法林岳之のTelecom Watch
第21回:1998年11月編
「Atermシリーズに待望のルータ登場」ほか



 11月の新製品はボーナス商戦を狙った魅力的な製品が多かった。また、その一方で携帯電話やPHSにも新製品や新サービスが登場した。日本ではCOM JAPAN'98、アメリカではCOMDEX/Fall'98が開催され、来年以降の話題についても見ることができた。


Atermシリーズに待望のルータ登場

 11月の通信関連ニュースで、最も注目を集めたものと言えば、やはり、NECのAtermシリーズの新製品群だろう。今回は6月の新製品と違い、まったくのニューモデルが登場した。まず、ISDNターミナルアダプタは『AtermIT75シリーズ』と『AtermIT60/D』の2シリーズ3製品だ。NECでは昨年発表した『AtermIT65Pro』で、いち早くUSB接続が可能なISDNターミナルアダプタを実現していた。USB接続にすることにより、高速シリアルカードを利用することなく、ISDNの128kbps同期通信モードでフルにパフォーマンスを引き出せることをひとつのセールスポイントにしている。今年に入ってからはUSB接続ならではの機能も充実させ、さらに完成度を高めていた。今回発表されたAtermIT75シリーズは、AtermIT65シリーズで培われたUSB接続のノウハウを活かし、本体の前後にUSBポートを備えるデュアルUSBという仕様を実現している。背面のUSBポートにデスクトップPC、前面のUSBポートは必要なときにノートPCなどを接続するといった使い方ができるわけだ。この他にも、着信転送やボイスワープの設定切り替えをワンタッチで行なう「でかけるボタン」を装備するなど、さらに使い勝手の良い製品として仕上げられている。データ転送のパフォーマンスもほぼ問題なく、設定なども従来製品同様のわかりやすさなので、これからISDNに移行するユーザーには安心して薦めることができる。ちなみに、同時発表のAtermIT60/DはUSBポートを1つ、アナログポートを2つのみに絞り込んだ普及品だ。

 AtermIT75シリーズは現状でイチ押しのISDNターミナルアダプタであることは間違いないが、トップシェアを持つAtermシリーズだけに、敢えて厳しいことを言わせてもらう。AtermシリーズのDSU内蔵モデルは、従来からS/T点端子をオプションで提供されているS点ユニットで実現していた。このS点ユニットは、S/T点端子が2つ備えられているだけでなく、DSU内蔵モデルでのDSU切り離しをするときにも利用する。今回の製品でもオプションで提供されているのだが、残念ながら従来のAtermIT65/50、同IW60シリーズなどに提供されていたものと仕様が異なるため、買い換えユーザーはまたS点ユニットを買い直さなければならない。ノートPCの増設メモリなどを考えれば、大した問題ではないが、もう少し配慮が欲しかった気もする。また、AtermIT75/60/65シリーズでは、USB接続の場合に限り、PC上から64/128kbps接続を切り替えられるフレックスBODという機能を実現している。この機能は非常に便利で、筆者も気に入っているのだが、今回の製品では本体前面に3つのボタンが装備されている。これらのボタンを操作することで、同様の機能を実現することはできないだろうか。USB接続ではないユーザーにもフレックスBODと同様の機能を提供して欲しいところだ。

 さて、この2機種以上に注目を集めているのがAtermシリーズではじめてルータ機能を搭載した『AtermIR450シリーズ』だ。ISDNターミナルアダプタでトップシェアを確保したAtermシリーズだけに、ユーザーの期待も大きいようだ。AtermIR450シリーズが特徴的なのは、USB LANドライバにより、Ethernetカードを利用することなく、LANに接続できるという点だ。USBポートは元々、最大12Mbpsのデータ転送能力を持っているため、10Base-T準拠のEthernetカードと、ほぼ同等の通信速度が得られるはずだ。貴重なPCIスロットを節約できるという副次的なメリットもある。その他の機能は、最近のISDNルータと同等だが、セットアップ部分にAtermシリーズらしい工夫が見られる。

 まず、AtermIR450のシリアルポートをPCに接続し、ウィザードを実行する。このウィザードは従来のAtermITシリーズと同様のもので、非常にわかりやすい。ウィザードでアナログポートなどのターミナルアダプタの機能を設定し終えると、続いてルータ部分の機能設定が始まる。設定が終わると、ルータ関連の設定内容がシリアルポート経由でAtermIR450に書き込まれ、デスクトップにWWWブラウザ設定画面へのショートカットが作られるという仕組みになっている。ルータをすでに触ったことがあるユーザーなら、DHCPサーバからIPアドレスをもらい、IPアドレスを入力するという方法でもセットアップできるだろうが、ウィザードにより、まったくの初心者にもセットアップできるようにした配慮は評価できる。実際のパフォーマンスについては、製品版の出荷が1月中旬に延期されたこともあり、まだ何とも言えないが、導入部分のやさしさという点はかなり期待できそうだ。

 余談になるが、先月のTelecom Watchで紹介した同じNECの『COMSTARZ ROUTER(CMZ-RT-DS)』を触る機会があったので、使用感を述べておこう。結論から言ってしまうと、かなり気に入ってしまった。導入しやすさという点ではAtermIR450やRTA50iなどの試みに一歩譲るものの、メニューのわかりやすさなどはMN128-SOHOシリーズにもまったく引けを取らないほど、いい製品に仕上がっている。液晶ディスプレイの表示も見やすく、掲示板や電話帳といった面白い独自機能も魅力のひとつだ。アナログポートの2系統2ブランチという変則的な構成は気になるが、初心者にも安心しておすすめできる製品と言えるだろう。

 次に、11月27日にはオムロンから標準価格で24,800円という驚異的な低価格を実現したISDNターミナルアダプタ『MT128S-D/R』が発売された。前述のAtermIT60/Dは34,800円なので、約1万円の価格差がある計算だ。USBポートを備えた『MT128S-D/U』も同価格で発売されており、いよいよISDNターミナルアダプタも実売価格で1万円台の攻防が始まりそうな気配だ。ただ、厳しいことを言わせてもらえれば、液晶ディスプレイを搭載しておらず、DSU切り離し機能なども省かれているのは、現在のISDNターミナルアダプタのトレンドから見て、今ひとつ機能不足の感は否めない。確かに、価格は重要なファクタだが、ポイントになる機能を省略してしまったのは残念だ。

 一方、ISDNルータでは、ネットワーク機器で高い評価を受けているアライドテレシスから『CentreCOM AR100』という製品が11月9日に発表されている。屋内配線からのケーブルを接続する回線コネクタ(U点端子)をACアダプタに備えているのが特徴だが、仕様や背面コネクタの配置を見る限り、アンリツから販売されている『Surfin'boy 1/pro』のOEM供給品ということのようだ。Surfin'boy 1/proは派手な機能こそないものの、全体的に堅実な設計が特徴の製品なので、アライドテレシスのブランドネームが上手に活かされれば、今後の展開が期待できそうだ。

□NEC、留守電機能を強化したAtermIT75ほか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981109/nec2.htm
□NEC、USB接続が可能なISDNルータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981109/nec1.htm
□オムロン、USB対応の低価格TA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981127/omron.htm
□アライドテレシス、U点をACアダプタに設けた低価格ダイアルアップルータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981109/allied.htm


モバイルコンピューティングの新しいスタイル

 筆者が「11月の新製品の中で最も注目しているものは?」と聞かれれば、誰もが前述のAtermIR450シリーズと予想するだろうが、実はまったく違うものに注目している。それは11月25日にシャープから発売された『コミュニケーションパル』だ。

 '98年に最もヒットした通信機器と言えば、NTTドコモのポケットボードをおいて他にないが、コミュニケーションパルはこれとほぼ同じ路線を狙ったものだ。同社はザウルスシリーズで、PDAとしては国内最大のシェアを持っているが、コミュニケーションパルはザウルスをベースに、キーボードとデジタル携帯電話のインターフェイスを備えることにより、まったくの初心者でも使える簡易インターネット端末として設計されている。外見は同社が米国で販売している『ZR-3500』というPDAとほぼ同じで、サイズ的にはザウルスポケットとほぼ同じか、やや厚い程度に収められている。キーボードが搭載されたためか、ザウルスシリーズでおなじみの手書き文字認識機能が省かれている。

 ポケットボードと異なる点は、接続できる携帯電話がNTTドコモに限定されていないこと、WWWブラウザを搭載していること、ザウルスポケットとほぼ同等のPDA機能が搭載されていることなどだ。ポケットボードに比べ、価格的に約3倍、機能もかなり豊富であることを考えれば、ユーザー層は異なることになりそうだが、ポケットボードでは飽き足らなくなったユーザーが移行する可能性も十分あり得るだろう。筆者も実際に購入して遊んでみたが、なかなか使い勝手も良く、好印象を得た。ブレイクするかどうかは今後の販促活動次第だが、個人的にはPIAFS/64kbps対応モデルやカラーバリエーションが欲しいところだ。彼女へのクリスマスプレゼントに悩んでいる人は、検討する価値は十分あるだろう。同様に、インターネット接続機能を考慮した製品としては、カシオが『カレイドXM-750』というPDAを11月2日に発表している。10円メールの機能を搭載したことがセールスポイントとなっているが、キーボードを備えていないため、メールを使うには少々苦労しそうだ。メール機能を重視するのであれば、これからはキーボードは欠かせないものになるはずだ。

 ポケットボードにしてもコミュニケーションパルにしても同じだが、これらの簡易インターネット端末はセットアップが非常に用意であること、キーボードを備えていること、ケーブルが内蔵されていることなどの共通点を持つ。いかに簡単に接続できるか、メール機能がどれだけ使いやすいかという点に、開発の力が注がれているわけだ。PCとはあまりご縁のない世界の話かもしれないが、'99年はこうした簡易インターネット端末(メール端末)がさらに普及することになりそうだ。

 一方、PCでは東芝がアメリカで販売するLibretto 110CTを東芝ダイレクトを通じて、国内向けに販売することを発表した。ご存じの通り、国内ではすでに主力がLibretto SSシリーズに移行しているが、筆者はこのLibretto SSシリーズをまったく評価していない。せっかくLibretto 100で液晶ディスプレイのワイド化、PCカードスロットの2基搭載などの機能拡張を図ったのに、Libretto SSではスリム化を狙ったため、機能が退化してしまっているからだ。アドバンテージがあるとすれば、PCカードスロットが左側についたこと、CPUパワーが向上したことくらいだろう。東芝は「Libretto 100を必要とするユーザー層は、DynaBook SS 3000シリーズで吸収できる」と言っていたが、実際に移行した身から言わせてもらえれば、「やはり、使い勝手が違いすぎる」というのが正直な感想だ。今回のLibretto 110CTは英語キーボードを搭載しているが、せっかく国内向けに日本語Windows 98まで搭載して販売するのであれば、日本語キーボード搭載モデルも用意すべきではなかっただろうか。先月紹介したNTTドコモのLibrettoモバイルパックIIIもそうだが、東芝のLibrettoシリーズに対する戦略はチグハグで、東芝自身がLibrettoシリーズのユーザー層を見誤っているような気がしてならない。'99年はミニノート市場を切り開いた先駆者としての意地を見せてもらいたいところだ。

□シャープ、デジタル携帯電話インターフェイス内蔵のインターネット端末
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981125/sharp.htm
□カシオ、PCと連携し、10円メールに対応したPDA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981102/casio.htm
□東芝、海外モデルのLibretto 110CTを国内で発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981111/toshiba.htm

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp