法林岳之のTelecom Watch
第19回:1998年9月編
「ヤマハから期待の新製品登場」ほか



 不況と言われる中、Windows 98/iMacの発売により、徐々に盛り上がりを見せるパソコン市場だが、その反面、通信関連ではインパクトのあるニュースが少なかった。そんな中から今月はヤマハの新製品を中心にニュースを紹介しよう。


ヤマハから期待の新製品登場

 9月に発表された通信機器の中で、最も注目を集めたものと言えば、ヤマハのRTA50iをおいて他にないだろう。同社は自社でISDN関連の半導体を開発したり、ハイエンド向けルータなどでも高い実績を持っている。今回発表されたRTA50iは、従来のRTシリーズで培った技術をベースに、家庭及びSOHO向けに開発した意欲作だ。

 基本的なスペックは従来製品からそのまま受け継がれているが、最も大きく異なるのはその外見だ。従来のRTシリーズに限らず、ISDNルータはいかにもネットワーク機器らしいデザインを採用していた。これに対し、RTA50iは黒い正立方体の筐体を採用し、前面には同社製品でおなじみの音叉マークまでおごられており、従来のISDNルータとは一線を画すデザインとなっている。久しぶりに「カッコいい」と感じさせる製品だ。

 RTA50iが特徴的なのは、WWWブラウザによるセットアップメニューを簡素化し、クライアントPCのセットアップツールを添付したことだ。セットアップメニューは専門用語をできるだけ廃し、初心者にもわかりやすい内容になっている。もちろん、複数の接続先を登録することもでき、テレホーダイ時間帯を活かした設定も可能だ。ただ、簡素化のあまり、DHCPサーバ機能をOFFにする、複数のネットワークに同時に接続するといったカスタマイズがしにくくなっており、結局コマンドラインから設定をしなければならないなどの制約が出ている。はじめてISDNルータを購入するユーザーには問題ないが、少し凝った(というほどでもないのだが)使い方をするユーザーにとっては逆に使いにくく感じるかもしれない。

 クライアントPCのセットアップツールは、筆者も以前から必要を感じていたもので、同社がいち早く具体化させてきた点は評価したい。しかし、Windows 95/98に複数のネットワークカードが認識されていたり、IPアドレスがすでに設定されていると、同社が想定したとおりにインストールできないなどの制限も残されている。デスクトップPCで複数のネットワークカードを装着することは少ないが、ノートPCなどでは会社用と自宅用で異なるネットワークカードを利用することもあるので、こうしたシチュエーションではせっかくのセットアップツールが利用できない可能性がある。さらに、セットアップツールではWWWブラウザとAdobe社のAcrobat Readerをインストールするのだが、Acrobat(Readerではない)がインストールされた環境でもAcrobat Readerがインストールされてしまうという問題点もあり、まだ改良の余地が残されているというのが正直な印象だ。

 ただ、スペック面やパフォーマンス、デザインなどを含めた総合力では、他の製品を一歩リードしており、かなり魅力的な製品になっている。今後、セットアップメニューやクライアントPCのセットアップツールがリファインされれば、ISDNルータの定番商品になりそうだ。

 一方、ISDNターミナルアダプタでは、アイワが従来から販売してきた『TM-AD1281』の後継モデルとなる『TM-AD1282』『TM-A1282』の2機種を発表した。同社のTM-ADシリーズは充実したアナログ回りの機能と、縦横どちらにおいても見やすい回転式液晶でおなじみだが、今回のモデルでは4つのファンクションキーを装備することにより、さらに操作性を向上させている。4つのファンクションキーはLCDの表示内容やアラーム設定、BOD機能利用時のBチャンネルの増減などの機能が割り当てられており、電話機やパソコンがない環境でもISDNの特徴を活かした使い方ができるようになっている。データ通信関係のスペックは申し分なく、INSネット64で提供されているサービスへの対応も充実しており、性能的に不足を感じることはない。同社のISDNターミナルアダプタは、世代を追うごとに完成度を高めており、これからISDN回線に移行するユーザーに安心しておすすめできる製品と言えるだろう。

□ヤマハ、SOHO向け低価格ルータ NET VOLANTE
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980911/yamaha.htm
□アイワ、FAXの送受信に対応したTAをモデルチェンジ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980911/aiwa.htm


56kbpsモデム国際標準規格『V.90』正式勧告

 9月の通信関連ニュースで、最も大きなトピックと言えば、やはり56kbpsモデムの国際標準規格『V.90』がITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)で正式勧告されたことだろう。'96年夏に製品化のアナウンスが出て以来、丸2年の歳月を経たわけだが、正直な感想を言わせてもらえれば、「ようやく勧告された」という感は否めない。

 56kbpsモデムが登場したばかりの頃は、ダウンストリームが高速であることなどから、アナログ回線からのインターネット接続に最適な手段と言われていた。しかし、この2年の間に、日本ではISDN回線が普及し、アメリカではxDSLサービスやケーブルTVのインターネット接続サービスが開始され、いざ国際標準規格が決まってみれば、もう市場的な魅力は半減してしまっているというのが偽らざる感想だ。もちろん、今秋のV.90正式勧告を見据え、ほとんどのメーカー製PCにV.90、もしくはV.90にアップグレード可能な製品が標準で搭載されている点も見逃せない。

 モデムのプロトコル標準化については、14.4/28.8/33.6kbpsと各社間で競争が繰り広げられてきたが、インターネットのように動きが早い世界では、こんな調子で標準化をしているようではもう間に合わないのかもしれない。

 では、今後のアナログ回線用モデムの市場がどうなるかという点についてだが、いくつか気になる動きが出てきている。たとえば、Intelがチップセットのレベルでモデム機能をサポートしようとしていたり、Rockwell Internationalが同社のモデムチップセットをUSB対応にしていること、Lucent TechnologiesなどがxDSLとV.90の両対応モデムチップセットを開発していることなどが挙げられる。目立った動きは今秋のCOMDEX/Fall'98以降になりそうだが、いずれにせよ、企画から開発、製品化、標準化といったプロセスを迅速に展開させなければ、市場のニーズを取り逃がしてしまうことになるだろう。

 ところで、こうした通信機器を接続するインターフェイスと言えば、シリアルポート、ISAバス、PCIバス、PCMCIAスロットなどが挙げられるが、9月17日に米Pretecがコンパクトフラッシュと同サイズのCF Type2準拠のモデムやLANカードを発表し、注目を集めている。国内でも同様のCF Type2のカードを富士通がサンプル出荷しており、NECも10月末に発表したモバイルギアIIでCF Type2のインターフェイスを搭載するなど、にわかにCF Type2関連の動きが目立っている。CF Type2搭載のノートPCがまだないため、市場性はあまり大きくないが、小型化や省電力化などのメリットもあり、各社から新製品が登場してきそうな気配だ。今後の各社の動向に注目したい。

□ITU、56kbpsモデムの標準仕様としてV.90を正式採択
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/980917/v90.htm
□米Pretec、CF Type2規格のモデム、LANカードなど
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980917/pretec.htm

[Text by 法林岳之]


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