■多和田新也のニューアイテム診断室■10年ぶりのフォームファクター刷新を目指す「BTX」 |
現在のATXに代わる新たなフォームファクターとして2003年秋に発表された「BTX」フォームファクターが、いよいよ現実のものとして姿を表した。BTXは、マザーボード上のチップセットやソケットのレイアウトを見直し、ケース内のエアフローを改善することで、小型PCなども容易に作れるのが魅力とされる。今回は、このBTXの内部の様子を紹介する。
●CPU-チップセットが一直線上にレイアウト
「BTX(Balanced Technology eXtended)」は2003年秋のIDFにおいて発表された、ATXの後継となるフォームファクターだ。ATXが規定された'95年から10年が経過しようとしているが、ついにフォームファクターが見直される。
このBTXでは、省スペース性とともに、ケース内部のエアフローを強く意識することで、現在とくに気を使われている熱処理や騒音を改善しているのが大きなポイントとなっている(画面1~2)。
【画面1】こちらは今年秋のIDFで行なわれたBTXのセッションにおける資料。BTXを使った約16リットルというサイズのPCのサンプル | 【画面2】そして、そのサンプルPCのエアフローをモデル化したもの。前面から空気が送り込まれ、周辺を巻き込むように流れるのが分かる |
ちなみに、ATXの場合は'97年にmicroATX、'99年にFlexATXと徐々に小型のフォームファクターが策定されていったのに対し、BTXは省スペースを考慮する性格もあって、現段階でタワー向けの「BTX」、10リットル台のスリム/ブック型PC向けの「microBTX」、さらに小型の「picoBTX」の3種類が規定されている(表1)。
BTX | microBTX | picoBTX |
---|---|---|
325.12×266.7mm | 264.16×266.7mm | 203.2×266.7mm |
ATX | microATX | FlexATX |
305×244mm | 244×244mm | 229×191mm |
今回入手したのは、僚誌AKIBA PC Hotline!でも報道されているように、すでに秋葉原でも販売が開始されているmicroBTXの製品である(写真1)。表にも記載したとおり、microBTXはmicroATXよりも一回り大きいサイズ。レイアウトは一変している(写真2)。とくに、I/Oリアパネルとスロットの位置関係が、ATXとはまったく逆になっているのが目に留まる(写真3)。
しかし、BTXでもっとも重要なのは、CPUとチップセット、メモリスロット、PCI Express/PCIスロットのレイアウトに関してで、CPUソケット-MCH/GMCH-ICHが一直線に並ぶ格好にレイアウトされている点だ(写真4)。
詳しくは後述するが、microBTXマザーを用いたリファレンスデザインでは、写真4の左(ケース前面)にファンを配置し、右(ケース後方)にかけて空気が流れることになる。そのエアフローに対して、CPUを含む各チップが直角にレイアウトされているおり、これによりチップに触れた空気がスムーズに流れ、かつ、空気抵抗が減るので後方へ無駄なく空気を送ることができるわけだ。
また、CPUやチップセット冷却から脇にそれた空気、およびリアパネルに当たって跳ね返った空気により、両脇に配置されたメモリや拡張カードの両面へも空気が送り込まれるというように、効率よく排気されることも考慮したエアフローとなっているのがポイントだ。
このほか、マザーボード上で気になる点は、ICH脇に設置されたピンだ(写真5)。これは、先日紹介したnForce4搭載マザーにも設置されており、そのときにはNewCardという印刷がなされていた。今回のmicroBTXマザーのマニュアルには「Express x1 Header」と記載されており、インテルに確認したところ、どうやらこれはExpress Cardのアダプタを接続するためのもので間違いないらしい。肝心のアダプタもカードも入手できない状態ではあるが、徐々に新規格への移行が始まるものと思われる。
【写真4】CPUソケット-チップセットが一直線上に配置される。また、コンデンサも含めて空気の流れに対して直角にレイアウトされるのが特徴だ | 【写真5】Express Cardのアダプタを使うためのPCI Express x1インターフェイス。マニュアルではExpress x1 Headerと記されている |
●ケースファンも兼ねる大型のCPUクーラー
CPUは、従来どおりのLGA775のものとなる(写真6)。BTX向けのBOXパッケージは、Pentium 4 560(3.6GHz)/550(3.4GHz)/530(3GHz)の3種類がラインナップされる。なお、このBTX向けCPUは、いずれもNX機能に対応するはずなのだが、今回借用したPentium 4 550のサンプルは、ATX向けに販売中のものとまったく同一で、NX機能には対応していなかった(画面5)。実際に販売が開始されたときは、こちらの記事にもある、末尾にNX機能対応を示す“J”が付いているかを確認してみてほしい。
【写真6】BTX向けBOXパッケージに含まれるPentium 4 550。ATX向けと変わらないLGA775のCPUである | 【画面5】CrystalCPUIDを実行した結果。こちらで掲載した従来のPentium 4と比べて、クロック以外の差はない |
ここで“BTX向けの”という表現を使っているのは、ATX向けとは違うパッケージとなるからである。そのパッケージはATX向けよりも一回り大きくなるのだが、その理由はCPUクーラーが大型化されているためである(写真7~9)。
CPUクーラーには35mm厚の92mm角ファンが取り付けられている(写真10)。BTXでは、CPUクーラーに付いているファンが、そのまま前面部のケースファンとなる仕組みになっているので、多くの風量を確保するためにこうした大型のクーラーが利用されることになる。このファンはBTXで規定されている「Type I」と呼ばれるクーラーであり、picoBTXなどを使った小型PC向けには、70mm角程度のファンを使用した「Type II」と呼ばれる小型のクーラーも用意される。こちらは来年以降に入手可能となるようだ。
●実際に組み立てて内部を紹介
それでは、microBTXマザーを使ったPCの内部の詳細を、実際に組み立てつつ紹介していきたい。今回利用する対応ケースは、AOpenの「B300A」というモデルで、約13リットルのブック型ケースである(写真11)。
フロント部には5インチベイと3.5インチベイが左脇、USBやIEEE 1394などの端子類が右脇に配置されている(写真12)。この前面部の中央やや右よりは何も設置されていないが、これはファンの吸入口となる。これはBTXの致命的欠点ともいえるのだが、ここがデッドスペースとなってしまう。
内部は写真13のようになっている。写真向かって左側が前面となるが、ちょうど黒いラバーが見えるのがファン(CPUクーラー)の設置部分となる。そこからまっすぐ後方に向かって空気が流れるわけだ。写真手前部分がマザーボード、奥部分がドライブ類、電源となる。
【写真11】microBTX対応のAOpen「B300A」。約13リットルのPCケースである | 【写真12】前面のレイアウト。中央右より部分は吸気口となるため、インターフェイスなどを設置できないのもBTXの特徴 | 【写真13】ケース内部。手前部分がマザーボード、奥部分がドライブ、電源という配置になる |
この電源だが、AOpenのB300Aは最大出力275Wの電源を装備している(写真14)。形はアルファベットの“L”のような格好となっているが、この形状も規格化されており、このタイプはCFX12V電源と呼ばれる(写真15)。また、CPUクーラー同様に一回り小さいサイズの電源も規格化されており、そちらはLFX12V電源と呼ばれる。
では、まずマザーボードの取り付けを行なうが、1つ重要なパーツがあるので紹介しておきたい。それはSRM(Support and Retention Module)と呼ばれるものだ(写真16、17)。これはマザーボードの裏側に設置され、CPUクーラーの重みによるマザーボードの“たわみ”を防止するアイテムだ。
ATXマザーでも最近ではソケット裏面にバックパネルを装備して、たわみを防いだりしているが、本来ATXの規格で保証されているCPUクーラーの重量は450gまでである。これがBTXでは900gまで保証されることになる。大型なのが目につくが、これはSRMにはCPUクーラーによるマザーボードのたわみを防ぐと同時に、荷重を分散することでシャーシのたわみを防ぐ目的もあるためだ。
SRMの上にマザーボードを設置すると、CPUソケット脇にある4個のネジ穴のうち、マザーボード中央寄りにあるネジ穴とピッタリ一致する(写真18、19)。そして、その2つのネジ穴と、SRMを挟んでシャーシにあるネジ穴2つに、CPUクーラーをネジ止めする(写真20、21)。ファンから送られる空気はマザーボード上だけでなく、マザーボードの下も流れることになるが、これもBTXの1つの特徴となっている。
このほかにBTXの特徴となる部分は、メモリスロットやドライブ、電源部のレイアウトとなる。ここは写真22のように、5インチベイ部分と電源を持ち上げることで見えてくる。この辺の組み立て方法に関しては、ケースによって若干デザインが異なる可能性もあるが、こういった部分のエアフローも考慮されたBTXではレイアウトに関して大きく違うことはないだろう。
実際に取り付けて組み立ててみると写真23の様になる。小型のケースということもあり、さすがにケーブル類がゴチャゴチャした印象は拭えない。背面は写真24のとおり。ATXよりもI/Oパネルスペースの幅が狭められているのが特徴だ。また、ケース自体にファンはなく、電源ユニットのファンのみとなる。
さらに特徴的なのは拡張スロットのブラケットの配置だ。向かって左側にあるブラケットはロープロファイルで、PCI/PCI Express x1用となる。そして、I/Oパネル上部に横向きに設置されたフルサイズのブラケットがあるが、これはPCI Express x16用、つまりビデオカードを取り付けられる。
実際に利用するにはライザーカードを使うことになる(写真25、26)。ただし、ビデオカードが設置される部分の前方には先述の大型CPUクーラーが鎮座し、スペースを制限している。実際にボート長約165mmのビデオカードを取り付けてみたが、写真27のとおり、これでもギリギリである。また、脇のブラケットの穴を一部塞ぐ格好にもなっている。現実的にはちょっと使いづらい雰囲気であり、今後「BTX対応」といった謳い文句のビデオカードも登場してくるかも知れない。
●作業中の温度変化が少ないBTX
内部のエアフローを改善したといわれるBTXだが、実際に冷却性能はどうなのだろうか。テストしてみることにしたい。テストにあたり構築したPCは表2のスペックを持つものである。CPUクーラーは純正BOXパッケージに付属のクーラーを使用している。
BTX PC | ATX PC | |
---|---|---|
CPU | Pentium 4 550(3.4GHz) | |
マザーボード | Intel D915GMH | GA-8I915G-MF |
チップセット | Intel 915G | |
メモリ | PC3200 DDR SDRAM 256MB×2 | |
ビデオカード | Intel 915G内蔵 | |
HDD | Seagate Barracuda 7200.7(ST3120026AS) | |
光学ドライブ | NEC DV-5800B | |
FDD | MITSUMI D353M3D | |
ケース | AOpen B300A | SuperFlower SF-561-BK |
電源 | AOpen FSP275-50BW | Tagan TG480-U01 |
このPCを使い、TMPGEnc 3.0 Xpressを使って、約1.5GBのMPEG-2ファイルのエンコードを実施。エンコード自体は8分弱で終了するが、その前後数十秒を含めて温度を測定。10秒ごとにトレースした。
温度測定にはCPUとHDDの温度についてSpeedFanを、またチップセットと電源ユニットは表面に温度計を設置した(写真28~33)。
ということで、実際に測定した温度グラフ化したものがグラフ1、グラフ2である。今回ATXに関しては、タワー型のものを使っており、しかもケースファンが4個も搭載されていることから、絶対的な差が大きくついてしまった。
【グラフ1】BTX PCにおける各部位の温度 | 【グラフ2】ATX PCにおける各部位の温度 |
しかし、ここで着目したいのは、BTXでは、CPUの温度上昇が少なく、チップセットの温度は逆に下がっている点だ。どの程度温度が変化したかの傾向を分かりやすくするため、測定スタート時の温度を100とした場合の相対温度を算出し、グラフ化したものがグラフ3とグラフ4である。
【グラフ3】BTX PCにおける各部位の温度変化 | 【グラフ4】ATX PCにおける各部位の温度変化 |
ご覧のとおり、BTXではCPU温度が全体に渡り約10%上昇、チップセット温度が最大約15%低下というのが特徴的で、さらに電源ユニット表面の温度もわずかに下がっている。一方のATXはCPU温度が最大で約60%、チップセットが最大約20%、電源ユニット表面も約10%、いずれも上昇のカーブを描く。HDDについては、どちらも傾向は変わらない。
BTXでチップセットや電源ユニット表面の温度が低下したのは、CPUクーラーのファン回転数が上がったのが理由だろう。CPU温度の上昇に伴ってファンの回転数が上がる仕組みは、ATX用のクーラーにも実装されているが、CPUを冷却し熱を帯びた空気がうまく排出されないためにケース内温度が上昇し、結果として徐々に全体の温度が上昇してしまう。ケースファンが4個も付いていてもである。
BTXは空気をうまく排出できているので、ケース内の温度がそれほど変化せず、むしろ風量が上がったことで、熱量の大きいCPU以外の個所では温度低下が見られた。
もう1つ気になる騒音について所感を述べておくと、通常使用時は非常に静かである。ただ、回転数が上がると、うなるような低音が響きだし、しかも前面というユーザーに近い部分にあることから、わりとうるさく感じられる。電源ファンはそれほど気になるレベルではなかった。
高回転時のノイズは非常に気になるものの、今回ATXで使用したケースファン×4+CPUクーラーという構成に比べれば当然静かである。ATXではこれだけのファンを用意してもケース内温度の上昇を防げないのに対し、BTXはファン2個でケース内温度の上昇を防げているわけで、騒音対冷却の効率でいえばBTXは遥かに優れているといって差し支えないと思う。個人的には、BTXのファンが後方に設置された格好で規格化されれば、なお良かったと思われる。
●BTXフォームファクターは今後の主流となるか?
以上のとおり、新しいフォームファクターであるBTXの実際を紹介してきた。小型のPCであっても、内部のエアフローの改善によって冷却効率を高める、というBTXの特徴はテストで色濃く表れた。
ただ、日本のPCメーカーは、すでにATXでも熱設計電力の大きいCPUを組み込んだ小型PCを開発しており、フロント部分にデッドゾーンが生まれるBTXを歓迎しないのではと想像される。むしろ、既存のPCパーツを組み合わせてPCを販売するいわゆるホワイトボックスPCのほうが、BTXを受け入れていくのかも知れない。
ちなみに、BTXが今後主流となるか、については当然気になるところだ。Intelでは、今後登場するチップセットの設計ガイドラインとして、BTXに準拠したものを策定していくとしている。つまり、そうしたチップセットでATX準拠のマザーボードを作ろうとすると、リファレンスデザインを元に再設計を行う必要が生じる。こうした作業を行なうマザーボードベンダーはそう多くないと思われ、自然とBTXに準拠したマザーボードは増えてくるだろう。
もちろん、過去にIntelが提案した規格すべてがトレンドとなったわけではないが、今回はフォームファクターという根幹に関わる部分であり、どの程度のスピードになるかは分からないが、ATXの時と同様、確実に移行は進むだろう。
□関連記事
【11月13日】BTX対応のIntel純正マザー発売、ただし対応CPUクーラーなし(AKIBA)
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20041113/etc_d915gmh.html
【10月29日】【多和田】Athlon 64用PCI Express対応チップセット「nForce4」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1029/tawada34.htm
【9月24日】【多和田】Athlon 64用PCI Express対応チップセット「nForce4」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0924/intel2.htm
【6月22日】【多和田】LGA775プラットフォームがいよいよ始動
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0622/tawada23.htm
(2004年11月15日)
[Text by 多和田新也]