法林岳之のTelecom Watch
第14回:1998年3月編
「V.90サービス開始へのカウントダウン」ほか



V.90サービス開始へのカウントダウン

 先月のTelecom Watchでもお伝えしたとおり、56kbpsモデムの国際標準規格『V.90』が基本合意に達し、9月の正式勧告を待つばかりとなった。

 これを受け、各社の動きが徐々に活発になってきているが、米3Comは3月3日にx2対応製品からV.90モデムへのアップグレードサービスを開始し、日本法人でも13日にアップグレードサービスを行なうことと、国内でのV.90フィールドテストを開始することを発表している。今回の発表では同社製アクセスサーバ『Total Control System』を採用する国内12社のプロバイダがフィールドテストを行なうとしており、すでにグローバル・オンラインでは一部ユーザー向けにテストを実施している。早速、筆者もV.90対応のSPORTSTER SUPERを使い、接続テストをしてみたが、接続性、パフォーマンスともに良好で、初期のx2対応モデムよりも動作が安定していることを確認できた。詳しいレポートは後日お伝えしよう。

 また、18日にはアイワがボックス型モデムの新製品『PV-BF5601』を発表している。この製品はx2対応の56kbpsモデムだが、V.90への無償アップグレードが保証されている。ほぼ同じチップを採用していると思われるSPORTSTERシリーズがV.90に対応できているので、認定やアップグレード方法などの調整さえつけば、比較的早い時期にアップグレードサービスが実施されるのではないかと予想している。

 しかし、PV-BF5601で注目すべき点は、それ以外にある。最近のモデムというと、どれも同じようなデザイン、スペックのものばかりで、今ひとつ個性を発揮できていなかったが、PVーBF5601はイルミネーションディスプレイの採用により、通信状態を細かく把握できるという特徴を持っている。液晶ディスプレイ搭載モデムなどを販売してきた同社らしい個性的な製品だ。モデムを内蔵するPCが増えている現状を考えれば、やはりこれくらいの工夫はしてもらいたい。ちなみに、PV-BF5601は電源部の内蔵や幅広いOSのINFファイルを添付するなどの配慮も見られる。

 一見、この2つのニュースとは無関係だが、実はモデムをはじめとする通信関連機器に大きな影響を与えるニュースが3月2日に発表されている。それは郵政省の規制緩和だ。郵政省は『端末設備等規則(昭和60年郵政省令第31号)及び事業用電気通信設備規則(昭和60年郵政省令第30号)』について一部改正し、4月1日から施行することを発表している。難しい文言が並ぶとわかりにくいが、要するに電話回線に接続する通信機器や通信設備に関する規制が緩和されたということだ。

 今回の発表の内、インターネット接続やパソコン通信に密接に関わるのは、リダイヤル規制と送出レベルの緩和だ。まず、リダイヤル規制だが、国内では3分間に2回を限度にリダイヤルが許されている。BUSYの多いプロバイダでは、接続するまでに何度もリダイヤルすることになるが、今回の規制緩和により、最大15回まで連続してリダイヤルをしても構わなくなる。しかもリダイヤル間隔の時間制限もなくなっている。詳しい解説は省略するが、こうしたリダイヤル規制が設けられていたのは、連続してリダイヤルすると、交換機に負荷を掛けてしまい、トラブルが起きる可能性があるからだ。そのため、国内で販売されているモデムは、この仕様に準拠したリダイヤル規制が課せられ、一時期、郵政省が通信ソフトにまでリダイヤル規制を課そうとしたことがあった。海外製品はこうしたリダイヤル規制がないため、JATE(財団法人電気通信端末機器審査協会)の認定を受けない『無認可モデム』がマニアの間でもてはやされた時期もあった。

 しかし、この3分2回の根拠が随分と古いデータであり、すでに交換機も含め、デジタル化されているため、メーカーやユーザーから「見直すべきだ」という声があがっていた。筆者も今はなき某パソコン誌で、この件については随分と厳しく批判したことがあったのだが、郵政省やJATEはまったく無反応だったことがある。こうした経緯もあるため、今回のリダイヤル規制見直しには、個人的にも感慨深いものがあった。ただ、時期的には遅すぎた感は否めない。

 一方、送出レベルだが、これは信号の強さに関する規制を緩和することだ。国内で販売されているモデムの送出レベルは、通常、-12~-15dBに抑えられている。そのため、回線品質の悪いところでは途中のロスが大きく、「通信速度が低くなる」「途中で回線が切断される」などのトラブルが起きている。また、56kbpsモデムはホスト側が送出する信号のレベルによって、通信速度が大きく変わるため、見直しが求められていた。今回の規制緩和により、双方の信号レベルの限界値が見直され、より高い速度での接続が可能になるだろうと言われている。特に、56kbpsモデムは56kbpsとまではいかないものの、より限界に近い速度で通信が可能になりそうだ。

 通信に関する規制はまだまだいくつも乗り越えなければならないハードルがあると言われている。しかし、より現実的な一歩を踏み出したことも確かだ。今後も郵政省からのアナウンスに注目したい。

□米3Com、56kbpsモデム標準規格V.90への無償アップグレードを開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980303/3com.htm
□3Com、プロバイダー12社とV.90の国内ベータテストを開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980319/3com.htm
□アイワ、動作状態がよくわかるx2モデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980319/aiwa.htm
□郵政省がモデム関連の規制を緩和 (Internet Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/980302/mpt.htm



ISDNダイヤルアップルータの新製品

 2月はMN128-SOHOのライバルと目されるISDNダイヤルアップルータの新製品が富士通とNECから発表されたが、3月にはMN128-SOHOを販売するNTT-TE東京からバリエーションモデルが発売された。

 今回発表された製品のうち、MN128-RはMN128-SOHOからHUBとアナログポートを省いた製品で、標準小売価格で48,800円(DSUなしモデル)、57,800円(DSU内蔵モデル)という低価格を実現している。従来、富士通が販売していたNetVehicle-Iとほぼ同スペックの製品というわけだ。ただ、機能的に目新しいところはなく、廉価版という印象が強い。MN128-SOHOも発売から間もなく1年を経過するので、そろそろ目新しい機能が欲しかったところだ。

 同時に発表されたMN128-miniは、DSU内蔵ターミナルアダプタのMN128-V3をリファインしたものだが、こちらも目新しい機能はない。液晶ディスプレイ付きが当たり前となりつつある現状を考えると、23,800円という低価格とは言え、今ひとつ魅力に欠ける。

 さて、3月は新入学・新社会人のシーズンということもあり、ISDNを新設、移行する人が多い。そこで、ISDNターミナルアダプタとダイヤルアップルータの価格調査を実施している。今回の調査ではISDNターミナルアダプタが2万5千~4万円、ルータが約4~5万円程度が相場だったが、価格的にも安定してきたという印象が強い。特に、ISDNターミナルアダプタは機能差によって、価格に幅が出てきており、低価格よりも機能が重視されてきたことがわかる。

 ただ、個人的な見解を述べさせてもらえれば、DSU内蔵モデルに人気が集中しているのが気に掛かる。ISDN回線には必ずDSUを設置しなければならないが、配線がシンプルになるため、DSU内蔵ターミナルアダプタを利用する人が多い。しかし、DSU内蔵ターミナルアダプタは、電話やFAXといったアナログ端末機器とパソコンをすぐ近くで利用しなければならないという制約がある。電話機やFAXを設置する居間とパソコンを利用する書斎が隣合せならいいが、マンションや一戸建てなどではそうならないケースの方が圧倒的に多い。やはり、居間にはアナログポートを備えたDSU内蔵ターミナルアダプタ(デジタルポートがあっても可)、パソコンのある部屋にはデジタルポートを備えたDSUなしのターミナルアダプタというのが理想形だろう。どちらか片方は多少型遅れのモデルであっても問題ない。

 こうしたことを考えると、DSU内蔵ターミナルアダプタはDSU機能を切り離せた方が後々使い回しが効くということになる。たとえ、現在ワンルームマンションに住んでいたとしても、将来引っ越しをしたときや新たにISDN機器を購入したときにもフレキシブルに対応できるからだ。今回、価格調査をした中では、STA-128DSU(ソニー)のみがDSU機能をOFFにできない仕様になっている。これはちょっといただけない。

 ISDNターミナルアダプタは種類が豊富になっているが、こうした拡張性や将来性まで考慮した製品となると、かなり種類が限られる。価格も重要だが、本当の意味で自分の環境に合った製品を選ぶように心がけたい。

□NTT-TE、MN128のナンバーディスプレイ対応ページを公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980304/nttte.htm
□NTT-TE低価格のルータとTA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980326/nttte.htm
□NTT、DSU内蔵ダイヤルアップルータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980310/ntt.htm
□【マーケット】ISDN機器相場情報 (秋葉原/新宿 '98/3 第4週)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980326/p_ta.htm

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp