すでに存在と製品概要が公表されていたIntelのメインストリーム向けデュアルコアCPU「Pentium D」と、同じくメインストリーム向けのチップセット「Intel 945シリーズ」が、5月27日に正式発表となった。加えて、シングルコアCPU「Pentium 4 670」も同時発表された。ここでは、これら新CPUのパフォーマンスを検証していきたい。 ●デュアルコアの「Pentium D 820」とシングルコアの「Pentium 4 670」 Intelから5月27日付けで発表された新製品は、CPUが「Pentium D 840」、「Pentium D 830」、「Pentium D 820」のデュアルコア製品3種に加え、シングルコア製品の「Pentium 670」。チップセットが「Intel 945P」、「Intel 945G」の2製品である。 まずは、CPUについてざっと紹介していきたい。まずデュアルコアCPUとなるPentium Dシリーズについてだが、今回初めて3製品がラインナップされることが公表された。各製品の動作クロックは840が3.20GHz、830が3GHz、820が2.80GHzとなる。 パッケージに関する仕様や対応チップセットなどは、先月発表されたPentium Extreme Edition (XE)と同じだ。今回試用したのはPentium D 820であるが、LGA775パッケージを採用するのはもちろん、CPU-Zで参照したステッピングも、Pentium XE 840と同一である(写真1、画面1)。
Pentium XEとの違いは、既報のとおりHyper-Threadingの有無となる。つまり、Pentium XEがHyper-Threading有効となっているので、デュアルコア×2スレッドで4スレッド同時処理が可能であるのに対し、Pentium DはHyper-Threadingが無効にされており、2スレッドの同時処理となる。2スレッド同時処理とはなるが、シングルコアのPentium 4+Hyper-Threadingでは演算ユニットやL2キャッシュ等を共有して使用する仕組みになるが、Pentium Dではそれぞれが独立したユニットを持つのがメリットとなる。 なお、Pentium D 840とPentium XE 840と同じプロセッサ・ナンバ用いられているが、IntelではPentium XEとPentium Dは別ブランドであることから、プロセッサ・ナンバによる機能や性能面での関連性はないと述べている。 Pentium Dシリーズには、メインストリーム向けという性格もあってEnhanced SpeedStep Technology (EIST)に対応している点も、Pentium XEとの違いとして挙げられる。変化する動作クロックは原則として、最大クロックと最小クロック(2.80GHz)の2段階。つまり、840は3.20/2.80GHz、830は3/2.80GHzとなり、最大クロックが2.80GHzとなる820はEISTは動作しない。 一方、同日発表されたPentium 4 670は、シングルコアのPentium 4シリーズの新製品となる。Pentium 4 6xxシリーズはEM64Tサポートと2MBのL2キャッシュを搭載するのが特徴の製品ラインであるが、Pentium 4 670はそのラインナップの最高クロックとなる3.80GHzで動作する。FSBは従来同様800MHzである。 外観上の特徴もとくになく、従来どおりのLGA775パッケージを採用するほか、CPU-Zによるチェックでは、Pentium 4 660と同じステッピングのコアが使用されている(写真2、画面2)。
これまで、Pentium 4 6xxシリーズの最高クロックは3.6GHz。Pentium 4 570JはL2キャッシュが1MBとはなるものの、3.8GHz品がラインナップされており、製品の位置づけが分かりにくい状況となっていたが、Pentium 4 670の登場により、800MHz FSBの製品ラインでは、Pentium 4 6xxシリーズが最上位に位置する形となった。 なお、Pentium 4 5xxシリーズは今後も継続される。Prescott以降のコアを使用したPentium各製品の主な仕様をまとめたものが表1となる。同社が推進するデジタルオフィス/ホームプラットフォームの多様なニーズに応えるために、敢えて複数の製品ラインを揃えているようだが、やや分かりにくい状況にはなっている。 現状では対応ソリューションがないため表には記載していないが、同社の仮想化技術「Virtualization Technology」は、Pentium 4 6xxシリーズが最初に対応することも、今回の製品発表のなかで公表された。
●新たにGMA950を実装したIntel 945Gチップセット Pentium Dと同時に発表されたのが、メインストリーム向けのデュアルコアCPU対応チップセット「Intel 945シリーズ」である。グラフィック機能を内蔵しないIntel 945Pと、グラフィック機能を内蔵するIntel 945Gがラインナップされている。 その概要は、Intel 955Xのアーキテクチャを基本にメインストリーム向けに機能を絞った格好で、Intel 955Xとの機能差は、 ・533MHz FSBのサポート といったところだ。 533MHz FSBをサポートするのは、Celeron Dへ対応する必要性からである。従来のIntel 915シリーズとは異なり、1,066MHz FSBにも対応している点が新しい。ただし、表1で示したとおり、現時点で配布されている資料では、Pentium 4 XEシリーズはIntel 945シリーズでは正式にサポートされていない。 メモリ最適化機能については、Intel 875Pの際にはPAT(Performance Acceleration Technology)と呼ばれる機能が、Intel 925XではPATとはやや違ったアプローチのメモリ最適化機能が盛り込まれ、Intel 955Xにもその機能が引き継がれたが、Intel 945シリーズでは省略されている。なお、このメモリ最適化機能には、とくに名称がなかったが、今回、Intel Memory Pipeline Technology(Intel MPT)と名付けられた。 メモリについては、もう1つ違いがあり、Intel 955Xでは最大8GBまでサポートされていたメモリ容量が、Intel 945シリーズでは4GBまでとなっている。 今回試用したのは、Intel 945Gを搭載するmicroATXマザー「Intel D945GTP」(写真3)。ICHにはICH7Rを搭載。オンボードデバイス類は以前にレポートしたIntel 955X搭載マザー「D955XBK」に酷似したモデルとなっている。違いは、グラフィック機能を搭載したため、ブラケット部のインタフェースにD-Sub15ピンが追加(写真4)。また、D955XBKでは、ATX12Vに8ピンタイプのコネクタが用意されていたが、本製品のATX12Vコネクタは従来どおり4ピンコネクタが採用されている(写真5)。 Intel 945Gに搭載されるグラフィックコアは、Intel 915Gで搭載されたIntel GMA900の後継となる、Intel GMA950である。パフォーマンス向上やHD解像度のMPEG-2のハードウェアアクセラレーション機能、ADD2+カードのサポートなどが大きな特徴となる。 今回のレポートではCPUに焦点をあてているため、チップセットの詳細や、パフォーマンスの差異については、場を改めて紹介することにしたい。
●ついに出揃ったデスクトップ向けデュアルコア製品を検証 それでは、パフォーマンスのチェックを行なっていきたい。Pentium D 820、Pentium 4 670の検証を行なうにあたっての測定環境は、表2~4に示したとおりだ。今回、テスト対象となるCPU/環境が多数となったため、各テストを3つの表に分けて示した。 とはいえ、CPUとマザーボード(チップセット)以外の使用機材は統一しているので、同一テストの異なるグラフ間での比較は可能だ。こうした比較については、必要に応じて本文で言及していきたい。
●CPU性能 それでは、まずはCPU性能を見るために、「Sandra 2005 SR1」の「CPU Arithmetic Benchmark」(グラフ1~3)と「CPU Multi-Media Benchmark」(グラフ4~6)の結果を参照したい。 まず最初に述べておきたい点がある。今回のPentium D 820は動作クロック2.8GHzで、Pentium XE 840(3.2GHz)とのクロック比は、おおよそ1:1.14となる。Sandra 2005 SR1の各結果とも、この1:1.14から大きく外れる結果にはなっていない。グラフにおけるPentium XE 840(HT無効時)の結果がPentium D 840の結果に近いものとして、大いに参考になりそうだ。 【お詫びと訂正】初出時、クロック比の数値を誤って掲載しておりました。お詫びして訂正いたします。 さて、Pentium Dの性能だが、ほかのデュアルコア製品に対して大きく劣る結果になっている。Pentium Dと同様に論理的な複数スレッド同時処理技術を持たないAthlon64 X2と比較しても大きく劣っており、純粋な演算性能としては、デュアルコア製品のなかでは低いものといえる。 Pentium 4 670だが、キャッシュ容量などの影響を受けない演算性能のテストであるため、同一クロックのPentium 4 570Jと同等の結果になっている。これは妥当な結果といえるものだ。 もう1つのCPU性能測定テストとして、「PCMark04」の「CPU Test」の結果を見てみたい(グラフ7~12)。このテストは以前の記事で触れたとおり、2スレッド同時実行時に良い結果を出す傾向が見られ、Pentium XE 840(HToff)とPentium 4の高クロック製品が近い結果となっていた。 Pentium D 820は、Pentium XE 840(HToff)と比較すると、クロック差に近い性能ダウンが見られる妥当な結果だ。Pentium 4との比較では、単一アプリケーションのテストとなる「CPU Test 2」の性能は高くないが、2つの処理を同時実行する「CPU Test 1」の結果では、クロックが大幅に劣るにも関わらず、高い性能を示しており、デュアルコアがHyper-Threading以上のマルチスレッド処理性能を持っていることは間違いなさそうだ。 Pentium 4 670の性能は、やはりPentium 4 570Jと同等である。ただし、DivXエンコードテストではPentium 4 570Jを上回っており、3.8GHz+L2キャッシュ2MBというシングルコア製品中もっとも高いスペックを持つ部分が活きている個所も見られる。
□グラフ1 ●メモリ性能 次にメモリ性能のテストを行ないたい。テストは「Sandra 2005 SR1」の「Cache & Memory Benchmark」で、全結果(グラフ13~15)、一部結果の抜粋(グラフ16~18)を提示している。 ここで注意していただきたいのは、環境によるメモリの違いだ。Intel 955X環境ではCL=5のDDR2-667、Intel 945G環境ではCL=3のDDR2-533を使用しているが、今回のテストを見る限り後者の結果が良い傾向にある。とはいえ、チップセット-メモリの環境統一ができていないため平等な比較は難しく、この点の考察は省きたい。 チップセットとメモリ環境が統一できているグラフ15およびグラフ18の結果を見ると、すべての製品がL2キャッシュの範囲に収まる256KBのテストで、Pentium 4 570JがPentium 4 670を上回るもっとも優秀な結果となった。 これは、以前に行ったテストと同じ傾向で、L2キャッシュが2MBへと増量されたことより、オーバーヘッドが大きくなっているためとみられる。ただし、1MBのテストではL2キャッシュ容量ぎりぎりのPentium 4 570Jよりも2MBのPentium 4 670の方がアクセス速度を上回っており、キャッシュ容量増加の効果が見受けられる。 実メモリのアクセスに目を向けると、ここはFSB 1,066MHzのPentium 4 XE 3.73GHzに軍配が上がる。他製品の結果は横一線であり、ここはメモリ性能よりもFSBがボトルネックになっていることが伺える結果になっている。これが実際のアプリケーションにどう影響するかは、次項以降の結果から見えてくるだろう。 □グラフ13 ●アプリケーション性能 ということで、実際のアプリケーションを使用したベンチマークの結果を見てみたい。テストは「SYSmark2004」(グラフ19~27)、「Winstone2004」(グラフ28~30)、「CineBench 2003」(グラフ31~33)、「TMPGEnc 3.0 XPress」(グラフ34~36)である。 まずPentium Dの結果についての総括だが、Pentium XE 840(HToff)からクロック分スコアを下げた傾向を示しており、その結果にはとくに目新しさはない。ただし、予想された妥当な結果といえるが、デュアルコアの他製品だけなく、シングルコアのPentium 4にも劣るテストが多いのが気になる点ではある。CineBench 2003のマルチCPUレンダリングやTMPGEnc 3.0 XPressでは良い成績を出していることから、内部のマルチスレッド化が進んだアプリケーションでは、デュアルコアの恩恵に預かれそうだ。 Pentium 4 670だが、こちらの性能はシングルコア製品中、最高性能といって差し支えないだろう。L2キャッシュの速度自体はPentium 4 570Jに劣る傾向にあったが、それ以上に容量の多さが効果を発揮した。また、FSBが高いPentium 4 XE 3.73GHz以上の性能を見せる場面が多いのも特徴で、FSB以上にクロックの高さが活きた格好となった。 □グラフ19 ●3D性能 最後に3D性能のテストを実施しておきたい。行なったテストは「Unreal Tournament 2003」(グラフ37~39)、「DOOM3」(グラフ40~42)、「3DMark05」(グラフ43~45)、「3DMark03」(グラフ46~48)、「AquaMark3」(グラフ49~51)、「FINAL FANTASY Official Benchmark 3」(グラフ52~54)である。 ここもPentium D 820の結果は妥当な結果である。つまり、Pentium XE 840(HToff)と比較して、ビデオカードがボトルネックになったケースでは同等の結果。CPUがボトルネックになったケースではクロックが低い分スコアを下げた格好だ。 Pentium 4 670についても、CPUがボトルネックになったテストにおいて、クロックが上がった分、Pentium 4 660を上回り、キャッシュが増量された分Pentium 4 570Jを上回った結果だ。Pentium 4 XE 3.73GHzとの比較では、ほぼ同等の結果を見せている。 □グラフ37 ●価格勝負のPentium D まず、シングルコア製品のPentium 4 670について総括すると、ハイエンド向け製品のPentium 4 XE 3.73GHzと同等以上の性能が期待できる、シングルコア版Pentium 4のなかでは、最高峰の製品といってよい。 Pentium XE 840(HToff)との比較でもスコアが上回るテストの方が多いほどで、現状のアプリケーションで利用する上では、Intel製品に限っていえば、シングルコア+Hyper-Threadingでもデュアルコアに対抗できるということだ。 一方、Pentium D 820および、Pentium D 840を想定したPentium XE 840(HToff)の結果は、性能を十二分に発揮できる状況が限られており、シングルコア製品の後塵を拝す結果も多い。 ただし、Pentium Dは、メインストリーム向け製品ということもあって、かなりアグレッシブな価格付けが検討されているようだ。原稿執筆時点で入手できている情報では、最高クロック製品のPentium D 840が500ドル強、Pentium D 830が300ドル強、今回テストしたPentium D 820は250ドル前後とされている。 現在のプライスリストはここで確認できるが、Pentium Dの価格付けは現状のプライスリストに当てはめても、シングルコアのメインストリーム向け製品にそのまま収まる価格帯である。シングルコア製品よりも上の価格帯へデュアルコア製品を投入するAMDとは対照的で、価格面での競争力を持たせたものになっている。 ちなみにPentium 4 670の価格は800ドル強とされており、現状のラインナップに上乗せした価格となりそうである。このあたり、現在のプラットフォームを維持したまま上位の製品を順当に拡充する一方で、割安感のある価格帯でデュアルコア製品も投入してきたわけだ。 今回のテストした全製品の結果を見ると、最大のパフォーマンスを追及するユーザーに対してはAthlon 64 X2を推奨、限られた予算の中で自分の用途に見合った製品が欲しい場合は、Pentiumシリーズの選択肢の多さが有用、といったところだろう。 □関連記事 (2005年5月27日) [Text by 多和田新也]
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