■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■Sonoma世代に刷新される来年のモバイルCPU |
Intelは来年(2005年)1月に、いよいよ第2世代のCentrinoプラットフォームを発表する。新プラットフォーム「Sonoma(ソノマ)」では、チップセットはPCI Express世代の「Intel 915GM(Alviso:アルビソ)」ファミリへと変わる。CPUは90nm版Pentium M(Dothan:ドタン)のままだが、FSB(フロントサイドバス)が400MHzから533MHzへと拡張される。
現在の予定では、Sonomaは1月の年明け早々の5日からスタートする。面白いのは、Sonomaは日本と韓国だけで、まず搭載ノートPCの販売と広告が先行スタート。CES(Consumer Electronics Show, 2005年1/6~1/9)をはさんで10日遅れでワールドワイドのローンチになる点だ。日本でのCentrinoの成功を反映したようなスケジュールとなっている。
FSB 533MHz版のDothanは2.13GHz(770)/2GHz(760)/1.86GHz(750)/1.73GHz(740)/1.6GHz(730)の5SKUで登場する。つまり、周波数帯としては現在のDothanラインナップと同列で、FSBだけを400MHzから533MHzへと引き上げることになる。ちなみに、FSB 533MHzになるのは、通常電圧版だけで、低電圧(LV)版と超低電圧(ULV)版は、いずれもFSB 400MHzにとどまる。
Alvisoはグラフィックス統合版「Intel 915GM(Alviso-GM)」、ディスクリート版「Intel 915PM(Alviso-PM)」、小型ノートPC向けグラフィックス統合版「Intel 915GMS(Alviso-GMS)」、低価格グラフィックス統合版「Intel 910GML(Alviso-GML)」の4製品で登場する。いずれもICHはPCI Express世代の「ICH6-M」に代わり、PCI Expressがサポートされる。
Intelの2005年のモバイルは、基本的にはこの「Dothan+Alviso」の組み合わせとなる。デスクトップでは、2005年の中盤にデュアルコアが来るが、モバイルは2005年に出荷されるモバイル系ノートPCについてはシングルコアのままだ。また、周波数の向上が止まってしまう2005年のデスクトップCPUロードマップと比べると、モバイルCPUの2005年の周波数はましだ。少なくとも、2005年の中盤には1回の周波数向上が予定されている。Dothan FSB 533MHzでPentium M 780(2.26GHz)が登場、周波数は133MHz向上する。うまくすれば、もう1回秋冬時期に周波数向上があるかもしれない。周波数の向上は緩やかだが、それでも年間10%程度は見込めるわけだ。
●YonahではDothan並の動作周波数を維持
Intelの65nmプロセス版デュアルコアモバイルCPU「Yonah(ヨナ)」は、Dothan 533のちょうど1年後に登場する。2005年第4四半期にチップの量産出荷、2006年第1四半期に搭載ノートPCが登場するスケジュールだ。
デスクトップではデュアルコアの「Smithfield(スミスフィールド)」は、シングルコアの90nm版Pentium 4(Prescott:プレスコット)系より動作周波数が低くなる。しかし、モバイルでは、Yonahの動作周波数はほぼDothan並の2.xGHzを維持できる見込みだという。つまり、シングルスレッド性能でも、シングルコアのDothanと同レベルを保つことができる。
Yonahの次に、2006年中には、第2世代の65nmプロセスデュアルコアCPU「Merom(メロン)」が登場すると見られている。YonahのCPUコアはDothanの拡張版だが、MeromではCPUコアアーキテクチャが一新される。こうして見ると、Banias(2003年第1四半期)、Dothan(2004年第2四半期)から始まり、今後も、ほぼ1年置きにIntelのモバイルCPUは刷新されていることになる。
もっとも、モバイルCPUのロードマップは、当初のプランよりも遅れている。Dothan FSB 533MHzは2004年第4四半期の予定だったのが2005年第1四半期へずれた。そもそも、Dothan自体が元のプランより2四半期近く遅れた。
Yonahも遅れている。もともと、IntelのロードマップではYonahの1CPUコア版「Yonah-1P」が2005年第2四半期、デュアルコア版「Yonah-2P(Yonah-2Dと呼ぶソースもあり)」が2005年第3四半期に出る予定だった。現在判明しているYonahのスケジュールは、これより1~2四半期遅れている。
もっと正確に言えば、以前と比べると新プロセス技術のCPU製品の立ち上げ自体が遅れている。0.13μmまでは新プロセスは夏から秋にかけて製品が登場していた。しかし、現在は冬の終わり、年が変わってからようやく新プロセスのCPUが登場するペースになっている。Yonahの遅れも新プロセスの立ち上げがずれ始めた結果だと見ることができる。もっとも、Yonahの次の65nmプロセッサ「Merom(メロン)」も同様に遅れているため、原因はそれだけではなさそうだが。
ちなみに、プラットフォーム(チップセット+無線LAN)の刷新スケジュールもずれ込んでいる。Intelはもともとモバイルプラットフォームの刷新を、毎年9~10月に行うサイクルを予定していた。だが、PCI ExpressチップセットAlvisoは1月へとずれ込んだ。デスクトップCPUのように根本からの路線転換はないものの、モバイルでもスケジュールの遅れが目立つ。
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●モバイルCPUのTDPはふたたび上昇へ
IntelのモバイルCPUの変遷を、TDPから見て行くとどうなるのか。TDPでは顕著な方向性が見える。それは、再び上昇に転じることだ。
Mobile Pentium III世代のTDPは24.5Wだった。Intelは、この当時、これがモバイルPCに搭載できるTDPの上限という認識を示していたが、2002年になると急転、Mobile Pentium 4-Mを投入して、TDPを一気に35Wに引き上げた。それどころか、デスクトップ代替(DTR)のトランスポータブルノートPCが台頭すると、従来デスクトップCPUを使っていたその市場向けに、最大88W TDPのMobile Pentium 4を投入した。
だが、Pentium Mへのシフトで、モバイルCPUのTDPは再びPentium III時代の水準へと戻った。0.13μm版Pentium M(Banias:バニアス)のTDPは24.5Wで、さらに90nm版Pentium M(Dothan:ドタン)ではTDPを21Wに下げた。Mobile Pentium 4-Mの退潮で、ノートPCのTDPは、60~80Wレンジ(トランスポータブルノートPC)と、25Wレンジ以下(薄型軽量ノートPC)へと二極化して行く傾向にあった。
だが、Intel モバイル系CPUは25Wレンジに留まらず、じりじりとTDPを上げて行く。まず、Dothan FSB 533MHzではTDPが27Wに上がる。Intelは、Dothanを製品化する前は、Dothan FSB 533MHzも25W以下に押さえ込めるとしていたが、現在は27Wと顧客に説明している。実シリコンが完成したら、TDPのシミュレーションにズレがあったことがわかったわけだ。
YonahになるとTDPはさらに上昇する。現在、複数のソースから、YonahのTDPが31W程度であることが確認できている。シングルコアのDothanの27WからYonahへわずか4WしかTDPが上昇しない。これは、130WにまでTDPが上昇し、熱の制約から周波数を3.2GHzに抑えなければならないSmithfieldとは大きな違いだ。その背景にはいくつかの理由が考えられる。
まず、Yonahは65nmプロセスになるため、Intelの発言を信じるなら90nmプロセスよりも消費電力を抑えることができる。また、コアが2個になってもTDPは単純に2倍にはならないとIntelは説明している。これは、2つのCPUコアが同時に負荷のピークになるケースが少ないからだ。ほとんどのケースで、片方のCPUコアの消費電力がピークになっても、もう片方のCPUコアの消費電力はピークに至らないため、TDPは1.x倍にしかならない。もちろん、アプリケーション側がマルチスレッド対応を進めていくと、デュアルコアを有効に使えるようになるため、ソフトウェア側から見るとデュアルコアがビジーに働くように見えるようになる。しかし、その場合も、CPUコア自体はメモリ待ちなどでストールしている時間がかなり発生するため、必ずしもビジーな状態が維持されているわけではない。
Intelは、YonahではTDPは上昇するものの、平均消費電力はDothan並を維持できるとしている。これは、Yonahが動的に動作するコアの数を切り替えることで、平均消費電力をほぼDothanと同程度に抑えることができるからだ。ACPI 3.0経由で制御することで、コアのオンオフが可能になる。
●ターゲットが変わるMerom以降
2月頃このコーナーでYonahについて45WのTDPだと予測したが、これの情報はその後刷新されている。45WはIntelの次々世代プラットフォーム「Napa(ナパ)」の推奨TDPで、Yonah自体のTDPではない。IntelがNapaで45WにTDPを引き上げようとしていたのは、次々世代CPUアーキテクチャ「Merom(メロン)」のためだ。
どういうことかというと、Intelのプラットフォーム更新とCPU更新のサイクルは若干ずれているからだ。Napaは、Yonah-Merom世代のためのプラットフォームとして企画されており、少なくとも今春までのIntelは、同じプラットフォーム上でYonahからMeromへの世代交代を実現しようとしていた。そのため、Meromまで載せることを考えるならプラットフォームのTDPは45Wとなるわけだ。
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もっとも、Meromもスケジュールがずれ込んでいる。もともとMeromは2006年第2四半期に登場する予定だったが、少なくともそれよりは遅れている。Meromが遅れている場合、Napaではなく、次の「Santa Rosa」(Crestlineチップセットベース)と同期することになり、Napa世代で45Wの必要はなくなる。余談だが、モバイルプラットフォームは、初代Centrinoの「Carmel(カーメル)」からSonoma、Napa、Santa-Rosaとアメリカ西海岸のワイン地帯がコードネームに使われている。
いずれにせよ、IntelのモバイルCPUは、今後、25Wレンジを出て、Dothan 27W、Yonah 30W台、Merom 40W台と徐々に上昇して行くことになる。
MeromでTDPが大きく上昇するのは、おそらくMerom系コアがモバイルとデスクトップの両方をターゲットとしているためだ。より高いTDP枠の中で、Banias/Dothan/Yonahよりも高いパフォーマンスレンジまでカバーすることを狙ったコアがMeromだと言われている。Yonahには1CPUコアのULV版があるのに、MeromではULV版がない(微細化版からULVが登場)ことからも、Meromのターゲットがわかる。
Intelは、マルチコア時代になって、CPU戦略を大きく転換しつつある。CPUコア自体の消費電力は抑え、デュアルコア時に最高周波数を達成できるようにしようとしている。デスクトップでもCPUコアの消費電力を抑えるとなると、モバイルCPUコアとの共通化を図ることが容易になる。Intelの研究開発の幹部は、いずれも、現在3アーキテクチャ(NetBurst、IA-64、Pentium M)が並列するCPUコア開発を、今後は整理して行くことを示唆している。
Meromについては、一部顧客に対してパフォーマンスのシミュレーションデータが出ているという。2005年に入れば、もう少し正体が見えてきそうだ。ちなみに、Meromは、4命令/クロックの内部アーキテクチャだと、Intelのプレゼンテーションをベースに先月の記事で推測した。また、おそらく、Pentium M系よりやや高い周波数レンジをターゲットにしていると見られる。しかし、先月の記事で紹介した「PARROT」のようなアグレッシブなアプローチはまだ取らないため、アーキテクチャ面でのパフォーマンス/電力効率の向上は限られると見られる。
□関連記事
【11月9日】電力効率の向上にフォーカスするIntelの研究開発
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1109/kaigai133.htm
(2004年12月7日)
[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]