レノボ・ジャパンのサービス&サポート担当 落合敏彦執行役員は、「私の立場では、とにかく変わらないということだけを訴え続けた」と切り出した。
レノボ・ジャパンへと体制が変わっても、サービス/サポート体制については、従来通り、日本IBMが担当することになる。レノボ・ジャパンの向井宏之社長が、「Produced by Lenovo,Serviced by IBM」と、新生レノボの体制を表すように、製品企画はレノボが行なうものの、サービス/サポートに関しては、全世界規模でIBMが担当することになる。 「IBMがグローバルサービスのなかで提供しているサポート契約の料金やメニュー、そして、それを実行する体制は、レノボ・ジャパンになっても、まったく変更がない。ユーザーが、IBMのPCを購入する際に望んでいたサポートレベルを、将来に渡って提供できる体制を実現した」と落合執行役員は語る。 販売施策に関しては、新たなものを提示し、新生レノボ・ジャパンとしての印象を強く打ち出して見せたが、サービス/サポートに関しては、むしろ、変化しないことを前面に打ち出した。 「新たな体制だからこそできるということもある。だが、サービス/サポートに関しては、変化しないこと、継続することが最も重要なメッセージ。それを伝えなくては、ユーザーが安心できない。だからこそ、新たなサービスメニューなどを提示するのではなく、徹底して変わらないことばかりを言い続けた」と繰り返す。 ●答えはこれしかなかった IBMブランドのPCは、もともと企業ユーザーへの導入比率が高い。メインフレーム、サーバー、ストレージ、ミドルウェアなどとともに、トータルソリューションを構成するひとつの製品として、クライアントPCが位置づけられ、サービス/サポート契約もそのなかで行なわれる。 だが、レノボ・ジャパンへのPC事業の移管に伴い、クライアントPCのサポートだけが、IBMの外に切り出される可能性があるのではないか、といった強い懸念の声がエンドユーザーの間にはあった。もし、クライアントPCのサービス/サポート体制が別のメニュー、あるいはIBM以外から提供されるのであれば、ユーザー企業にとってみれば、それは、デルやヒューレット・パッカードから別途、クライアントPCを購入するのとなんら変わらない仕組みになるともいえる。 「IBMのグローバルサービスのなかで提供しているトータルソリューションが、引き続き提供される。それを期待しているユーザーに対して、まったく変化がなくサービスを継続するという以外に、別の回答はありえない」と落合執行役員は話す。 ●IBMがサポートする意味とは その理由は、いくつかある。 なかでも最大の理由は、先にも触れたように、IBMのサービスレベルを望んでIBMのPCを購入したユーザーに対して、引き続き、そのサポートレベルを維持するという点だ。これが維持できなければ、間接的に、IBMのエンタープライズ事業にも影響がでる可能性があるだろう。 2つ目は、サービスカンパニーを標榜するIBMにとって、PCのサポートも大きな収益源となることだ。しかも、IBMはトータルソリューションを対象として一貫したサポートメニューを提供している。PCだけがここから切り離されることは、やはりIBMにとってもマイナス要素が大きい。 3つ目は、サービス/サポート体制は、ポストセールスの側面も持つという点だ。 サービス/サポートに高い評価を下したユーザーは、必ずと言っていいほど、次も同じブランドの製品を購入する。日本IBMからレノボ・ジャパンに名称が変更しても、サービス/サポートの品質が維持されるということは、今後のレノボのPC販売にも大きなプラス要素となるのは間違いない。 今回、レノボ・ジャパンになって、従来、法人向けのServicePac、個人向けのPC Careに分かれていたサービス/サポートのメニューは、「Think Plus Services」に一本化された。基本的には、ServicePacがThink Plus Servicesに変更し、そのなかのひとつのサービスとしてPC Careが含まれた。今後、エンドユーザーは、Think Plus Servicesの契約をレノボ・ジャパンと結ぶことになるが、実際にサポートを担当するのは日本IBMということになる。変化したことといえば、この程度の仕組みの変化だけだったといえるだろう。 「サービス/サポートレベルを維持するということは、レノボブランドの価値を高めるという点では、ほぼ半分程度の役割を担うと思っている」と、落合執行役員は語る。 今は日本IBMだけとのパートナーシップで推進されているサポート体制も、今後取り扱い製品の幅が拡大するのに伴って、他のサービスプロバイダーへとパートナーシップの幅を広げる可能性もある。そうした柔軟な体制も、今後のレノボ・ジャパンの強みになると、落合執行役員は語る。
●いかにブランドイメージを作るかが課題に
これまでの5回に渡る短期集中連載で触れてきたように、レノボ・ジャパンは、「変わらないこと」と「進化すること」を統一的なメッセージとして打ち出している。 だが、レノボというブランドに対しては、多くの人が、まだ馴染みがなく、ブランドイメージも不確かだ。むしろ、今の段階では、中国のPCメーカーのブランドという印象の方が強く、IBMがThinkPadなどで培ってきた印象とは大きな差がある。今後、どんなブランドイメージを作り上げるかが課題だといえよう。 ブランド戦略を担当する荒川朋美執行役員は、「Thinkというブランドは、高いブランドイメージを持ったまま継続できるため、それほど懸念はしていない」と前置きする一方、「しかし、レノボのブランドをどう形づくるかは、大きなポイント。ワールドワイドクラスの品質を持つ、インターナショナルカンパニーとしてのイメージを定着させたい」と、今後のブランド戦略のひとつのゴールを示す。 「中国に進出している日本法人の間でも、すでにレノボブランドのPCを利用している例が多い。そうしたユーザー企業の導入事例を紹介して、安心してご利用していただけるブランドであることも同時に訴えていきたい」とも語る。 また、向井社長も、「レノボグループとして、イノベーションでもナンバーワン、クオリティでもナンバーワンというイメージを作り上げたい」と語る。 「経営の効率化もまだまだやらなくてはいけない部分がある。品質の向上でも手を打つところはある。納期やコストの見直しも必要だ。こうしたことに対して、スピードをもって、取り組んでいく。世界で最も競争力のあるPCメーカーを目指す」と宣言する。 その点では、これまで以上に、デル、ヒューレット・パッカードと真っ向から戦っていく姿勢を示しているといえよう。 ●期待される「これぞ、レノボ」という製品 筆者の個人的な意見だが、新生レノボの方向性を左右するであろうThinkPadにおいては、IBMのスピリット(むしろ、大和事業所のスピリットといった方がいいかもしれないが)が、確実に継続されていることを示すような製品を、早期に投入することが必要ではないか、と思う。これこそが、レノボの方向性をもっとも伝えることができる手段だと思うからだ。 笑い話のように聞こえるかもしれないが、ThinkPadに「大和」の名称を冠した製品、あるいは、生みの親である内藤氏自身の名前を冠した、「これぞ、ThinkPad」といえる製品が登場するべきだと思っている。いや、今だからこそ、ユーザーに対するストレートなメッセージ手段として、それが必要だと感じる。 こうした研究開発拠点や開発リーダーの名称を冠としたPCが作れるのは、ThinkPadだけであるし、IBMという大企業の枠から離れたPC専業メーカーのレノボであれば、IBMにはできないような、こうした製品のネーミングも可能だろう。 いずれにしろ、「変わらないこと」と「進化すること」が、「レノボ」のブランドイメージとして定着するかどうか、そして、IBM、ThinkPadで培ってきたブランドイメーシがそのまま継続されるかは、この1年で決まることになる。 この1年の間に、レノボ・ジャパンが打ち出すひとつひとつの「手」のすべてが、レノボ・ジャパンのブランド形成に重要な意味を持つのは間違いない。 □レノボ・ジャパンのホームページ (2005年5月23日) [Text by 大河原克行]
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