|
8月10日に発表されたAMDの最新プロセッサ、“Athlonプロセッサ”が遂に登場しました。ショップとしてもかなりの期待をしていた新製品です。
期待の理由の1つとしては、高い性能を持つという前評判、もう1つの理由としては昨年のK6-2の実績です。'98年5月末に発売したK6-2は6月から8月にかけて爆発的な人気となり、一気に秋葉原のショップにおけるAMDのシェアを押し上げました。そのイメージ以上のものがAthlonにあるとショップとしては、感じていた部分があります。Intelまでとは言いませんがAMDという名前の知名度が上がり、昔よりずっと高い地位を確保することに成功してきました。
しかしながらAthlonは価格が高いことや、マザーボードが全く新しい物であること等、数多くの不安要素があるのも事実です。ユーザーにとっては期待や注目を集めていたAthlonは、ショップにとっては期待と不安が入り混じっている商品なのです。
■ 発売前のドタバタ騒動
期待を集めていたAthlonも販売開始前にはかなりのドタバタ騒動がありました。当初は8月中旬に限られたメーカー、ショップ数社よりシステムとして販売/出荷を開始するだけという話で、単品でのDIYマーケットへの販売はずっと後になるということでした。ただでさえ、6月に“出荷開始”の発表がありながらも、市場には全く登場してこないことから不安感が漂っていた中で、中小のショップにとってはわけのわからない戦略です。
実際にはきちんとした理由(建前?)があり、新しいプラットフォームであることから問題が起こる可能性があるということと、完全に動作する環境をテストした上で出荷可能な完成品パソコンのみに販売を限定し、問題が起きないようにしようとする戦略だったようです。
ところが、発表が近くなるにつれて、最初の話が全く無かったように展開していきました。システムとして8月に販売を開始するメーカー・ショップは数が増え、さらに時間が進むとベアボーンキットがAMDの正規代理店から登場することとなりました。ベアボーンキットは、従来からAMDのCPUを扱っているショップであれば、ほとんど制約無く取り扱うことが可能な製品です。多くのショップはこの方針変換に多少、振り回された感があります。
■ CPUはあっても、必要部品が無い状態
さらに、ドタバタ騒動は続きます。AMDからはAthlon用として認定部材(動作確認された部材)を発売開始前より提示していました。ところが発売開始直前になると、これらの部材がほとんど入荷しないという状況となったのです。
Athlonは新しいプラットフォームを使用するので、マザーボードは新しいものを買う必要があります。CPUは入荷の見込みがたったのですが、マザーボードが入荷しないのではどうしようもありません。間に合わないかもしれないと直前まで言われていました。結果的にはMSIのマザーボードだけは間に合いましたが、急がせたことから後に問題が発生したと筆者は考えています。
続いて入荷の見込みが直前まで立たなかったのがCPUファンです。AthlonはIntel Pentium IIのSECC1パッケージと同じ形にすることで、同じファンが使えることを狙いました。ところが、CPUクロックが高いことや、その構造上から高い熱を発生させてしまいます。これを冷やすためのファンが従来のSECC1用CPUファンにほとんどなく、結局のところCPUファンメーカーは新規にAthlon用のファンを開発/発売する必要があったのです。このため、Athlon用ファンの出荷開始が遅れてしまい、出荷された数少ないファンの取り合いが始まるような事態まで起こりました。
さらにその他にも発売前にはいろいろなドタバタ騒動がありました。認定電源でも、動作不安定や動作不良などの症状が出ることが発覚し、認定部材が二転三転するなどの、表舞台には出てこない色々な問題が多発していました。数多くのインフラを整えるために、6月に出荷を開始し、8月より本格出荷するという余裕を持ったスケジュールは、もろくも崩れていたように感じます。しかしながら、逆に考えると新しいプラットフォームのためドタバタはあったかもしれませんが、販売開始までなんとか間に合うように調整が取れたことは素晴らしいのかもしれません。
■ 価格改定と並行輸入品、650MHzの発表
いろいろドタバタ騒動がありながらも、8月10日に記者発表会が開かれました。システムの販売が8月17日に開始することがアナウンスされたと同時に、直前まで聞かされていなかった急な価格改定が実施されました。当初の発表価格より1万円前後安くなるというアグレッシブな価格改定です。これに驚いたのが並行輸入品を仕入れようとしていたショップや、先行予約を受け付けしていたショップです。いざ発表されてみると、価格が大きく違う。Pentium IIIへの攻撃なのかもしれませんが、副次的効果として並行輸入品つぶしにもなったようです。CPUメーカーの国内法人や正規代理店、正規代理店から仕入れているショップとしては、並行輸入品はその名のとおり正式な流通経路の商品ではないため、あまり良いこととは思っていません。また、ユーザーへのサポートもいい加減になりがちな商品でもあり、業界では多少忌み嫌われる部分もあります(好んで仕入れるショップもありますが……)。
またAthlon 650MHzが、事前の話がほとんどなく発表されました。これにはびっくり。筆者をはじめショップはほとんど予期していなかった発表でした。高いクロックの話より、Athlon自体がいつ秋葉原に登場するかが目下の話題でしたから驚きです。しかも出荷も開始すると言うではないですか。ショップの店頭では650MHzの問い合わせが殺到し、明確な回答も出来ない状況で少々参ってしまいました。
□関連記事
【8月10日】日本AMD、Athlonを発表。公開ベンチマークなど自信を見せる
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990810/amd.htm
■ 販売開始とマザーボードの不具合発生
そして8月17日に販売が開始され、秋葉原に一斉に登場しました。実際のところ、その前の週には少量の並行輸入品が出回り、秋葉原でも店頭販売されましたが、正式販売開始日はこの日です。発売直後からかなりの売れ行きだったのですが、1週間も経たずにマザーボードの不具合が発生し販売が一時停止となったのも、発売以上に大きな話題を呼びました。これは、8月20日に情報が掲載されたのがきっかけです。ショップに購入者・未購入者共に「どうなっているんだ?」、「実際のところ、どういう問題なんだ?」という問い合わせが殺到しました。問い合わせが殺到するのはショップとしては少々困るのですが、注目度の高さは改めて認識させられました。ユーザーの目は確実にAthlonに向いている部分があると感じた出来事です。
26日に詳細な問題点や対応方法が発表されましたが、出荷を急いだためにテストが十分に出来ていなかったと類推してしまいます。前述のようなドタバタ騒動が原因なのでしょうが、急いで商品を出すのは危険なのかもしれません。筆者個人は、マザーボードの問題というよりは、初期版と量産版でチップセットのデザインを変えてしまったAMDにも問題があると感じます。しかし早期に問題が見つかり、対応方法が明確に打ち出された事で、大きな混乱が無かったのは良かったことです。ただ、並行輸入品を購入したユーザーで不具合のあるものを手に入れてしまったユーザーは損をしたような気がしますが……(交換対応は正規流通品のみ)。31日には対策済みのMSIマザーボードの出荷が始まったようで、すばやいMSIの対応には感服するところがあります。
□関連記事
【8月20日】AMD、週末のAthlonキャンペーンを延期。出荷も一時停止
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990820/amd.htm
【8月26日】Athlon対応マザーボードの一部に不具合、交換へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990826/athlon.htm
■ これからのAthlonプロセッサ
これからのAthlonプロセッサですが、まずスタートはマザーボードの不具合で多少出鼻をくじかれた感があります。しかしながら、本誌PC Watchや雑誌媒体などで盛んにAthlonの高性能ぶりが取り沙汰されていますし、オーバークロックなども話題に上がってきています。こういう部分からも、今後はどんどん売れてくるのではないかと期待しています。あとは魅力的なマザーボードが今後どのくらい増えてくるかも重要でしょう。現状のMSIのマザーボードだけでは、マーケットの牽引パワーは弱く、面白いマザーボードが登場しないと強力な売れ行きは期待できそうにありません。現在発表されているFICやBIOSTAR、GIGA-BYTE等のマザーボードメーカーから、どんどん新製品が登場してきて、売れ行きに繋がってくれれば良いと筆者は思っています。
写真提供:AKIBA PC Hotline!
[Text by AMUAMU]