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“メタヴァース”が次のキーワード




●コミュニケーションが最大のエンターテイメント

Game3.0について説明するPhil Harrison氏(President, Sony Computer Entertainment Worldwide Studios)

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、先週米サンフランシスコで開催されたGDC(Game Developers Conference)で、PLAYSTATION 3(PS3)の新オンラインサービス「Home」と、PS3世代のゲームのコンセプト「Game 3.0」を発表した。

 Game 3.0は、一言で言えばネットワーク接続されたデバイスで、インタラクティブなコンテンツやサービスを楽しみ、コミュニティに参加する、第3世代のゲーム環境だ。SCEが以前、「ネットワークド・デジタル・エンターテイメント」と呼んでいたコンセプトのラベルを貼り替えたものに近い。

 また、Game 3.0の実態はWeb 2.0のそれに酷似している。つまり、Web 2.0がさまざまな技術とサービスのゆるい集合につけられた名称であるのと同じように、Game 3.0も雑多な技術とサービスをくくった名称だ。Web 2.0が「Web 2.0」というくくりで注目され発展したのと同じことを、SCEはGame 3.0で目指している。

 エンドユーザーにとってWeb 2.0の実際の姿は、GoogleやSkype、YouTubeなどさまざまな会社が提供するサービスだ。同様に、ユーザーにとってのGame 3.0も具体的なサービスやタイトルの姿を取る。その中核となるのが、オンラインサービスHomeだ。概念的には、HomeがGame 3.0のさまざまなサービスやコンテンツへの入り口を提供するようになると思われる。つまり、Homeを理解すれば、Game 3.0がわかるということだ。

仮想空間内で“生活”する新サービス「Home」

 Homeは、3Dの仮想世界をベースにしたオンラインサービスだ。ユーザーは自分の分身である3Dキャラクタ「アバター(avatar)」としてHomeの仮想世界で“生活”することができる。他のユーザーとチャットしたり、映像や音楽などのコンテンツを楽しむことも可能だ。

 Homeはオンラインコンテンツにアクセスするためのポータルでもあり、また、コミュニケーションの場でもある。SCEIの久夛良木健氏(SCEI グループCEO兼代表取締役会長)は以前のインタビューで「コミュニケーションは最大のエンタテインメント」と語っていたが、Homeはそのための媒介となる。

 仮想空間でPS3を拡張するHomeサービスの狙いは、PS3を毎日稼働させることにある。

●PS3に毎日電源を入れてもらうためのHome

 今世代のゲーム機戦争のポイントは、既存のゲームユーザーという大きさの決まったパイを奪い合うことではない。いかに、パイの外側の新ユーザーを引き込み、彼らがアクティブにゲーム機に触るようにしていくかという点にある。そうしない限り、限界が見えてきた感があるゲーム機ユーザー人口を拡大することができない。

 パイを拡大する戦略は、各社で大きく異なっているが、ゲームコンソールの場合、カギとなる要素は同じだ。それは「毎日電源を入れてもらうこと」だ。

 ガリガリのゲーマーは黙っていても毎日ゲームコンソールの電源を入れる。しかし、カジュアルなゲーマーは、いったん電源を入れなくなると、そのままゲームコンソールを放っておくことが多い。ゲーム機が稼働しなければ、その上のビジネスも成り立たない。そのため、ユーザーをゲーム機に触らせることが重要となる。

 Wiiのチャネルのコンセプトはまさにそこにある。ゲームをあまりやらないユーザーが、毎日Wiiに触る動機を作るために、ニュースや天気予報を配信する。それでWiiとWiiリモコンに対する“慣れ”を作り、ゲームやチャネルサービスを利用してもらうという戦略だ。

 Microsoftも、電源を入れさせる点には注目している。以前、あるマイクロソフト関係者は「毎日電源を入れてもらうことが重要。そのために、ゲーム+αのαの部分が大切だ」と語っていた。Microsoftが出した結論は、Xbox Liveでの実用性を重視したネットワークサービスで、まだきちんと結論を出せたとは言えそうにない。

 そして、このテーマに対するSCEの回答が、Homeだ。特に、ソーシャルなコミュニティとしてHomeが使われるようになると、ユーザーが毎日電源を入れるようになる可能性が高い。

●Homeとゲームの食い合いがSCEにとっての課題

 しかし、「毎日触ってもらうためのサービス」戦略には、じつは重大な自己矛盾がある。それは、毎日電源を入れてもらうほど魅力的なサービスを提供すると、ユーザーがそちらにばかり時間を割くようになり、ゲーム機でゲームをやらなくなる可能性があることだ。PS3の場合は、Homeでソーシャルなアクティビティにばかり時間を割くユーザーは、あまりゲームを買ってくれないかもしれない。

 実際、あるゲーム開発者は、HomeでPS3ユーザーが増えても、ゲームをやってくれないのなら、やはりゲームが売れない状況は変わらないのでは、不安を漏らしていた。そのため、SCEはHomeのソーシャル型サービスの側面を、一定以上に便利で快適にすることが難しい。Homeの上の非ゲームコンテンツにビジネスが偏り過ぎると、ゲーム機としてのアイデンティティが揺らいでしまう。バランスを取る必要がある。

 もっとも、SCEがPS3でのビジネスの主軸を、ゲーム中心から、非ゲームコンテンツ&サービス中心へと移してゆこうとしているのなら、話は別だ。実際、PS3ユーザーにHomeが浸透し、Homeでさまざまなオンラインコンテンツやサービスに親しむようになれば、自然に非ゲームコンテンツの比重は増えるだろう。しかし、長期的にはそうした流れにあるとしても、短期間で移行しようとしているとは思えない。また、そうなったとしても、インタラクティブなコンテンツの開発は、やはりゲーム開発者が主導する領域だろう。

 こうした事情から、SCEはゲーム開発者/ゲームパブリッシャの支持を失うわけにはいかない。Homeにはゲーム機としての足かせがはめられることになるだろう。

●Xbox 360の背後にもスノウ・クラッシュが

 前回の記事でも説明した通り、Homeのような仮想世界は「メタヴァース(The Metaverse)」と呼ばれることが多い。ニール・スティーヴンスン(Neal Stephenson)氏のSF小説「スノウ・クラッシュ(Snow Crash)」に出てきた用語だ。

 そして、非常に興味深いのは、MicrosoftでXbox 360の開発の指揮を取ったJ. Allard氏(J・アラード)氏(Microsoft, Corporate Vice President, Design and Development, Entertainment and Devices Division)も、じつはスノウ・クラッシュのメタヴァース信奉者であることだ。

 米国の著名なゲームジャーナリストDean Takahashi氏の著書『The Xbox 360 Uncloaked The Real Story Behind Microsoft's Next-Generation Video Game Console』(Dean Takahashi, SpiderWorks, LLC)の中では、Allard氏が「スノウ・クラッシュ」について熱く語っている。

 The Xbox 360 Uncloakedでは、Allard氏がゲーム機開発に向かった原動力の1つが、スノウ・クラッシュであったことが示唆されている。実際、Allard氏のXbox Liveゲーマータグ「Hiroprotagonist」は、スノウ・クラッシュから取られたもの(主人公の名前)だ。つまり、メタヴァースについて思い入れがあるという点で、PS3を牽引してきた久夛良木氏と、Xbox 360を指揮したAllard氏は、じつは一致している。

 スノウ・クラッシュのメタヴァースに影響を受けてXboxチームにやってきたAllard氏の頭の中に、Xbox 360開発の際に、HomeやSecond Lifeと同様のメタヴァースのアイデアが浮かばなかったはずがない。だが、SCEはメタヴァースを選び、Microsoftはメタヴァースを選ばなかった。これが大きな分かれ目だ。

 Microsoftはメタヴァース型仮想世界ではなく、あくまでも、ダイレクトにできるユーザーインターフェイスにこだわった。そこには、操作に手間がかかるメタヴァースは、ゲーム中心のユーザーには受け入れられにくいという計算があったのかもしれない。ゲームがプレイされるマシンとしてXbox 360を成り立たせるには、アクティブなゲーマーが使いやすいハードとソフトにする。それが、これまでのXbox 360の思想のように見える。

 しかし、もう1つの可能性も考えられる。それは、Microsoftがさらに高度なレベルで、メタヴァースの提供を考えていて、それにはまだ時期尚早と考えているのかもしれない。

●メタヴァースを開発者に向けて公開して行くと

 HomeやSecond Lifeに見えるのは、メタヴァースとゲームのシームレスな統合だ。例えば、Homeの紹介では、ユーザーの分身であるアバターがフレンドのアバターとプレイできるスポーツゲームのアリーナが紹介された。こうしたインワールドゲームでは、Homeのエンジン(ゲームエンジンソフトウェア)でユーザーがマルチプレーヤーでのゲームを楽しむことができる。

 これを発展させると、メタヴァースのAPIを、ソフトウェア開発者や、さらにはエンドユーザーが利用したり拡張できるように提供する可能性も考えられる。メタヴァースもプログラム的に見れば、MMO型のゲームシステムに過ぎない。Second Lifeでもユーザーがツールとスクリプトでコンテンツの変更/創造ができる。それをもっと押し進めて行けば、インワールドゲームの可能性がさらに広がる。

 例えば、エンジンをうまくコンポーネント化すれば、ゲーム開発者が、メタヴァースのエンジンを拡張して、独自のゲームを構築できる。現実世界の中にテーマパークを作るように、ゲーム開発者がメタヴァースの中に、ゲーム世界を作ることができるようになる。エンドユーザーにとっては、メタヴァースの自分のアバターをそのまま操作(能力や装備、外観は変わるとしても)して、ゲーム世界に入るイメージとなる。この場合、ゲーム開発者独自のエンジンではなく、メタヴァースのエンジンを拡張する形になるので、自由度は制限される。しかし、容易にオンラインゲームを開発できるようになる。

 一方、エンドユーザーに対しては、スクリプトベースより、もっと直観的なゲーム制作ツールを提供できるかもしれない。例えば、今回のGDCのSCEのキーノートでは、ユーザーが自分のゲームを、簡単なメタファを使って作成してオンラインで公開できる「LittleBigPlanet」というゲームが発表された。これをメタヴァースに応用できれば、直観的なインターフェイスでインワールドゲームを作って提供することができるようになる。

 しかし、そうしたAPIや開発環境を整えるとなると、ツールとOSの企業であるMicrosoftの方が得意だ。そして、Microsoftがもしメタヴァースを提供するなら、プロからエンドユーザーまでの開発環境を含めた包括的なメタヴァースのプランを持ち出してきても不思議ではない。

□関連記事
【3月12日】【海外】PLAYSTATION 3の新サービス「Home」のもたらすもの
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0312/kaigai342.htm
【3月8日】SCEA、GDC2007の基調講演でPS3用の新作・サービスを発表(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20070308/gdcps3.htm

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(2007年3月13日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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