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Prescottの遅延理由ついに判明
〜バスインターフェイス不具合でステッピング変更




●意味が薄くなるμPGA478版のPrescott

今春のIDFで示されたPrescottのウェハ
 Intelのノドに刺さった大きなトゲ、それがIntelの次世代CPU「Prescott(プレスコット)」だ。Prescottの出荷は約1四半期遅れ、現在の予定では、年内にOEMベンダーに出荷、来年1月後半から2月頭の間の発表になっている。それも、出荷後にどれだけの量が供給されるのか見えない状況にある。

 最初に投入されるμPGA478版のPrescottは、既存のチップセットと既存のマザーボード(Prescott FMB1.5準拠の場合)がそのまま使える。しかし、遅れによって、このμPGA版Prescottの存在意義も、どんどん薄らいでいる。というのは、2004年第2四半期には、新しいLGA775ソケット版Prescott+Grantsdale(グランツデール)チップセット+新しいマザーボードスペックPrescott FMB2に切り替わってしまうからだ。

 その結果、μPGA478版Prescott+Prescott FMB1.5は、約1四半期しか意味がないものになりつつある。その後もμPGA478版PrescottとSocket478プラットフォームは併売されるとはいえ、魅力は乏しい。これでもし、来年第1四半期中のμPGA478版Prescottの出荷量が少なかったりしたら、μPGA478版の存在意義はほとんどなくなってしまうだろう。

 もしそうなったら、IntelにしてもPrescottの位置づけは難しい。Intelは0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)を3.2GHzに留めたままで、Prescottを3.4GHzから投入するつもりだ。しかし、その3.4GHzが限られた量しか出せなくなったら、うまくない。むしろ、PrescottのリリースをLGA775版時期にまでずれ込ませて、その間はNorthwoodを3.4GHz程度まで高クロック化して中継ぎにするという選択をするかもしれない。

 いずれにせよ、Prescottの遅れは、大きな影響を周囲に与えている。

●バスインターフェイスに問題が発生

 Prescottの遅れた原因は、長らく不鮮明だった。しかし、Intelは現在、Prescottが遅れている原因について、顧客に対してはある程度の情報を明らかにしているという。

 まず、根本的な問題は、既存のIntel 865/875系チップセットのマザーボードに、現在のBステップのμPGA478版Prescottを搭載した場合、バスエラーが発生するケースが見つかったことにあるという。つまり、現状のPrescottをテストしところ、Prescottレディのはずのマザーボードで、動作を保証できないことが判明したわけだ。その原因は、バスインターフェイスの電圧振幅が、規定されたスペックに合わないケースが出たからだという。ちなみに、LGA775版ではこの問題はない(あるいはマザーボード側で解決する?)。

 Pentium 4/Prescott系のシステムバスは、AGTL+(Assisted Gunning Transceiver Logic)信号技術を使っている。IntelのAGTL+では、リファレンス電圧「GTLREF」を中心に、電圧に±10%の小振幅をつけて伝送する。レシーバー側は、GTLREFを参照して、信号がハイかローかを判定する。電圧振幅を比較的小幅にすることで、高速伝送を可能にする。GTLREFは、マザーボード側で生成されて供給される。

 今回の問題は、μPGA478版Prescottと865/875マザーボードの組み合わせで、ハイレベル時の電圧が、AGTL+で規定している値(VIH)と合致しないケースが発生したというもの。VIHは最小値がGTLREF+10%、最大値がVcc、VILは最大値がGTLREF-10%、最小値が0となっている。しかし、現状のPrescottと865/875の組み合わせでは、ハイ側でVIHの枠に収まらないケースが生じたらしい。Intelはシステムバスの動作によって、エラーが発生する場合が見つかったという。

 この問題を解決するには、CPU側かマザーボード側のどちらかを変更しなければならない。ところが、チップセットとマザーボードはすでにPrescottレディで市場に出てしまっており、今さら変更は難しい。そのため、IntelはPrescottの修正を余儀なくされている。Intelは、この問題に対して2段階のアプローチで対処することを顧客に通知しているらしい。

●パッケージとシリコンを2段階で変更

 1段目の方法は、Prescott自身は既存のB0ステップのままで、パッケージによって解決する方法。

 具体的には、マザーボードからのGTLREFをディスコネクトしてしまい、その代わり、パッケージ内でGTLREFを生成してCPUに供給してしまう。この新たに生成するGTLREFを既定値からずらすことで、信号入力をVIHの範囲内に納めるというわけだ。これなら、既存のPrescott Bステップを、既存の865/875マザーボードに載せることができる。チップとマザーボードのどちらにも変更は必要がないことになる。

 ただし、この方法ではFSB 533MHzまでしか対応ができないとIntelは説明しているという。Pentium 4ブランドのPrescottはFSB 800MHzの予定なので、それには使えないことになる。つまり、パッケージだけを変更したPrescottは、FSB 533MHzのCeleron系のPrescott専用というわけだ。

 そこで、Intelは2段目では、パッケージ変更に加えて、Prescottの回路設計も変更しようとしている。

 Intelが現在サンプル出荷しているPrescottはB0ステップ。9月のCOMPUTEX時には、このB0ステップが各ベンダーに提供されていたが、いずれも2.8GHz(FSB 800MHz)までの低周波数でしか動作していなかった。これは、今回の問題が2.8GHzより高クロック動作のチップで顕著に発生することを意味しているのかもしれない。IntelはこれをCステップに上げて問題の解決を図ろうとしている。

 Cステップでは、IntelはPrescottのシステムバスの入力センスアンプの回路設計を変更したという。PrescottをFSB 800MHzで動作させるには、このCステップと改良版μPGAパッケージの組み合わせが必須だという。Intelは、10月の時点でC0ステップの社内検証を進めており、各ベンダーに対してはC1のサンプルを12月に出荷する予定だという。

●スケジュール的に厳しいPrescottの量産

 この計画を見る限り、μPGA478版Prescottの遅れはかなり手痛い。シリコンのリビジョンチェンジを必要とするため、FSB 800MHz版Prescottは、完全に1四半期ずれ込むことになる。

 Intelは、年末までにはC1ステップでの量産を開始する計画でいるが、12月にQualification Sapmle(QS)ですぐに量産というのは、かなりタイトなスケジュールだ。通常、バリデーションが終わって、ウェハーをFabに流して完成品のチップが潤沢に出荷できるようになるまでに2〜3カ月のタイムラグがある。そのため、来年第1四半期の時点でどれだけの量のPrescottチップが出てくるのかは不鮮明だ。そうした事情から、業界には、来年の春モデルですらPrescottの供給を心配する声がある。

 また、パッケージ内でGTLREFを生成するというこの方法はかなりトリッキーで、ある業界関係者は「Intelがそこまでアグリー(醜い)な解決手段を取るというのは、信じられない」と驚く。

 今回の問題の根本的な発生原因がどこにあるかはわからない。もしかすると、当初のシミュレーションより、Prescottの消費電力=供給電流量が上がってしまったことが、この問題と関係しているかもしれない。

 また、この問題は同じマザーボードで2つのCPU世代をサポートする難しさも示している。もし、IntelがPrescottとともにチップセット/マザーボード毎変更していれば、CPU側を変更しなくても済んだかもしれない。実際、LGA775版Prescott+Grantsdaleチップセットでは、こうした問題はないようだ。

●パッケージだけを変更してCeleronとして投入?

 また、もうひとつ疑問なのはIntelがB0ステップ+改良版パッケージのソリューションも用意すること。素直にC0ステップだけを出荷すればいいように見える。なぜ、IntelはわざわざB0ステップの改良版も用意するのだろう。

 ひとつ推測できることは、IntelがすでにB0ステップのPrescottを大量に抱えてしまっているという可能性だ。死に体のB0チップの在庫を救済するために、Intelはこうした解決手段を考えたのかもしれない。

 実際、Intelの製品計画のこのところの変更も符合する。Intelは今年の夏頃に急にPrescottの計画を変更、来年第2四半期にバリュー市場向けのCeleron系ブランドのPrescottを前倒し投入することにした。通常、Intelの新アーキテクチャ&新プロセスのCPUは、ハイエンド向けに登場してからバリュー市場に降りてくるまでに4四半期ほどかかる。ところが、Prescottでは、わずか1四半期と異例の早さでCeleronクラスが登場する。

 以前のコラム「IntelがPrescott戦略を加速、来年第2四半期には低価格版も投入」では、これはIntelの90nmプロセスの歩留まりがよく、大胆な戦略を取る余裕があるためと推測していた。しかし、実際には、すでに生産してしまったB0ステップのPrescottを救済するためなのかもしれない。つまり、FSB 800MHzでは出せないチップを、CeleronとしてFSB 533MHzで出すのかもしれない。

●Prescott FMB2へとシフトするIntel

 いずれにせよ、大幅な遅れのために、μPGA478版Prescottは存在価値を薄めつつある。一方のLGA775パッケージ版Prescottは、良好だとIntelは言っているという。ただ、LGA775はGrantsdaleチップセットでしかサポートされないため、GrantsdaleとICH6の仕上がり待ちになる。Grantsdaleは、現在ようやくサンプルが供給されつつあるところだ。

 もっとも、Intelにとっては、いっそPrescottの本格立ち上げはGrantsdaleとの組み合わせにずれた方が都合がいいかもしれない。というのは、マザーボードのスペックをPrescott FMB2に切り替えることで、一気にTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)や供給電流量のスペックを引き上げることができるからだ。実際、IntelはμPGA版Prescottは3.6GHzで打ち止めで、3.8GHz以上はLGA775版でしか供給しないと言っているらしい。逆を言えば、3.8GHz以上のPrescottはそれだけ多くの電力を消費するやっかいなチップというわけだ。

 そして、たとえPrescott FMB2でマザーボードスペックを引き上げたとしても、それで問題は解決しない。というのは、Iccの増大でマザーボード設計はより難しくなり、TDPの上昇でPC自体の熱設計が困難になるからだ。ある業界関係者は「これまでPCはどんどん筺体を小さくしてきたが、Prescottでは流れが変わる。大きくならざるをえない」という。

 Prescottには、さまざまな面でのIntelの戦略の限界が見える。

□関連記事
【10月10日】【海外】Intel、90nmプロセスCPU全品遅延の理由
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1010/kaigai031.htm
【8月12日】【海外】IntelがPrescott戦略を加速、来年第2四半期には低価格版も投入
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【7月22日】【海外】この夏、Prescottが熱い。来年は消費電力100Wオーバーへ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0722/kaigai005.htm
【2月20日】【海外】Intelが次世代CPU「Prescott」の正体を明らかに
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0220/kaigai01.htm

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(2003年10月27日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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