Athlon 750MHz登場 ~現在購入できる最速のx86系CPU~ |
本誌が行なったアンケート「あなたが選ぶPC Watch 1999年10大ニュース発表」でも見事1位に選ばれたAthlonだが、筆者もAthlonは今年最もPC業界をわかせてくれた製品の1つであると思う。10月にインテルが733MHzのPentium IIIをリリースしたことで、一度は奪われていた最速の座を再び奪い返すべく11月29日にAMDが発表したのがAthlon 750MHzだ。12月18日のAKIBA PC Hotline!でも報じられているように、既に秋葉原には8万円の後半~9万円の前半という価格で出回っている。
その後インテルがPentium IIIの800/750MHzを前倒しに出荷したり、AMD自身も800MHzのサンプル出荷を明らかにするなどしたため、既に「最速」の称号は消えてしまっているものの、Pentium III 800MHz、Athlon 800MHzのいずれもが、秋葉原市場にはまだないことを考えると少なくとも現時点では「実在している」最高クロックの製品と言える。今回はAthlon 750MHzのパフォーマンスについて考えていきたい。
●0.18μmプロセスへ移行したAthlon
Athlon 750MHzはこれまでの500MHz~700MHzまでのAthlonとは2つの点で異なっている。1つ目は、製造プロセスが0.25μmから0.18μmへと微細化されていることだ。製造プロセスが微細化される事により、消費電力の低減やクロック向上、製造コストの削減などのメリットがある。
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半導体はトランジスタという回路を集積することで成り立っている。このトランジスタにはチャネルと呼ばれる電子が流れる道が用意されており、このチャネルに電子が流れることでトランジスタがオンになったり、オフになったりして半導体も動作する。このチャネルの長さのことを一般的には製造プロセスとして呼んでいる。製造プロセスが微細化されるということは、チャネルの長さが短くなるということなので、チャネルに流れる電流が少なくなることを意味しており、その結果消費電力を押さえることもできるし、さらにクロックを上げやすくなる。
また、製造プロセスが微細化されという事は、1つのトランジスタの大きさが小さくなることを意味している。このため、トランジスタの集合体として作られる半導体は、製造プロセスが大きなものよりは小さいものの方が小さなサイズですむことになる。通常、半導体はウェハという一枚の板単位で作られる。このウェハのサイズは同じなので、製造プロセスが微細であれば、あるほど多くの半導体を一度に作れる。例えば、1枚のウェハで0.35μmプロセスでは10個しか作れなかったとしたら、0.25μmプロセスでは14個の半導体がとれるというようになり、仮に同じコストでウェハが生産できるとすれば、半導体自体のコストを下げることが可能になる(実際には工場の生産ラインに投資を行なう必要があるし、より微細なプロセスを開発するには莫大な開発コストがかかるので一概にコストが安くなるとは言えないのだが)。このように、製造プロセスを微細化することは技術面でも、コスト面でもCPUメーカーにとってメリットがあることだと言える。
2つ目の違いはCPU内部の配線技術だ。AMDはCPU内部の配線技術の違いで0.18μmのプロセスを2つ持っている。それがCS50とHiP6Lという2つのプロセスだ。CS50が従来と同じアルミニウムを原料として利用しているのに対して、HiP6Lは次世代の主流になると言われている銅を原料としている。一般的に銅を使用した場合の方がアルミに比べてクロックを上げやすいとされており、モトローラ、IBMなどx86以外のマイクロプロセッサを生産するメーカーもこぞって採用している。AMDのHiP6Lも元々はモトローラからライセンスされたプロセスで、AMDはこのHiP6Lで1GHzを実現するとしており、徐々にCS50からHiP6Lへの移行を進めることになっている(このあたりの経緯に関しては「900MHzの銅配線Athlonプロセッサのサンプル製造に成功!」、「AMD副社長兼Fab30ジェネラルマネージャ ジム・ドーラン氏インタビュー」も参照していただきたい)。
配線技術 | 生産工場 | |
---|---|---|
CS50 | アルミ配線 | Fab25(米テキサス州オースチン) |
HiP6L | 銅配線 | Fab30(独ドレスデン) |
●L2キャッシュが2/5倍になったことの意味
別に0.25μmのプロセスでも、CS50の0.18μmのプロセスでも、製造プロセスの違いがCPUの処理能力に影響するということはない。しかし、Athlon 750MHzではCPUの処理能力に影響する大きな変更が加えられている。それがL2キャッシュのクロック倍率の変更だ。Athlon 700MHzまではL2キャッシュは、CPUコアクロックに対して1/2倍だった。つまり、Athlon 700MHzであれば、L2キャッシュのクロックは350MHz(700MHz×1/2=350MHz)だった。しかし、Athlon 750MHzでは2/5倍に変更されているため、L2キャッシュのクロックは750MHz×2/5=300MHzとなる。つまり、
コアクロック | L2クロック | |
---|---|---|
Athlon 700MHz | 700MHz | 350MHz |
Athlon 750MHz | 750MHz | 300MHz |
CPUの解説文などで「L2キャッシュがオンダイになっているCPUの方が、オフダイのCPUよりもクロックを上げやすい」と書いてあることがある。その理由は、L2キャッシュがオフダイの場合、CPUメーカーはL2キャッシュに利用するSRAMを別途CPUモジュール上に搭載する(Pentium Proのようにパッケージに封入する場合もある)。CPUコアのクロックが上がれば上がるほど、高クロックで動作するSRAMを大量に確保する必要がある。しかし高クロックで動作するSRAMを大量に確保するのは難しいし、何よりも非常に高価になってしまい、結果としてCPU製造のコストがかさんでしまう。このことは、インテルのKatmaiコアのPentium IIIにも言える。インテルは他社からSRAMを購入してPentium IIIに搭載していたが、Pentium IIIのクロックが上がれば上がるほど、量を確保するのが難しく高価なSRAMを購入しなければならなくなる。仮にSRAMが確保できなかったらCPUの出荷に影響を与えることになってしまう。
ここで、インテルとAMDはそれぞれ別の選択をした。インテルがCoppermineでL2キャッシュのオンダイ化を選択したのに対して、AMDはL2キャッシュの倍率を下げてL2キャッシュのクロックをあまり上げないという選択をしたという訳だ。どちらが技術的にスマートかと聞かれれば、それはインテルの選択であることは明らかだ。現状で多くのユーザーがメインで利用していると思われるアプリケーションの多くはL2キャッシュのクロックが上がることで、処理能力が向上するようなアプリケーションだからだ。
もちろん、AMDもずっとこのままというつもりはなく、2000年に出荷を予定しているコードネームThunderBird、Spitfireと呼ばれるCPUコアを採用したAthlonではL2キャッシュがオンダイ化される(AMDの今後のロードマップに関しては「米AMD、Athlon 750MHzを年内に出荷と言明」を参照していただきたい)。しかし、それまでは今後出荷されるより高クロックのAthlonのL2キャッシュは、今回のAthlon 750MHzのようにL2キャッシュのCPUコアクロックに対する倍率は下げられていく可能性が高い。とすると、Athlonの性能面でのCoppermineに対するアドバンテージがそがれるという展開も十分予想される訳だ。Athlonユーザーとしてはそのあたりが大変気になるところだろう(そういう意味でもAMDには早くThunderBirdやSpitfireコアに基づいたAthlonを出荷できるようにがんばっていただきたいものだ)。
●L2キャッシュ倍率変更により性能の延びが鈍化
ベンチマークだが、ほかのCPUと比較できるように前々回の「冬季CPU購入ガイド~Intel、AMDの現役全41種類CPUベンチマークデータ付き~」で利用したベンチマークと同じテスト(Ziff-Davis,Inc.のWinstone 99 Version1.2、WinBench99 Version1.1、MadOnion.comの3DMark99 MAX、MultimediaMark99)を利用した。各ベンチマークに関する解説などは前述の記事を参照して欲しい。
結論から言えば、やはりL2キャッシュのクロックがCPUコアクロックの2/5倍になった影響は小さくないと言える。例えば、650MHzから700MHzになった時には59.4から65と大幅な向上を見せたCPUmark99も、66.6と小幅な向上に留まっている。もちろん、650MHzから700MHzには7.6%のクロック向上であるのに対して、700MHzから750MHzは7.1%とクロックの向上率が低いことも影響しているのだろう。High-End Winstone 99では逆に遅くなっている(差はほとんどないのでほぼ同等といってもいいが)点もこの事を裏付けていると言っていいだろう。
Business Winstone 99 | High-End Winstone 99 | |
---|---|---|
Athlon 750MHz | 38.7 | 32.5 |
Athlon 700MHz | 37.9 | 32.9 |
Athlon 650MHz | 35.1 | 29.4 |
Pentium III 733MHz(RDRAM) | 38.9 | 32.0 |
Pentium III 667MHz(RDRAM) | 38.6 | 30.9 |
Pentium III 733MHz(SDRAM) | 37.9 | 29.8 |
Pentium III 700MHz | 38.2 | 31.9 |
Pentium III 667MHz(SDRAM) | 36.9 | 28.9 |
Pentium III 650MHz | 37.3 | 30.5 |
CPUmark 99 | FPU WinMark | |
---|---|---|
Athlon 750MHz | 66.6 | 4,060 |
Athlon 700MHz | 65.0 | 3,800 |
Athlon 650MHz | 59.4 | 3,530 |
Pentium III 733MHz(RDRAM) | 66.2 | 3,920 |
Pentium III 667MHz(RDRAM) | 60.9 | 3,570 |
Pentium III 733MHz(SDRAM) | 66.0 | 3,930 |
Pentium III 700MHz | 62.4 | 3,760 |
Pentium III 667MHz(SDRAM) | 60.9 | 3,570 |
Pentium III 650MHz | 58.4 | 3,490 |
3DMark | 3D CPUMark | MultimediaMark 99 | |
---|---|---|---|
Athlon 750MHz | 6,158 | 12,570 | 1,907 |
Athlon 700MHz | 6,114 | 12,164 | 1,826 |
Athlon 650MHz | 5,756 | 10,876 | 1,626 |
Pentium III 733MHz(RDRAM) | 6,493 | 11,106 | 2,126 |
Pentium III 667MHz(RDRAM) | 6,247 | 10,341 | 1,974 |
Pentium III 733MHz(SDRAM) | 6,550 | 11,119 | 2,014 |
Pentium III 700MHz | 6,345 | 10,420 | 1,960 |
Pentium III 667MHz(SDRAM) | 6,263 | 10,286 | 1,897 |
Pentium III 650MHz | 6,088 | 9,807 | 1,821 |
●現時点では最高のパフォーマンスを持つ
ただ、だからと言って決してAthlon 750MHzが遅いということではない。CPUmark99、FPU WinMark、3D CPUMarkといったテストでは最速な結果を出した。Business Winstone99、High-End Winstone99でもトップとほぼ同等のスコアを残していることなどを考えると、間違いなく現時点で入手できるCPUの中では最高の処理能力を持つx86系CPUであることは間違いない。そうした意味では常に最速のCPUを欲しているパワーユーザーや処理能力の差が仕事の効率に影響するような処理にPCを利用しているビジネスユーザーには見逃せないCPUだと言える。
しかし、冒頭でも述べたように既にインテルはPentium IIIの800MHzを発表しているほか、AMD自身も2000年の1月に800MHzのAthlonを出荷すると述べている。筆者はAthlon 750MHzを「現時点では最速であることに意味がある」と書いた。ならば、それが最速でなくなった時にはその位置づけを考え直す必要があるだろう。Pentium III 800MHzやAthlon 800MHzが登場した時にもAthlon 750MHzが買いか問われれば、答えるのは正直言って難しい。ただ1つだけ言えることは、ベンチマークの結果でもわかるようにAthlon 750MHzとAthlon 700MHzの差は非常に小さく、12月18日のAKIBA PC Hotline!「CPU最安値情報」で報じているように最安値に1万8千円も差があるようだと、正直L2キャッシュが高速なAthlon 700MHzの方が相対的に考えて優れた選択ではないかと思う。
データシートによると0.18μmプロセスで製造されたAthlon 700MHz~550MHzも製品として存在することになっており、AMDに確認したところ「そうした製品が今後出荷される可能性がある」という返答を頂いた。となると、0.18μmプロセスのAthlon 700MHzが登場すれば、L2キャッシュが高速な上、消費電力も低く発熱が少ないというメリットもあり、お奨めのチョイスと言える。
□AKIBA PC Hotline! 関連記事
【12月11日号】AMDから0.18μm版「Athlon 750MHz」がデビュー
国内正規ルートからも流通し、価格は9万円前後
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/991218/athlon750.html
[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]