大原雄介の半導体業界こぼれ話

TSMCのインターポーザー不足、頼った先はGlobalFoundriesだった

CoWoS技術を使ったチップ

 TSMCのシリコンインターポーザーが明らかに足りない。で、その穴埋めに選ばれたのが、UMCではなくGlobalFoundriesだった。ADIのAlif Semiconductor買収、InfineonとWolfspeedのSiCウェハ契約と合わせて、今回もおなじみ“雑談3題”を取り上げたい。

GFがTSMCにCoWoS向けInterposerを供給

 米国時間の10月8日、GlobalFoundriesは同社とTSMCの間でまず5年に渡る20億ドル(約3,160億円、1ドル=約158円換算)規模の製造契約が締結されたことを発表した。本件に関してTSMCの方からリリースは出ていない。

 GlobalFoundriesによれば、この契約はTSMCのCoWoSパッケージ向けのシリコンインターポーザーを米国内で供給するのが目的。今回の契約に伴い、GlobalFoundriesは同社のマルタ工場の製造能力を拡充予定。量産開始は2028年前半を予定している。また契約期間は当初は5年だが、将来の生産能力拡大に向けた枠組みも盛り込まれているとされるので、需要の動向によってはさらに長期間の供給もあり得ることになる。

 CoWoSには、全体をシリコンインターポーザーで構成するCoWoS-S、シリコンの代わりに有機材料を利用するCoWoS-R、それとIntelのEMIB/EMIB-Tと同じように、接続部だけをシリコンインターポーザー製のブリッジでつなぐCoWoS-Lの3種類がある。

 現時点で一番利用されているのはCoWoS-Sなわけであるが、これの最大サイズはレチクル限界の3.3倍、概ね2,700平方mmほどである。パッケージでいえば50mm×50mm位がこの3.3倍の上限で、これを超えたものは有機材料を使ったCoWoS-Rになるが、こちらは配線密度がCoWoS-Sよりも一桁低い(なんせCoWoS-Lは配線の最小ピッチが0.4μm、CoWoS-Rは4μmである)。なのでその有機材料ベースのインターポーザーにシリコンベースのBridgeを埋め込むCoWoS-Lが使われるようになっている。

 ロードマップ(図1)でいえば、2024年の3.3倍まではCoWoS-S、その先はCoWoS-Lが主流になっているわけだ。まぁこの辺はこれまでも報じられた話だから、別に目新しい話ではない。

【図1】TSMC 2026 Japan Technology Symposiumにおけるスライドより

 さて、パッケージサイズが年々肥大化しているという話も、これも目新しい話ではない。たとえばこれなんか分かりやすい話で、ダイが複数個集積された上にHBMの数も増えているから、そりゃパッケージサイズも大型化する。CoWoS-Lだからこれ全体をカバーする必要はないが、接続部の数だけブリッジも必要になるし、しかも配線数が段々増えているからそれだけブリッジも大型化する。

 CoWoS-Sと異なり全体を一体化する必要がないから、レチクル限界に引っかかりそうな寸法まで行かずに済んでいるというだけで、トータルで必要となる面積は既にCoWoS-Sの上限を超える勢いになっている。

 NVIDIAもAMDももうCoWoS-Lが必要なパッケージサイズの製品を量産しており、今後はさらに大型化したパッケージの製品を必要としている。独自のAIプロセッサを製造しているメーカーもこのトレンドを追従中だ(GoogleのTPUなどその代表例だろう)。こうなるともうシリコンインターポーザーの必要量そのものがうなぎ上りであり、ダイそのものを製造する先端プロセス並みに供給が足りなくなりつつある。

 昨年(2025年)のTSMCのCoWoS向けのウェハの供給量が7万5,000枚/月程度で、今年(2026年)は年末までに12万5,000~13万枚/月にもっていく予定とされている。TSMCの今年第3四半期の実績でいえば出荷量が447万6,000枚で、月間あたりでいえば149万2,000枚ほど。

 ウェハ売上高のプロセスノード別の比率でいえば2nmが8%、3nmが33%で、この2ノードだけで全体の41%に達している。売上高の比率なので枚数にそのまま換算はできないが、仮に出荷量でも同じ比率ならウェハでいえば61万2,000枚/月ほど。3nm/2nmのダイがインターポーザーなしで実装されることはほとんどない現状を考えると、明らかにインターポーザーが足りないことになる。

 ロイターの今年7月の報道によれば、新たに2工場の建設を開始したとされている。台湾の嘉義サイエンスパークには、既に稼働中のP1に加え、P2が現在設備納入中で2027年中に操業を開始予定、そしてP3が現在建設中であるが、ここにP4/P5が追加される形であり、2031年までには操業を開始する予定となっている。

 ただインターポーザーの需要はこれらが完成するまで待ってはくれない。これと並行してTSMCは2025年、アリゾナの工場に1,000億ドル(約15兆8,000億円)の追加投資を行なって製造能力拡充を図っているが、パッケージ工場の方は2026年に建設を開始したばかりということで、これも生産量増強に貢献できるようになるまでまだ時間が掛かる。

 こういう状況であれば、TSMCが他社にシリコンインターポーザーの生産を委託するというのは非常に納得できる動きである。シリコンインターポーザーに必要な精度は、28nmプロセス程度で十分お釣りがくる。先のCoWoS-Lでの配線ピッチが0.4μm(400nm)だと触れたが、TSMCの28nmだと

  • M2~M5: 90nm
  • M6~M7: 110~180nm
  • M8~M9: 180nm~360nm

となっており、M6層以降の配線層で十分間に合うからだ(M2~M5はオーバーキルである)。これはTSMCだけでなくUMCとかGlobalFoundries、Intelなどそのほかのファウンドリでも大差なく、何ならSkyWater Technologyみたいな弱小なファブでも技術的には何とかなるだろう(生産量的には話にならないが)。

 だから比較的ゆとりのあるファブと提携するのはあり得るとは思っていたが、筆者が想定していたのはUMCであって、GlobalFoundriesというのは正直想定外であった。

 いや冷静に考えれば確かにベターな選択である。GlobalFoundriesは2025年にも先端パッケージとSilicon Photonicsへの追加投資を発表しており、また12nmまでのロジックプロセスは大量生産実績がある(からシリコンインターポーザーの製造も容易だ)。GlobalFoundries側にしても、先端パッケージFabのラインを埋められる製品があるわけで、悪い話ではない。

 あとGlobalFoundriesがアメリカに拠点を置いているのも、何かと政治的に風当たりの強いTSMCにとっては救いになるのだろう(これがUMCとの提携だと、さらにトランプ政権に何か言われそうである)。それにしても、TSMCとGlobalFoundriesが手を組むという状況がいきなり湧いてきたことには、ちょっと困惑が隠せないというのが筆者の率直な感想である。

ADIがAlif Semiconductorを買収

 2024年11月にADIがFlex Logicを買収した話は以前ご紹介したが、そんなADIが先月、Alif Semiconductorの買収を発表した。これもまた「なぜ?」という買収なのだが、冷静に考えると予想外にADIの中は深刻だったのかもしれない。

 ADIは2021年8月にMaxim Integratedを買収、同社の持つ広範な製品ラインと技術を手にしている。MaximはInterface ICやADC/DAC、センサーなどに加えPMICやMCUなどをラインナップしており、案外にADIとの製品ラインナップの重複が少なかった。なによりアナログとデジタルのバランスが良く、アナログ偏重だったADIの製品ラインナップにデジタル系を持ち込む大きな切っ掛けになった。

 実際Maxim買収前のADIのデジタル製品といえば「SHARC」シリーズDSPと「Blackfin」シリーズの、これも率直にいえばDSPで、あとは8051/8052系のコアのMCUとARM7TDMIといった感じのみだった(*1)。これがMaximの買収によってCortex-M3/M4ベースの製品ラインナップを大幅に拡充できたのは間違いないのだが、その先が続かなかった。

 Armのライセンスを受けてMCUを開発しているメーカーのほとんど(*2)がArmv8-Mに移行を果たしており、Cortex-M23なりCortex-M33のラインナップを増やしているのに対し、ADIはわずか3製品(「ADSD3500」、「ADUCM451」、「MAX32657」)のみ。ADSD3500はTOFセンサーを統合した製品だし、MAX32657はまだ製品出荷前で、汎用品としては今年4月にデータシートが公開された(*3)ADUCM451のみなのだが、これもデータシート(図2)のアプリケーションを見るとまず「Optical networking 400G/800G/1.6T and higher frequency modules」なんてのが出てきて、次に付け足しのように「Industrial control, automation, and instrumentation systems」なんて続いているあたりは汎用品とはいいにくい。

 あとAIへの対応も遅れている。AI対応MCUとして「MAX78002」がラインナップされているが、これは発表が2022年4月、供給開始は2023年の製品であり、MAXで始まることから分かるようにMaxim Integrated時代に企画された製品である。CNNに対応した独自アクセラレータを内蔵しているとはいえ、競争力には乏しかったようでこれに続く製品がない。そもそもCortex-M23/33への移行があまりに遅すぎる。

【図2】ちなみにデータシートはこれだけ(次のページはNotesが入ってるだけ)。現時点でのDocument RevisionがSp0というあたり、おそらくNDAを結ばないと詳細な情報が出てこない
【図3】E1~E7までラインナップ。E5/E7はCortex-A32まで搭載し、NXPのCrossover MCUやi.MXシリーズにも張り合えるラインナップになっている

 ここからは筆者の推察なのだが、ひょっとするとMaxim買収後、こうしたデジタル製品を開発するリソース(≒開発者)が散逸してしまったのではないかと思う。残った人間が辛うじて企画中だった製品の開発や既存製品のサポートなどを行なっているものの、新企画への対応にまで手が回っていない、という感じに見えるのは気のせいだろうか?

 そう考えると、Alifを買収した理由も見えてくる。

 同社はCortex-M23/33/53に加えEthosシリーズのNPUをベースにした製品を発表しているファブレスのセミコンダクターであり、Edge AI向け製品(図3)やEdge AI+Gen AI向け(図4)、さらにBLE内蔵MCUなどもラインナップしている。こうした製品群そのものも魅力だが、それよりもこういう製品を開発できるエンジニアこそを、ADIが必要としていたのではないかと思う。

【図4】Ethos-U55の数がずっと増えている

 フィジカルAIとか騒がれている昨今で、そのフィジカルの方はADIの既存の製品ラインナップがうまく当てはまるものがあるが、AIの方が手が回っていないのが現状であり、これを何とかしようとAlifのエンジニアを手に入れるため、会社ごとまとめて買収した、というあたりではないかと思う。

注釈

(*1) ARM7TDMIコアを搭載する「ADUC7061」が、Product Tableの“Microcontroller Core Architecture”が“ARM Cortex M7”になっているのはTypoを超えて既にギャグになっている気がする。

(*2) 台湾Holtekのように、頑なにCortex-M0+あたりのラインナップしか提供しないメーカーもあるから、全部とはいいがたい。

(*3) 最近ADIは新製品のリリースがなく、いきなりデータシートが公開されて終わりというパターンが少なくない。ADUMC451も製品リリースは存在しない。

InfineonがWolfspeedと200mm SiCウェハの供給契約を締結

 2025年5月にこんな記事を掲載した通り、SiCウェハ大手のWolfspeedがかなりヤバい事態に陥っていたわけだが、あれから1年余りを経て、InfineonがWolfspeedとの既存のSiCウェハ供給契約を150mmから200mmに移行する複数年契約を結んだ。

 Infineonのリリースには「データセンターの電力供給チェーン全体における電力変換効率は、大規模なインフラストラクチャを管理するハイパースケーラーにとって、運用コストに直接影響する重要な要素です。SiCはスイッチング効率と熱特性に優れているため、シリコンが実用上の限界に達する特定の電力変換段階において、技術的に適した選択肢となります。」という文言があり、このSiCウェハを使って最新のデータセンター向けのパワー半導体を製造するというか、最新のデータセンター向けパワー半導体を安定供給するためにはSiCウェハの安定した入手が欠かせなくなっている、ということが読み取れる。

 Wolfspeedは2025年6月に結局Chapter 11(厳密には違う所もいろいろあるが、概ね日本でいう民事再生手続き相当)入りしたが、9月29日に財務再編が完了。Chapter 11の保護から脱している。同社の場合は6月末決算なのでQ1とかQ2とかいうと分かりにくくなるために日付でまとめるとここ2年ほどの売上と粗利益の状況はこんな感じ。

2024/092024/122025/032025/062025/092025/122026/032026/06
売上(単位: 100万ドル)194.7180.5185.4197.0196.8168.5150.2149.6
粗利益(単位: 100万ドル)-36.2-37.2-22.5-25.7-77.1-78.3-40.0-36.7

 改善してないのでは?と見えなくもないが、2026年度の決算報告を見ると資産扱いになっていたものと負債を大幅に圧縮。流動負債は70億9,000万ドル(約1兆1,202億円)→2億3,160万ドル(約366億円)に、総負債額は73億150万ドル(約1兆1,536億円)→20億7,470万ドル(約3,278億円)にそれぞれ改善している。あとは売上さえ増えれば、という状況でデータセンターの800V化などにより、再びSiCのニーズが増え始めたことで、Wolfspeedが復活できそうな兆しが見えてきた格好だ。

 まだ油断はできないのだろうが、EVの急減速で死にかかったSiCがデータセンターで何とか命運を保つことができたようで、まずは何よりである。