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Intel、90nmプロセスCPU全品遅延の理由




●Prescottは来年1〜2月に

 Intelの当初の計画では、2003年後半に90nmプロセスの次世代Pentium 4「Prescott(プレスコット)」を発表するはずだった。しかし、Intelはこの計画を変更、Prescottを2004年1から2月の発表へと後退させた。Prescottの年内発表がなくなったことは、9月の「Intel Developer Forum(IDF)」時にすでに示唆されており、一部のOEMも知っていたが、Intelはそれを全OEMに公式に通知しつつある。

 また、次々世代の「Tejas(テハス)」も、後退した。Tejasは、2004年後半とされていたのが、現在は、おそらく2005年へとずれている。また、モバイルの90nmプロセスCPU「Dothan(ドサン)」も、9月末から10月頭発表だったのが2004年第1四半期へとずれ込んだ。つまり、Intelの90nmプロセス世代のCPUは、どれもスケジュールが後退しているわけだ。

 後退したのはスケジュールだけではない。トップ周波数も1ランクづつ下がり、2005年末の時点のデスクトップCPUの周波数4GHz程度に留まる見込みだ。モバイルもDothan世代では周波数の伸びは鈍化している。90nmプロセスCPU全体が、うまく行っていないとしか思えない。

 だが、その一方でIntelはPrescott/Dothanといった90nm世代CPUの浸透は比較的速いピッチで進める。特にデスクトップでは、メインストリームやバリューセグメントにもPrescottを一気に投入、2004年末までに0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)をPrescottにほぼ置き換えてしまう。この計画からは、90nmプロセスの歩留まり自体は良好に見える。いったい、何が起きているのだろう。

Intel デスクトップCPUロードマップ
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●Pentium 4 EEに900ドルをつけるIntelの戦略

 Prescottの後退は、IntelがAMDのAthlon 64 FX対抗として、Prescottではなく「Pentium 4 Extreme Edition」を発表した時点で明白だった。Intelは、Prescott投入まではPentium 4 EEで性能面での競争力を維持、実際に物量を出すのはNorthwood(ノースウッド)という戦略で行く。そして、Prescottが登場したらNorthwoodを置き換えて行く。Pentium 4 EEはあくまでも「限られたニッチ市場向けの製品。メインストリーム向けのPrescottとは位置づけが異なる」(William M. Siu副社長兼デスクトップ・プラットフォーム事業本部長(Vice President General Manager, Desktop Platforms Group))という。

 Intelのこうした戦略は、CPU価格に如実に反映されている。Intelは、現在PC向けのCPUを、最初に600ドル台で投入、その後、400ドル台、250〜300ドルレンジへと四半期毎に降ろして行く。これはPrescottも同様で、Prescottの3.4GHz版も600ドルレンジで登場すると言われている。ところが、IntelはPentium 4 EEにだけはこのセオリーから外れた価格をつけようとしている。業界筋によると、Pentium 4 EEの価格は900ドルレンジ、つまり、通常のハイエンドデスクトップCPUの約1.5倍の価格になるという。

 これは、EEon 1MB版よりもまだ高い価格で、Intelが今後投入するEEon 2MB版より若干安い程度に過ぎない。Pentium 4 EEについては、業界関係者も「高すぎて、位置づけが難しい」という。そのため、Pentium 4 EEは本当にニッチの製品に留まることになりそうだ。

 これは、IntelがAthlon 64 FXをどう評価しているかを表している。IntelとしてはAthlon 64 FXにパフォーマンスでNorthwoodが抜かれるのは困るが、実際に市場でAthlon 64 FXが脅威になるとは考えていないと想像できる。もし、Athlon 64 FXが市場でも脅威になるなら、Pentium 4 EEに、もっと戦略的な価格をつけてきただろう。

●サンプル出荷もずれ込んだPrescott

 Prescottは、年内に生産とOEMへの出荷を開始するものの、発表は最終的に2004年の1月後半から2月頭になった。現在の予定では、登場時のクロックは最高3.4GHz、mPGA478で、FSB(フロントサイドバス)は800MHz、1MB L2キャッシュとSSE3(PNI:Prescott New Instruction)命令を備える。実装されていると推定されるものの、いつイネーブルにされるかわからない機能は、セキュリティ機能「LaGrande(ラグランド)」と64-bit拡張「Yamhill(ヤムヒル)」だ。

 また、新パッケージのLGA775版は、Grantsdale(グランツデール)チップセットと同時に投入される。Intelは、Grantsdaleと同時にCeleron系にもPrescott-Vを投入する。こちらは最高3.06GHzで、256KB L2キャッシュ、FSB 533MHzだ。3.8GHz以上の周波数のCPUは、LGA775だけになるため、必然的にLGA775化が促される。

 Prescottの現状は、サンプル出荷から大きく遅れている。現在調べている範囲では、ターゲット周波数である3.4GHzのサンプルを入手したベンダーはいない。先週の時点では、各社とも入手していたのは2.xGHzのサンプルだ。サンプル段階から、すでにスケジュールがずれ込んでいるわけだ。

 問題は、このPrescottが遅れた理由だ。Intelは、90nmプロセス「P1262」では「歩留まり向上はかつてないほど速い」(Intel、Mark Bohr氏、Intel Senior Fellow、Director of Process Architecture & Integration)と説明する。また、業界関係者の多くも「Intelの90nmプロセスの歩留まり自体はいいと聞いている」と口を揃える。Intelが、90nmプロセスのCPUを、バリューPC向けにもすぐに投入してくることは、歩留まりが良好で量が採れる見込みが立っていることを示唆している。

 すると、90nm CPUが遅れている原因は歩留まり以外の部分にあることになる。それは、おそらく消費電力だ。

●どんどん変わるPrescott FMBスペック

 同じ90nmのDothanの遅れについては、現在、消費電力と熱が原因らしいことがほぼ明らかになっている。そして、同じ90nm世代のPrescottの抱える問題もここにあるようだ。

 ある台湾ボードベンダーは「Prescottは最初の3.4GHzですら、非常に消費電力が高いため、Intelはこれを解決しようとしていると聞いている」という。

 実際、Intelはマザーボードのデザインのガイドライン「Flexible Motherboard (FMB)」のPrescott版を次々に改訂、消費電力のスペックを変更している。Prescott FMBにはFMB 1、FMB 1.5、FMB 2の3種類がある。以前のレポート「この夏、Prescottが熱い。消費電力は来年頭に100Wオーバーへ」で紹介したように、IntelはPrescottの消費電力が高かったために急きょ新スペックFMB1.5を作った。

 FMB1では電流量IccMAXが78A、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)が89W(以前は84W)だったのが、FMB1.5ではIccMAX 91A、TDP 103Wへと増えた。CPUのパッケージ温度Tcを69度から74度に引き上げ、筺体内温度Taを38度に引き下げることで、なんとかヒートシンクの熱抵抗値を0.34C/Wに抑えたが、スペック的にはかなりきつい。例えば、60W以上の消費電力のグラフィックスカードを載せると、Taを38度に保つのはかなり難しくなる。

 しかも、FMB1.5で引き上げたTDPと電流量の枠ですら、Prescottにとっては厳しいという。「IntelがPrescottの周波数を上げるためには、同時に消費電力を下げて行かなければならない」とある台湾ボードベンダーは指摘する。

 そのため、Intelは次のPrescott FMB2(Grantsdaleがターゲットチップセット)ではさらにTDPやIccMAXのスペックを引き上げる。Prescott FMB2は、今春のスペックではIccMAX 103A、TDP 97Wだったのが、現在はIccMAXが119A、TDPも120W近くまで増えているという。つまり、Prescottについては、消費電力と熱設計のスペックが、どんどん引き上げられているのだ。FMB1とFMB2では、電流量なら50%以上も増えることになる。

 こう考えると、Tejasの遅れも、消費電力と熱の関係である可能性が高い。Tejasはもともとのスケジュールでは、エンジニアリングサンプル(ES)が2004年第1四半期、クオリフィケーションサンプル(QS)が第2四半期に提供されることになっていた。通常のスケジュールなら、2004年秋には登場するスケジュールだ。だが、現在では、Intelの2004年中の計画にTejasはない。これは、Tejasに大きな見直しが入った可能性が高いことを示唆している。

 TejasはPrescottよりさらに機能が拡張されるため、トランジスタ数が増え、同じプロセスで作れば消費電力も増大してしまう。Prescottが予想よりも消費電力が高かったために、Tejasについては計画を見直している可能性もある。いよいよ熱と消費電力が、IntelのCPUロードマップの大きな壁となりはじめたのだ。

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【7月22日】【海外】この夏、Prescottが熱い。消費電力は来年頭に100Wオーバーへ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0722/kaigai005.htm

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(2003年10月10日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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