法林岳之のTelecom Watch
第20回:1998年10月編
「ISDNダイヤルアップルータはいよいよ激戦の時代へ」ほか



 不況と言われる中、Windows 98/iMacの発売により、徐々に盛り上がりを見せるパソコン市場だが、その反面、通信関連ではインパクトのあるニュースが少なかった。そんな中から今月はヤマハの新製品を中心にニュースを紹介しよう。


ISDNダイヤルアップルータはいよいよ激戦の時代へ

 10月は先月発表されたヤマハのRTA50iの出荷が始まり、好調な売れ行きを示している。ショップによっては、それまで最も人気が高かったMN128-SOHO SL10を抜き、売り上げトップを記録しているという。しかし、他社からも魅力的な製品が続々と登場しており、ISDNダイヤルアップルータの市場は、ますます激戦の時代へと推移しつつある。

 たとえば、10月末に発表されたNECのCOMSTARZ ROUTERの新製品もそのひとつだ。本体前面に液晶ディスプレイを備えるなど、デザインも従来製品から一新されている。従来製品はネットワーク機器らしい形をしていたが、今回の製品は家庭用を意識していることもあり、デザインにも気が配られている。アナログポートも2系統2ブランチの合計4ポートを備えており、ナンバー・ディスプレイ対応やフレックスホン、ダイヤルイン、内線通話/転送などの機能もサポートされている。WWWブラウザからのセットアップなどの機能は従来製品同様で、定時に着信メールをチェックする着信メール自動確認機能も受け継がれている。12月出荷予定なので、まだ実機を触っていないが、なかなか期待できる製品と言えるだろう。

 ただ、この原稿を書いている11月9日に、同じNECからAtermIR450シリーズという強力な製品も登場し、この他にも新製品の噂が聞こえてきているため、年末商戦のベストチョイスはますますわからなくなりつつある。これから製品を購入するユーザーは、ショップ店頭や展示会などで、実機を触り、善し悪しをじっくり見極めた上で購入することをおすすめしたい。

□NEC、アナログ4ポートを持つISDNルータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981030/nec.htm


PHSデータ通信を活かした製品も登場

 ISDN関連製品で、ISDNダイヤルアップルータと並んで注目したいのがPHSのデータ通信機能を活かした製品群だ。

 NECでは従来からPHSを最大6台まで子機として登録(収容)できるAtermIW60シリーズという製品を販売していた。2台のAtermIW60を用意すれば、1台を親機、もう1台をリモートステーションとして利用でき、NEC独自モードながらリモートステーションに接続したパソコンから64kbps同期通信モードでインターネットなどに接続することができた。しかし、実売価格が4万円台の製品を2台購入するのはさすがに荷が重かったのも事実だ。

 そこで、NECではアナログポートとデータ通信ポートをひとつずつ備えたリモートステーション専用端末『AtermRS10』を開発し、10月19日に発表している。価格はAtermRS10単体で24,800円、AtermIW60HS DSUとのセットで74,800円となっており、実売価格では単体で2万円弱、セットで5万円台半ば程度で販売されることになりそうだ。従来のAtermIW60を2台購入していたことを考えれば、かなりリーズナブルな構成になる。しかも、AtremRS10はAtermIW60に最大6台まで同時に登録できるため、AtermIW60シリーズを居間に置き、各部屋にAtermRS10をセットするという使い方もできる。もちろん、同時には1台しか利用できないが、なかなか便利な製品と言えるだろう。

 一方、松下電器産業と九州松下電器からはWORLD PC EXPO'98でも展示されていた『PIAFS LAN STATION』が発表された。この製品はDDIポケット電話のαPHS準拠のPHSとノートパソコンを組み合わせたものをLAN端末として利用できるものだ。ニュースリリースなどだけでは、ちょっとわかりにくいので、順を追って説明しよう。

 まず、PIAFS LAN STATIONに備えられている10Base-T準拠のEthernetポートと既存のLANのHUBを接続しておく。PIAFS LAN STATIONに登録されたPHSはノートPCと組み合わせることで、PIAFS LAN STATIONを通じて、無線でLANに参加できる。
 接続速度はPIAFS/32kbpsなので、10Base-Tには遠く及ばないが、大容量のデータ通信でなければ、十分に実用的な速度だ。ちなみに、PIAFS LAN STATIONに登録できるPHSは最大90台だが、同時にLANとデータ通信ができるのは3台までとなっている。 PIAFS LAN STATION自身をスレーブ機として最大7台まで増設することもできるため、かなり規模の大きなオフィスでもほとんどのLAN接続を無線化することも可能というわけだ。

 これらの機能に加え、PIAFS LAN STATIONにはアナログ回線と接続するためのポートも備えられている。子機として登録したPHSからPIAFS LAN STATION~アナログ回線を通じて、外線に発信することもできるが、物理的に回線が1本しかないため、同時利用も1台のみに限られている。

 95,000円という価格からもわかるように、主なマーケットは企業向けということになるが、コストダウンを図れば、SOHO向けにもかなり需要が見込めそうだ。5万円程度でHUBも内蔵し、既存のISDNターミナルアダプタと接続できるルータ的なアプローチも面白そうだ。今後の製品に期待したい。

□NEC、「AtermIW60」とワイヤレス通信が可能な専用子機
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981019/nec.htm
□松下、PHSデータ通信でワイヤレス環境が構築できるPIAFS LAN STATION
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981023/pana.htm


PDC/DoPaインターフェイスを備えたモバイルギアII

 モバイルコンピューティングに適したPCとして、注目を集めながら、今ひとつ普及が進まないWindows CEマシンだが、NECからモバイルギアIIのニューモデル『MC-R510』が10月26日に発表された。

 MC-R510は発表会の数日前にアメリカでWindows CE 2.1が発表されたこともあり、OSも新しくなるのではないかという噂も流れていたが、発表されたマシンは従来のMC-R500と同じWindows CE 2.0を搭載したモデル。しかし、実際に製品を見てみると、従来製品と大きく異なる仕様になっており、完全なモデルチェンジだった。たとえば、本体は従来製品よりも体積比で15%、重量で約80gの小型軽量化を実現しており、実際に持った感覚も「これならラクに持ち歩ける」「結構、薄いなぁ」というのが正直な感想だ。MC-R500を持つ筆者もその差に驚いてしまったくらいだ。

 また、通信インターフェイスとして、NTTドコモのデジタル携帯電話と接続できるPDC/DoPaインターフェイスを搭載しており、ケーブルのみでデータ通信ができるようになっている。個人的には高速なデータ通信が可能なPHSも接続できるようにして欲しかったところだが、NECとしては「通信インフラストラクチャとして見た場合、全国規模で利用できるわけではないので採用を見合わせた」ということだそうだ。

 こうしたデータ通信インターフェイスを内蔵したものとしては、日立のPERSONAが知られている。実は、筆者はPERSONAも所有していたことがあるのだが、Windows CEとしての動作はまったくダメだった(遅い、ハングアップする)ものの、PDC/PHSインターフェイスはカードが不要なため、持ち歩くアイテムが減り、モバイル端末には最も適しているという印象を得た。MC-R510はPDC/DoPaという変則的な構成だが、カードが不要、という手軽さは大きな魅力だと言えるだろう。データ通信インターフェイス内蔵という手法は、今後、Windows 98が動作するノートPCなどでも流行ることになるかもしれない。

 また、今回のモデルチェンジではカラー版のみがリリースされ、モノクロ版のモデルチェンジは見送られたが、実はNTTドコモのモバイル製品としてMC-R510と同等のモノクロモデル『Mobile Gear II for DoCoMo』がリリースされている。重量は680gとさらに軽量化され、バッテリー駆動時間は専用充電池で16時間、アルカリ電池で36時間も駆動できるようになっている。より長いバッテリ駆動時間を望むのであれば、こちらの製品を狙うのもいいだろう。

 ちなみに、NTTドコモのモバイル製品群では、Libretto70をベースにした『LibrettoモバイルパックIII』という製品も発売されている。この製品はLibretto70に大容量バッテリ、デジタル携帯電話通信カード、I/Oアダプタ、USB接続FDD(!)を標準装備した製品なのだが、何と驚いたことに本体左側にPCカードスロットが備えられている。
 東芝が販売していたLibretto70は初代モデルからPCカードスロットが右側にあるため、データ通信カード一体型の携帯電話やPHSを接続すると、ポインティングデバイスが操作しにくいと不評だったが、LibrettoモバイルパックIIIではその問題がクリアされている。すでに、一部で製品の出荷も開始されているようなので、興味のあるユーザーはドコモショップや専門店などでチェックしてみるといいだろう。

 最後にもうひとつ注目記事に触れておこう。驚速シリーズなどでおなじみのソースネクストは、USB接続を可能にした携帯電話メモリソフト「携快電話USB」を10月20日に発表している。従来の他社製品はほとんどがRS-232Cインターフェイスに接続していたが、「携快電話USB」ではUSBポートに接続できるようにすることで、今までよりも手軽に利用できるようにしている。また、同時に発売された「携快電話」の方はWindows 98/95/NT/CE、Mac OSにも対応しているのが特徴だ。

 この手の携帯電話メモリソフトは、筆者もいくつかテストしたが、正直なところを言わせてもらうと、まだまだ使い勝手が良くない。たとえば、新規登録データをメモリ番号を意識することなく、メモリの空きに順次転送したり、1件ずつメモリを転送するといったことができない製品もある。また、携帯電話の方もJ-PHONEのSkyWalkerのように、メール機能を搭載したものが増えているが、メールアドレスの編集までサポートした携帯電話メモリ管理ソフトはない。今後のバージョンアップなどで順次サポートされるようになるのだろうが、もう少し、通信事業者のサービスにいち早く対応するようにしてもらいたいというのが本音だ。

□NEC、デジタル携帯電話インターフェイス内蔵の新Mobile Gear II
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981026/nec.htm
□ソースネクスト、USBケーブル同梱の携帯電話メモリ編集ソフト
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981020/source.htm

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp