法林岳之のTelecom Watch
第13回:1998年2月編
「V.90へのアップグレードアナウンス開始」ほか

 '96年来、2つの規格が争ってきた56kbpsモデムだが、2月には無事にITU-Tの会合で合意がなされ、本格的な56kbpsモデム時代を迎えようとしている。


V.90へのアップグレードアナウンス開始

 2月の通信関連ニュースで、最も注目を集めたのは言うまでもなく、56kbpsモデム標準化だろう。前号でもお伝えしたとおり、ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)の会合において、56kbpsモデムの標準化が合意に達し、V.90という勧告名が与えられることになった。正式な勧告は書類作成や投票といった手続きがあるため、今年9月になる予定だが、勧告前にも製品が登場することになりそうだ。

 本連載の前回では「アップグレードをアナウンスしているメーカーは、この合意を受け、アップグレードに関するコメントを出すべきだ」という話を書いた。ところが、実際にこの点に関するアナウンスをしたメーカーはまだ少ない。まず、国内で先陣を切ったのは、K56flex陣営のマイクロ総合研究所だ。2月13日に、同社が販売するMR560シリーズの『V.90アップグレードを無償で行なうこと』『アップグレードキットを同社ホームページやNIFTY-Serve、同社運営のBBSを通じて配布すること』『アップグレード後はV.90しか利用できないこと』『K56flexに戻すためのファームウェアも提供すること』などをアナウンスしている。合意直後のアナウンスはユーザーにとっても安心できることであり、結果的にマイナスになってしまったこと(V.90かK56flexのどちらかしか利用できない)も包み隠さずアナウンスしている点は高く評価したい。

 ところで、この「V.90とK56flexのいずれかしか利用できない」とはどういうことだろうか。すでに、PC Watchでも報じられているが、もう一度、おさらいをしておこう。MR560をはじめ、K56flex対応モデムの多くにはRockwell International製のモデムチップが採用されている。このモデムチップには従来と同じスタイルのマスクROM版のほかに、コアの部分が書き換えられるダウンローダブル版(RAM版)と呼ばれるものが用意されていた。これはRockwell Internationalが28.8kbpsモデム標準化のとき、V.FCでデファクトスタンダード(事実上の標準規格)を狙ったが、最終的にスタートアップシーケンスのV.8などの数カ所しか違わない規格がV.34として標準化されたという苦い経験があるためだ。マイクロ総合研究所をはじめ、ほとんどの国内のメーカーは56kbpsモデムの標準規格がK56flexと異なるものになったときのために、ダウンローダブルタイプのモデムチップを採用していた。ちなみに、MR560シリーズはさらにモデムチップを交換しなければならないときに備え、PLCCソケットにモデムチップを装着するという配慮までしていた。

 最終的に合意に達したV.90は、K56flexとは異なるプロトコルになったが、Rockwell International製チップを搭載したモデムに問題が起きた。実はこのダウンローダブルタイプのモデムチップのエリアは1Mビットしかないため、V.90とK56flexの両方のコードを収めることができない。つまり、V.90対応にアップグレードすると、K56flex対応アクセスポイントには最大33.6kbpsでしか接続できなくなってしまったのだ。こうなると困るのはユーザーだ。自分の契約するプロバイダがいち早くV.90に対応してくれればいいが、K56flexのみの対応であれば、V.90へのアップグレードを待たなければならない。ちなみに、Rockwell Internationalでは2Mビット版のV.90/K56flex対応モデムチップの出荷も開始しており、プロバイダなどで採用されているアクセスサーバは順次、V.90/K56flex両対応にしていきたいとしている。

 これに対し、同じK56flex陣営のLucent Technology製チップを採用したモデムは、両対応できるものが登場しており、プロバイダの対応を気にせずにアップグレードできるようになっている。また、x2陣営は前号でもお伝えしたとおり、汎用的なDSPを採用しているため、x2とV.90の両方に対応できるとしている。3月にはスリーコム(旧USロボティックス)がV.90へのアップグレードの発表も行なっており、すでにプロバイダでのフィールドテストも開始している。

 アップグレードサービスのアナウンスなどで、早くも動き出したV.90モデムだが、4月以降は各社から相次いで新製品が登場することが予想される。おそらくCOMDEX/Spring'98やNetworld+Interop'98 LasVegasなどでは数多くの新製品を見ることができそうだ。国内も4月のCOMDEX、6月のNetworld+Interopなどのイベント前後あたりが発表ラッシュになりそうだ。ただ、手を出す時期については、やはりプロバイダ次第であることは変わりない。あまり対応が遅かったり、何もアナウンスがないようであれば、プロバイダの方も乗り換えを検討すべきかもしれない。製品にしろ、プロバイダにしろ、どの程度のアナウンスをいつするのかが今後のお付き合いを考えるポイントになるだろう。

□56kbpsモデムの標準仕様がようやく決定
http://sphere.watch.impress.co.jp/internet/www/article/980209/v90.htm
□マイクロ総研、K56flex準拠モデムをV.90へ無償アップグレード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980213/mrl.htm
□56kbpsモデム製品は、4月ごろV.90対応で一本化の見込み
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980213/56k.htm
□AscendのサポートでV.90方式56kbpsモデムに弾みがつくか?(Internet Watch)
http://sphere.watch.impress.co.jp/internet/www/article/980216/ascend.htm


ポストMN128-SOHOが始まったISDNダイヤルアップルータ

 昨年発売されたMN128-SOHOは、リーズナブルな価格とWWWブラウザから設定できる扱いやすさがウケ、ISDNダイヤルアップルータの新しい市場を生み出した。しかし、多数のクライアントを接続したときの動作や発熱による停電対策用乾電池の液漏れといったトラブルが発生し、一部のパワーユーザーからは不満の声が多くあがっていた。その他のメーカーからもいくつか低価格ISDNルータが発売されたが、今のところ、MN128-SOHOを上回る売り上げを記録したものはない。

 ところが、2月にはMN128-SOHOに対抗すべく、NECと富士通という大手メーカーから強力な新製品が相次いで登場した。

 まず、富士通からはNetVehicleシリーズの新機種「NetVehicle-fX3」が発売された。昨年から販売されているNetVehicleシリーズの既存機種としては、シンプルなISDNルータの「NetVehicle-I」、アナログポートとDSUを備えた「NetVehicle-EX3」がある。NetVehicle-Iはシンプルながらもいち早くHTTPサーバを搭載したことにより、WWWブラウザからの設定を可能にしたのが特徴だった。MN128-SOHOよりも早くHTTPサーバ機能を搭載していたのだが、製品的にやや地味だったこともあり、MN128-SOHOの人気を超えることはなかった。ちなみに、個人的にはNetVehicle-Iが非常に気に入り、筆者自身も利用していた。PC Watchでおなじみの一ヶ谷兼乃氏も愛用しているそうだ。特に、ファームウェアのアップデートを設定画面内のリンクをクリックするだけで、同社のサーバからダウンロードし、書き込むという手軽な方法を実現しているところなどは高く評価できる。

 一方のNetVehicle-EX3はDSUを内蔵しているにもかかわらず、S/T点端子を装備していないという致命的なミスを犯した製品だった。Telecom Watchでも「買ってはいけない製品」として紹介したことがある。S/T点端子がないということは、ISDN機器をまったく増設できないということであり、OCNエコノミーなどの専用線接続でない限り、利用範囲が限られる。

 今回発表されたNetVehicle-fx3はこうした従来製品の不満点を解消するとともに、今までにない機能を搭載することで、魅力的な製品として仕上げられている。NetVehicle-EX3で酷評したS/T点端子は2つ備え、停電対策やアナログポート回りの機能強化も図られている。新しいところでは省電力モードによる節電機能や電子メール着信通知機能などを搭載し、ユーザーの使い勝手を向上させている。これに従来モデルで好評だったユーザーインターフェイスやインターネットからのファームウェアのアップデート機能などが実装されていれば、はっきり言って『買い』の製品と言えるだろう。残念ながら筆者はまだ試用するチャンスに恵まれていないが、現時点ではもっとも気になるISDNルータだ。

 一方、NECが発売したCOMSTARZ ROUTERは、同社が販売していたIP45/007を家庭向けにリファインしたものだ。発表時点ではIP45/007そのものだったが、NECによれば、今後、ホームユースを意識した機能を実装することも考えているという。ただ、出荷時のファームウェアは、過去、IP45/007で指摘されていた問題点を直しておらず、まだ優先順位が低いのではないかという印象も残った。3月に入り、IP45/007の最新版と同等のファームウェアが同社のホームページを通じて供給され始めたが、基本構成が似ている製品だけに、ファームウェア提供のタイムラグにはシビアに反応せざるを得ない。検証などの手間もあるのだろうが、できることならファームウェア提供のタイムラグをは最小限にしてもらいたい。しかし、全体的に見れば、機能的にはMN128-SOHOやNetVehicle-fx3と並ぶものを持っており、今後のバージョンアップ次第ではかなり期待できる製品になりそうだ。

 ISDNルータと言えば、MN128-SOHOの独壇場に近かったが、この2台の登場により、ユーザーにはグッと選択肢が広がることになりそうだ。この他にも新製品の噂が数多く聞えてきており、各社の動向が非常に気になるところだ。

□富士通、ルータNetVehicleに新機種
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980212/fujitsu.htm
□NEC、5万円台の家庭用ルータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980218/nec.htm


PHSとISDNターミナルアダプタ

 2月にはNECからAtermIW60HS DSUという製品が発表された。その型番からもわかるように、昨年から販売していたAtermIW60にDSUを追加した製品だ。AtermIW60はPHSを子機として登録できる上、2台用意すれば、NEC独自モードにより、ワイヤレス通信が可能な製品だ。今回のAtermIW60HS DSUも同等の機能を持っており、ワイヤレス通信環境が一層充実したことになる。価格は6万9800円とDSU内蔵ISDNターミナルアダプタとしては高いが、以前、AtermIW60のときにも紹介したように、コスト的にはかなりギリギリというのが本当のところのようだ。登録できる子機も少しずつ増えているので、PHSを利用するユーザーなら、十分購入を検討する価値はあるだろう。

□NEC、ワイヤレスTA「AtemIW60」シリーズにDSU内蔵モデルを追加
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980223/aterm.htm

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp