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ATI、PCI ExpressネイティブGPUを投入へ




●PCI Express化を一気に進めるATI

 いよいよPCI Expressのお披露目となるComputexが開幕する。

 PCI Expressへの移行で最大のポイントとなるのはグラフィックスだ。グラフィックス向けのPCI Express x16はAGP 8Xと互換性がなく、IntelのPCI ExpressチップセットはAGPポートは提供しない。そのため、PCI Expressへの移行では、PCI Expressグラフィックスが必須となる。複数の業界筋によると、このタイミングでATI TechnologiesはPCI Express製品を準備しているという。

 ATIとNVIDIAはPCI Express移行に対して対照的な姿勢で臨んでいる。NVIDIAは、PCI Express移行のリスクを避けるために、PCI Express−AGPのブリッジチップを使う。それに対して、ATIはPCI Expressインターフェイスのネイティブ実装にこだわる。PCI ExpressネイティブGPU(ATI用語ではVPUだが、ここではより一般的なGPUを使う)を、エンスージアスト(上位)、メインストリーム(中位)、バリュー(下位)の3ラインで投入するつもりだ。

 NVIDIAなどがブリッジソリューションを採用する理由は明白だ。それだけPCI Expressの実装が難しく、また市場の予測が難しいからだ。一方、ATIがPCI Expressネイティブにこだわる理由も明白だ。それは、ATIがPCI Expressを推進するIntelと緊密なパートナシップを結んでいるからだ。PCI Expressで先んじることができれば、PCI Express移行が急進展した時に、市場をさらうことができるという読みもあるだろう。

 両社のこうしたPCI Expressへの姿勢の違いは、両社のGPUアーキテクチャに、かなりの影響を与えている。

 NVIDIAのGeForce FX 6800(NV40)は、インターフェイス部分はすでに枯れたAGPのまま。だから、GPUアーキテクチャ自体では、Shader 3.0の実装という比較的ラディカルな変革を行なうリスクを取ることができた。一方、ATIのRADEON X800(R420)は、AGP版とPCI Express版の両方を同時に開発した。そのため、PCI Express実装のリスクを抑えるために、GPUアーキテクチャ自体はあまりラディカルに変更しなかった可能性が高い。R420のアーキテクチャ自体は、ほとんど前世代のR350/360系に近い。

 PCI Expressの実装はGPUのダイサイズ(半導体本体の面積)にも影響する。GPU関係者は、PCI Expressの方がAGPより実装面積を取ると口を揃える。つまり、同じアーキテクチャかつ同じプロセス技術であっても、AGP版GPUよりPCI Express版GPUの方が、原理的にはダイサイズが大きくなってしまう。そのため、PCI Expressネイティブ実装をしようとすると、ダイサイズの制約も考えなくてはならない。

ATI&NVIDIA GPUロードマップ
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●3段構えのATIのPCI Express GPU

 PCI Expressに注力するATIにとって、本当のフラッグシップモデルはX800のPCI Express版であるR423になる。R423は、インターフェイス周り以外のGPUコアのアーキテクチャと性能はR420と同等だと言われている。ただし、一部の処理のパフォーマンスはPCI Express化によって向上するだろう。

 通常の3Dグラフィックスのオペレーションでは、処理はホスト→グラフィックスの一方方向だ。そして、現状の3Dアプリケーションは、AGP 8X以上の帯域を想定していないため、PCI Expressで性能上の利点はそれほど大きくはないだろう。しかし、高解像度の動画編集や動画エンコードのように、比較的大容量の双方向のデータ転送が必要になる場合には、性能は伸びると考えられる。

 ATIのR420のダイは約270平方mmと、1億6,000万というトランジスタ数の割に大きい。これは、2億2,200万トランジスタを集積したNV40が約300平方mm超であることと比較するとよくわかる。

 おそらく、これはR420のダイが最初からPCI Expressのファブリックを実装することを前提に設計されているためである可能性がある。より大きなPCI Expressのマクロブロックのスペースをダイ(半導体本体)上に取って置いて、そこにAGPのマクロブロックをはめ込んだとすれば、大きなダイサイズも納得が行く。

 フラッグシップであるエンスージアストGPUでは、新GPUコア+PCI Expressという冒険をしたATIだが、その下のクラスのGPUはやや大人しい展開となる。メインストリーム向けの「RV380」とバリュー向けの「RV370」は、インターフェイス自体はAGPからPCI Expressへと変わっているが、GPUコアはいずれもRADEON 9600(RV350)/9600XT(RV360)系の流れを組むと見られる。

 RV380とRV370の最大の違いはプロセス技術。メインストリームのRV380では0.13μm(130nm) Low-kプロセスを使うが、バリュー向けのRV370は0.11μm(110nm)プロセスで製造する。0.11μmプロセスは0.13μmのハーフ世代プロセスで、ATIが主要製品の製造を委託しているTSMCが提供し始めているプロセスだ。低コスト品の方から先に、より微細化したプロセス技術を使うのは、意外に思うかもしれないが、それには理由がある。

 「PCI Expressファミリ製品で110nmを使うだろう。しかし、それはパフォーマンスのためではない。なぜなら、現状ではTSMCは、高パフォーマンスに欠かせないlow-kオプションを0.13μmでしか提供していないからだ。しかし、110nmにシュリンクすることで、ダイを小さくしてコストを引き下げることができる。我々はその分野で110nmを使うだろう」とRick Bergman氏(リック・バーグマン、Senior Vice President & General Manager, Desktop Business Unit)は説明する。

 つまり、比較的高パフォーマンスが必要なメインストリームGPUでは、Low-kオプションによってパフォーマンス/消費電力効率を高められる0.13μmプロセスを使う。一方、低コストがもっとも重要なバリューGPUでは、ダイを小さくしてコストを下げられる0.11μmを使うというわけだ。将来的に0.11μmでLow-kオプションが使えるようになったら、メインストリーム系も0.11μmに移行させると思われる。

 ちなみに、メインストリームラインのATIのGPUは非常にダイサイズが小さい。RV360で約90平方mm程度なので、PCI Express化による増加分を考えても、0.11μmへ移行すれば、バリューGPUとして通用するコストのダイになると考えられる。

ダイサイズ推定図
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GPUトランジスタ数推定図
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●R4xxアーキテクチャをメインストリームラインにも

 ATIは今年後半も、さらに複数のデスクトップGPUを投入する。

 「我々は次の秋にも、ウルトラエンスージアストでもう1段ステップアップする。これは、それなりに大きなパフォーマンス向上になるだろう」とBergman氏は言う。

 ATIは現在、1年に1つの新アーキテクチャGPUを投入、その後はその製品のマイナーチェンジ版を半年毎に投入するペースを続けている。「プロセス技術が複雑になった今、1年に1回以上のメジャーバージョンアップを実現するのは不可能だ。(プロセスの配線)層数だけでも、昔と比べると著しく増えた。マイナーチェンジなら可能だが、メジャー製品は無理だ」とATIのKY Ho会長兼CEO(6/1からCEOはDave Orton氏)は現在のサイクルの理由を説明する。

 そのセオリーからいけば、当面はR42xに替わる新アーキテクチャは登場しないはずだ。おそらく、エンスージアストでは、R42xをさらに改良した新製品が登場すると推測される。もっとも、ATIは当初計画していたR450をスキップ、次々世代のR500を急いでいるという噂もある。そのため、Bergman氏が予告しているのがR500である可能性もある。ちなみに、ATI内部では、平行して2世代のGPUアーキテクチャの開発を行なっており、R500系とR600系の開発がオーバーラップしている。これも、開発期間が長くなっているためだ。

 今年前半から中盤のATIのラインナップは、エンスージアストだけが新しいR4xx系で、メインストリームとバリューGPUはR3xxアーキテクチャのままだ。しかし、ATIは、今年後半にはメインストリームラインもR4xxアーキテクチャに切り替えるようだ。「この秋にはメインストリーム製品もR4xxベースになるだろう。しかし、バリュー製品がR4xxベースになるのはもっと先だ」とBergman氏は言う。

 こうして見ると、ATIの戦略は従来通り、エンスージアスト→メインストリーム→バリューの順番で新アーキテクチャを段階的に浸透させる“ウォータフォール”型だということがわかる。対するNVIDIAは、比較的短期間にバリューまで新アーキテクチャを持ってくる。ここでも、両社の戦略は好対照となっている。

 ATIは、PCI Express化に際してブリッジチップは採用しなかった。しかし、今年後半にはブリッジチップも導入する。

 「我々の新製品はいずれもネイティブPCI Expressだ。しかし、将来は、ブリッジチップを使って、PCI Express製品でレガシーシステム(AGPシステム)との互換性を取れるようにするだろう」とATIのVijay Sharma氏(Manager, Product Marketing, Desktop Discrete Graphics Marketing)は言う。

 つまり、今年後半のR4xxベースのメインストリームGPUはPCI Express版だけの提供で。ブリッジチップを使うことで、AGP版カードも実現できるようにするというわけだ。

 ATIとNVIDIA。大きく異なる製品戦略を取る2社は、2004年後半も激突する。

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【5月6日】【海外】ATIが次世代GPU「RADEON X800」をWinHECで発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0506/kaigai087.htm
【4月19日】【海外】3ラインのNV4xを投入するNVIDIAロードマップ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0419/kaigai084.htm

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(2004年6月1日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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