すでに6月の正式発表が公表されているAMDのデスクトップ向けデュアルコアCPU「Athlon 64 X2」。登場を待ちわびている人も多いと思われるが、今回、発売を控えた本製品に触れる機会を得たのでレポートをお届けしたい。 ●電圧の可変機能も盛り込まれたAthlon 64 X2 4800+ すでにAMDは4月22日に国内で開催したデュアルコアOpteronの発表会において、Athlon 64 X2の情報を公開しており、本製品に関する詳しい情報は、そのレポート記事を参照されたい。 今回使用したAthlon 64 X2 4800+評価キット(写真1)は、マザーボードにnForce4 SLIを搭載した「ASUSTeK A8N-SLI Deluxe」、メモリにCorsair Memoryの「TWINX1024-3200XLPRO」を搭載(写真2)。CPUクーラーは、AMDがAthlon 64向けに推奨しているThermaltakeの「CL-P0075」を利用している(写真3)。 今回のキットではCPUクーラーやメモリなどを取り外すことができないことになっており、CPUそのものを見ることはできない。よって、Windows上で認識した内容を見てみることにしたい。 まず、デバイスマネージャを表示してみると、CPUが2つ認識されており、デュアルコアが動作している分かる(画面1)。ただし、BIOSでCPUのモデル名を認識しておらず「Model Unknown」という表示になってしまった。 また、CPU-Z 1.28を実行した結果を見ると、CPU-ZにはAthlon 64 X2の情報がインプリメントされていないようで、空欄となってしまう(画面2)。しかしながら、クロックや動作電圧などは表示されている。クロックやL2キャッシュ容量は既報のとおりで、それぞれ2.4GHz、1MB×2となる。また、SSE3のフラグもONになっている。 このほかに注目したいのが、動作電圧だ。表示上は1.344Vとなっており、規定電圧は1.35Vと想像される。この電圧は、アプリケーションの動作状況に応じて1.328Vへ下降したり、1.360Vへ上昇したりする(画面3、4)。 ちなみに、これはCool'n'Quietを導入していない状態の動作である。NewCastleコアのAthlon 64 4000+などでは、ここまで大きな電圧の上昇/下降は見せず、Pentium 4のEステッピング以降で導入されたDynamicVIDのように、動作電圧をBIOSレベルで変更する仕組みが盛り込まれた可能性がある。 もう1つキットから得られる情報として記しておきたいのは、マザーボードとBIOSである。マザーボードはA8N-SLI Deluxeが使用されているわけだが、このPCBリビジョンは筆者がショップで購入した同製品と同じリビジョンRev 1.02である。つまり、AMDが告知しているとおり、従来のマザーボードを使えることが実証されたことになる。 また、BIOSについてのCPU-Zの表示結果を、今回のキットで表示させたものを画面5、筆者手持ちのマザーで表示させたものを画面6にそれぞれ示した。筆者のA8N-SLI DeluxeはASUSTeKのサイトから入手したVersion 1007を適用したもので、表示もそのとおりになっているほか、日付は2005年4月5日となっている。 今回のキットのBIOSは日付こそ2004年3月23日と古いが、バージョン表示がMCT2/dualcoreとなっているのが特徴的だ。バージョンが割り振られていない点からすると、おそらくデュアルコア対応を目的としたエンジニア用の特別バージョンなのだろう。ただ、3月にリリースされたBIOSを適用したキットを貸与するあたりは、対応の進み具合の順調さがうかがえる。
●Intel/AMDの両デュアルコアで比較 それでは、Athlon 64 X2 4800+のパフォーマンスをチェックしていきたい。環境は表に示したとおりで、過去に行なったPentium Extreme Edition(XE) 840のテスト結果に、今回のAthlon 64 X2 4800+の結果を追記する格好を取っている。
●CPU性能 それでは、順にテスト結果を見ていきたい。まずはCPU性能を測定するために実施した、「Sandra 2005 SR1」の「CPU Arithmetic Benchmark」(グラフ1)と「CPU Multi-Media Benchmark」(グラフ2)だ。 以前にも説明したとおり、デュアル/マルチCPU環境でスコアが跳ね上がる性質を持ったテストであるため、Athlon 64 X2 4800+はシングルコアのAthlon 64 FX-55/4000+と比較して大きな伸びを見せている。 しかしここで注目すべきは、Pentium XE 840との性能差だろう。もともと整数演算ではクロック差を補って余りある性能を見せていたAthlon 64シリーズだが、その勢いはデュアルコアでも健在だ。SSE2が利用される場面ではPentium XE 840と同等程度の性能になるものの、純粋な整数演算性能を見るDhrystoneでは圧倒している。また、Pentium Dを想定したPentium XE 840のHyper-Thredingを無効にした結果と比較すると、全結果に渡って凌駕しており、メインストリーム向け製品では飛び抜けたポテンシャルを持ったCPUになりそうだ。
続いては、「PCMark04」の「CPU Test」の結果である(グラフ3、4)。特に注目したいのがグラフ3だ。このグラフに示しているテストは、複数処理を同時実行するテストとなるのだが、シングルコアの製品では、同時処理を行なう際にPentium 4のHyper-Threadingが効果的に作用した影響で、Athlon 64勢ではスコアに伸び悩みが見られたテストといえるが、Athlon 64 X2では大幅にスコアを伸ばした。デュアルコアになったことで、複数処理時の性能向上が期待できる結果である。 一方、グラフ4の結果は単一のアプリケーションを実行するテストをまとめているが、Grammar Check、File Decryption、Audio Conversionの3つは、Athlon 64 X2 4800+よりもAthlon 64 FX-55のほうが良い結果になっている。これらのテストはアプリケーション内部も完全にシングルスレッドということで、動作クロックが速いFX-55に分があったというわけだ。このあたりは、Pentium XEとPentium 4の関係と同じことが起きている。 動画エンコード関係では、いずれもAthlon 64 X2が素晴らしい性能を見せた。Pentium XEでは4つのスレッドを活かしきれていない点や動作クロックなどの影響でPentium 4から伸び悩みを見せたテストだ。が、Athlon 64 X2は4000+と同じクロックで、2つのスレッドの同時処理が可能になったことで純粋に性能が向上した。
●メモリ性能 次にメモリ性能のテストを行ないたい。テストはこれまでの本連載と同様「Sandra 2005 SR1」の「Cache & Memory Benchmark」である。グラフ5に全結果、グラフ6に一部結果の抜粋を記した。 ここは、Sandraらしくなく、Pentium 4に対するPentium XEの関係のようなスコアの伸びが見られない。キャッシュの速度はクロックどおりで、Athlon 64 X2 4800+とAthlon 64 4000+が同等、クロックで勝るAthlon 64 FX-55がやや高速といった位置付けだ。 Athlon 64 X2 4800+環境の実メモリの速度は、Athlon FX-55や4000+を上回っているが、これはチップセットやメモリレイテンシの違いがあるので平等な比較にはならない。それでも、SSE3に対応した点がスコア向上に影響した部分はあるだろう。また、DDR2-667を使ったPentium XE 840環境と同等のメモリ性能を出していることから、この先のテストにおいてもメモリ性能による違いは少ないと思われることを付記しておく。
●アプリケーション性能 さて、ここからは実際のアプリケーションを使用したベンチマークへと移りたい。テストは、「SYSmark2004」(グラフ7~9)、「Winstone2004」(グラフ10)、「CineBench 2003」(グラフ11)、「TMPGEnc 3.0 XPress」(グラフ12)である。 まず、SYSmark2004については、これまでマルチスレッドアプリケーション、SSE2性能の違いにより、Athlon 64勢が苦戦していたベンチマークといえるが、マルチスレッド処理が可能になったAthlon 64 X2は大幅にスコアを向上させ、ほぼすべてのテストで最高性能を見せている。 Office ProductivityのDocument Creation、Data Analysisは、Pentium XE/4の関係を見るにマルチスレッド処理性能以上にクロックの高さが求められるテストといえそうだが、ここでもAthlon 64 FX-55/4000+をはるかに上回る性能を見せている点は、内部に調整機能を持たせ、クロックをそのままにデュアルコア化に成功した、Athlon 64 X2のアーキテクチャの優位性がうかがえる。 このことは、Winstone 2004でもいえる。もともとWinstone2004にはマルチスレッドアプリケーションが含まれていながらも、Athlon 64が優秀なスコアを出す傾向にあったが、ここでもAthlon 64 X2はスコアを伸ばした。実クロックを下げざるを得なかったうえ、2つのコアの調整機能を持たないPentium XEとは対象的な結果といえる。 続いてCineBench 2003の結果だが、ここはシングルスレッド処理による1コア当たりの性能と、マルチスレッド処理を行なった場合の性能差がよく分かる。シングルスレッドによるレンダリングテストでは、PCMark04のグラフ4のところで触れたGrammar Checkなどと同じ傾向で、クロック差が性能に結びついた結果を見せている。 注目はマルチスレッドによるレンダリングテストで、Athlon 64 X2 4800+とPentium XE 840の差はインパクトの大きいものになっている。Pentium XE 840はHyper-Threadingを併用することで、4つのスレッドを同時処理できる。しかしながら、Athlon 64 X2 4800+は2スレッド同時処理にも関わらずPentium XE 840の4スレッド処理の結果を凌駕してしまうのだ。 Hyper-ThreadingをOFFにした場合との比較から、処理可能なスレッド数が多いほうがCineBench 2003においては優位性があるが、1コア当たりの処理性能が高いコアがマルチスレッド処理可能となったことで、期待以上の結果を見せた。 次にTMPGEnc 3.0 XPressの結果を見てみたい。このベンチマークソフトはマルチスレッド対応、SSE3対応と、Pentium 4に実装されたアーキテクチャが優位性を持ったテストである。MPEG-1については4スレッド処理の効果が低いようで、Pentium XEにおいてもHyper-Threading無効の状態のほうが性能が良いのだが、Athlon 64 X2はこの結果を上回っている。 MPEG-2については、さすがに4スレッド処理が可能なPentium XEのHyper-Threading有効時には劣るが、同じ2スレッドなら同等以上の性能である。また、WMV9も現状ではエンコーダが2スレッド処理がせいぜいといったところであるが、これもAthlon 64 X2が最高性能を見せている。ここではマルチスレッド処理に加え、SSE3実装の有効性が証明された格好といえるだろう。
●3D性能 最後に3D性能のテスト結果を紹介しておこう。「Unreal Tournament 2003」(グラフ13)、「DOOM3」(グラフ14)、「3DMark05」(グラフ15)、「3DMark03」(グラフ16)、「AquaMark3」(グラフ17)、「FINAL FANTASY Official Benchmark 3」(グラフ18)である。 Pentium XE 840のテスト結果では、デュアルコア化による同時処理スレッド数の増加よりもクロックの重要性が大きく表れた結果となったが、今回の結果では、それほど大きくないものの、デュアルコア化の効果が見て取れる。この一連の結果は、クロックを下げずにデュアルコア化に成功したことが大きな要因であるのは確かだ。 他方、Athlon 64 FX-55はAGP環境のため平等な比較にはならないのが惜しいが、同じ環境にしてもFX-55と同等以上の結果を期待できそうである。ただ、ここで気になるのが、AMDはハイエンドゲーマー向けにはシングルコアのAthlon 64 FXシリーズを提供し続けると明言している点である。今後Athlon 64 FXがどこまでクロックを伸ばすかは未知数だが、果たしてデュアルコア製品以上の性能を3D描画で見せることができるのかは、疑問が残る。
●弱点が克服され隙のないCPUに 従来からPentium 4とのクロック差を克服できるほど、クロック当たりの性能の高さは目に留まっていたAthlon 64。しかしながら、Hyper-ThreadingやSSE3といったクロック以外の要素で発生する性能差が存在していた。 しかしながらAthlon 64 X2では、デュアルコア化とSSE3の実装により、これらの点が克服され、Pentium 4はもちろんPentium XEすらも上回る素晴らしい性能を見せている。 価格面は、1,000個ロット時110,110円とされており、メインストリーム向けとしては高価な印象を否めない。しかしながら、同等の価格帯となるPentium XE 840(107,190円@1,000個ロット時)と同等以上の性能を見せることを考えれば、戦略的に決して無謀な価格とはいえない このほかの点では、今回はCPUクーラーの統一ができなかったため発熱のテストは行なっていないが、公称TDPは110Wと、従来のAthlon 64 FX-55(104W)や4000+(89W)と比較すると大きくなってしまったが、Pentium XE 840の130Wを下回る。また、Athlon 64 FX-55/4000+の規定電圧1.5Vよりも低い1.3V台の電圧で動作することを確認できたほか、Pentium XEのようにBIOSレベルで電圧可変を行なっているため、低負荷時の発熱はかなり抑えられていると考えられる。 さらに、今回のキットで現行製品のA8N-SLI Deluxeが使われていることでも分かるとおり、マザーボードのBIOSアップデートのみで利用が可能な点も、新チップセットを必要とするPentium XEにはない魅力だ。 IntelはすでにPentium Dを投入することを公表しており、メインストリームセグメントの大半がデュアルコア製品となる日も近い。Pentium XEのHyper-Threadingを無効にした場合のテスト結果から、Pentium Dの性能はある程度推測できているが、パフォーマンス競争が新たなステージに入ったことは間違いない。 最後にAthlon 64 X2 4800+で唯一残念な点を挙げておくと、製品出荷が第3四半期と、少々待たされてしまうことだ。今回の結果を見て、もっと早く入手したいと望むユーザーは多いのではないだろうか。 □関連記事 (2005年5月19日) [Text by 多和田新也]
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