来年1月に登場が見込まれている、Intelの65nmプロセス版デュアルコア「Presler」。そのPrelserを採用した最上位プロセッサ「Pentium Extreme Edition 955」の評価キットを入手できたので、早速レポートをお届けしたい。 ●FSBが800MHz→1,066MHz、L2キャッシュは倍増 今回テストするPentium Extreme Edition 955(以下Pentium XE 955)は、65nmプロセスで製造されるコア「Presler」が初めて採用されたCPUとなる。PreslerについてはIDFにおいて、すでに多くの情報が提供されているので、ここでは簡単にまとめるに留めたい。 まず、パッケージだが、LGA775が引き続き採用されており、CPU自体の見た目は大きく変わらない。ただし、90nmプロセスのデュアルコアCPU「Smithfield」に比べると、裏面のキャパシタがずいぶんと多くなっているのが分かる(写真1、2)。
表面はヒートスプレッダに覆われていてダイが見えないが、1つのダイに2つのコアを搭載したSmithfieldと異なり、ダイを2つに分けて搭載している(写真3、4)。もっとも、ダイが分かれたというだけで、各コアのダイヤグラムに違いはない(写真5、6)。NetBurstアーキテクチャの採用や、各コアそれぞれがFSBを持ち、CPU内部に調停を行なう機能は持たない点など、基本的な仕組みはSmithfieldから変化していないことになる。
一方で、スペック面では大きな変更が行なわれている。画面1にCPU-Z 1.31の結果、表1にSmithfieldコアを採用する「Pentium Extreme Edition 840」(以下Pentium XE 840)とのスペック比較を掲載している。特にパフォーマンスに影響するであろう相違点は、FSBクロックと動作クロック、そしてL2キャッシュだ。 まず、FSBについてだが、Pentium 4 Extereme Editionで1,066MHzへと引き上げたものの、Smithfieldでは800MHzに留められていたが、Preslerで改めて1,066MHz FSBへと引き上げている。CPU自体の動作クロックは、266MHz×13倍で3.46GHzとなる。 ただし、Pentium Extreme Edition 955は、1,066MHz FSBをサポートするIntel 955XやIntel 945シリーズではサポートされない。動作にはIntel 975Xが必須となるので注意が必要だ。もっとも、“Prelser=Intel 975Xのみ”という構図ではなく、Prelserを採用したメインストリーム向けCPUがこれに該当することになるようである。 L2キャッシュは各コアに2MBを搭載し、計4MBとなる。Smithfiledから倍増されたことになり、パフォーマンスへの好影響が期待される。 このほか、最大動作電圧が若干ながら引き下げられている。90nmプロセスではうまくいかなかった低電圧化が、65nmプロセスではうまくいったと見ることができる。ただし、TDPは依然として130Wとなっており、電源や冷却面に注意が必要なのはSmithfieldと同様と考えてよさそうである。ちなみに、評価キットに付属してきたCPUクーラーは、Pentium XE 840のリテールパッケージに付属するものと同等品となっている(写真7、8)。 このほかの機能については、まず、デュアルコア世代からPentium Extreme Editionのアドバンテージいう意味合いが持たされているHyper-Thredingを実装(写真9)。また、EM64T、XD Bitに加え、仮想化技術のIntel Virtualization Technologyもサポートしている(写真10)。 Pentium XE 955にはIntel 975Xが必要であることは先に触れたが、今回のテストでは、Intel製の同チップセット搭載マザー「D975XBX」を使用する(写真11)。 Intel 955Xを搭載する「D955XBK」が4フェーズのVRMであったのに対し、本製品では5フェーズとなっている点や、コンデンサ上に搭載されたヒートシンクなどが印象的だ(写真12)。12V供給用の電源コネクタは8ピンタイプになっており、Pentium XE 955搭載時は、4ピンの12Vコネクタでは動作しなかった。 もう1つの特徴がPCI Express x16スロットを3基備えている点だ(写真13)。Intel 975Xでは、ビデオカードインタフェースとなるPCI Expressを、x16×1またはx8×2の構成に変更できる機能を持った。写真13の上部2つのスロットがビデオカード用のPCI Expressスロットとなる。 実際に試してみると、ビデオカードを最上部スロットに1枚だけ装着したときにはPCI Express x16、2つのスロットに2枚のビデオカードを装着した場合はPCI Express x8×2へと自動的にレーン数が変更になった(画面14、15)。ただし、自分でレーン数を調整することはできず、ビデオカードの枚数で自動的に変更されてしまう。なお、最下部にあるPCI Express x16スロットは、内部ではPCI Express x4相当となっている。 ●Pentium XE 955の性能をベンチマークで検証 それでは、ベンチマークを利用して本製品のパフォーマンスを見ていきたい。テスト環境は表2に示したとおりで、比較対象にはPentium XE 840、同じ1,066MHz FSBのシングルコアCPU「Pentium 4 Extreme Edition 3.73GHz」(以下、Pentium 4 XE 3.73GHz)、AMDのデュアルコアCPU「Athlon 64 X2 4800+」を用意している。
●CPU性能 まずは、CPU性能を見るため、「Sandra 2005 SR3」の「CPU Arithmetic Benchmark」と「CPU Multi-Media Benchmark」(グラフ1)の結果を見てみよう。Sandra 2005ではSR3からFPUを使った浮動小数点演算テストが省かれてしまった。このテストでは、Pentium系が拡張命令を使った浮動小数点演算に強い傾向にあったので、Athlon 64系にとっては分の悪い変更に感じられる Pentium XE 955の結果だが、Pentium XE 840を1として相対性能を見ると、どの結果も1.08程度の数値になっている。動作クロックが3.46GHz:3.2GHzということで、およそクロックにどおりの性能向上。基本的なマイクロアーキテクチャに変更がないので、素直な結果が出ているといえる。
続いては「PCMark05」の「CPU Test」の結果で、各テストを単独で実行するシングルタスクテスト(グラフ2)、2個のタスク、4個のタスクをそれぞれ同時実行するマルチタスクテスト(グラフ3)の結果を示している。 シングルタスク、マルチタスクテストにおける2パターンのテストの平均値をPentium XE 840の結果と比較してみると、シングルタスクテストのImage Decompression以外は、クロック比以上の向上を見せている。キャッシュ倍増やFSBの帯域幅向上によって、同時に扱うデータが増えた際にもボトルネックが発生しづらくなり、クロック比以上の性能向上に繋がったと考えられる。 もっとも、シングルタスクのテストにおいては、Pentium 4 XE 3.73GHzの後塵を拝している。動作クロックの差が響いているので当然の結果ともいえるが、シングルスレッド/シングルタスクのアプリケーション利用シーンを想定すると、まだまだ動作クロックの高いシングルコアCPUに分がある格好だ。
●メモリ性能 次はメモリ性能のチェックのため、Sandra 2005 SR3の「Cache & Memory Benchmark」の結果を見てみたい。グラフ4に全結果、グラフ5に一部結果の抜粋を示している。 まず、グラフ4から全体の動きをみてみると、動作クロックが高いPentium 4 XE 3.73GHzのキャッシュアクセス速度の速さは納得できる。ただ、気になるのはL2キャッシュの速度である。 Pentium XE 955とPentium XE 840のL2キャッシュのアクセス速度を比較すると、1MBの転送テストでもL2キャッシュの範囲に収まり速度を維持できているのは当然として、L2キャッシュ全域のアクセス速度がほとんど変わらない結果になっているどころか、むしろPentium XE 955の方が遅い傾向にある。容量増加に伴うオーバーヘッドが増えたものの、動作クロックの上昇分でそれをカバーしている格好といえる。 メモリアクセスに関しては、同じ1,066MHz FSBのPentium 4 XE 3.73GHzに比べると、若干遅い傾向が見られる。これはPentium XE 840のテストのときにも見られた傾向で、コアごとにFSBを持つNetBurst世代のデュアルコアによる弊害と思われる。
●アプリケーション性能 続いて、実際のアプリケーションを利用したベンチマークの結果を紹介する。テストは「SYSmark2004」(グラフ6)、「Winstone2004」(グラフ7)、「CineBench 2003」(グラフ8)、動画エンコードテスト(グラフ9)、「Intel Multitasking Scenario Builder」(表3)である。 まずSYSmark2004の結果だが、Pentium XE 840に対してはスコアを伸ばしているものの、Athlon 64 X2 4800+と比べると、かなり低い結果である。特に気になるのは3D Creationの結果だ。以前のテストと比べても、明らかにスコアが低いのである。 何度実行しても似た傾向の結果になる上、Pentium XE 955/840ともに同じように低いスコアとなるので、Intel 975Xとの組み合わせにおける環境の問題と考えているが、ほかのテストではこうした不思議な結果が出ていない。BIOSレベルで修正が可能と思われるので、今後の改善を待ちたい部分である。現状としては、本来マルチコアが得意とするテストであるここでスコアを伸ばせなかったことが足を引っ張って、Athlon 64 X2 4800+に苦戦している要因となっているのは確かだ。
次のWinstone 2004の結果は、マルチタスクテストがないこともあってシングルコアのCPUに有利な結果が出る。コア1つあたりの性能が重視される本テストではPentium XE 955の論理CPU4個の威力も発揮されず、Athlon 64 X2 4800+の優位性が光る結果になっている。
続くCineBench 2003の結果も、セオリーどおりと見ていいだろう。シングルスレッドのレンダリングテストではコア1つあたりの性能差がよく表れている一方で、マルチスレッドのレンダリングテストにおいては論理CPUの数が物をいわせている。ただ、これまでPentium XE 840のスコアを上回っていたAthlon 64 X2 4800+が、Pentium XE 955に抜かれてしまっており、ここではPentium XE 955のクロック上昇が見事に活きた格好といえる。
続いてエンコードテストだが、今回よりテストを追加/変更しているので触れておきたい。MPEG-1/2およびWMV9についてはTMPGEnc 3.0 XPressを利用しているが、WMV9のエンコード条件を変更。加えてTMPGEnc 2.525を利用したDivX6.1およびMainConceptのH.264 Encoderによるエンコードテストを追加した。 ここまでは720×480ドットのDVファイルをエンコードしているが、さらにHD映像のエンコード性能を見るため、1,920×1,080ドットのMPEG-2ファイルをWMV9およびDivX6.1へエンコードするテストを追加している。こちらのDivX6.1エンコードには、XMPEG5.0.3を利用。各テストのビットレートはグラフに示したとおりで、いずれも固定ビットレートの1passエンコードである。 結果を見てみると、MPEG-1についてはAthlon 64 X2 4800+が最高性能を見せているように、4個の論理CPUの威力はそれほど大きくない。それでも、Pentium XE 955がPentium XE 840に対して大幅にスコアを伸ばしたのは、クロック上昇とともにFSB向上によるメモリアクセス速度の高速化が影響したからだ。MPEG-2は多少負荷が重くなるためか、4個の論理CPUが有利に働いている。 MPEG-4系のテストは、DivX6.1、WMV9、H.264の順にマルチスレッド対応がなされていると思われる結果だ。つまり、マルチスレッド処理がしっかりインプリメントされているDivX6.1はPentium XE系がまずまずの性能を発揮するが、対応が進んでいないH.264のエンコードではAthlon 64 X2 4800+のコアの性能の良さが光っている。HDのテストにおいても傾向は同様である。
次のIntel Multitasking Scenario Builderの結果だが、これについてはちょっと説明が必要だろう。これはIntelが開発中のベンチマークツールで、複数のアプリケーションを同時実行し、その実行時間を測定するものだ。テストは、 1. AVG Anti Virusによるウイルススキャン の4つから、Lightテストでは1と2、Mediumテストでは1~3、Heavyテストでは1~4を同時実行する(画面2)。結果は、ログファイルに出力されているので、各アプリケーションの実行に要した時間を確認できる(画面3)。 一般にCPUメーカーのベンチマークソフトはマーケティング的側面が強く、自社のCPUのアーキテクチャが得意な処理を重視して作成された結果は参考にしにくい面を持っていることも多い。 しかしながら、本ツールで実行するのはフリーで入手できるソフトウェアを利用したテストで、内容はXMLファイルで管理されている(画面4)。どういったパラメータがコマンドラインで実行されているのかも明確であり、その気になればユーザー自身で手動テストを行なうことも不可能ではない。しかも結果は、独自スコアなどではなく、実行時間という実感のある数値で表示される。CPUメーカー製のベンチマークソフトとしては、かなり透明性のあるツールという印象を受ける。 今回は、Version 1.01のTrial版を入手してのテストだが、今後開発が進めば、エンドユーザーに公開される可能性もあるという(それを意識してフリーで入手可能なソフトのみでテストする設定になっているのだろう)。Scenario Builderというからには、実行する内容をユーザーの手でアレンジできるようになる可能性もあり、今後の進展に期待したいツールだ。 表中では、各テストにおいて全処理が終了した時間を赤字で示しているが、3タスクの同時実行まではAthlon 64 X2 4800+が高速であることが分かる。コアあたりの性能の良さに加えてデュアルコアによる並列処理性能も活きているといえる。 本題のPentium XE 955は4タスク処理のHeavyテストでは好結果を見せているが、それ以外はインパクトのない結果である。2タスクにいたっては、デュアルコアのPentium XE両製品よりもシングルコアのPentium 4 XE 3.73GHzの方が速いほどであり、このテストにおいては4個の論理CPUが活きる4タスク同時実行時に、その効果が垣間見える程度に留まっている。 【表3】Intel Multitasking Scenario Builder 1.0.1 Trialの結果
●3D性能 それでは最後に、3D性能のテスト結果である。「Unreal Tournament 2003」(グラフ10)、「DOOM3」(グラフ11)、「3DMark05」(グラフ12)、「3DMark03」(グラフ13)、「AquaMark3」(グラフ14)の結果を示している。全体の結果を見ると、あいかわらずAthlon 64 X2 4800+の性能の高さが光る。 Intel勢に限ってみてみると、全体にPentium 4 XE 3.73GHzのスコアが良いようだ。今回はデュアルコアCPUへの最適化を行なっているForceWare 81.95を利用しているおり、DOOM3のようにPentium XE 955が健闘しているテストもあるものの、同じアーキテクチャであればコア数に関係なく動作クロックの影響が大きいという点から劇的な変化は表れていないといえる。
●クロックアップの効果は見られるが苦戦は続く 以上のとおり、Pentium XE 955のベンチマーク結果をお伝えしてきたが、Pentium XE 840と比較すると確実に性能向上が見て取れる。動作クロック、FSBクロック、L2キャッシュ容量と3つの要素を強化した製品なだけに、性能が下がる要素はないわけで、それが証明された格好といえるだろう。 ただ、それが劇的なものかというと、そうとは言い切れない。Pentium XE 840がAthlon 64 X2 4800+に負けていた一部のテストで、Pentium XE 955が逆転する結果も見られるものの、とくにアプリケーション系ベンチの結果においては、まだまだAthlon 64 X2 4800+に対して苦戦を強いられている印象を受ける。 総合的に見ると、マルチスレッド対応の実装が進んでいないアプリケーションや数少ないの対応アプリケーションを利用するだけならばPentium XEはそれほど価値がないが、4スレッド同時実行など、かなりヘビーな使い方をしても速度の低下が小さいのも事実で、ユーザーの使い方次第で評価が分かれるCPUといえそうである。 主力という面でいえば、Preslerコアのメインストリーム向けCPUや、65nmプロセス版シングルコアのCedarMillといったプロセッサが今後登場する。L2キャッシュの増量によりパフォーマンスを底上げしたラインナップ拡充もあり、AMDとのシェア争いは依然として激しく行なわれていくだろう。 しかしながら、来年後半のConroe登場までは、このPentium XE 955がデスクトップ向けのフラッグシップとなる予定であり、パフォーマンスリーダーの座という面ではIntelにとって来年のスタートは厳しい状況になりそうである。 □関連記事 (2005年12月28日) [Text by 多和田新也]
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