短期集中連載
始動するレノボ・ジャパン

第4回 新たな販売施策を打ち出した本当の理由




 5月16日に行なわれたレノボ・ジャパンの設立記者会見で、同社が、最初の施策として、唯一打ち出したのが、新たな販売店支援策だった。

 エンドユーザーに対して、もっともインパクトがあると見られる「新製品投入」や、「今後の製品ロードマップ」の発表を、新会社の最初のアナウンスとする手段もできなくはなかっただろう。ユーザーが引き続き、レノボに安心感を持ってもらうためには、その方がメッセージとして伝わりやすいからだ。マーケティングに長けた会社であれば、そうした手の打ち方をしたかもしれない。

 だが、レノボ・ジャパンは、あえて販売店支援策を、最初の施策として発表した。そこには、レノボ・ジャパンが目指す「顧客視点での物づくり」という、大きな狙いを具現化する意味が込められているといえそうだ。

 大きな花火よりも、地に足がついた施策を優先したことに、レノボ・ジャパンの基本スタンスが見て取れる。

●リセラーまでを直接支援

 今回、レノボ・ジャパンが発表した新施策は、「Lenovoビジネス・パートナー・リセラー・プログラム」と呼ばれるものだ。

 日本IBMの時代には、約200社のIBM特約店網のほか、約8社のディストリビュータ、そして、ネット直販による .comセンターによって、 IBMブランドのPCが流通されていた。さらに、ディストリビュータや一部 IBM 特約店の先には、リセラーと呼ばれる2次店が約2,000社あり、ここを通じて、エンドユーザーに製品を販売。これらの販売ルートは、そのままレノボ・ジャパンに移管された。

 今回の新施策は、これまでは1次店に対する支援体制に留まっていたものを、 2次店にまで対象範囲を広げるというものだ。

 具体的には、リセラーに対して、販売実績に応じたインセンティブプログラムの提供や、ウェブやEメールによる情報提供、店員向けの教育プログラムの実施などが行なわれることになる。また、一部には、過去からリセラーを対象に実施していたプログラムがあったものの、告知が徹底していなかったことで、成果を十分に発揮していないというものもあった。これも、再度、告知の強化などによって、効果を最大限に発揮させる考えだ。

 さらに、サービス・サポートプログラムのThinkVantageに関しても、ThinkVantage認定制度を2次店にまで拡大させ、サービス、サポートに関する支援体制も整える。

レノボ・ジャパン ブランド&マーケティング 荒川朋美執行役員

 レノボ・ジャパンのブランド&マーケティング荒川朋美執行役員によれば、「従来は、2次店に対する情報提供や支援は、すべて1次店にお任せてしていた状態だった。リスト上では、どんなリセラーがIBMブランドのPCを扱っているのかがわかっていたとしても、実際にそのリセラーがどんな売り方をしているのか、どんな体制を持っているかといった情報がなかった。だが、今回の新施策では、リセラーへの製品供給ルートには変更がないものの、情報や各種支援プログラムの提供を、直接レノボ・ジャパンから行なうことで、よりリセラーが販売しやすい環境を作る」というわけだ。

 末端までを含めた販売強化体制が敷けるということで、販売増にも結びつけるという狙いもある。

「パートナー・リセラー・プログラム」の概要 パートナー戦略の強化 同プログラムの内容

 「こうしたリセラーに対する支援体制は、日本IBMの時には、なかなか実施に移せなかった」と荒川執行役員は語る。

 「これまでの日本IBMという大きな組織のなかでは、メインフレームからサーバー、ソフトというそれぞれの製品群を含めた大きな枠組みを前提とした販売店支援策が基本となっていた。そのため、販売店支援プログラムも、全体的な販売店支援策のなかで決定され、PC事業に特化した形での施策が立案しにくい環境にあった。だが、レノボ・ジャパンとなったことで、PC事業に特化した形の独自の販売店支援体制が取れるようになる」と語る。

  日本IBMから、レノボ・ジャパンへと移行したことによって実現された大きな変化の1つが、リセラーにまで対象範囲を拡大した今回の販売店支援策というわけだ。

●真の狙いは顧客の声を聞くこと

 実は、この新施策には、隠れた大きな狙いがある。

 それは、「販売店の声、エンドユーザーの声を直接聞く体制を強化する」(荒川執行役員)という点だ。

 現在、同社のPC販売の主力の1つに、.comセンターを通じたインターネット販売がある。1日の販売実績は1,000万円から5,000万円の範囲で、いまや同社PC出荷台数の4割から5割に達する主力販売ルートだ。

 この販売手法によって得られた大きな成果は、これまでカバーできなかった「ホワイトスペース」に対してのアプローチが可能になったことだ。初めてIBMブランドのPCを購入したというユーザーがかなりの比率を占めていることからもそれがわかる。

 また、ネット販売への取り組みは、店頭展示店舗を絞り込んだ結果、「どこにいったら、IBM のPCを購入できるのか」といった層に対して、アプローチするための施策だったともいえるだろう。

 .com センターによるもう1つの成果は、直接エンドユーザーと話をする機会が増え、製品に対する要求、不満や評価などがダイレクトに聞けるようになったことだ。

 「どんな製品を欲しいと思っているのか、どんな点を改良して欲しいのか、サービスはどうして欲しいのか。それを直接聞き、研究・開発部門や企画部門へとフィードバックすることで、よりユーザーの要求にあわせた製品が開発できるようになった」というわけだ。

 デルや日本ヒューレット・パッカードが、ダイレクトセールスで成長している背景には、直接ユーザーとコンタクトを取ることで、手厚いサポート体制の確立と、顧客の声を反映した物づくりを実現している点が見逃せない。日本からの要求が米国本社の製品企画部門に伝わり、それを反映した製品が、両社においても開発されている。

 日本IBMもこれまでに、ユーザーの生の声を反映して、製品構成を自由に組めるようなサービスを開始したり、即納体制、買い取りサービスの実施、クレジット販売の開始といった新サービスを相次ぎ実現してきた。

 レノボ・ジャパンに移行後も、こうした成果を踏まえて、顧客の声を聞ける体制をさらに強化しなくてはならない、と判断したわけだ。

 もちろん、.com センターを通じた声の収集は、これまで通りに行なわれる。だが、レノボ・ジャパンに移管された.com センターが主力ターゲットとしているのは、大手企業が多く、中堅、中小企業向けのユーザーなどはカバーしきれていないのが実態だ。

 「中小、中堅企業のユーザーの声を聞くには、リセラーとの直接対話か必要と判断した」ことが、今回の新施策の背景にはある。

 リセラーとの対話、そして、そこから得られるエンドユーザーの要求を、製品化に反映していくのがリセラー向けの支援策の大きな狙いというわけだ。

 新製品発表などの派手な演出がなかった新会社設立の記者会見で、レノボ・ジャパンが最初に打ち出した販売店支援策の強化は、いわば顧客の声を聞くという点を強化する方針を示したものであり、言い換えれば、メーカーとしての原点に立ち返ったものであるといえる。

 地味ではあるが、原点回帰に改めて取り組むことを明確に示した今回の施策は、レノボ・ジャパンの企業姿勢を表しているものとはいえまいか。

 次回は、日本IBMとの連携によって実現されるサービス・サポート体制への取り組みについて触れる。

□レノボ・ジャパンのホームページ
http://www.lenovo.com/jp/ja/
□関連記事
【5月19日】始動するレノボ・ジャパン 第3回 継続する「ThinkPad」へのこだわり
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0519/lenovo03.htm
【5月18日】始動するレノボ・ジャパン 第2回 「大和」生まれのThinkPadがレノボを支える
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0518/lenovo02.htm
【5月17日】始動するレノボ・ジャパン 第1回 「変わるもの」と「変わらないもの」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0517/lenovo01.htm
【5月2日】レノボ・ジャパン設立。5月2日より営業開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0502/lenovo.htm
【4月19日】日本IBM、「ThinkPad X」シリーズを一新
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0419/ibm1.htm
【2004年12月8日】米IBM、PC事業をLenovoに売却
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1208/ibm.htm

(2005年5月20日)

[Text by 大河原克行]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.