■56kbpsモデムがいよいよ標準化
通信関連ニュースで'98年の最初を飾るに相応しいニュースと言えば、56kbpsモデムの標準化の見通しが立ったことだろう。Rockwell InternationalとLucent TechnologyによるK56flex、3Com(旧U.S.Robotics)やCardinal Technologiesによるx2 Technologyという2つの規格の登場により、業界を二分する戦いを繰り広げてきた56kbpsモデムだが、Lucent Technologyと3Comが相互接続性を可能にするための共同実験を行なうことを1月20日に発表したからだ。
PC Watchのバックナンバーを拾ってみると、はじめて56kbpsモデムに関する発表が行なわれたのが'96年9月10日のRockwell Internationalによるものだったことがわかる。あれから16カ月に渡り、アクセスサーバなどを手掛けるネットワーク機器メーカーを巻き込み、企業の吸収合併、買収、提携などの紆余曲折を経て、ようやく標準化のメドが立ったわけだ。
14.4kbpsを可能にしたV.32bis、28.8kbpsを実現したV.34のときと比べ、モデム業界そのものの勢力図まで塗り替えてしまうほど、激しい争いだった。結局、大手メーカーの中でモデムメーカーとしてブランドを残すことができたのは、ATコマンドを開発したHayes Microcomputer Productsくらいだった。
標準化までの経緯を振り返ってみて、感心するのはx2陣営の頑張りだ。従来、モデムの心臓部になるモデムチップセットは、Rockwell InternationalとAT&Tという2社が業界を二分していた。x2 Technologyを開発した旧U.S.RoboticsはTexas Instruments製DSPを採用していたが、立場的にはAT&T側に近いと言われていた。ところが、56kbpsモデムではライバル関係にあるモデムチップセットの最大手2社が手を結び、旧U.S.Robotics/Texas Instruments連合に対抗する形となった。いくら旧U.S.Roboticsがモデムでアメリカ最大のシェアを持つとはいえ、モデムチップセット最大手の2社が組み、アクセスサーバのメーカーまで加わったのではかなり厳しかったはずだ。にも関わらず、x2陣営が健闘したのは、DSPを使ったモデムならDSP用ソフトウェアを書き換えるだけでアップグレードできるという特長がユーザーに浸透していたからだろう。
また、市場の動きを見ると、ユーザーが賢明であったこともよくわかる。プロバイダの対応の遅れという問題はあったが、結果的には2つに割れた規格をユーザーが嫌ったため、製品が売れなくなり、その対策として56kbpsモデムの規格を提案した企業が統一規格を作り直すことになった。両陣営とも「我が社の主張が認められた」といったコメントを発表しているが、最も認められたのは「互換性のない製品はいらない」というユーザーの声だったことを忘れないでもらいたい。
さて、実際の勧告だが、2月5日に行なわれたITU-Tの会合で、当初の予定通り、統一規格が合意に達した。正式な勧告は今夏以降になるが、仮勧告名の「V.pcm」を改め、予定勧告名「V.90」が与えられている予定となっている。実際のV.90対応製品の投入はかなり早いと見られており、アメリカ国内向けは2~3月、日本国内は4月頃と予測している。
また、現行製品のアップグレードについては、JATEの認定を受けなければならないため、V.90対応製品投入時期と同じ頃に公開されることになりそうだ。最終的にはモデムチップメーカーの開発次第ということになるだろうが、ニュースで「56kbpsモデム標準化」が伝えられているのだから、実際の公開が遅れるとしても、できるだけ早い時期に何らかのアナウンスを期待したい。
□米Lucentと米3Comが56kbpsモデムの共同実験。ITUの技術仕様決定は2月
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980123/56k.htm
■ISDNターミナルアダプタ新モデル登場
日本の市場で56kbpsモデムが売れなかった遠因とも言えるISDNだが、1月は注目の新製品がアイワとアレクソンから相次いで登場した。
両製品に共通する特徴的な機能は2つある。ひとつはG3FAX、もうひとつはLCR機能だ。FAX機能は先月のTelecom Watchでもお伝えした通り、ドイツのRVS-COM社が開発した『RVS-COM』の機能限定版を利用している。RVS-COMを使い、ISDNターミナルアダプタでG3FAXが送受信できるようになれば、モデムを使う必要がほとんどなくなるというわけだ。RVS-COMには留守番電話などの機能も搭載されており、今春、メガソフトから発売されるフルパッケージ版ではさらに高機能な統合テレフォニー環境を実現することもできる。
現時点ではG3FAXとの送受信が注目されているが、ソニーのモデム『SMDシリーズ』のように内部にメモリを搭載し、ペーパーレスFAX環境を実現できれば、さらに便利になりそうだ。ひょっとしたら、RVS-COMの登場により、これからのISDNターミナルアダプタのあるべき姿を変えることになるかもしれない。
もうひとつのLCR機能は、市外通話がNTTよりも安くなる長距離電話割引サービスを活用するもので、両製品ともDDIの長距離電話割引サービスに対応している。インターネットプロバイダに接続するときは、市内にアクセスポイントがあるため、あまり関係ないが、アナログポートに接続した電話機から発信するときや、FAXを送信するときには効力を発揮する。ちなみに、アナログ回線での話になるが、筆者もLCR機能付き電話機に乗り換えたとき、予想以上に割引になる地域が多いことに驚かされた経験がある。ISDN回線を賢く使いたいユーザーにはうれしい機能と言えるだろう。
アイワが発表した『TM-AD1281』は従来モデルに上記の機能を搭載したもので、全体的にはあまり大きな差はない。回転式液晶ディスプレイや強力なアナログポートの機能なども受け継がれており、アナログポート専用としても活用できる。
一方のアレクソンが発表した『TD503α』は、今までのISDNターミナルアダプタになかった面白い機能が搭載されている。NTTが'98年2月1日からサービスを開始した「ナンバー・ディスプレイ&ナンバーリクエスト」に対応している点だ。ナンバー・ディスプレイ対応のISDNターミナルアダプタとしては、NEC『AtermIT50/65シリーズ』や1月7日にNTTから発表された『INSメイトV-8DSU』などがあるが、これらの製品は本体やアナログポートに接続したナンバー・ディスプレイ対応機器(電話機やFAX)の液晶ディスプレイに電話番号が表示(有料)できるだけに限られている。TD503αではこれに加え、内部に100件まで登録できる電話帳を搭載しておくことにより、相手の番号によって着信するアナログポートを変えたり、着信音を変えるなど、さらに高度な機能を搭載している。もちろん、電話番号を通知してこない相手の着信拒否や発着信履歴を記録する機能なども備えており、パーソナルCTIとも言える環境を実現している。古くからISDNターミナルアダプタを手掛けてきた同社らしく、ナンバー・ディスプレイをフルに活用できる製品として仕上げているわけだ。
また、1月13日にはオーディオ機器メーカーとして知られるオンキョーがマルチメディア事業に参入し、パソコン周辺機器やISDN関連機器を販売することを発表した。同社が販売するISDN機器としては、ジールが開発したISDNカードやDSUが挙げられている。ISDNカードはユーザーが限られているが、DSUについてはS/T点を2つ備えるなど、多くのユーザーが利用できそうな製品だ。まだ地味な存在と言わざるを得ないが、今後、オンキョーが持つ家電感覚のノウハウを活かした製品の登場を期待したい。
□NTT、ナンバー・ディスプレイ対応のDSU内蔵TA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980107/ntt.htm
□アイワ、G3 FAXの送受信に対応したターミナルアダプタ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980129/aiwa.htm
□アレクソン、ナンバーディスプレイを使いこなすDSU内蔵TA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980130/alexon.htm
□オンキョー、マルチメディア事業へ参入。CD-R、TAなどを発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980113/onkyo.htm
■Windows CEマシンでPIAFS
1月28日、MicrosoftとNTTパーソナル中央は、Windows CEでPIAFS環境を実現するプロトコル開発で合意に達したと発表した。昨年、東芝『GENIO』や松下電器産業『ピノキオ』といったPHSの機能を包含したPDAがいくつか登場したが、いよいよWindowsCEマシンでPHSを使った32kbpsデータ通信が実現することになる。 今回、発表された内容を見ると、どうやらWindows CEマシンに専用ポートを搭載し、そことPHSのデータ通信ポートを接続することにより、PCカードなしでWindows CEマシンから32kbpsデータ通信を実現することを考えているようだ。今ひとつ盛り上がらない日本のWindows CEだが、日本の環境に合わせた仕様が搭載されることにより、Windows CEマシンが一気に普及することも考えられる。最終的に使えるかどうかは、PCカードを利用したときよりも省電力化ができるかどうかだが、駆動するデバイスが少なくなれば、電力消費が抑えられるのは当然なので、十分期待できる。
今回の発表は「開発の合意」がメインとなっているが、シアトルの米Microsoft本社内に環境を作り、そこでもテストをすることをアナウンスに加えている。筆者が気になったのはこの点だ。今後、PHSはパソコンやPDAだけでなく、家電製品に組み込むことも検討しているそうだが、それだけならMicrosoftの協力はさほど重要ではないはずだ。しかし、敢えてシアトルにテスト環境まで作って開発したいというのは、「家電製品にWindows CEを組み込む」「そのときの通信環境として、配線のいらないPHSを採用してもらいたい」というストーリーがあるからだろう。
たとえば、昨年来、デジタルCS放送が人気を集めているが、このチューナーにはモデムが内蔵されており、センター側とデータのやり取りをするようになっている。そのため、電話の配線を分岐させ、チューナーのところまで引っ張らなければならないわけだが、チューナーにPHS機能が内蔵され、親機がPHS対応であれば、配線を無線化することができる。すでに、使わなくなったPHS端末を子機登録してチューナー付近に置き、イヤホン端子とチューナー側のモデムを接続して、無線化しているユーザーもいるそうだ。
深読みかもしれないが、この提携は単に「Windows CEマシンでPIAFSを実現する」ということだけを目的としているわけではないように見えるのだが……。今後の両社の動向に注目したい。
□MicrosoftとNTTパーソナル中央、Windows CEで32Kデータ通信を容易に
(Internet Watch)
http://watch.impress.co.jp/internet/www/article/980128/wince32k.htm
[Text by 法林岳之]