「すでに2500万の米国人がGameboy Advance持っている。ライバルが登場? そうだな、シェアは落とすことになるだろう。100%から上がることはないからね。しかし、PSPはPS2でGameboyに戦いを挑むようなものだ。ソニーが勝てると思うかい?」。 E3 2004のプレスカンファレンスで、Nintendo of America副社長のReggie Fils-Aime氏は言い切った。 「任天堂は今、勢いに乗っている。昨年、GameCubeを99ドルに値下げして以降、ハッキリとした台数の伸びを記録している。現世代のコンソールゲーム機は、3社合計で3,800万台が売れているが、まだ2,000万台分の市場が残っている。PS2の売り上げは鈍っているが、我々のマシンは今が伸び盛りだ」。 もっとも、今年1月に発表されたNintendo DS、液晶画面を2つそなえた新しい携帯ゲーム機のスペックを見て、PSPよりもグラフィック性能やCPU性能が低いことを嘆いている人も少なくないかもしれない。だが、そんな声など吹き飛ばすほどの強気。昨年、任天堂代表取締役社長岩田聡氏は、同社としては珍しく「コンソールゲーム機において、我々は現時点での負けを認めざるを得ない」と話したが、今年は「DSは全く新しい世界を作る」と強気に転じ、さらには噂されるGameCubeの次世代機に触れ「単に3D画質“だけ”が向上したゲーム機など我々は作らない」と、来年の登場が予想されるライバル機を牽制した。 ●シェア100%を守るためのキーワード
任天堂は価格引き下げ後のGameCubeの好調さ、Gameboy Adovanceの根強い人気をアピールしながら、プレスカンファレンスの端々でソニーのPSPを意識したプレゼンテーションを行なった。その内容は、まるで“彼らはゲームの事を何もわかっていない”とでも言いたげだ。 Fils-Aime氏は話す。「ゲーム機で遊ぶ人たちは、毎日寝ても覚めてもゲームばかりやっているヲタクたちばかりではない。一方で、もちろんポケモン、ヨッシー、マリオに惚れ込んでいる人だけが市場を作っているわけではないし、任天堂の製品だけがゲーム機でもない。ユーザーの様々なエンターテイメントの選択肢のひとつにしか過ぎない」。 「我々と競合しているあるベンダーは、ホームエンターテイメントのすべてをコントロールしようと息巻いている。なんということか。あらゆる要素を、自分たちの製品だけで賄おうというのだ。もちろん、我々のことではない」。 「もうひとつの競合ベンダーは、あらゆる製品に自社のOSさえ入りさえすれば、顧客がどのようなニーズを持っているかなど、全く気にしないベンダーだ。こちらももちろん、我々ではない」。 「ドンキーコング? マリオ? 何が勝つのか。これまで市場で勝利を収めてきたのは、最強のゲーム機。任天堂はこれまでずっと、ゲームのための会社だった。他社が新機能や新ハードウェアのプレゼンを、どれだけセンセーショナルにするかを話し合っている間にも、我々はゲームを面白くすることにフォーカスしている」。 少々長い引用だったが、彼らが語りたいのは“ゲームそのものが楽しいものにならなければ、進化の意味などなんら持たない”ということだろう。その本質の上に、いくつかのキーワードを積み重ね、やっとシェアを高めていくことができる。 Fils-Aime氏は続ける。「ではゲーム機に必要なものは何か? お買い得感、ユーザーを惹き付けるお気に入りのキャラクタ、それにいつでも手軽に遊べることだ」。 ●ゲーム機の本質は新しい遊びを提供すること 確かにGameboy AdovanceがPSPに、急にコテンパンにやられることはないかもしれない。なぜなら、Fils-Aime氏が言うところのキーワードで照らし合わせれば、両者は全く異なる製品と言えるからだ。 そもそもターゲットユーザーも異なる。任天堂はGameboy Adovanceユーザーの約1/3は18歳以上で子供だけのものではないとしているが、ソニーによれば18歳以上の大人こそPSPの第1ターゲットだという。 また任天堂はGameboyから生まれた人気キャラクタやキラータイトルを持つが、ソニーはこれからそれらを作り上げていかなければならない。発表されているPSPのゲームタイトルは、ほとんどが過去にPS/PS2で開発されたもので、携帯ゲーム機向けにはこれから新しい歴史を作らなければならない。 また、価格面でもNintendo DSの方が買いやすい。それが“お買い得感”になるかどうかはわからないが、PSPの価格は安く見積もっても249ドル程度との推測がもっぱらだ。対するNintendo DSは、149ドル説と199ドル説がE3のプレスルームでは囁かれている。Fils-Aime氏は「買いやすい値付けにする」と明言しており149ドル説が有力だ。 もちろん、価格なりのハードウェア差はある。2画面とはいえ1画面のサイズは小さく、光学ドライブも搭載していない(光学ドライブ非搭載は信頼性と消費電力の面で有利なため、必ずしも劣っているわけではない)。プロセッサが2個搭載と言っても、最新プロセスなら米粒大ほどにもならないARM7とARM9だ。グラフィックに関しても、小サイズの画面では決定的と言えるほどの差をユーザーは感じない可能性もある。 それに対してNintendo DSは、2画面とタッチスクリーンという新しい要素を加え、これをもってゲームを楽しくするというのがFils-Aime氏の主張である。またPSPが搭載すると発表し話題になったWi-Fiも、Nintendo DSは同様に搭載する。Gameboy Adovanceのゲームタイトルが全て遊べるというのも、ユーザーの購買意欲を後押しするかもしれない。
単にグラフィック性能を上げるのではなく、新しい遊びを提供することがゲーム機の本質だと話す任天堂の言葉には、それなりの説得力がある。しかし、完全に賛成できるわけではない。 かつて初代PSがスーパーファミコンの牙城に攻め入った時、ソニーが成功した理由のひとつに18歳以上の大人をゲームの世界に引き込み、ゲーム機=オモチャのイメージを変えた。PS2ではその傾向はさらに強まっている。 18歳以上の大人がゲームに魅力を感じ始めた理由が、グラフィックやエンターテイメント性の違いなのだとしたら、盤石の体制を作っていた任天堂が破れた歴史は繰り返すかもしれない。現世代の携帯ゲームは、まだ完全には18歳以上のためのエンターテイメントにはなっていないからだ。 ●任天堂的次世代機論
携帯ゲームの新機種発表で沸いているE3だが、任天堂のプレスカンファレンスで興味深かったのは、むしろ次世代機に関する岩田氏のコメントである。 「Nintendo DSは携帯ゲームの遊び方を変える要素を詰め込んだ。DSがゲームを変える、従来とは違うものだということは、我々が出す次世代ゲームコンソールも、同様にゲームを変える新しい要素を持っていることを暗示している」。 「現在のコンソールゲーム機は、そのどれもが写実的な3Dグラフィックを持つようになった。これが“さらに写実的”になったとしても、ゲームの中身には何ら替わりがない。“従来とは違う新しいゲーム機”とは、そのようなことではない。次世代の新しいゲーム機というからには、ゲーム機の“定義そのものが変化するもの”である必要がある。従来にはない新しい体験を作り出すものでなければならない」(岩田氏)。 岩田氏は、任天堂の次世代コンソールゲーム機は、ゲームに革命を起こすもので、開発は順調に進んでいるという。コメントから推測すれば、任天堂の次世代機は、ソニーがIBM、東芝と共同開発しているCELLプロセッサのような、強烈なパフォーマンスを有するモノではないのかもしれない。 「馬力だけで物事が決まる時代は終わった」という岩田氏のコメントは、果たして任天堂の言う“ゲーム機を定義し直す新しい要素”に対する自信を表しているのだろうか、それとも噂される強力なハードウェアに対する弱気を示しているのだろうか?
□E3のホームページ (2004年5月13日) [Text by 本田雅一]
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