個のRDRAMチップは取り去られる。EE上のタスクはPS3のCPU「Cell Broadband Engine(Cell B.E.)」上でのエミュレーションに、GS上のレンダリング処理は新たに加えられるGSチップでハードウェア処理されるようになる。ソフトとハードの複合で、互換性を確保する。

 業界関係者によるとGSを残す理由は、GSをPS3チップセットでエミュレートできないためだという。GSが、超広帯域かつ低レイテンシのeDRAM 4MBの搭載を前提としたパイプラインになっているからだ。GSの特殊なアーキテクチャは、同じGPUでも、PS3のGPU「RSX(Reality Synthesizer)」はメモリは外付けを前提としたPCグラフィックス型のパイプラインなので置き換えることができない。

 また、PS3のCell B.E.のSPU(Synergistic Processor Unit)群でもGSをエミュレートすることは難しいという。SPUにはオンチップメモリ(Local Store)が付属しているが、各SPUあたり256KBずつなので、単純なメモリ量的な面でも不十分だ。また、GSをダイレクトに叩いて、特殊な使い方をしたデベロッパが多いことも、ハードウェア実装を必要とする理由となっていると、複数のゲーム業界関係者は指摘する。

 ちなみに、Xbox 360でも、エミュレーションでの互換性の最大の障壁はCPUではなくGPUの方だったという。Xboxタイトルをエミュレータで走らせると、オブジェクトが異常なポジションに表示されたりといったGPUトラブルが続出したという。

●チップ統合を前提とするならコスト削減効果がある

 現状では、まだ新PS3のGSチップの詳細はわかっていない。SCEは130nm(0.13μm)プロセスまではGS単体(ディスクリート)チップを製造していたが、90nmプロセスからはEEとGSを統合したEE+GSに切り替えている。しかし、新型PS3に搭載されるのは、130nm版の旧GSではなく、新規に起こしたシリコンだという。

 従来のPS3は、PS2タイトル実行時にはEE+GSに完全に処理を渡している。そのため、PS3チップセットとはブリッジで接続しているだけだった。しかし、新型PS3ではEE上のプログラムはCell B.E.で実行するため、Cell B.E.とGSがそれなりのバスで結ばれていなければならない。

 Cell B.E.にFlexIOで直結できるチップは2個まで。Cell B.E.の設計を変更しない限り、RSX以外にはサウスブリッジチップしか接続できない。そのため、GSは、RSXかサウスブリッジチップに接続するか、そのどちらかと統合すると推定される。

 もし新GSチップがディスクリート(単体)チップだとしても、コスト削減を考えるならSCEの目的は最終的にチップの統合にあると思われる。統合するとしたら、ダイ(半導体本体)に余裕があり、高クロック動作ではないサウスブリッジが自然だ。そのため、GSはサウスブリッジチップに接続または統合されると推定される。

将来のPS3の内部構成想定図
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 単純にEE+GSを、GSチップに置き換えるだけではコスト削減は十分ではない。チップ数はRDRAMの2個が減るだけだからだ。しかし、チップの統合を考えると、EE部分をエミュレートすることは、コスト削減上で大きな効果がある。EEのメインメモリである2個のRDRAMチップを削減できるからだ。

 EE+GSをサウスブリッジチップに統合する場合は、メインメモリの32MBを何らかの形で実装する必要がある。Cell B.E.側のメインメモリを使うとメモリレイテンシが大きく変わってしまうからだ。その場合、メインメモリ32MBをRDRAMチップなどで外付けにするか、eDRAMで混載するかどちらかの方法しかない。外付けにするとDRAMチップのコストがいつまでも削減できない。32MB分を混載すると、eDRAMが相対的に大きな面積を取るので、ダイ(半導体本体)が肥大化してしまう。

 それに対して、EEをCell B.E.でソフトエミュレートすればメインメモリはCell B.E.のXDR DRAMメインメモリ上に確保され、別個に32MBを載せる必要はなくなる。サウスブリッジチップに統合するのは、GSのロジック部と4MBのeDRAMだけになり、ずっと統合が容易になる。ちなみに、90nmのEE+GSの発表時のダイサイズ(半導体本体の面積)は86平方mmで、この半分程度がGSブロックとなっている。

●メインメモリ-GS間のレイテンシをカバー

 この方式でPS2互換を取る場合、互換性の上でハードウェア的に問題となりそうのは、メインメモリからGSまでのレイテンシだ。GSではオンダイで載せているeDRAMのメモリ量が4MBと限られている。そのため、PS2タイトルの多くは、EEに接続されているメインメモリとeDRAMの間でテクスチャデータを頻繁に入れ替えている。そうした事情から、メインメモリ−GS間のレイテンシが変化すると、表示に影響が出る恐れがある。

 この問題については、今回は、ターボバッファ的なメモリを用意することで解決しているという。ターボバッファの詳細はまだわからないが、リードオンリキャッシュで、テクスチャアクセスを減らしていると想定される。GSチップは必然的にeDRAM混載プロセスとなるため、オンチップにより多くのeDRAMを積み、それをバッファとして使っている可能性がある。PS2グラフィックスのテクスチャの場合は量が少ないので、キャッシュは効きやすいはず、とある業界関係者は言う。

 新PS3のGSチップが新シリコンだとすると、準備はかなり前から進められていたことになる。一般にGPUの設計から製造までには18カ月のタイムラグがある。GSの場合は90nmプロセスで製造するとしたら、ベース設計は、ほぼそのままEE+GSのものを流用できる(バッファを載せるとしたらバッファロジックの追加が必要となる)。そのため、開発期間は18カ月より短くなる。統合チップの場合はより長い開発期間が必要となるが、ディスクリートGSでは短いはずだ。それでも、検証を含めると量産品が十分な数を出せるまでに最低でも12カ月程度は必要となると推測される。

 さらに、今回のケースでは新GSチップが完成してからエミュレータソフトウェアを完成させるプロセスが必要となる。そのため、実際にはGSチップはかなり前に完成していて、EE部分のソフトウェアエミュレータとのチューニングと検証に時間をかけていた可能性が高い。だとすると、計画自体がスタートしたのは、かなり前で、膨大な労力をかけていると考えられる。

 それに対してEE+GSチップは既存のPS2チップセットをそのまま流用している。つまり、EE+GSチップ搭載は、ボードとEE+GSをキックする仕組みを作れば実現できる。必要な期間と労力は、より小さいと推定される。

●GSチップだけの搭載が本来のPS3の姿?

 こうした背景を考えると、以前のこのコーナーでの予測は間違いで、PS3でのPS2タイトルとの後方互換性は、もともとEEエミュレータソフトウェア+GSハードウェアの形態で取るプランだった可能性が極めて高い。チップの統合の容易さを考えると、EEのメインメモリを考慮しなくて済む分、この方式の方がスマートだからだ。つまり、EE+GSからGSへの切り替えは、コスト削減の窮余の策というより、本来の計画のずれで生じた可能性がある。GSハードまたはソフトの遅れのためにエミュレータの完成がずれ込み、その結果、繋ぎとしてスタート時はEE+GSを載せることになったのかもしれない。

 ソフトウェアエミュレータの採用で、疑問となるのは互換性のレベルだが、これについてはまだあまり情報はない。原則を言えば、ソフトウェアエミュレーションはハードウェアベースよりも、互換性が落ちる。また、タイトルによってはパッチが必要になるかもしれないが、今のところデベロッパにはそうした話も来ていないようだ。

 チップを統合化するとコスト削減のメリットが出る新PS3。最大のポイントは、その狙いがどこにあるのかという点だ。単純にハードウェアコストを下げて経営状態の改善を図ろうとしているのか、それとも、もっと積極的にPS3の低価格化を図るつもりなのか。

 状況だけを見ると、低価格化の圧力は強まっているように見える。海外市場ではXbox 360との競合のために、日本国内市場では販売促進のために、どこかの時点でアグレッシブな価格戦略が必要となりそうだ。

 しかし、コスト的には、EE+GSとRDRAMの削減で、即座に低価格化を実現できるほどの節約には見えない。メインチップ群の65nmプロセス化などと複合させないと、難しそうだ。65nm化でCell B.E.やRSXのダイが小さくなればチップ製造コストが下がる。電力を下げることができれば冷却機構や電源の製造コストを下げられる。

90nm版Cell B.E.と65nm版の比較
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 もっとも、今世代は、ゲーム機ハード以外のソフトウェアやサービスの開発・維持コストが膨れあがっているため、相対的にハードの部材コストが全体のコストに占める比率は下がっている。その一方で、タイトル以外のビジネスも広がる可能性が高い。そのため、ゲーム機1台につき、タイトルが何本売れるから、ハードウェアコストに対して利益はこれだけといった、単純な見積もりも難しくなっている。

 例えば、新サービスである「Home」にはかなりの開発コストがかかる。しかし、Homeで新たな収入の道が開けるなら、開発コストを償却してお釣りが来る。こうした事情から、ゲーム機のコストと価格の動向は、読みにくくなっている。

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【3月13日】IBM、65nmプロセスのCellを製造開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0313/ibm.htm
【3月12日】【海外】PLAYSTATION 3の新サービス「Home」のもたらすもの
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0312/kaigai342.htm
【2006年11月11日】PLAYSTATION 3ハードウェアレポート【速報編】
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1111/ps3.htm
【2006年11月11日】PLAYSTATION 3ハードウェアレポート【部品編】
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1111/ps3_2.htm

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(2007年3月14日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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