法林岳之のTelecom Watch
第15回:1998年4月編
「ルータの新しい方向性」ほか



 新入学・新社会人向けの新製品ラッシュも一段落したのか、4月は前月や前々月に較べると、通信関連のニュースがあまり多くなかった。そんな中、個人的にも注目している製品が発表されている。


ルータの新しい方向性

 MN128-SOHOの登場以来、パワーユーザーを中心に人気を集めているISDNダイヤルアップルータ。富士通やNECといったビッグネームからも新製品が登場し、今年はさらにISDNルータが普及することになりそうだ。

 そもそもルータはネットワークとネットワークを接続するためのネットワーク機器だ。それぞれのネットワーク同士が遠隔地にあるときなどに、ISDN回線を介して接続するのがISDNルータだ。しかし、考えてみれば、必ずしもISDN回線である必要はない。現に、企業向けのネットワーク機器にはISDNダイヤルアップルータではなく、ルーティングのみを請け負うIPルータという製品が数多く存在する。こうしたIPルータはシリアルポートとEthernetポートを持ち、EthernetポートはLAN環境へ、シリアルポートにはモデムやISDNターミナルアダプタを接続する仕組みになっている。

 4月7日にマイクロ総合研究所から発売された『NetGenesis4』は、このIPルータとまったく同じスタイルを取っている。つまり、すでにISDNターミナルアダプタを持っていたり、アナログ回線でモデムを利用しているユーザーのためのルータということになる。IPルータという形式は取っているが、Windows 95環境でダイヤルアップネットワークを起動しなくてもいい点は同じであり、NATやIPマスカレードに相当する機能を搭載しているため、複数のPCから同時にインターネットにアクセスすることも可能だ。4ポートのHUBも内蔵しており、2つのシリアルポートは最大460.8kbpsまで対応するなど、スペック的にも申し分ない。セットアップはWindows 95用のユーティリティを利用するが、IPアドレスが正しく設定されていれば、自動的にLAN上から検索してくれるなど、意外に使いやすい。将来的にはWebブラウザからのセットアップを可能にする計画もあるようだ。価格はオープンプライスとなっているが、同社のMRダイレクトでは19,800円で販売されている。ちなみに、MRダイレクトでは同社が販売するK56flex対応56kbpsモデム『MR560XL』のスケルトンモデルも限定で販売している。先月のTelecom Watchでイルミネーションディスプレイを採用したアイワの『PV-BF5601』を取り上げたが、こちらも存在感バツグンの製品と言えるだろう。

 さて、気になる実際の使用感だが、Windows 95用のユーティリティはわかりやすく、セットアップもしやすい。同社のMDS128TAを接続したテストでは、グローバルオンラインとのファイル転送テストで、PCに直接、MDS128TAを接続したときとほとんど変わらないパフォーマンスを示している。はっきり言って『買い』と言える製品だ。余談にるが、筆者は6月にCOMPUTEX TAIPEI '98を取材する予定だ。この取材には他の筆者も同行する予定なので、NetGenesis4を持参し、ホテルの部屋から同時にアナログ回線経由でインターネット接続を試みる予定だ。時間があれば、この件についてもまたレポートしよう。

 一方、4月1日にはアンリツから『Surfin'boy 1/pro』というISDNダイヤルアップルータも発表された。アンリツというと、あまりなじみがないかもしれないが、情報通信や計測機器ではかなり有名で、海外でも計測機器やネットワーク機器で高い評価を受けている。もっとも身近なところでは、ISDN公衆電話を開発したことでも知られているメーカーだ。

 今回発表された『Surfin'boy 1/pro』はDSU、2つのアナログポート、4ポートのHUBなどを備えたISDNダイヤルアップルータで、価格も49,800円とかなり安くなっている。残念ながらテストをする機会に恵まれていないので使用感など具体的なコメントはできないが、スペック的には問題なさそうだ。ただ、アンリツというブランド名がコンシューマ市場になじみが薄いことを考えると、もっとインパクトのある機能を搭載したり、積極的なプロモーションをしなければ、先行するライバルたちと張り合うのは難しいだろう。

□マイクロ総研、既存のTA・モデムを活用できる低価格ルータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980407/mrl.htm
□アンリツ、個人向けダイアルアップルータ市場に参入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980401/anritsu.htm


V.90正式サービスはまだ?

 先月のTelecom Watchで、『V.90サービス開始へのカウントダウン』という話題をお届けしたが、4月はスリーコムが既存製品のV.90バージョンアップサービスを開始し、グローバルオンラインなどのプロバイダがフィールドテストを開始するなど、いよいよ本格的にV.90時代が訪れつつあることを実感できた。

 4月28日の『V.90対応モデム試用レポート』でも書いたことだが、プロバイダの対応という問題は残されているものの、すでに「特殊な事情でもない限り、28.8/33.6kbpsに固執する価値はない」と言えるところまで機は熟している。ただ、こう言い切れるのはx2陣営のモデムを所有しているユーザーやx2対応プロバイダに加入しているユーザーに限られ、K56flexモデムユーザーやK56flex対応プロバイダに加入しているユーザーは、しばらく様子見にならざるを得ない。なぜなら、今までもTelecom Watchでお伝えしている通り、大半のK56flex対応モデム(*)は、V.90にアップグレードすると、56kbps接続についてはV.90でしか利用できなくなるからだ。

 すでに一部のメーカーからK56flex/V.90両対応の製品が発表されているが、従来のラインアップがV.90/K56flex両対応に入れ替わるのは、全体としては今夏以降になると見られ、K56flex対応プロバイダがV.90/K56flex両対応になるのは秋以降になりそうだ。

 一方、製品レベルでは前月に次いで、アイワが頑張っている。4月30日に発売したx2対応PCカードモデムは、外付けモデムにも匹敵する2万円を切る低価格を実現している。ノートPCユーザーは要チェックだろう。ただ、現実的にはモデムの利用頻度が下がっている現状を考えると、多少、値段は高くてもPHSデータ通信カードなどの機能を盛り込んだマルチファンクションカードなども企画して欲しいところだ。

 さて、少し余談を……。通信関連というわけではないが、個人的に気にしているのがスリーコムのPalm IIIの発売だ。3月にアメリカで発表され、4月下旬には国内でも英語版の出荷が開始された。初代モデルのPilot1000/5000から数えて3代目ということもあり、機能的にも成熟しており、以前にも増して注目度が高まっている。筆者もさっそく購入したが、非常に気に入っている。ただ、Palm IIIが売れているとは言うものの、日本国内ではまだ一部のマニアを中心とした流行でしかないのも事実だ。ザウルスやWindows CEマシンなどに負けないシェアを獲得できるかどうかは、より使いやすくわかりやすいノウハウの提供や正式な日本語版の発売待ちということになるのだろうか。いろいろと各方面から面白そうな噂も聞えてきているので、今後の動向に注目したい。

□スリーコム、V.90へのバージョンアップサービスを国内で開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980409/3com.htm
□アイワ、2万円を切るx2対応PCカードモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980430/aiwa.htm
□V.90対応モデム試用レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980428/v90.htm
[Text by 法林岳之]

(*)(*) 編集部注:Rockwell製1Mbit ROM版チップセット採用のモデム。K56flex対応を謳う従来のモデムはほぼ全部これにあたり、容量の制限から、K56flexかV.90の片対応になる。なお本連載でもすでにお伝えしている通り、同じK56flex対応モデムでも、オールインワンタイプのPCに内蔵されているモデムは、DSP技術を採用しているLucent製も多く、こちらはアップグレードによるK56flex/V.90両対応が可能(詳しくは本連載のバックナンバーをご参照ください)。


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp