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2006年にCellベースのサーバーやHDTVが登場




●Cellプロセッサのパフォーマンスは?

久夛良木健氏(ソニー・コンピュータエンタテインメント社長兼グループCEO)

 ソニー・コンピューターエンタテインメント(SCEI)とソニー、IBM、東芝は、次世代PlayStation(PlayStation 3?)の心臓「Cellプロセッサ」の技術概要を、2005年2月のISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)で発表することを明らかにした。ISSCCの事前プログラムと4社のプレスリリースによって、現在の段階で、Cellの輪郭は多少は見えてきた。では、Cellプロセッサのパフォーマンスはどの程度なのだろう。

 今のところ、まだ単体Cellプロセッサのパフォーマンスは明らかにされていない。明らかになっているのはCellワークステーションの性能が、1ラックで16T FLOPSになることのみ。ラック全体ではいわゆるスーパーコンピュータクラス。1ラックにCellプロセッサが何個入るかわからないが、単体Cellの性能も、ある程度の仮定はできる。

 SCEI関係者によるとCellワークステーションはデュアルプロセッサ構成であるという。そのため、42Uラックで1Uモジュールが42個とした場合、ラック全体でCellプロセッサ数は84個となる。Cell内のストリーミングプロセッサコア数が特許文書の例のように8個だとすると、ストリーミングプロセッサコアの総数672個となる。各プロセッサが1つの4way SIMDユニットを備え、積和算が可能だとすると、浮動小数点オペレーション数は5,376オペレーション/clockになる。その場合、Cellを3GHzで動作させたとすると、ピーク性能はぴったり16T FLOPSになる。実際には、これに64bit Powerプロセッサコア部分の浮動小数点演算性能も加わることになるが、それほど大きくは変わらない。

 この仮定がもし正しいとすると、単体のCellプロセッサの性能は、195G FLOPSとなる。もし、2Uモジュールだったとしても、390G FLOPS(この場合は上の想定よりもプロセッサコア数か周波数が大きい)だ。これは、極めて高い浮動小数点演算性能ではあるものの、当初言われていた“TeraFLOPS級”の演算性能よりはやや低いことになる。最初にこのコラムで想定した構成よりも、おとなしい実装ということになる。

 とはいえ、これはまだ90nmプロセス版のCellの性能であり、65nmプロセス版では、さらにプロセッサの構成を拡張する可能性がある。Cellはモジュラー設計であるため、比較的容易に構成を拡張できるからだ。実際に、あるSCEI関係者は、ホームサーバーに搭載されるCellプロセッサは、現在のCellよりもパワフルになると語っていた。

●製造はIBMの90nmプロセスでスタート

E3時のSCEAのプレスカンファレンスで示されたCellプロセッサの特徴

 SCEIは、以前からCellプロセッサの製造は65nmプロセスで行なうと説明してきた。ところが、今回発表されたCellプロセッサのプロセスは90nm SOIとなっている。現在、サンプル中のCellは90nmプロセスだという情報は、その前から出ており、今回のアナウンスでそれが明確になった。

 もっとも、新アーキテクチャのプロセッサを開発する場合に、まず枯れたプロセス技術上で製造するというのは、比較的一般的な手法だ。その方がデバッグが容易になるからだ。まず、実績のあるプロセスで製造、次に、検証済みのチップ設計を新プロセスに載せるパターンは珍しくない。

 プレスリリースでは、IBMの300mmウエハFab(East Fishkill, NY)で、2005年前半からパイロット製造を開始するとなっている。製造については、IBMしか記されていない。このことから、現在のCellのサンプルはIBM製造であることが推測できる。また、パイロット製造については記されているが、本格量産についてはどこにも記されていない。さらに、各Cell搭載機器が、今回の90nmプロセスCellを搭載するとは明記されていない。

 これには次のようないくつかの推測が立てられる。(1)Cellの90nmプロセス版の製造はIBMでしか行なわれない、(2)Cellの本格的な量産は65nm世代に入ってから、(3)大半のCell搭載機器は65nmプロセスのCellを搭載する。

 ポイントは、SCEIが自社のFabでも90nm版Cellの製造を行なうかどうかにある。おそらく、SCEIは65nmプロセスからCellの製造をスタートさせると推測される。SCEIが90nmでCellの製造を行なおうとすると、いくつかの困難が発生するからだ。

 まず、IBMの90nm Fabで開発したCellの設計を、SCEI側のFabに移すには時間とコストがかかる。通常、プロセス技術に共通性がないFabへとチップの生産を移すためには、物理設計をかなり変える必要があるからだ。

 ソニー/SCEIは、IBM、東芝とともにプロセス技術の共同開発のアライアンスを結んでいる。IBMはAMDともプロセスの共同開発を行なっており、実際には4社によるプロセス技術連合となる。AMDによると、IBM、ソニー/SCEI、東芝、AMDでプロセス技術のコモンベースラインを共同開発。その技術を各社のFabへと、それぞれユニークな方法で実装するという。4社の間で、プロセス技術の共通プラットフォームができるため、チップ設計をFab間で移すことが容易になる。

 しかし、90nmプロセス世代では、まだプロセスの共通性が薄いと見られる。これは、プロセス開発のアライアンスを締結した時点で、すでに90nmプロセスは各社が個別に開発を行なってしまっていたためだ。本格的に共通化されるのは65nmになってからとなる。それまでは、Cellの製造を移すことは、やや難しい。

 また、製造キャパシティ上からも、SCEIが90nmプロセスで製造することは難しい。

 SCEIは、長崎で2つのFabを稼働させている。このうち、Fab2(10,000平方m)で200mmウエハによる0.15μm〜90nmプロセスでの製造を行なっている。SCEIは、このFab2 2Fで、新型PS2とPSXに搭載しているEE+GSワンチップとPSPチップの製造を行なっている。そして、Fab2 1F(10,000平方m)で現在65nmプロセスの検証を行なっている。もしSCEIが90nmへもCellを割り込ませるとなると、当然、PS2、PSX、PSPの各チップの製造キャパシティを食ってしまうことになる。

 こうした背景から、CellはまずIBMの90nmプロセスで製造を開始、さまざまな機器へと本格的に搭載されるのは、IBM以外のFabにも移転される次の65nm版になってからだと推測される。おそらく、PlayStation 3に搭載されるのも65nmプロセス版になるだろう。もちろん、65nm版が遅れた場合には、IBMの90nm版でスタートする可能性もあるが。

 ちなみに、90nm版Cellは、消費電力面では不利になりそうだ。現在、PlayStation 3の非常に初期的な開発キットがごく一部で稼働していると言われるが、そのマシンの消費電力は非常に高いとウワサされている。現在のハイスペックPC並に電力を食うと、あるソースは言う。これは、まだ不確かな情報なので正しいかどうかはわからないが、もしCellが想定通りの演算性能だとしたら、高消費電力は当然と言える。

E3時のSCEAのプレスカンファレンスで示されたCellベースワークステーションとCellベースゲーム開発キットの関係図 E3時のSCEAのプレスカンファレンスで示されたCellベースワークステーションのスケジュール。今回は、このスケジュールにミートしていることが明かされた

●PlayStation 2のきっかり6年後を走るPlayStation 3

 今から5年半前、'99年2月のISSCCで、SCEIと東芝は次世代エンターテイメント機器向けプロセッサの概要を発表した。128bit CPUコアに2個のベクタ演算ユニットとイメージプロセッシングユニットを内蔵したその強力なプロセッサは、後にEmotion Engineと名付けられ、PlayStation 2に搭載された。この時の発表会場は、立ち見も出るほどの盛況で、普段は半導体に縁がないゲームメディアも取材に詰めかけた。次のISSCCは、その再現になりそうだ。

 SCEI内部には、もともと今年10月の「Processor Forum」で、Cellプロセッサのシステムを公開するという計画もあったという。そのための、ライブデモ用システムも用意していたが、時期尚早だとして見送られたとあるソースは言う。どうやら、もともとISSCCが発表の場として設定されており、それまでは、一切公開しないという方針を貫いたと見られる。

 ISSCCを技術発表の場に選んだPlayStation 3とPlayStation 2。そのスケジュールは、PlayStation 2のそれに極似している。

 PlayStation 2は、'99年2月のISSCCで技術発表、3月のプレミアイベントで実機ベースのデモを見せ、その後、5月の「E3(Electronic Entertainment Expo)」や東京ゲームショウでの公開を経て、翌2000年の2月に実機が発売された。

 一方、PlayStation 3は2月のISSCCのあと、2004年会計年度末(2005年3月頃)までにPlayStation 3プレミアイベントが行なわれる。さらに、2005年5月のE3で一般公開が行なわれ、9月の東京ゲームショウ(TGS)ではプレイアブルも含めたゲームタイトルデモが期待されている。こうして見ると、PlayStation 3は、PlayStation 2のスケジュールを、ほぼ正確に6年ずらしたコースを走っていることがわかる。

 '99年は、ISSCC以来、次々に公開されるPlayStation 2の情報で沸き返った。同じコースを辿るとすると、2005年はPlayStation 3の情報で、ゲーム/半導体業界の話題は盛り上がることになりそうだ。

 Cellベースの製品で、まず登場するのは、ソニー/SCEIとIBMで開発しているワークステーションとなる。これは、現在、試作機が稼働している状態だという。現在のところ、IBMによるCellベース機器の製品化として予定に上がっているのは、このワークステーションだけだ。

 ソニーグループでは、SCEIがPlayStation 3に採用するほか、ソニーが複数のブロードバンド向けホームサーバーと、複数のHDTVシステムに採用するとされている。ホームサーバーとHDTVは2006年とされている。東芝は、2006年にCellベースのHDTVを1製品出すとリリースには記されている。

 こうしてみると、今のアナウンス段階では、主力製品のPlayStation 3ほか複数製品にCellを使うと明言しているのはソニーグループだけだということがわかる。東芝製品は、英文リリースでは「a high-definition television (HDTV)」と単数形になっており、まだ様子見的な雰囲気が強い。まだCellに対して、ソニーグループ以外は全幅の信頼と期待を寄せているわけではないことがわかる。

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【12月2日】【海外】ISSCCで明かされるCellの実像
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【11月29日】米IBMとソニーら、Cellの概要を発表
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【5月14日】【海外】IBM/SCE/ソニーのCellプロセッサワークステーション
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【2002年3月25日】【海外】PlayStation 3の核となるCellは全く新しい概念のCPU
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0325/kaigai02.htm
【2002年3月25日】【海外】PlayStation 3の正体は“Cell+Linux+グリッド+自律コンピューティング”
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0325/kaigai01.htm

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(2004年12月3日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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