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大きく異なるPSPとNintendo DS




●ハードスペックは大きく異なる両ゲーム機

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)の「PSP」と任天堂の「ニンテンドー・ディーエス(Nintendo DS)」。2004年は、携帯ゲーム機で2社が激突する。  しかし、携帯ゲーム機として登場するものの、両ハードは正反対と言っていいほど性格も位置づけが異なる。特に対照的なのは、中核となるチップだ。

 バッテリ駆動を前提とした携帯機器であるため、ハードの最大のポイントは、トレードオフの関係にある消費電力と、パフォーマンスおよび機能とのバランスをどう取るかになる。また、携帯機器に、どれだけの機能が適切か、という点も重要となる。その点で、両ハードのスペック(推定を含む)を比較すると、設計思想の違いは明瞭だ。

PSP NINTENDO DS

 一言で表現すると、携帯機器には過剰と思えるほどの機能と高性能を狙ったのがPSPチップ。それに対して、現行の技術で無理なく実現できる範囲にとどめたと思われるのがNintendo DSチップとなる。ゲーム機チップとしての機能面では、誤解を恐れずに表現するなら、PSPチップが“PlayStation 2クラス”であるのに対して、DSチップは“Nintendo 64クラス”と言っていいだろう。つまり、PSPは現行世代の据え置きゲーム機にほぼ匹敵する機能であるのに対して、DSは1世代前の機能だ。

 また、機能面では、PSPチップは、ゲーム機としての部分だけでなく、マルチメディアプレーヤーとしての機能の方が目立つ。例えば、PSPは重いAVC規格の動画のデコードハードウェアを備える。それに対して、DSチップは現在推定される限りではゲーム機として必要な部分に絞り込んでいる。

 単純にチップとして見ると、PSPチップの方が機能も性能もはるかに上だが、DSチップの方が消費電力とコストでは断然有利となる。つまり、“機能と性能”対“消費電力とコスト”のトレードオフで、どちらを取るかで2社は完全に分かれた。DSでは、ターゲットとする消費電力&コストに持ってゆくのは簡単だが、PSPでは非常に難しい。逆を言えば、SCEIはそれだけチップの設計能力と自社Fabのプロセス技術に自信があり、機能&性能を高く維持しながら消費電力&コストを下げられると思っているのかもしれない。

 両チップの違いは、両社のハードの狙いとも密接に連携している。DSは携帯ゲーム機にこだわる。そのため、低価格と長バッテリ駆動が要求されるゲーム機の枠に、コストと消費電力をフィットさせることを前提としているようだ。携帯ゲーム機となると、価格は100ドル台に納めて、バッテリ駆動時間も、熱中してゲームを続けても中断されないレベル(8〜10時間)に引き上げる必要がある。だから、機能についても、コストと電力で無理がない範囲に納めた。その代わり、コストや電力増が比較的少ない部分で、ゲーム性の幅を広げられる工夫を最大限入れた。それが、2画面液晶やタッチパネル、マイク入力などだ。

 それに対して、PSPはゲーム機の枠をはみ出して21世紀のウォークマン的な家電を目指している。だからコストモデルも消費電力も、携帯ゲーム機の枠にはないと思われる。価格的にも上のレンジ、つまり、携帯AV機器に近いところを狙うことになるだろう。

●オーバーキルの機能を備えたPSPチップ

 PSPチップについては、以前このコーナーの記事「PSPチップは第3のPlayStationアーキテクチャ」「PlayStation 2に迫るPSPのグラフィックスコア」「SCEIの次世代携帯ゲーム機「PSP」は“スーパープレステ”だ」などで紹介した通り。ワンチップに、これでもかというほどの機能を詰め込む。下がPSPチップに搭載される主なコアだ。

・MIPS32系CPUコア(333MHz、ベクタエンジンを含む)
・メディアエンジン
・グラフィックスコア(サーフィスエンジンとレンダリングエンジン)
・VME(サウンドコア)
・AVC動画デコーダ
・セキュリティシステム
・I/O群
・グラフィックスメモリ(Embedded DRAM 4MB)

 パフォーマンスレンジも非常に高い。例えば、グラフィックスコアの性能は、ジオメトリのT&L性能が最大33Mpolygons/sec、ピクセルフィルレートが664M pixels/secとなっている。つまり、PSPのグラフィックス機能は、初代PlayStation(PS)の10倍以上で、PlayStation 2(PS2)の約25〜50%にあたる。画面解像度を考えれば、PlayStation 2に近い性能だ。

 CPUは“MIPS32命令セットのR4000コア”で、メディアエンジンも同系のCPUコアを使う。また、CPUコアにはベクタ演算ユニットが加えられている。命令セットをMIPS64にしなかったのは、「携帯機器ではMIPS64は必要ないから」だと、ソニー/SCEIの久夛良木健氏(ソニー副社長/ソニー・コンピュータエンタテインメント社長兼CEO)は説明する。動作周波数は、どちらのCPUコアも333MHzで、この点でもPlayStation 2に匹敵する。

 さらに、圧縮率が極めて高いが、その分、デコード負担が非常に重いAVCのハードウェアデコーダを備えるのもPSPの特徴だ。これはPSPでDVDクラスの映像コンテンツを楽しめるようにするためだ。「MPEG4では、今のDVDのクオリティは得られない。AVCでちょうど、今のDVDと同じ画質」とAVC採用の久夛良木氏は説明する。この機能を備えるため、PSPでは、映画やミュージッククリップのような映像の高品質なコンテンツをプレイできる。ゲームと映像の両コンテンツは、PSPで初めて採用される新光ディスク規格UMDで供給される。

PSP概略図

●スペック的には大人しいNintendo DS

 スペックが大きくフィーチャされるPSPに対して、Nintendo DSの詳細なスペックはまだ明らかにされていない。もちろん、チップ構成やアーキテクチャも公開されていない。しかし、実際のDSハードから一定の推測はできる。

 DSについて現在明らかになっているのは、メインプロセッサにARM9コア、サブプロセッサにARM7コアの2プロセッサコアを載せること。また、実機を見る限りグラフィックスハードウェアも搭載すると見られる。CPUコアで3D処理を担当させる可能性もあるが、ゲーム開発のしやすさを考えると、専用グラフィックスハードを備えるだろう。

 3Dグラフィックス性能は、Nintendo 64+αレベル。Nintendo DSのスペックの流出資料と推定されるドキュメントがWebに流れたことがあったが、その情報では3D性能は頂点処理が4M Vertices/sec、30M Pixels/secとなっていた。ラフに言うとPlayStationやNintendo 64レベルの性能レンジということだ。もちろん、その文書が本物かどうかはわからないが、実機を見ても、そのあたりのパフォーマンスレンジに見える。以前、任天堂がNintendo 64の携帯版を検討しているという噂が流れたことがあったが、DSのスペックはそれに近い。

 面白いのは、今後の携帯電話などがターゲットとする3Dグラフィックス性能が、QVGA(320×240ドット)時に数M Triangles/sec+数10M Pixels/secであると言われていること。携帯電話も、PlayStationクラスの3D性能を目指しているわけで、DSのパフォーマンスレンジはほぼそれと重なる。

 言ってみれば、DSレベルの性能が、将来的に携帯機器のスタンダードになってゆく傾向にある。逆を言えば、技術的に携帯機器に無理なく搭載できるレベルのグラフィックス機能を載せたのがDSというわけだ。これは、技術的には無理と思えるほどの機能を携帯機器に載せようとするPSPとは大きな違いだ。

 また、DSには、PSPのような動画再生ハードウェアも搭載されていないと見られる。これは、マルチメディア端末を目指すPSPと、純粋なゲーム機を目指すDSの大きな違いだ。

●ハードルが高いPSPチップの省電力化

 こうして両ハードを比べると、消費電力の面からは、PSPチップの方が原理的には不利となる。チップだけでなく、PSPが光ディスク系ドライブを搭載していることも、電力の面では不利になる。もっとも、久夛良木氏は「太平洋路線の飛行機で映画をずっと見て行けることを目標に(PSPを)作らせた」と言う。最初の世代のPSPでその目標を達成できるかどうかはわからないが、ゴールがそこ(7〜8時間駆動)にあることは確かだ。

 PSPは1,800mAh以上のリチウムイオン電池を搭載する。これはゲームボーイアドバンスSPの600mAhのリチウムイオン電池の3倍の量だ。リチウムイオンは電圧が3.6Vなので、電力は約6,480mWhとなる。

 リチウムイオン電池の重量エネルギー密度は155Whなので、バッテリ重量は計算上42gとなる。つまり、バッテリで42g以上取ってしまうわけだ。PSPの本体重量は260gなので、これはバッテリとして搭載できる最大量を載せたと考えるべきだろう。これでもし7〜8時間持たせるなら、PSPの平均消費電力を1W以下に抑える必要がある。チップ、液晶ディスプレイ、UMDドライブの全てを含めてだ。これは、かなりハードルが高い。

 PSPチップは90nmプロセスでスタートするが、これもチャレンジだったはずだ。というのは、90nmのロジックプロセスでは、消費電力が大きな問題となっているからだ。久夛良木氏も「90nmプロセスではみんな苦労している」、「でも、うちは(PSPに)載せることができた」と言う。つまり、簡単には行かなかったが、現在はメドがきちんとついているというわけだ。

 また、PSPチップは90nmでスタートするが、すぐにプロセスの移行期が来るので、比較的早期に65nmプロセスへと行くと思われる。おそらく、PSPチップは3〜4プロセス世代にまたがって製造されるだろう。そして、そこにもハードルがある。

 従来は、プロセスが微細化すると消費電力も低減された。それによって、同じアーキテクチャでも、より携帯機器に向いたチップになって行った。しかし、微細化が進んだ現在のプロセスの場合、何らかの手を打たないとプロセスが微細化するにつれて、リーク電流の増大で消費電力が増えてしまう。そうすると、微細化の意味が半減してしまう。

 SCEIがこの問題についてどう対策するつもりなのか、まだ明らかになっていない。ただし、PSPチップに限った話では、PC向けCPUと比べると比較的低周波数であるため、トランジスタの高速化を追求する必要がないという利点がある。

 リーク電流のうちサブスレッショールドリークは、しきい電圧が下がり過ぎたために増大し始めている。微細化が進むと供給電圧を下げる必要が出てくるが、それと一緒にしきい電圧(Vt)も下げると、リーク電流は増大してしまう。ところが、リークを抑えるためにしきい電圧を比較的高く維持すると、トレードオフとして、トランジスタのスイッチングが遅くなってしまう。そのため、トランジスタ性能を犠牲にすると、ある程度まではリーク電流を抑えられる。通常、ロジックチップでは、高Vtと低Vtのトランジスタを混在させるが、高Vtの比率を増やすことで対処できるかもしれない。

 ちなみに、SCEIはPlayStation 3のチップセットで、65nmプロセスを採用している。同社はIBM、東芝とプロセス技術の共通化を進めており、65nm世代では共有プロセスが使われると見られる。ある関係者によると、PlayStation 3のCPUであるCellプロセッサは、パフォーマンス/電力の向上のためにSOIオプションを使うという。しかし、グラフィックス処理を担当するプロセッサは、SOIが使えないEmbedded DRAMを搭載すると見られる。そのため、当初はバルクになると推測される。

 ただし、東芝は、SOIとバルクのハイブリッド化により、Embedded DRAMとSOIロジックを混載できる技術も65nmプロセス向けに発表している。そのため、PSPではこうした技術を使い、SOIオプションを使ったEmbedded DRAMチップを65nmでは載せてくるかもしれない。

 PSPチップのダイサイズ(半導体本体の面積)は、現在まだ明らかにされていない。しかし、200平方mm以上あった初代PlayStation 2チップセットと比べると、ずっと小さいと推測される。久夛良木氏も、PSPチップはかなり小さくなると示唆している。

 とはいえ、これだけの機能を詰め込んだPSPチップでは、そこそこのダイサイズは必要となる。もちろんDSチップと比べると、同じプロセスならずっと大きくなるはずだ。そのため、ファウンドリを使う場合には、製造コストは高くなる。しかし、SCEIの場合は自社Fabなので事情は異なる。

 SCEIは、90nmプロセスの製造キャパシティのうち、シュリンクしたPlayStation 2チップなどで埋められないキャパをPSPチップに振り分ける。つまり、PSPチップを製造しなければ空いてしまうキャパを埋めるわけだ。そのため、単純に製造コストを比較することはできない。

●消費電力で有利なDSチップ

E3で展示されたNINTENDO DS

 コアの小さいARM系CPUを使い、据え置きゲーム機から一世代遅れのグラフィックスハードを載せる。DSの設計思想は非常に堅実だ。

 Nintendo 64のグラフィックスハードだったReality Engineのトランジスタ数が260万だったことを考えると、DSのチップセットはPSPよりかなり規模が小さいと推定される。CPUで言えばPentiumクラス、GPUで言えばRIVA 128クラスだ。動作周波数も同様だ、Reality Engineの動作周波数が62.5MHzだったことを考えると、DSチップのクロックもそれほど変わらないだろう。流出と見られる資料にも67MHzとあった。CPUで言えばPentiumクラス。PSPと比べるとDSは、トランジスタ数も動作周波数もずっと低いと推定される。

 こうした、推定上のDSチップの特徴は、DSが非常に低消費電力であることを示している。トランジスタ数が少なく動作周波数が少なければ、まずアクティブ消費電力を抑えることができる。消費電力は「電圧の二乗×動作周波数×キャパシタンス」で決まるが、DSチップはクロックが低く、キャパシタンスも少なく、低クロックであるため供給電圧も抑えることができるからだ。

 また、携帯機器で非常に重要となるリーク電流を抑えることもできる。動作周波数を60MHz程度とPSPよりはるかに低く抑えるなら、チップをリーク電流の少ない高Vt(しきい電圧)トランジスタだけで構成できるからだ。それこそ、携帯電話向けチップに使われているような、Vtの非常に高い低消費電力プロセスを使うことができるかもしれない。チップの発熱も低く抑えられることも、リーク電流低減では利点だ。

 チップ以外の面では、PSPのような光ディスクドライブを持たないことも消費電力上は利点だ。シリコンディスクしか使わないDSでは、メカニカル部分での電力消費がない。2枚に増えた液晶ディスプレイだけは、電力消費面では不利だが、逆を言えばそれ以外にクリティカルな電力消費源が見あたらない。

 こうしたことを考えると、DSにはPSPのような電力消費面でのチャレンジがない。現状の技術で、無理なく携帯機器を作ることを中心に設計されている。バッテリ容量をそれほど大きくしなくても、バッテリ駆動時間を長くできる。また、チップのダイサイズ(半導体本体の面積)も、おそらく非常に小さいと推測できる。その分製造コストも低い。ドライブ系のメカを持たないことからも、コストはDSの方がかなり低いはずだ。

 性格が大きく異なる両ハード。その違いは、携帯でのさまざまな戦略や方向性の違いを反映している。

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【4月5日】【海外】21世紀のウォークマンを目指すSCEのPSP戦略
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0405/kaigai081.htm
【2003年8月29日】【海外】久夛良木健氏が語る次世代携帯ゲーム機「PSP」の本当の狙い
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0829/kaigai014.htm
【5月13日】【本田】弱気から強気へ転じた任天堂の次世代ゲーム機論
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0513/mobile245.htm

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(2004年5月27日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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