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この夏、Prescottが熱い。来年は消費電力100Wオーバーへ




●やっぱり熱かったPrescott

 Intelは、次世代製造プロセス90nmのCPUを、年内に2種類投入する。第3四半期の終わり頃に発表する予定の第2世代Pentium M「Dothan(ドタン)」と、第4四半期中に投入するPentium 4後継の「Prescott(プレスコット)」だ。Intelは、Prescottをまず年内に3.4GHzで投入、来年第1四半期には3.6GHzへ引き上げる。Prescottはすでにサンプルの検証が進められており、Intelは発売への準備を順調に進めている。いや、順調に進めているはずだった。

 そこへ降ってわいたのが、Prescottの熱問題だ。Prescottの消費電力が、Intel自身の予想より大幅に高いことが判明したのだ。どうやら、PrescottのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)は、3.6GHz程度の周波数でついに100Wの大台を超えるらしい。当初のIntelの予想は89Wだったので、15%も一気に増えたことになる。

 そのため、IntelはPrescott対応マザーボードの仕様変更を始めている。その結果、Prescottにも対応できるとされていた現在のIntel 875/865系マザーボードでも、Prescottに対応できないケースが出てきそうだ。もっと苦しいのは、来年頭に登場するMobile Prescottを搭載するノートPCで、かなりの影響が出そうだ。

 また、長期的には、この件はIntel CPUの消費電力の増大に、歯止めがかからないことを暗示している。もしそうなると、PCは、ますます設計や自作がしにくいものになってしまう。さらに、同社の90nmプロセスが、予定より電力消費が多い可能性も示唆している。

●FMBガイドラインに影響するPrescottのTDP

 Intelは通常、サンプルチップで実際の消費電力の計測する前に、予想消費電力をOEMベンダーに伝える。これは対応マザーボードを先行して設計してもらうためで、その後、実際のサンプルチップの消費電力や製品計画(何GHzまでを製品化するか)に合わせて微調整を行う。これは、通常のパターンだが、今回違ったのは、プレシリコンとポストシリコンでの消費電力が大きくずれてしまったことだ。

 実際には、この話は1〜2カ月ほど前からPC業界では知られていたようだ。それによると、Intelは、μPGA478パッケージのPrescottのTDPを最大で89Wだと見積もっていたという。ところが、実際のシリコンで検証を進めた結果、この数値は103Wに書き直された。消費電力が増えると、CPUに供給する電流の量も増やさなければならない。そのため、マザーボード上の、CPUへの供給電流(IccMAX)も78Aから91Aへと上げられた。つまり、それだけの電流量を供給できないマザーボードは、Prescottに対応できないことになってしまう。

●Prefetchアーキテクチャで倍々に

Intel CPUのTDPの伸び
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 この問題は、Intelが、OEMベンダーに対して提供しているマザーボード設計のガイドライン「Flexible Motherboard (FMB)」に大きく影響する。Intelは、各CPU世代毎に2種類のFMBを提供している。例えば、現在の0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)に対しては、「Northwood FMB1」と「Northwood FMB2」がある。

 Prescottに対応するのは「Prescott FMB1」で、これに準拠すると、NorthwoodとPrescottの両方をサポートできることになっていた。マザーボードの中には、すでにこのスペックに準拠しているものも多いはずだ。

 IntelのWilliam M. Siu(ウイリアム・M・スー)副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President and General Manager, Desktop Platforms Group)はPrescott FMB1について次のように説明する。

 「(Prescott)FMB1は、顧客にNorthwoodからPrescottへの移行を可能にするデザインだ。(CPUの移行に)CPUソケットやチップセットの移行が伴うと、顧客がなかなか速やかに移行できない。しかし、Prescottの場合は(マザーボードに)大きな変更は必要ない。だから、Prescottへの移行は速やかだと考えている」

 Prescott FMB1では、EOL(最終版)までのNorthwood(3.2GHz)と、μPGA478版のPrescottに対応する。Intelは、Prescottでは3.6GHzよりも上は新パッケージLGA(Land Grid Array) 775ヘ移行させようとしている。つまり、Prescott FMB1では3.6GHzまでのPrescottに対応できる予定だったことになる。ちなみに、LGA 775世代のPrescottと次々世代CPU「Tejas(テハス)」は、Prescott FMB2で対応する予定となっている。

 ところが、Prescottの実際のシリコンのTDPがあまりに上がりすぎてしまったため、Intelは計画を変更したらしい。ある情報筋によると、現在Intelは修正版スペックのPrescott FMB1.5を策定、提供しているという。このPrescott FMB1.5で、TDPが103W、IccMAXが91Aへと約15%増やされたらしい。FMB1.5という別スペックを作ったのは、変更が大きいため、FMBスペックを分ける必要が出てきたというわけだ。どうやら、Prescott FMB1.5準拠のマザーボードでないと、Prescottはサポートできないという話らしい。

 FMBへの影響が大きいのは、現状でもすでに大電流量をマザーボードを通して安定供給するのが難しいからだ。これはコストとも密接に絡む。Intelの現在のVoltage Regulator Modules (VRM)の仕様は、安定して大電流を供給できる「VRM 10.0」になっており、VRM 10ではマルチフェイズをサポートしている。そして、Intelは、当初、Prescott FMB1で3フェイズ、FMB2で4フェイズを要求していたと言われる。しかし、実際には3フェイズはコスト面であまり受け入れられなかったという。だが、TDPが上昇して行くため、今後はやはりフェイズ数を増やす必要が出てくるだろうと言われている。

●頭が痛い100WオーバーのTDP

 TDPの上昇でもうひとつの問題は、言うまでもなく熱設計だ。通常、TDPが上がるとCPUを冷却することがさらにやっかいになる。ところが、今回IntelはPrescottのTDPが上昇しても、ヒートシンクやTa(筺体内温度)のスペックは変更なしで行けると言っているらしい。つまり、CPUは熱くなったのに、冷却は変えなくていいと言っているわけだ。このマジックのタネは簡単だ。IntelはTcase(CPUのパッケージ温度)を変更するのだ。

 PCの熱設計では、CPUと筺体内の空気との温度差と、CPUの消費電力、そしてヒートシンクの熱抵抗値が重要な要素となる。具体的には、(Tcase−Ta)÷TDP=ヒートシンク(+サーマルインターフェイス素材)の熱抵抗値、となる。

 このうち、まずヒートシンクの熱抵抗は制約されている。熱抵抗値は度C/Wで表され、値が小さければ小さいほど優れているが、コストが高くなる。ヒートシンクの技術進歩はペースが遅く、現在は0.33度C/W程度がPCでは限界とされている。

 一方、筺体内の温度は「Ta(ambient)」で示される。低ければ低いほどCPU回りの熱設計は容易になるが、その分、筺体内の温度を下げるための技術が必要となる。以前はTaは40〜45度C(例えば、Northwood FMB2は42度C)だったが、現在のPrescott FMB1では38度Cとより厳しくなっている。このスペックも、これ以上は下げようがない状態だ。

 というわけで2つの要素が固定されている状況で、ひとつのパラメータが変化した。そうすると、当然、残ったひとつのパラメータを変えなければ成り立たない。つまり、TDPが上昇した分、Tcaseを引き上げた。以前のPrescottのTcaseは69度Cだったのが、1.5では74度Cになっている。実際はTDP上昇の率よりもTcase上昇比率は小さいが、それはFMB1の方が余裕を見てあったためだと思われる。この措置が影響するのは、Prescottの歩留まりなどだと思われる。つまり、Intelにとっては都合の悪い展開なわけだ。

 しかし、デスクトップはまだましな方だ。問題は、IntelがPrescottをデスクトップリプレイスメント(DTR)ノートPCにも投入すること。DTR向けは実質的にデスクトップと同レベルのTDPなので、非常にやっかいな状況になっている。

 最近までMobile PrescottのTDPは3.46GHzで74Wだった。だが、現在、Mobile PrescottのTDPは94Wとなっているという。ノートPCで94W! いくらDTRとはいえ、これはかなりのチャレンジに違いない。

 Intelは、モバイルでもデスクトップ同様にTcaseを引き上げることで解決を図る。従来のMobile PrescottのTcaseは72度Cだったが、今ではこれが76度Cになっているらしい。しかし、それでも足りないため、DTRではTaも5度C引き下げるようだ。つまり、ノートPC設計者は、これまでより筺体内の温度を5度C下げることができる廃熱機構を考えなければならなくなったわけだ。

 というわけで、“熱いPrescott”は多くの歪みをもたらし始めている。もっとも、Intelも対策はしつつあるようだ。Prescott FMB1でもサポートできるPrescottをリリースするという情報もある。FMB1.5で高クロックのPrescottをサポートする一方、FMB1でサポートできる範囲のTDPに抑えた、一段クロックの低いPrescottも出すという話だ。しかし、まだ詳細はわからない。

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【2月27日】【海外】Prescott/Tejasは5GHz台、65nmのNehalemは10GHz以上に
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0227/kaigai01.htm

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(2003年7月22日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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