元半導体設計屋 筑秋 景のシリコン解体新書

NVIDIAを追うだけじゃない。Intel CTOが探す「GPUの次」とは?

Intel最高技術責任者(CTO)のPushkar Ranade氏

 Intelの最高技術責任者(CTO)であるPushkar Ranade氏が日本のメディア向けラウンドテーブルで、Intelの現在地と今後の技術戦略について幅広く語った。興味深いのは、Intelが単に「AI半導体でNVIDIAを追う」という話に終始していないことだ。

 むしろRanade氏が繰り返し強調したのは、「現在のAIコンピューティングの次に来るものを、今から仕込んでおく」という考え方だった。

 Intelは現在、18Aを中心に先端プロセスによる製品開発とFoundry事業を立て直している。一方で、その先には14A、AIアクセラレータ、量子コンピューティング、ニューロモーフィック、シリコンフォトニクス、メモリ・コンピュート融合、新材料といった複数の技術を並行して走らせている。

 この姿は、かつてPC時代の成功に集中しすぎ、モバイル革命を逃したIntel自身への反省とも、かつて性能対効率をチップレベルだけでなくシステムレベルで改善してきた実績とも重なる。

 Ranade氏のメッセージを一言で表現するなら、「今の勝者を追いかけるだけでは、次の勝者にはなれない」ということだ。

Pushkar Ranade氏が正式CTOに――「次の波」を担当するCTO Office

 2026年5月、IntelはPushkar Ranade氏を正式なCTOに任命した。同氏はCEOであるLip-Bu Tan氏のChief of Staffも兼務し、CEO直属で技術戦略と特別技術プロジェクトを統括する。

 注目すべきなのが、IntelがCTOの重点領域として明示している技術だ。具体的には、量子コンピューティング、ニューロモーフィックコンピューティング、フォトニクス、新材料となる。

 これは今回のラウンドテーブルでRanade氏が説明したテーマとほぼ一致する。つまり今回の発言は、Intelの「研究所が面白い技術を研究している」という話ではない。CEO直結の技術戦略として、次世代コンピューティングの候補を複数育てているという意味を持つ。

 Ranade氏はIntelで65nm、45nm、22nmなどのトランジスタ技術開発に携わり、その後もプロセス技術と製品の両方を経験してきた人物だ。つまり、単なる「未来技術担当」の研究者ではなく、半導体プロセスを量産に持っていくことを知るCTOである。Ranade氏の経歴は、後述する量子やニューロモーフィックを理解する上でも重要だ。

18Aは「現在」、14Aは「試金石」――14Aの試金石としての条件とは

 今回のラウンドテーブルでRanade氏は、Intelの18Aについて、


    •すでに量産
    •複数製品に展開
    •今後さらに18A製品を増やす

と説明した。

 これはIntelの公式発表とも整合する。Intel 18Aは2025年に生産入りし、RibbonFETとPowerViaという2つの重要技術を採用している。2026年には18A-Pもリスク生産に入った。

 さらにIntelのクライアント向けでは、18Aを採用するPanther Lake/Core Ultraシリーズ3が展開され、サーバー向けにもClearwater Forestが18A世代として投入されている。18Aの次が14Aだ。Ranade氏は今回、14Aの開発が順調であり、2028から2029年にかけての量産を見据えていると説明した。

 ただし、ここには重要な条件がある。Intelの2026年10-Kでは、14Aは外部Foundry顧客を獲得できなければ、次世代先端プロセスの追求を一時停止または中止する可能性があることを明記している。つまり14Aは単なる技術ロードマップではなく、Intel Foundryが本当に顧客を獲得できるかを問う、同事業の成否を占う試金石となる。

IntelはNVIDIAを追うだけではない――「GPUの次」を探している

 現在のコンピューティングはAIによって大きく変化している。GPU、CPU、ネットワーク、ストレージがAIインフラを構成する現在のコンピューティング構成は、まだしばらく続くだろう。

 しかしRanade氏は、コンピューティングの歴史を振り返りながら、およそ10年単位で大きなパラダイムシフトが起きてきたと説明する。そしてCTOの仕事は、「今の波が終わった後に来る次の波に備えること」だと述べた。

 ここで非常に興味深い発言がある。Ranade氏は、NVIDIAのCUDA/GPUプラットフォームが今後数年間は強いと認めながらも、その次に現れるものは「別のGPU」や「別のCPU」ではない可能性が高いと語った。その最大の制約として挙げたのが電力だった。

 AIインフラの電力消費が急増する中、「次のイノベーションは、根本的に低い電力エンベロープから生まれる可能性がある」というのがRanade氏の見立てだ。

 これは、後述するニューロモーフィック、フォトニクス、メモリ・コンピュート融合を一本につなぐ重要なキーワードになる。IntelかつてPentium4の後にPentium M(コードネームBanias)でCPUでの大きな変革・改善を行なった実績がある。

量子コンピュータ――「新しいFab」ではなく18A Fabを使う

 今回のラウンドテーブルで最も具体的な進展が見えたのが量子コンピューティングだ。Intelはシリコンスピン量子ビットを採用している。

 最大の特徴は、既存の半導体製造技術を利用できることだ。Ranade氏によれば、Intelの量子チップは通常のロジック半導体と同じ製造インフラを利用でき、現在は18Aと同じジオメトリ(製造・設計ルール)で量子チップを作っているという。さらに低温で動作する制御エレクトロニクスやソフトウェアスタックまで含めたフルシステム化を進めている。

 そして、ここで日本との関係が非常に重要になるという。2026年7月、日立、Intel、日本の産業技術総合研究所(AIST)によるシリコン量子コンピュータ研究がNEDO事業に採択された。

プロジェクトでは、


    •100量子ビット級シリコン量子コンピュータ
    •Intel 18Aを利用した量子チップ
    •量子チップ向けPDK
    •1,000量子ビットを見据えた3D集積
    •クラウド利用環境

などを開発する計画だ。プロジェクト期間は2029年3月までとされている。

 さらに日立は、100量子ビット級の誤り訂正を含むプロトタイプを2028年度、1,000量子ビット級を2030年度の重要マイルストーンとして掲げている。

 ここから見えてくるIntelの戦略は明確だ。量子コンピュータを「大学の研究設備」ではなく、「半導体製造技術の延長線上にある新しいコンピューティングデバイス」として扱っている。そして日本は、その実用化に向けた重要なパートナーになっているのだ。

ニューロモーフィック――Loihiの先に「低消費電力AI」

 もう1つ、今回の発言で注目したいのがニューロモーフィックコンピューティングだ。Intelは10年以上にわたり、この領域を研究している。代表的なプロセッサがLoihiだ。Ranade氏は今回、Loihi 1、2、3を経て、現在はLoihi 4に取り組んでいると説明した。

 Intelの公開情報では、Loihi 2はイベント駆動型スパイキングニューラルネットワークを利用し、メモリとコンピューティングを近接させることでデータ移動を減らす設計になっている。

 さらにIntelは、Loihi技術を1.15B(11億5,000万)ニューロン規模にまで拡張したHala Pointを発表している。

 この技術の本質は、単純に「脳を真似する」ことではない。現在のAIアクセラレータでは、メモリ→演算器→メモリというデータ移動そのものが、大きな電力消費要因になる。一方、ニューロモーフィックでは、必要なイベントが発生したときだけ計算するという考え方を採用する。

 Ranade氏が説明したように、従来のCPUが約0.9Vで動くのに対し、ニューロモーフィック設計では0.6Vあるいは0.55V程度まで低電圧化できるという。つまりIntelが見ているのは、AIの「性能競争」だけではない。AIを、もっと少ない電力で動かすためのコンピューティング・パラダイムそのものの変更である。

シリコンフォトニクス――「電気で運ぶ」から「光で運ぶ」へ

 AIインフラでは、演算性能だけでなく、チップ同士をどうつなぐかが課題になりつつある。Ranade氏は、パッケージ内のチップ間、ボード上、ボードからラック、ラック間、さらにデータセンター間まで、あらゆる階層で接続がボトルネックになりつつあると指摘した。

 そこで起きている大きな転換が、銅配線ベースの接続から、光を使うフォトニクスへの移行だという。Intelは、フォトニクスに早くから取り組んできた企業の1つだと位置付けたうえで、チップ間やラック間の接続を大幅に改善する新しいソリューションに取り組んでいると説明した。

 IntelのFabには光トランシーバと光スイッチを製造する基盤があるという。特に強い関心を向けているのが、全光スイッチングだ。現在は、電気信号を光に変換して次のチップへ送り、そこでまた電気に戻す。この電気と光の相互変換に、多くのエネルギーが使われている。光のまま切り替えられれば、スイッチングとしては最速の方式になるという。

メモリ危機は「部品価格問題」ではなくアーキテクチャ問題

 今回、非常に現実的だったのがメモリに関するRanade氏の発言だ。現在、AIデータセンターの建設が加速する一方、DRAM、HBM、LPDDR、NANDなどへの需要も拡大している。

 Ranade氏は、かつてIntel自身がDRAMメーカーとしてスタートした歴史にも触れながら、現在のIntelはメモリメーカーではなく、コンピュートとメモリをどう密接に結び付けるかに注力していると説明した。そして、この発言は現在のPC市場にも直結する。

 2026年はAIサーバー需要によってメモリ市場の供給が逼迫している。TrendForceによると、2026年Q4のメモリ契約価格は、前期比でConventional DRAMが10~15%、NAND Flashが15~20%、Enterprise SSDが23~28%上昇すると予測されている。さらにPC向けDDR5 SO-DIMM価格については、2025年7月から2026年にかけて6倍になったとのPCメーカー側の説明も出ている。

 しかしRanade氏の視点は「メモリが高いから困る」で終わらない。「同じメモリ容量で、もっと多くの処理を実行できないか」というアーキテクチャの問題として捉えている。

 これは重要な転換だ。これまでメモリは比較的安価だったため、システム設計者はメモリ使用効率を十分に意識しなくても済んだ。しかしAI時代には、Memory Capacity→Memory Bandwidth→Memory Efficiencyへと競争軸が変わる。メモリを増やすだけではなく、メモリを無駄なく使うCPU、AIアクセラレータ、アルゴリズム、ソフトウェアが必要になる。

ガラス基板、その先にダイヤモンド――「熱」が次の制約になる

 Ranade氏が最後に挙げたのが、新材料だ。特に注目されるのがガラス基板である。Intelは有機基板からガラス基板への移行を研究しており、AI/HPC向けに、より高密度な配線と大型パッケージを可能にする次世代パッケージ技術として位置付けている。

 2026年にはIntelがLens Technologyとの協業を発表し、ガラス基板を利用した高性能・高密度・低消費電力パッケージの開発を進めている。Intel Foundryの研究テーマにも、Glass Core Substrates – Next Generation Advanced Packaging Platform for AI and HPCが明示されている。

 そしてRanade氏は、その先の材料としてダイヤモンドにも言及した。理由は極めてシンプルだ。熱を逃がせるからだ。AIチップの消費電力が上がれば、次の問題は「どう計算するか」だけではない。どう冷やすか。そこまで含めてコンピューティング・アーキテクチャを考える必要がある。

Intel自身もAI化――工場、EDA、企業業務まで

 今回のラウンドテーブルでは、Intel自身がAIをどう使っているかについても具体的な説明があった。企業業務ではGoogleとの協業によってGemini Enterpriseを導入し、エンジニアリング、サプライチェーン、コーポレート業務などへのAI活用を進めている。

 さらにFoundryでは、


    •工場設備の予防保全
    •ロボットによる設備監視
    •画像による異常検出
    •EDAにおける設計検証

などへのAI活用を進めている。

 特に設計検証はAIとの親和性が高く、Ranade氏は今後1~2年でマシンラーニングを利用した設計工程が大きく増えるとの見通しを示した。IntelとGoogleは2026年7月、Gemini EnterpriseとGoogle Cloudを利用したIntel全社のAI活用をさらに拡大すると発表している。シリコン設計のシミュレーションや開発環境にもクラウドAIを利用する方向だ。

 つまりIntelにとってAIは、「AIチップを作る」だけではない。「AIを使って半導体そのものを作る」という段階に入っている。

Intelが過去から学んだ最大の教訓――「次の波を見逃さない」

 今回のラウンドテーブルで、最も印象的だったのは技術スペックではなく、Ranade氏自身によるIntelの過去への自己分析だった。同氏はAndy Grove氏の有名な言葉、「Only the Paranoid Survive」を引き合いに出し、IntelがPC市場で成功しすぎた結果、モバイル革命への対応が遅れたと振り返った。

 そしてAIについても同じことが起きたと説明する。IntelはGPUを持っていた。しかしGPUを主にPCのグラフィックス用途として捉え、NVIDIAがディスクリートGPUを継続的に進化させた一方で、AIという巨大なワークロードへの転換を十分に予測できなかった。

 この反省から導き出された答えが、「複数の技術に賭ける」という戦略だ。Intel CTOが見ているのは「次のNVIDIA」ではない。今回のRanade CTOの発言を総合すると、Intelの技術戦略はかなり明確になる。

 現在のIntelは、18A→14A→Foundryという半導体製造技術の復権を進めている。同時に、CPU→AIアクセラレータ→Purpose-Built Siliconへと製品ポートフォリオを広げる。

 量子、ニューロモーフィック、フォトニクス、新材料、メモリ・コンピュート融合、AI。どれが次の主役になるのか、現時点では誰にも分からない。だからこそIntelは、複数の技術を並行して育てている。

 重要なのは、これらがバラバラの研究テーマではないことだ。すべてのテーマが、「現在のAIコンピューティングが抱える電力、データ移動、メモリ、熱、製造スケールという限界をどう突破するか」という共通の問題につながっているからだ。

 GPUの性能をさらに上げるだけでは、この問題は解決できない。だからIntel CTOが探している「次の波」は、次世代GPUそのものではなく、コンピューティングの構造を変える技術なのだろう。

 そして、その視点で見ると、今回のラウンドテーブルで語られた量子、ニューロモーフィック、フォトニクス、ガラス基板は、実は1つの方向を向いている。「More Compute」から「More Efficient Compute」へだ。

 Intelが次の時代に向けて仕込んでいるのは、まさにこの転換なのかもしれない。IDM 2.0という戦略の本質も、単に最先端プロセスを追求することや、製造能力を強化することだけではない。現在から将来にわたって拡大し続けるAIワークロードを、より効率よく、より柔軟に、そしてシステム全体として処理できるコンピューティング基盤を再構築することにあるのではないだろうか。

 かつてIntelは、Pentium Mの登場を契機に、性能一辺倒から電力効率を重視したコンピューティングへと大きく舵を切った。いわば、Intelにとっての「Right Hand Turn」である。

 そして今、AIによってコンピューティングの前提そのものが変わろうとしている。18A/14Aによるプロセス技術、先端パッケージング、CPUとAIアクセラレータ、メモリ、フォトニクス、さらにはニューロモーフィックや量子コンピューティングまで。

 これらを個別の技術として見るのではなく、AI時代のワークロードをシステムレベルで最も効率よく処理するための「次のコンピューティング・アーキテクチャ」として、Intelがどのように組み上げていくのか。その「Right Hand Turn」の具体像は、14Aの外部顧客獲得や量子チップの試作といった今後の節目で明らかになるはずだ。