500人を超えるユーザー企業、ビジネスパートナーを前に、レノボ・ジャパンの内藤在正副社長は、「多くの人から、今後は、ThinkPadはどうなってしまうのか、まったく違うものに変わってしまうのか、あるいは、いまのうちにThinkPadを買っておいた方がいいのか、というようなご質問を、この半年の間に、数多くいただいた」と切り出した。そして、続けて、こう話す。 「それに対する私の答えは、ThinkPadは、なにも変わらないということです」 これは、レノボ・ジャパンが、5月16日、東京・赤坂の赤坂プリンスホテルで開催した「レノボ・ジャパン株式会社設立記念セミナー 新時代のソリューションPCに向かって」の講演でのことだ。 内藤副社長は、長年に渡り大和事業所に勤務し、ThinkPad生みの親と称される人物。IBMのパソコン事業がレノボ・グループへと移管して、内藤氏もレノボ・ジャパン副社長として、引き続き、ThinkPadの研究・開発を担当することになった。 内藤副社長は、「変化」と「進化」という言葉を持ち出して、今後のThinkPadの方向性を説明する。 「変化とは、まったく違うものに変わってしまうこと。その点では、ThinkPadは、これまでとはまったく違う製品に変わることはない。だからこそ、変化しないと言い切れる。だが、その一方で、進化という言葉がある。これまでの基準を踏襲しながら、新たに成長していくことが進化である。私が示すことができるのは、ThinkPadは変化はしない。しかし、進化をすることにはなる」 ThinkPadは、単なるロゴではなく、信頼の印だと、内藤副社長は位置づける。その点でも、従来からの信頼のブランドというこだわりは、変わらないというわけだ。 ●ThinkPadは「プロの道具」 では、ThinkPadの基準とはなにか。 内藤副社長は、「プロのための道具」という言葉で表現する。 「プロというのは、パソコンのプロという意味ではない。たまに誤解をして、パソコンに詳しい人のための製品だと受け取る人がいるが、ThinkPadが目指しているのは、仕事のプロが使うためのパソコン。仕事のプロが使う道具として、プロに迷惑がかからない道具であること、生産性や競争力の向上、ビジネススピードを速めることができる道具であることが、ThinkPadの基本的な考え方。プロの道具というコンセプトは、レノボ・ジャパンになっても生き続けていくことになる」と語る。 ThinkPadで、「プロの道具」を実現するために、追求している大きなポイントが「携帯性」である。 デシジョンメーカーのために、いつでもどこでも最新の情報、必要な情報を提供し、また、情報発信者が、いつでもどこでも情報を作成することができ、これを発信できる環境を実現することを、「携帯性」と位置づける。 携帯性の実現のためにはThinkPadでは大きく7つの要素をあげる。 「持ち運ぶための軽量、薄型のパッケージ」、「携帯先で壊れないための堅牢性」、「効率的で十分な、かつ拡張可能なバッテリ駆動時間」、「仕事のプロに徹していただくための簡単、便利な操作性」、「受信、送信のための高速で安定した接続性」、「機密保持機構」、「OSが立ち上がらないといったような、万一の事態を救うThinkVantage機能」である。 ただ、薄さや軽量化の追求でも、譲れないこだわりがある。 「パーツそのものの薄さや軽量化を追求する一方、パーツ同士の隙間をいかに最小にするかといった工夫をしている。だが、その一方で、それぞれの部品が干渉せずに動作すること、強い負荷が外からかかっても、影響を受けないパッケージングとすることなどにこだわり続けてきた」 内藤副社長は、'92年に、ThinkPadの第1号機となる「ThinkPad 700C」を発売した時を振り返りながらこう話す。 「当時は、今よりもパソコンが遙かに高価であり、外に持ち出しても大切に扱ってくれると思っていた。だが、実際に発売してみてわかったのは、決して大切に扱ってもらえないということだった(笑)。大切に扱ってもらえないという前提で、どんな負荷が本体にかかるのか、あらゆる試験をラボのなかで繰り返し行なってきた。高いところから何度も落としたり、その時にHDDが壊れないためにはどうするか、といったことにも取り組んできた。いまや、HDDの高密化によって、ヘッドとディスクの関係は、ボーイング747が地上から1インチの高さで走行しているのと同じレベルでの動作が求められている。これを安定した状況で動作させること、そして、万が一、問題が発生した場合にも、データを確実に保護できることに力を注いだ」 ThinkPadの製品化にあたっては、破壊領域まで試験を行ない、その技術ノウハウを蓄積しているという。 試験項目は、自由落下試験、8コーナー落下試験、テーブル上片持ち落下試験のほか、上下圧力試験、キーボード圧力試験、液晶ひねり試験、ショック/振動試験など多岐に渡り、「今後も試験項目を増やし、さらに過酷にしていく」という。 特にHDDに関しては、HDDへの読み書き中に、ヘッドが磁気盤に強打される状況を意図的に作り出した試験も行なっているという。 「ユーザーにとって、データ損失はもっとも生産性を阻害するもの。だからこそ、HDDの保護に対する取り組みは最大限に行なっていく」というわけだ。 大和事業所では、「ハードディスク・アクティブプロテクション・システム」と呼ばれるHDDのヘッドを退避させた状態を瞬時に実現する技術を開発した。社内では「エアバック」と呼ばれるものだ。実際にエアバックが作動するわけではないため、社外に向けては使用していない言葉だが、自動車のエアバック同様、もっとも大事な人間(パソコンでいえばデータ)を最優先に保護するという技術である。
●堅牢性を実現する数々のこだわりとは プロの道具を目指すThinkPadは、そのためにまず携帯性を実現する。そして、その携帯性を支えるのが、堅牢性へのこだわりだ。もっとも重視されるHDD以外にも、ThinkPad全体としての堅牢性に対しても、「物づくり」へのこだわりがある。 例えば、TシリーズやXシリーズでは、カバー材質に薄型軽量で、かつ高剛性のカーボンファイバープラスチックおよびマグネシウムを採用。そして、Rシリーズでは経済性に優れたABS樹脂素材を採用しているが、それぞれのカバー素材の強度に応じて、内部部品を守るための部品間スペースを採用し、同時に、液晶部分に負荷を与えないパームレストやキートップ形状、液晶周りのフレーム化、金属製のヒンジ、液晶カバーの2点ラッチ、HDD上部の金属製ドームを採用している。 さらに、キーボード上に液体をこぼしてしまった場合にも、内部に液体を漏らさないシール効果付きキーボードの採用や、異物混入を防ぐPCカードスロットカバーの採用、ポートコネクターが外寸よりも飛び出さない設計の採用、対振動性、対ショック性を併せ持つ波形ラバー足材の採用なども、プロの道具としてのThinkPadのこだわりだといえる。 「ひとつひとつの部品へのこだわりがある。それぞれに機能性を追求したものである。これらがまとまった結果、美しい製品が出来上がる」と内藤副社長。それがThinkPadというわけだ。
●キーボードを共通化するこだわり また、内藤副社長は、ThinkPadの基準としてこんなことにも触れる。 「キーボードを小型化してまで、ThinkPadを小型化しようとは思わない。フルサイズレイアウトのキーボードを搭載しているのは、ThinkPadのどの機種を利用しても、まったく違和感がなく、利用できる環境を実現するためのこだわりだ」 そして、バッテリパックやドッキングステーションなど、なるべく多くの機種で共通化をはかれるような努力も、企業において、多くのThinkPadを利用しているユーザーにとっては、バッテリなどが効率的に運用でき、大きなメリットにつながる。買い換え時のユーザー投資の保護にもつながるだろう。
「ThinkPadの研究開発部門が、引き続き、日本にある意味は大きい。ThinkPadは、これまでにも日本のお客様の的確な要求をもとに製品化してきた。日本IBMの時代には大変お世話になりました。そして、レノボ・ジャパンとなっても引き続きご支援を賜りたい」と内藤副社長は、ユーザー、ビジネスパートナーに呼びかける。 「新たな技術を積極的に取り入れたい」と内藤副社長は、今後もThinkPadの大きな「進化」に対してコミットする。 そして、こうした進化をはじめとする新たな取り組みは、製品づくりだけにとどまらないようだ。 次回は、マーケティング戦略、販売戦略から見た、レノボ・ジャパンによる新たな取り組みを追ってみる。 □レノボ・ジャパンのホームページ (2005年5月19日) [Text by 大河原克行]
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