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IntelがPrescott戦略を加速、来年第2四半期には低価格版も投入




●熱が共通した問題? Intelの90nmプロセスCPU

 Intelの90nm世代CPUの雲行きが怪しい。まず、次世代デスクトップCPU「Prescott(プレスコット)」のTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)が、予定を大きく上回り100Wを越えることが判明(「この夏、Prescottが熱い。消費電力は来年頭に100Wオーバーへ」参照)。次に、次世代モバイルCPU「Dothan(ドタン)」が、9月末〜10月頭発表の計画から、2004年第1四半期発表へと大きくスリップした(【笠原】「Intel、Dothanのリリースを1四半期延期」参照)。こちらも、平均消費電力は、現在の0.13μm版Pentium M(Banias:バニアス)より高い。つまり、デスクトップ・モバイルともに90nm世代は、何らかの問題を抱えており、消費電力がそれに絡んでいる可能性が高い。

 その一方で、Intelは90nmの歩留まりが良好(healthy)なことを示す戦略を次々に打ち出している。例えば、2004年の第1四半期にはPrescottの低クロック版(2.8GHz/3GHz)を投入。また、Prescottベースのバリュー(Celeron系)CPUの投入を来年第2四半期に前倒するという。このペースだとほぼ1年でデスクトップCPUは0.13μmから90nmへと入れ替わることになる。それだけ90nmの歩留まりの見通しがいいということだ。

 一体これは何を示しているのか。今のところはっきりしたことはまだわからない。しかし、Intelの90nmは、歩留まりはいいものの、トランジスタのリーク(漏れ)電流が予想より多かったのではないだろうか。それを示唆する状況証拠は、そこかしこに見える。

 例えば、Prescottの消費電力が予定より多くなったのは、従来のように高クロック化のために駆動電圧を引き上げたことが原因ではない。実際のCPUができてみると、より多くの電流を必要としたため結果、消費する電力が上がっている。また、Dothanも、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)は下がっているのに平均消費電力は上がってしまっている。90nmプロセスではリーク電流を抑えるのが大変になると予測されているが、PrescottとDothanの問題は、それを示しているのかもしれない。

 ともかく、現状ではIntelはPrescottの強気の戦略は崩していない。セットバックしたDothanとは対照的に、Prescottでは普及に拍車をかける方針で行くつもりのようだ。

●やや複雑なPrescottとFMBの関係

 前にもレポートした通り、IntelはPrescottの熱問題を解決するために、手を打っている。Prescott向けのマザーボードスペック「Prescott FMB(Flexible Motherboard)」を改訂。従来の「Prescott FMB 1」(TDPが89Wで電流量Icc MAXが78A)に加えて、「Prescott FMB 1.5」(103W/91A)を規定した。年内に登場する最初のPrescott 3.2/3.4GHzは、このPrescott FMB 1.5に沿ったマザーボードでないと原則としてサポートできない模様だ。

 Intelは来年第1四半期に入るとより高クロックの3.6GHzを投入するが、これもFMB 1.5でないとサポートできないという。しかし、それと同時にIntelは低クロック版のPrescottも投入してくる。0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)とクロック帯が重なる2.8GHz/3GHzの製品だ。これらの低クロック版Prescottは、FMB 1でもサポートができるらしい。つまり、2004年の前半はFMB 1対応Prescottと、FMB 1.5対応Prescottが混在する見込みだ。3.2GHz/3.4GHzにも小電流版が登場するという情報もあるが、まだ確認できていない。いずれにせよ、Prescottでは、周波数によって、対応できるマザーボードとできないマザーボードが出てくる可能性があり、注意が必要となる。

 Intelが、売れ筋価格帯に来る2.8GHzや3GHzにPrescottを持ってくるということは、90nmでの製品歩留まりにかなりの自信を持っていることを示している。もっとも、実際にはこのクロック帯はNorthwoodも並列して売られるため、Prescottがどれだけの量出てくるのかは、まだ未知数の部分がある。しかし、ちょっと前までのIntelの計画は、2004年の後半でようやく売れ筋価格帯にPrescottが入って来るというペースだった。エンドユーザーにとっては、Prescottがすぐに手頃な価格で手に入るという意味で、いいニュースだ。

 いいニュースはもうひとつある。IntelはPrescottでは、アーキテクチャを拡張した分のプレミアは価格にほとんど上乗せしないようだ。現在、Pentium 4のハイエンド製品は600ドル程度の価格からスタートしているが、Prescott 3.4GHzもそのクラスの価格になるという。ということは、その下のNorthwoodと競合するクロック帯では、価格もほぼ同レベルになると推定される。とすると、Prescottアーキテクチャ(1MB L2キャッシュ/改良版Hyper-Threadingなど)によって性能が向上する分は、ほぼ“タダ”になる可能性が高い。そして、ボトムに持ってくるPrescott 2.8GHzの価格は、すぐに2万円程度にまで下りてくることになる。

 一気にトップツーボトムでPrescottを導入するIntelの戦略。これは、Hyper-Threadingを一気に浸透させた今年の戦略の繰り返しに見える。

●前倒しになったバリュー版Prescott

 Intelはバリュー市場向けPrescottも異例の早さで投入する。通常、新アーキテクチャ&新プロセスのCPUは、ハイエンド向けに登場してからバリュー市場に降りてくるまでに4四半期ほどかかっていた。ところが、今回Intelは、早くも来春にはPrescott版のCeleronクラスCPUを投入する。

 具体的には、2004年の第2四半期にはPrescottベースのバリューCPUが、2.8GHzと3.06GHzで登場する。以前の計画より大幅に前倒しになった。90nmプロセスで製品を出し始めて、わずか2四半期で、ボリュームが必要なバリュー市場へ持ってくるというのは、衝撃だ。Intelの90nmプロセスへの自信はかなり深そうだ。

 もっとも、実際にはPentium系ブランドでは、その時点でもまだNorthwoodが残っている。考え方によっては、トップツーボトムで、Northwood系とPrescott系を平行して提供しようとしていると見ることもできる。

 ちなみに、Intelは533MHz FSB版Northwoodの打ち切りも早めた。Intelは来年第2四半期まで533MHz FSB Northwoodを継続するつもりだったが、Prescottの低クロック版投入にともない、年内で533MHz FSB系Pentium 4は消滅する。Pentium系CPUのFSBは、メーカー製PCを含めて全て800MHzに移行する。

 その代わり、今度はCeleronのFSBが400MHzから533MHzに引き上げられる。バリュー版Prescottからは、FSBは533MHzとなり、L2キャッシュも256KBになる。両ブランドのPrescottの違いは下の通り。

2つのPrescottの違い
Pentium系Celeron系
パフォーマンス/メインストリーム市場バリュー市場
FSB800MHz533MHz
L2キャッシュ1MB256KB
パッケージmPGA478/LGA775mPGA478/LGA775

 つまり、バリューPrescottが登場した時点で、Celeron系もFSBとL2キャッシュともに向上するわけだ。また、バリュー版Prescottも、mPGA478だけでなくLGA775版が登場する。これはかなり重要な意味を持っている。

●PrescottによってPCI Expressの浸透が促進される。

 Intelがバリュー版Prescottを早期に投入する意図のひとつは、PrescottでなければサポートできないLGA775パッケージのためだと推定される。Intelは2004年第2四半期から、Pentium系Prescottに、Pentium 4と互換性のあるmPGA478版だけでなくLGA775版を加える。トップの3.8GHzからボトムの2.8GHzまで全ラインでLGA775版が平行して投入される。IntelがLGA775への移行を急ぐのは、LGA775がPCI Expressと結びついているからだ。

 Intelは2004年第2四半期にPCI Express/DDR2メモリサポートの新チップセット「Grantsdale(グランツデール)」を投入する。Grantsdale系チップセットはLGA775版CPUしかサポートしない。そのため、PCベンダーがPCI Expressへ移行しようとすれば、選択肢はLGA775版Prescott以外になくなる。

 そして、PCベンダーが、バリュー市場にもPCI Expressを持ってきたいと考えた場合には、バリュー版Prescottが必要となる。

 実際、Intelはチップセットロードマップもアップデート。2004年第3四半期には、バリュー市場向けのGrantsdaleファミリを投入することにした。具体的には、メインストリーム市場向けの廉価版チップセット「Grantsdale-GV」と、バリュー市場向けの「Grantsdale-GL」を投入する。Grantsdale-GLはLGA775でFAB 533MHzしかサポートしない、バリュー版Prescott専用チップセットだ。

 いずれにせよ、Intelの加速されたPrescott戦略により、PCI Expressの浸透も速まりそうだ。もちろん、こうしたPrescott戦略は、すべて90nmプロセスの仕上がりにかかっている。

デスクトップCPUロードマップ(一部推定)
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【7月22日】【海外】この夏、Prescottが熱い。来年は消費電力100Wオーバーへ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0722/kaigai005.htm
【8月6日】【笠原】Intel、Dothanのリリースを1四半期延期
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0806/ubiq18.htm

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(2003年8月12日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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